鬼狼伝(101) 投稿者:vlad 投稿日:3月27日(火)00時19分
「本気だよ……」
 試合場の隅に大の字に寝転んでいた。
 その姿勢のまま、浩之はいった。
「本気だよ……」
 何度か、呟いた。
 延長戦を前にした一分間の休憩。浩之は自らのコーナーに戻ってくるなり、その姿勢に
なっていた。
「本気の本気だよ……」
 奥歯と奥歯がカタカタと小刻みに音を立てている。
「浩之、嬉しそうだね」
 雅史がそういうように、浩之の顔は満面笑みであった。
「ああ、そう見えるか」
 自分で、自分がどういう顔をしているのかがわからなかった。
 そうか、おれはそんなに嬉しそうか。
 奥歯がカタカタと……。
 こんなに震えているのに、そんなに嬉しそうか。
 そうか、おれはそんなに耕一さんの本気を喜んでいるのか。
 奥歯が鳴り続ける。
 そうか、おれはこんなに耕一さんの本気を怖がっているのか。
 そうか、おれは――。

 一分経った。
 浩之は立ち上がった。

 本気でやっていいのか。
 耕一の中に絶えず湧き上がる疑問であった。
 そのような疑問は既に何度も感じたことがあった。その度に自分は答えてきた。
「やってはいけないのだ。やるべきではないのだ」
 と。
 それで今までやってきた。
 そのためにはこういった試合での敗北は厭うべきではない。
 自分にとっての敗北とは、もっと違った形でのそれを指すのだ。
 そのはずであったし、そのために行動してきたつもりだ。
 だが……。
 こいつに、負けたくない。
 我が身が二つに引き裂かれるように思いながら耕一は中央線へと向かっていた。
 いい顔をしている、と師匠がいった。
 そうか、おれはいい顔をしているのか。
「わしは、お前が自分などとは全く違う人種なのかと思っておった」
 そう、いっていた。
 闘いを――そのための技術、精神を学ぶのに多大な意欲を見せ、そのために行動を費や
しているわりには闘いそのものを楽しむような様子が全然無かった、と。
 今は楽しそうだ、と。
 そうか、おれは楽しそうか。
 だが、それでもこいつを吹っ切るわけにもいかないのさ。
 本気でやりたい――こいつに勝ちたい。
 そして、それとは全く逆の想い。
 二つに裂かれながら耕一は中央線へ向かっていた。
 だが、こんなものは始まってしまえば……。
 そんなものは、始まってしまえば、吹っ飛ぶ。
 もう、自分の気持ちはそこまで巨大化してしまったのだ。
 これか。
 元々、妹を守るために始めたはずの格闘技に月島拓也が取り込まれてしまったのも――。
 伍津双英や長瀬源四郎が護身のために身につけたはずの技術をもって自ら進んで闘いに
身を投じたのも――。
 これか――。
 二つに裂かれている耕一の双方がそれを感じていた。
 片方は歓喜に打ち震えている。
 そもそも、その片方は歓喜そのものであり、耕一から闘うことへの歓喜が浮き上がり、
隆起し、別たれていったのが二つの気持ちの誕生であった。
 もう片方は、困惑している。
 その味を覚えてしまったか――。
 と、それがいつか必ず来るべきものであったとでもいうように困っている。
 今更、もう戻れないな。
 そう思っていた。
 今更、人類の大部分が文明というものに浸った後に、山野で食料を採取するのみの生活
に戻れないのと同様に耕一も、もう戻ることはできなかった。
 前に進むしかない。
 進んで、そこにある「勝利」を掴むしかない。
 浩之にそれは絶対に渡せない。
 浩之の手がそれに向かって伸びてきたら弾き飛ばし、へし折ってでもだ。
 そこで手を引っ込めることはできない。
 浩之が全身全霊を賭けて掴もうとしている、自分から奪い取ろうとしているそれを、は
いどうぞと譲ることなどできない。
 そんな浩之をコケにしたようなことはできない。
 よし、行くぞ。
 待ってろ、浩之。
 さあ……。
「耕一……」
 ん?
