1/6 リトル マイ レディ(1) 投稿者:Wiz 投稿日:10月11日(水)02時50分
1/6 リトル マイ レディ(1)

■1 事の始まり

「召還魔法の実験を手伝ってほしい?」
 いつものように先輩に部室に呼び出された俺は、相変わらず唐突な
先輩の申し出を復唱する。
「召還ってなにを…。もしかして、この間のアレをまたやるのか?」
 この間のアレに関しては敢えて言うまい。
「今回は魔物の召還ではありません。ずっと安全です? って前のは
やっぱりヤパかったのか…。」
 先輩はコクリとうなずくと、教室の中央にあつらえた祭壇の前に歩
み寄る。先輩の長い黒髪の隙間からチロチロと蝋燭の灯りが漏れてい
て、高さ1mくらい、縦横50cmくらいの紫色のビロードの布で覆われた
祭壇を照らしている。その上には直径30cmくらいの魔法陣。あいかわ
らず雰囲気バッチリ、迫力満点だ。
「ここに来て、呼び寄せてほしい物を心に念じてください? 何でも
良いのか?」
 コクリ
「出来るだけ身近な物の方が成功しやすいです。あと、あまり大きな
物は不安定になるので、ここに乗るくらいの大きさの物を…」
 先輩の説明が続く。要は、自分の身近な物をここに持ってきてくれ
る魔法らしい。
「ふーん。身近な物ねぇ。そうだ、じゃあ、緒方理奈のCDが良いかな。
アレ、志保に志保に貸す約束してたし。えーと場所は…」
 そこで、先輩は俺の言葉を遮るように肯いた。
「場所はいいです? へぇー何処にあっても呼び出せるんだ。便利だな。
捜し物に使えるじゃん。」
「身近な物だったらだいたいは大丈夫です? ふーん。よし。じゃあ、
よろしくな、先輩。」
 俺もだんだん興味が湧いてきた。…今度忘れ物したら先輩に頼もう。

 先輩が呪文を唱え始める。ボウっと照らされる祭壇の向こうに色白
な先輩の顔に、真っ赤な唇。薄く眼を瞑った先輩は、とっても魅惑的
で綺麗だ。こういう儚い感じは綾香にはないよなぁ。あいつももうち
ょっと…
 つと、先輩の呪唱が途絶える。
「呼び寄せたい物を強く思い浮かべて下さい。」
 叱られてしまった。
 今度はCDの事を強く心に念じる。CD、CD、CD、緒方理奈のCD、緒方
理奈のCD。そういえば、緒方理奈って寺女の出だっていう噂だよな。
志保ちゃん情報だが。あのお嬢様学校からねぇ。でも綾香が居るくら
いだから…。あ、綾香。そうだCD綾香に貸しっぱなしだ。すぐ返すか
らねぇ、とかいって買った直後に奪っていきやがったんだ。何がすぐ
返すだ。あいつは自分の都合の悪いことはすぐ忘れるんだよな。俺も
貸したの忘れてたけど。これとそれとは話が別で、綾香はいつも自分
に都合の悪い事は忘れるし。俺が忘れるとおごらせるクセに。あのCD
の時だって、俺の家にフラリとやってきてそのまま泊まり込んだ時に
俺の机の上から勝手に取り上げていったんだ。そういえば、あの夜は
何時になくテンション高くて、つきあうだけでも大変だったな。新し
いやりかたを試してみたいとか言って、俺の…
 その時、ふっと祭壇の前に光りが集まる。その光が一点に集まった
かと思うと、カッと光が爆ぜて視界が真っ白に染まった。

「ウッ。先輩大丈夫か?」
 視界が戻るのも待たず、俺は先輩の脇に駆け寄る。視界が戻ってき
た。先輩は別に大事ないようだ。コクリと肯く先輩。
「ふう。それで、実験は成功したのか?」
 と、祭壇を振り向こうとした時。
「ちょっと、ここ何処よ! また姉さんの仕業ね!」
 綾香? あ、そういえば俺、綾香の事を考えてたっけ。それで綾香
が召還されたって訳か。まあいいか。綾香にCD返してもらえば目標達
成だしな。それにしても人間も召還出来るのか。さすが先輩の魔法。
 しかし、祭壇を振り返っても誰もいない。
「あれ? 今確かに綾香の声がしたよな。」
「浩之? あんたも絡んでるのね。何処に居るのよ?」
 確かにこの声は綾香だ。ちょっと声色が高いような。それに結構遠
くにいるのか、怒鳴り声の割には声が小さい。
「たしか、召還された物ってここに出るんだよな?」
 祭壇の上に眼を落とすと、30cmの魔法陣の中に小さな人形が一体納
まっていた。寺女の制服着ている。ということは、今はやりの、あく
しょんふぃぎゅあってやつか?
「なんでこんなモンが出てきたんだ?」
 俺はその人形をつまみ上げる。
「キャッ! エッ、なに?」
 人形は寺女の制服と長い黒髪と切れ長のつり目で先輩にそっくりな…。
「もしかして、浩之なの? あんたどうしてそんなに…」
 その先輩にそっくりな人形は、俺の手の上でじたばたしている。
…そんなに動くと落っこちるぞ。
「綾香…なのか?」
「そうよ、私よ! なんでアンタそんなに大きいのよ。まったく今回は
何がどうなってるのっ、姉さん!」
 手の中に居る、身長30cmほどの人形は、俺の方を見て綾香の声で叫
んでいる。
「いや…、お前が小さいんだ、綾香。」
 先輩は隠れるように俺の後ろにくると、モジモジしながらつぶやい
た。
(あまり大きな物は不安定になるので…)

