私の浩之ちゃん 投稿者: vlad
 おれが雅史と一緒に下校している時だ。
 奴は背後からやってきた。
 それとなく気配を察して振り返ろうとした時にはもう遅かった。
 股に、物凄い衝撃が来た。
「ヒロォォォォォッッッ!!」
 志保の馬鹿だ。
 このアマ、いきなり後ろから金的蹴り上げるとはどういうつもりだ。
 ……い、いてえ……。
 ……く、苦しい……。
 男にしかわからない痛みだ。
「志保、いきなりなにをするんだよ」
 雅史が珍しく表情を厳しくして志保にいう。奴とて立派な男、この痛みが理解できる
らしい。キン○マの痛みに関しては男は皆、同志になれるとおれは信じている。
 にしても、このアマ、許せん!
 とはいったものの、とりあえず起き上がれる状態ではない。
「てっめえ! なにしやがんだよ!」
 ようやくおれは立ち上がり(と、いってもまだ痛いことは痛い)志保を詰問した。
「天罰よ! 馬鹿!」
 いつから天の代行者になりやがった。
「あかりに顔向けできんの! あんた!」
「な、なんであかりが出てくるんだよ」
 と、いいながら、おれは激しく狼狽した。と、いうのも、あかりと聞いて心当たりを
思い出したからだ。
「場所変えるぞ。話はそれからだ!」
 ここら辺はまだ下校中のうちの生徒が多い。ここで妙な話なんぞして聞かれたらたま
らない。
 おれの家の近くの公園にまでおれたちは移動した。
「ヒロォ! あんた。あかりというもんがありながらねえ!」
「志保……浩之があかりちゃんに何かしたの?」
 雅史がそう尋ねた。志保の話しぶりから、奴がおれとあかりのことで激怒しているら
しいと察したのだろう。
「聞いてよ、この馬鹿、浮気したのよ!」
 やっぱりそれか……。
「えっ……どういうことなの?」
「どういうこともなにも無いわよ! こいつ、一昨日、後輩の子と抱き合ってたのよ!
あたしはこの目で見たんだからねっ!!」
 あーあ、よりによってこの馬鹿に見られるとは……。
「後輩の子っていうと……姫川さん? 松原さん? マルチじゃないよね?」
 雅史がいった。後輩の子と聞いて思い付く限りの名前を口にしたらしい。だが、志保
は首を横に振った。
「いや、あたしも知らない子よ」
「浩之……」
「ヒロォ……」
「睨むなよ、二人とも」
 いや、突然のことだったんだよ、いや、マジで。昼飯食ってさ、屋上で寝てたらさ。
名前も知らねえ子が来て、抱きついてきたんだよ。いや、ホントに。抱き合ってたんじ
ゃなくてその子を受け止めたのがそう見えたんだよ、いや、ホントに。
「なんで名前も知らない子が抱きつくのよ!」
「いやぁ……どうも話聞いてみると、おれに惚れてやがんだな」
「偉そうにいうんじゃないわよ」
 おれが胸を張ったのが志保には気に入らないらしい。
「なんか前に、おれに助けられて以来、おれをずっと見てたんだと、いじらしいじゃね
えの」
「デレッとするんじゃないわよ」
「助けたっていうのは?」
「よくわかんね。覚えてねえもん」
「覚えてないって……」
「なぁんか、話聞いたらそんなこともあったかなあ、って感じでさ」
「それで……その子は浩之のことが……」
「まあ、なんだかんだいってそれはきっかけだろうな。たぶん、おれの容姿にだな……」
「寝言はいいから、その後どうしたのよ」
「おめえ、見てたんじゃねえのか?」
「……さ、さすがに恥ずかしくなって抱き合ってるの見て引き返しちゃったわよ」
「あの後はなぁ……」

「神岸先輩とのこと知ってます。でも……一度だけ……一度だけでいいですから私を…
…」

「そ、それって……」
 志保の奴、顔が赤くなってやがる。
「ふ……まったく、可愛いこというじゃねえか」
「デレデレすんなっていってんでしょ!」
 とうとう志保にパンチを喰らってしまった。
「それで……」
「いや、してない! なんもしてないぞ、いや、ホントに!」
「ホントでしょうねえ」
「ホントだよ」
「だったらいいけど……」
「志保、この話、あかりには……」
「誰にもいわないわよ……あかりの耳に入ったらあの子、傷つくもん……」
「そ、そうだねえ」
「あんたももう少し行動に気をつけなさいよ、いくらあかりだって、その内に愛想つか
すわよ」
 うーーーむ。やっぱり、おれはあかりに甘えてるんだろうか。
「浩之、あかりちゃんに去勢されちゃうかもよ」
「……」
「……」
「冗談だよ」
 相変わらず、雅史ギャグは笑えなかった。

 なんかおれは寝ていた。
 手足が拘束されてる。これから改造手術でもされそうな状況だ。……素っ裸だし。
 なにしてんだ。おれはこんなとこで……お、あかりだ。おーい、あかり、どういうこ
とだか説明してくれや。
 ……なんか包丁持ってる……。
 さっき志保がいってたな……。
「あかりなら、やるかもよぉ……あの子、アレが無くても浩之ちゃんは浩之ちゃんだよ、
とかいいながら」
 んなわけねえだろ。と、思ってたんだが……。
「あかり、なにするんだ?」
「……」
 無言で、おれの下半身の方へと移動する。ギラギラした包丁はしっかりと握ってる。
「おい、ちょっと待てよ!」
「大丈夫だよ……私は浩之ちゃんがどうなっても浩之ちゃんを愛していけるから……」
「な、なにをいってるのかなあ?」
「だって……浩之ちゃんは浩之ちゃんだし、あっても無くても、浩之ちゃんが浩之ちゃ
んであることには変わりがないし」
「だから……何をいってんだ! おめえは!」
「他の女の人たちが浩之ちゃんのこと相手にしなくなっても、私だけは浩之ちゃんを愛
していけるから……私、その自信があるの」
「どういうことだよ」
「こういうことだよ」
 包丁が光った。
 やっぱり、そういうことですかぁ!!!

 そこで目が覚めた。
 夢だよ、夢。
 あひゃひゃひゃひゃひゃ!!
 夢に決まってんだろうが、あんなもん!
 ま、なかなか面白い夢だったな。ふひゃひゃひゃひゃ。

「浩之ちゃーん」
 お、あかりが呼んでる。そういえば、今日はあかりが夕食作りに来てくれる約束だっ
たな。
「おう、入れよ」
「うん」
 あかりはにっこりと笑った。
 こんなあかりがあんなことするわきゃねえって、うんうん。……あの夢が怖かったわ
けじゃねえぞ、いや、ホントに。
 トントントン。
 リズミカルに包丁が音を立てる。
 包丁がな……。
「お前、包丁使うの上手いな」
「え……うん、始めの内は、よく指とか切っちゃったんだけどね」
 トントントン。
 なかなかの包丁さばきだな……。
「あかり……愛してるぜ」
「え、ひ、浩之ちゃん、いきなり、そ、そ、そんなこといわれたら……」
 あかりは真っ赤になって俯いた。よし、OK!
 別に怖がってるわけじゃねえぞ、いや、ホントに。

                                     終

     どうもvladです。
     品の無い下ネタです。
     突発的に思い付いたどうでもいいようなネタです。
     制作時間僅かに一時間ばかり……。
     
 それではまたいつか……。