 誰だ。呼んだのは?
 振り返って確かめたいけど、もう浩之が――。
 レフリーが手を上げて――。
「はじめっ!」
 確か、今の声は……。
 ――。
 一瞬。
 少し考え事をしていた。
 あの声の主について、少し記憶を辿っていた。
 その僅かな時間に、浩之との距離が無くなっている。
 顎に軽い衝撃。
 体の真ん中を通っている芯をいきなり抜き取られたような喪失感が耕一を襲ってくる。
 こういった、肉体と骨に直接ダメージを与えぬながらも、脳を揺さぶってくるような攻
撃が「やばい」ということを耕一はよく知っている。
 それ自体、それ単発で昏倒するようなことはないが、次――。
 そう、例えばこの時の耕一のように、その次にやってきた身体状態が万全の時であれば
喰らうはずがないような――右のフックで頭を刈り取られてしまうことがある。
 左のストレートから思い切って距離を詰めての右フックのコンビネーションだ。自分が
大嫌いになるくらい綺麗に決まった。
 体が右に傾いて倒れてしまいそうになった。
 おっ、浩之。止めに左の膝で蹴り上げようっていうのか。
 だったらこっちは、それを受けて――。
 やっぱり来たな、左膝。
 その軌道は読んでいたぞ。
 寸前に顔を横によけさせて、お前の膝頭を頭と左肩の間に挟んでやる。そして、左手を
回して左ひざを抱え込む。
 ん、髪の毛掴みやがったな――レフリーは気付いてないのか流したのか咎めない――。
 で――右膝か!
 効いたぞ、今のは。
 左足を捕まえられたまま右の膝蹴りか、思い切りのいい攻撃だ。
 そうだよな、こういうのが――。
 っと、尻餅ついちまった。
 よし、グラウンドで勝負するか、来いよ。
 オーソドックスにアキレス腱でも極めに来るか?
 それともジャンプしておれの足を飛び越えて上半身を攻めてくるなんて真似も今のお前
ならしてきそうだ。
 それとも――。
 ルールを無視して寝そべったおれに足を落としてくるか?
 そんなことしたら足上げた時に軸足の膝を正面から蹴飛ばすぞ。
 浩之――。
 そうか……距離を取ったか。ここではグラウンドには来ないというんだな。
 それじゃ、レフリーも促していることだし、おれも立つか。
 それにしても、さっきの声は……。
「耕一……」
 そうだよ、この人だよ。
 顔にガーゼ貼り付けて試合場の下に立っている。
 柳川裕也。
 なんだっていうんだろう?