〜〜〜

「つまり、姉さんの魔法の失敗して、浩之のCDの代わりに私が召還さ
れたわけね。それもこんな姿で。」
 小さな綾香は腕を広げると下を向き、映画の1シーンにでも出てき
そうな素振りでクルリとまわった。なんか、今の姿にハマリすぎてい
る。
 綾香の身長は30cm弱。だいたい元の1/6くらいか。どうも、綾香は俺
の雑念によって召還されたが、魔法陣が小さかったためそのサイズに
合わされてしまったらしい。
「で、すぐ元に戻れるんでしょうね? 姉さん?」
「え? 元に戻すには大きな魔法陣がいるから、それが出来るまで戻せ
ない? …それで、それはいつ出来るのかしらぁ、お姉さまぁ?」
 マジギレ直前の綾香の前で、先輩は面目無さそうにしょんぼりと立っ
ている。小さくなって日本人形のように整った顔に浮かぶ引きつった笑
みは、元の大きさの時とはまた違った迫力がある。
「まる1日間。そぉ〜う、念入りに作らないとねぇ。」
 まあ、綾香の気持ちも良く分かるが、そもそも綾香が呼び出されてし
ったのは俺にも責任がある訳で、先輩が一方的に責められるのはちょっ
と良心が痛む。
「いや、綾香も落ち着いてさ。先輩も悪気は無かったんだし。先輩もさ、
ここに泊まるわけにもいかないだろ。綾香と一緒に先輩の家に帰ってか
ら先輩の部屋でやろう。」
「私、家には帰らないわよ。」
 綾香は鋭く言い放つ。
「帰らないって…。じゃあどうするんだ?」
「もちろん。浩之の部屋に泊めても・ら・う・の。」
 分厚い呪文書(?)の上に足を組みながら腰掛けた綾香は、さも当たり
前の事のようにサラリと言う。本は教科書と同じサイズ。対象になる物
があると、その大きさが改めて実感できる。本当に人形みたいだ。動い
てるけど。最近はエクストリーム女王、来須川綾香のフィギュアもある
らしいが、これほど本物そっくりなのはあるまい。いや、本物なんだけ
ど。まったく、マニア大喜びだ。
「いや、だって、マズいだろう。そのままじゃ。」
「嫌よ。絶対帰らないから。こんな格好でセバスにでも見つかってみな
さいよ。直ぐに医者に連れて行かれるか、良くても幽閉されちゃうわよ。
いくら私でも、この身長じゃ家から抜け出すのも難しそうだし。たとえ
一日でも嫌な物は嫌! だから今日は浩之の家に泊まるの。決定。」
 結論までを、一気にまくしたてる。
「いや、だって、男の家に一人…」
「何言ってるのよ、あんたの家に泊まるのは、始めてって訳でもないで
しょ。」
 なんとなく、後ろの先輩の雰囲気が冷たくなったような…。
「…それに、召還されるはずだったのは、あんたが心につ・よ・く念じ
た物だったんでしょう? なのに、な〜んで私がここに居るのかしらねぇ?
このスケベ!」
 お見通しらしい。


