浩之ちゃん 投稿者:vlad
 神岸あかりは、藤田浩之の背中を見ながら歩いていた。
 いつもと同じ浩之の背中を見ながら。
「浩之ちゃん」
 と、いつものように声をかける。
「高校生にもなってちゃんはねえだろ」
 と、何度も浩之にいわれたが、あかりにとって浩之はいつまでも「浩之ちゃん」だっ
た。それに、浩之のことをそう呼べるのは自分の特権である。
 学校に到着した二人の肩を、誰かがポンと叩いた。
「おっはよ」
「おう、志保」
「おはよう、志保」
 同級生の長岡志保だった。
「今日も仲むつまじいことですねえ、お二人さん」
「おめえも相変わらず出来上がってやがんな」
 いつものように浩之と志保の間に軽くやり取りがあり、
「あっ、あたし一時限目、教室移動なんだ」
 志保が思い出したようにいい、
「お先にね、あかり、浩之ちゃん」
 そういって走っていった。
「えっ」
 あかりは呟いた。が、浩之は平然とした表情で、
「おい、おれらもモタモタしてらんねえぞ」
 と、あかりを促した。
 ……志保……なんで、浩之ちゃんを浩之ちゃんって呼んだの。ただの冗談? 浩之ち
ゃんをからかっただけなの? そうよね、浩之ちゃんもわざと無視してるのよね。
 浩之とあかりは校舎に入った。
「おはようございまーす」
 ホウキを持ったマルチと出会った。
「おっ、掃除してたのか、感心だなあ」
 そういって、浩之はマルチの頭を撫でた。あかりはそれを微笑みながら見ていた。
「えへへ、浩之ちゃんに誉められるととっても嬉しいですぅ」
「えっ」
 ……マルチちゃん……なんで、浩之ちゃんを浩之ちゃんって呼んだの?
「あ、おはようございます!」
 そこに現れたのは松原葵だ。相変わらず元気な娘である。
「おう、おはよう」
「あ、神岸さんもおはようございます」
「おはよう、松原さん」
「それでは失礼します! あ、そうだ。浩之ちゃん、今日は大丈夫ですか?」
「ああ、同好会だろ、大丈夫大丈夫」
「そうですか、ちょっと今日は組手がしたいんで」
「おう、放課後に顔出すよ」
「はい! お願いします」
 葵は去っていった。
 ……松原さん……なんで、浩之ちゃんを浩之ちゃんって呼んだの?
 それからも……。

「あ、おはようございます、浩之ちゃん」
「おう、おはよう、琴音ちゃん」

「……浩之ちゃん」(ぼそっ)
「え、おはようございますって、ああ、おはよう、先輩」

「ヘイ、グッドモーニング、ヒロユキちゃん」
「おう、グッドモーニング、レミィ」

「浩之ちゃん、おはよ」
「おう、おはよう、委員長」

 なんで……なんで……なんでみんな浩之ちゃんのこと浩之ちゃんって呼ぶの?
「なんで?」
「さあ、なんか昨日さあ、みんなしておれのことちゃん付けで呼びたいっていってきた
んだよ」
「それで……浩之ちゃん、OKしたの?」
「おう、だからみんな呼んでただろ」
「でも、浩之ちゃん、高校生にもなってちゃん付けで呼ばれるのいやだって……」
「ああ、なんかお前に年中呼ばれてるんで馴れちまったよ」
「浩之ちゃんの……」
「ん、どした?」
「浩之ちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 あかりの直下型ブレンバスターはけっこう効いた。

                                  終

          どうもvladです。こっちには二回目の登
          場になります。なんか本家の方が無茶苦茶重
          いんでこっちを使用させて頂きます。
           見ての通り、小ネタです。
           特権を奪われたあかりは、どうするのか?
          というお話でした。

 それではまた……。