「耕一……」
「……」
「いざとなったら、おれがなんとか止めよう」
「……」
「おれはな……」
「……」
「お前は、もっと自分を信じていいと思う」
「……」
 よし、立って中央線へ向かおう。
 まったく――。
 そんなこといいにわざわざ来たのかよ……。
 おかげで、いいのを三発も貰っちゃったじゃないか。
 もっと自分を――。
 そんなこといいにわざわざ来たのかよ……。
 まったく――。
 ありがとう。
 おじさん。

 右のミドルキックだった。
 後ろに下がってかわせる間合いではなかった。
 畜生。
 この人、足長いなあ。
 浩之は左腕を脇に引き付けて縦に立てながら前に出た。
 衝撃。
 どんっ――。
 膝が当たった。
 ジャストミートは避けることができた。
 でも効いた。
 ガードに使った左腕の肘が押されて左脇に食い込んだ。
 冗談じゃないぞ、このキック。
 浩之は戦慄しながら密着していった。
 組み付いていこうとしたところで、右肩が後方に弾け飛んだ。
 耕一が腰を回転させて自らの右肩を浩之の右肩に当ててきたのだ。
 肩による当て身。
 浩之の体が捻れて体勢が崩れる。
 左足が曲がってしまい上半身が後ろに倒れそうになる。
 体勢を立て直すために後方に反ってしまった上半身を元に戻さねば……。
 思った時には、耕一の左拳が顔目掛けて降ってくるところだった。
 立て直すどころではない。
 いや、立て直すということは上半身を戻すということになり、そうなれば当然、背筋を
酷使して自分の顔を耕一の拳に近付けるという羽目になる。
 むしろ、このまま後ろに倒れてダメージを軽減させた方がいい。
 喰った。
 口だ。
 唇とその近辺を拳で塞ぐようにヒットしてきた。
「んがっ!」
 浩之が左右の手で耕一の左手首を掴んだ。
 顔の前にかざして防ごうとしたのだが間に合わず、手首を掴んでしまったのである。
 このままでは倒れる。
 思った刹那、浩之はマットから両足を跳ね上げていた。
 左膝が水月へ――。
 右足が弧を描いて後ろから、後頭部へ――。
 目的地への到達は、大きく湾曲した道筋を辿った右の方がワンテンポ遅れた。
 水月への膝を、耕一は右手で止めて防いだ。
 そして一瞬遅れてきた右足。
 そう、これだ。
 これが浩之の狙いだ。
 膝へ気を取らせておいてのワンテンポ遅れた後頭部への蹴り。
 耕一は頭を前に倒してかわした。
 後頭部を掠っていくぐらいは覚悟していたが浩之の蹴りは予想よりも高い位置を狙って
いたらしく微かにも触れぬまま足刀は空を切った。
 おかしい。
 なぜ、そのように高い蹴りを打ったのか――。
 浩之の体勢は大きく崩れており、上手く蹴りを放てるような状態ではない。
 その体勢から高い蹴りを打つのには低いそれよりも困難が生ずるのは当然であろう。
 ならば、なぜだ?
 耕一が左の膝蹴りの囮に騙されなかった場合――それは浩之の予想の範疇にあったはず
だ。それほど甘く見られてはいない、との自負が耕一にはある。
 ならば、頭をできるだけ沈めて右足をかわそうとするということも当然予想できるはず
だ。
 低い蹴りでいいのだ。
 首の後ろ、いわゆる延髄に当たるぐらいの高度の蹴りでいいのだ。
 そこを狙えば、耕一が頭を下げても後頭部に当たる可能性が高い。
 高い蹴りは困難な上にメリットはほとんど無いのだ。
 すなわち――。
 これは……蹴りじゃない。
 その結論を導き出した時には、浩之の右足が前から耕一の首を刈っていた。
 こいつが狙いか!
 飛びついての腕拉ぎ逆十字固め。
 マットを蹴って左足が昇り来る。
 また右手で弾く。
「!……」
 その右手を左手で掴まれた。
 その内側を通って浩之の左足がやってくる。
 ほとんど垂直に耕一の体とその右手、そして浩之の左手でできた輪の中を駆け上がって
きた。
 首を刈っている右足に左足を引っ掛けてロックする。
 体重をかけて耕一を後ろに倒そうとしてくる。
 させじとこちらは前に重みを持っていこうとした時、何かがやってきて耕一の顔を痛烈
に叩き、その顔を仰け反らせていた。
 左目だ。
 左、それも下方から何かがやってきて耕一の左目を叩いた。
 咄嗟に瞼を閉じたので眼球に直接ダメージを喰ったわけではないが、それにしても目へ
の攻撃は効く。
 顔が仰け反れば、この状況である。それだけで済まずに体全体が後方へと倒れてしまい
そうになる。
 そうはいくかと立て直しをはかった時、最前の何かがまた来た。
 ――そうか!