■2 お嬢様の御入浴

「じゃあ、お風呂の準備よろしくねぇ〜」
 というわけで、小さなお嬢様は俺の机の上に居る。ペットボトルのフ
タに注いだコーヒーを両手で抱えるように持ってちびちび飲んでいるの
を見ていると、なんか小動物みたいだ。頭でも撫でてやろうかと手が動
きかけたが、その後の事を考えてとりあえず止めておいた。
「あ〜、浩之、またエッチな事考えてたでしょ。まったく。私がこんな
だからって襲ったりしたら許さないからね。」
「何言ってんだ。大体、風呂ってなんだよ。」
「あんたねぇ、風呂は風呂よ。風呂入らないで寝るのなんて、絶対嫌。」
「風呂沸かして放り混めば良いのか?」
「この大きさで普通の風呂に入れるわけないでしょ。プールじゃあるま
いし。」
 小さくても偉そうだ。
「じゃあ、一緒に入るか?」
 綾香は顔を真っ赤にして、ぶんぶんと横に振る。それに一呼吸遅れて
5cmくらいの細やかなフリフリと流れる。何時になく可愛げだ。だいたい
泊まるのが始めてじゃなければ、一緒に風呂に入るのも初めてじゃなかろ
うに。今更恥ずかしがるガラか?
「バ、バカ。そんなわけないでしょ。なんか、他の物にお湯を張ってよ。」
「他の物って・・・、そうか茶碗風呂か。」
 ポンと手を叩いた俺の頭の中には、目玉の妖怪が浮かんでいた。
「茶碗じゃ、いくら私が小さくても入れないでしょ! なんか他の、そう
洗面器かなにかを使うの。」
「ハイハイ、で、それをここに持ってくれば良いのか?」
「あんた、ちゃっかり私の入浴シーンを覗くつもりでしょう? スケベ。
お生憎様。お風呂場を借りるわよ。」
 言いたい放題だった。

 お嬢様の御湯浴みは無事終了…するはずもなかった。
「ちょっと祐介〜、タオル無いんだけど〜」
「洗剤に手が届かないんだけど〜」
「手桶が欲しい〜」
 矢継ぎ早に繰り出される指令に対応する俺。その度に覗いただ、エッ
チだ、スケベ言われ続けて、温厚で知られている俺もだんだん我慢が出
来なくなってきた。ここはイッパツ、ワガママなお姫様に現況を知らし
めねばなるまい。
 と思っていると、ポチャン。という音と共にバチャバチャという小さ
な音がし始めた。良く聞くと、助けを求めるらしき声も聞こえる。姫様
の御身の上になにかあったらしい。
「今度はどうしたぁ、開けるぞ、いいなっ!」
 引き戸を開けると、湯を張った洗面器に綾香は居なかった。そのかわ
りに、ちょろちょろとシャワーから水が流れる音と、パチャパチャとい
う小魚が跳ねるような音が風呂桶から聞こえる。風呂桶を覗くと、果た
して綾香が風呂桶の中で溺れていた。
 さすがの綾香も余裕無さげだった。今の綾香の大きさでは風呂桶の縁
は高すぎるし、プールと違って水温が高いので、このままだと直ぐにの
ぼせてしまうだろう。
「浩之、助けて!」
 思うに、綾香が俺に助けを求めるなんて、かなり珍しいシチュエーショ
ンだ。ちょっと意地悪な考えが浮かぶ。
「お嬢様、温水プールは如何ですか?」
「ちょ、浩之、ふざけ、本当、に、溺れてる、のよ。助けて!」
「しかし、どうやったらその大きさで風呂桶の中に落ちられるんだ?」
 シャワーの栓が緩んでいる所を見ると、どうもシャワーを浴びようと
思ったらしい。そして、なんとか栓の所まで上ったは良いが、力を込め
て栓を回してそれが回り始めた拍子に勢い余って直ぐ下の風呂桶の中に
落ちたといった所か。風呂場の床からシャワーの栓まで1m弱。今の綾香
からすると5m近い換算になる。腰掛けやらシャワーのケーブルやらを伝
わって登ったらしいが、落ちたら堅い床に激突だ。勇敢というか無謀と
いうか。足場の悪い風呂場で前後を省みず実行してしまうあたりは、さ
すがエクストリームの女王。
 そんな事を考えていると、だんだん水を掻く音が弱くなっていく。ハ
タと気が付くと綾香は半ば湯のなかに沈んでいた。さすがに拙い。
「おっと、大丈夫か。」
 慌てて風呂桶から小さな体をすくい上げた。綾香は意識が朦朧として
いるらしく、ボォとこっちを向いている。とても蠱惑的だ。手の中に納
まっている躯は風呂上がり(というか、溺れ上がり)らしく火照っていて
暖かく、そして、ほんのりとピンク色をしていた。
 今までに何回も見慣れたはずの綾香の肢体。しかし、大きさが異なる
だけで、また全然違って見える。湿気っても艶やかな髪。人形ではあり
得ない憂いを含んだ表情。さくらんぼぐらいのちっちゃな丸いツンとし
たおっぱい。折れてしまいそうな滑らかな細いくびれに、小筆のような
淡い茂み。鍛えられて引き締まったふともも。とても精巧な芸術品のよ
うだった。思わずイケナイ事に走ってしまいそうになったが、そこはな
んとかグッと思いとどまった。
 そして俺はそんな可愛い綾香を、タオルで軽く水気を拭うとバスタオ
ルにくるみ、部屋に抱えて上がった。

-Continued-