 心中に叫ぶ思いであった。予想が当たった。
 この状況で耕一の顔を左方から狙う攻撃など限られている。
 右足、左足は論外。
 左手は耕一の右手を掴んでいる。
 と、なれば右。
 右手だ。
 耕一の右手首を掴んでいた右腕の肘を返して裏拳で殴ってきたのだ。
 人指し指の付け根の部分が眼窩にめり込むように殴ってきた。グローブをつけていると
いっても、ボクシングなどのそれに比べると遥かに薄手のオープンフィンガーグローブだ。
 もう一発。
 耕一が後ろに倒れていく。
 だが、浩之よ――。
 耕一はそれを恐れてはいない。
 焦ったな、浩之。
 お前、このまま後ろに倒して腕拉ぎを極めたいらしいが、肝心要のおれの左腕が自由に
なってるじゃないか。
 お前の右手がおれの顔を叩いている間に、おれが左腕を曲げてしまえば倒したとしても
腕拉ぎは極まらないぞ。
 すぐに右を戻したって右手と左手の腕一本同士の力比べになったらそうそう極められる
もんじゃない。
 左手を戻せば、おれの右手が自由になるから、それを駆けつけさせてクラッチ(結手)
させればいい。
 あの不利な体勢からここまで持ってきたのは凄いけど……惜しかったな。
 左腕を曲げれば……。
 あ……。
 なんだ?
 重い。
 ずっしりと、なんだか左腕が重いぞ。
 馬鹿な。
 浩之はなんの拘束もおれの左腕に加えていないはずだ。
 また一発、右が顔に来た。
 体勢が崩れる。
 やばい。
 倒れる。
 左腕は、まだほとんど伸びた状態だ。
 浩之の右手がおれの左手首を掴んだ。
 左手も戻ってきた。
 おれの右手が自由になったけど、左手が遠い。クラッチできない。
 こいつ、一体――。
 背中に厚くて広いものの感触。
 倒れた。
 腕拉ぎ逆十字固め。
 ――やらせるか!

 耕一が強引にブリッジで背中をマットから上げ、体を返しながらその隙間に差し入れる
ことにより仰向けからうつ伏せになり、さらにその時の肩の回転によって左腕を回転させ
て肘関節の位置を裏返しにしてしまった。
 これでは極まらない。
 ならば、三角締め。
 だが、耕一は左腕を引き上げて防いだ。
「浩之〜っ」
 思わず、口から出ていた。
 耕一の視線の先に自分の左拳を覆っているオープンフィンガーグローブがある。
 黒い表皮が二箇所、反りながらめくれあがっている部分があり、それから僅かに覗く白
いもの。
 中に詰められているスポンジだ。
 まさか、とは思っていたがそれ以外考えられなかった。
 その傷付いたグローブを見て確信した。
 先程、左腕を曲げようとして果たせなかったあの重みだ。
 こいつ――グローブに噛み付いてやがった。
 耕一の中に生まれたのは忌々しさであり、感嘆でもあり、結局は自分が藤田浩之と闘っ
ているという実感だった。
 そうだ。油断してるとこういうことをやってくる奴だった。
 こいつ。
 やってくれる。
 セオリー通りの闘いをするだけの技術を持ち合わせていながら、即座にそれから外れた
ことをやってのける。
 しかも、基礎の次の段階の応用などというわけでもない。
 技術のレベルの高さがどうこういうことではない。
 全く技術の体系が違うのだ。
 それを、いきなりこの場でやってきた。
 レフリーは気付いていない。
 耕一だって仕掛けられて少しの間は気付かなかったのだ。
 ルールある闘いにおいて噛み付きと並んで禁じられている率の高いのが目と金的への攻
撃である。
 これら二つは、攻撃を受ける側の体の箇所である。
 だから、そこに攻撃が入ればほとんどの場合はレフリーにわかる。
 巧妙に仕掛けたとしても受けた側のリアクションでわかる、自らレフリーに反則をされ
たことをアピールもするだろう。
 対して噛み付きである。当然、口を使った攻撃であるが、こちらの場合は攻撃を仕掛け
る側の体の箇所である。
 どこに噛み付くかは仕掛ける側の任意であり、レフリーがその口元を見れない位置にい
ながら即座にそれを見抜くには、やはり受けた側のリアクションを見る。
 だが、オープンフィンガーグローブに噛み付かれたので耕一に痛みは無い。そのために
耕一は痛がったりせずにレフリーもそれを見抜くことができなかった。
 今からそれを言い立てることもできる。
 証拠はグローブの傷跡だ。
 あわや三角締めを仕掛けられている最中であるから、それをして試合を中断させること
によるメリットはある。
 だけど……。
 いいや。そんなの。
 ルールでもなんでも利用できるものは利用しろ。
 師匠の言葉だ。
 ここは、ルールを……レフリーを利用すべきなんだろうか。
 ルールを利用しろ。
 っていうからには利用すべきなんだろうな。
 でも、それをやったら先生、後で怒りそうだよなあ。
 これまで、おれと浩之の攻防はおれが肩をあいつに当てていってから今の瞬間まで停滞
なく一気に進んできている。
 いい感じだ。
 おれが、ここでレフリーに訴えて試合を中断させたらその流れが途絶えてしまう。
 それは嫌だ。
 おれが見ている立場でもそう思うだろう。
 で、たぶん先生もそう思う。
 で、たぶんそう思ったら普段いっていることとか関係無しに怒るだろう。
 で、「ルールを利用しろっていってたじゃないですか」とかいおうものなら張り倒され
るだろう。
 理不尽だ。
 でも、そういう人だ。
 で、おれもそれに関しては同意見だ。
 この流れを断ち切るなんて嫌だ。
 三角絞め?
 こんなものは……。

 英二は思わず呟いていた。
 延長ラウンドが始まってすぐ耕一が倒れ、立ち上がり、再び二人が接触してからほんの
少しだけ時間が経ってからだ。
 呟いていた。
「迷いが無くなった」
 と。
 そう。この試合が始まってから、初めて、二人ともにその動きから表情から迷いが失せ
たのである。
 遅かったと思わざるを得ない。
 3ラウンド、十五分の時を迷いと逡巡によって過ごしてしまったのか、この二人は。
 凄い試合だ。
 手に汗握る闘いだ。
 だが、常にどちらかが迷っていた。
 それが無くなった。
 ようやくだ。
 なのに、もう試合の残り時間は三分足らず。
 そして、その三分も一秒ごとにその身を細らせていく。
 あと三分。
 たったのそれだけで決着がつくのか!?
 いや、もう一分半しかない。
 おおーっ、と会場からどよめきが起こる。
 浩之が高々とその身を抱え上げられていた。
 耕一が左腕と首を両足で包み込んで三角絞めを狙う浩之の体を持って立ち上がったのだ。
「危ない」
 雅史が悲鳴に似た声を上げる。
 このまま落とされたら……。
「落としてくれたらチャンスなんだけど……」
 そういったのは都築であった。
「え?」
 雅史が訝しげな表情を見せる。
「あそこで落とすと……客は沸くんだけどなあ」
 そういったのは加納だ。
「あのまま正面に落としてくれたら、その衝撃で三角絞めが極まるかもしれませんよ」
 葵が雅史に解説する。
 叩きつけることにより、耕一の首と左腕がより深く浩之の両足の輪に入って技が極まる
かもしれないのだ。
 この体勢から落とされても顎を引いて思い切り背を丸めれば頭部へのダメージはほとん
ど無い。
 それでも下がコンクリート、アスファルトなどであったら背中へのダメージが軽視でき
ぬものになるがこのエクストリームの試合場はそこそこの弾力がある。
「落としてくれたら……」
 葵がもう一度いおうとした時、歓声が沸きあがった。
 雅史が叫んでいた。
「落とした!」

                                   続く

     二つに分けます。