新入り歓迎 投稿者: vlad
藤井冬弥はリーフに来ていた。ちょっとした所用があったのだが、それも終わった。
冬弥は帰ろうとして階段を下りていたところ、二人の女の子と行き交った。
「あれっ、あれ『WHITE ALBUM』の主人公の藤井冬弥さんじゃない?」
 擦れ違ってすぐ、後ろからそんな声が聞こえた。
「あっ、本当だ」
 と、別の声が応ずる。
「ん?」
 と、冬弥が振り返ると女の子たちが立ち止まってこちらを見ている。なかなか可愛い
子たちだ。
「あ、どうも、藤井冬弥さんですよね」
「うん、そうだけど……君たちは確か」
 冬弥はその二人に見覚えがあった。
「はい、あたし新城沙織っていいます。そしてこっちが」
 と、沙織が指し示したのは眼鏡をかけた女の子であった。弱々しい感じが非常に保護
欲をそそる。
「あ、私、藍原瑞穂っていいます」
 ぺこり、と頭を下げる。
「ああ、そうそう、確か『雫』に出てたね、ということはおれの先輩になるのかな」
「ふふ、そうですね」
 と、沙織が笑い、瑞穂が微笑む。
 だが、そこに一人の男が現れた。
「藤井冬弥さんですね」
「え、そうですけど」
 男は、ぱっと見ではごく普通の青年に見えた。少々物憂げなことを除けば、まあ、好
青年に見える。
「どうも、僕、長瀬祐介といいます。『雫』で主人公をやっています」
「ああ、君がそうか」
「どしたの、祐くん、藤井さんに何か用なの」
 沙織がいうと、横から瑞穂が袖を引っ張った。
「あっ……そうか!」
 沙織は何かに思い当たった様子で……沈黙した。
 そういうことされると、冬弥としては非常に気になる。
「ちょっと来てもらえませんか」
「えっ、でも」
「じゃあいいです。連れてきますから」
 瞬間、冬弥の頭を物凄い不快感が巡り、意識が途絶えた。

 目を覚ました時、冬弥はある一室にいた。妙に薄暗い部屋だ。
 なぜかと思ったら、全ての窓に雨戸が下ろされているからであった。
「お目覚めのようだな」
 見たこともない一人の男が椅子に座らされた冬弥の前に立っていた。隣に祐介もいる。
「コーイチさん、目ぇ覚ましたよ」
 その声に応じてもう一人の男が現れる。
「よし、それじゃ祐介、浩之、始めるか」
「はい」
「さっさと終わらせちまいましょう」
 三人の男は、それぞれ、祐介、耕一、浩之、というらしい。どこかで聞いたことのあ
る名前だ。
「ええっと……あなたたちは……」
「おう、おれは『痕』で主人公やってる柏木耕一ってもんだ」
「おれは『To Heart』の主人公、藤田浩之」
「僕は、さっきいいましたね」
 ああ、そうか。彼ら三人は自分の先輩とでもいうべきリーフの主人公たちだ。
「そういや、コーイチさん」
 と、浩之が思い出したようにいった。
「今日はティリアは……」
「ああ、彼女はちょっと都合が悪いそうだ」(実は著者がフィルスノーンやってないだ
けです)
「そうですか」
 と、浩之はいい、冬弥の方を向いた。
「よかったですねえ、ティリアの姉御がいたら到底、生きて帰れんかったでしょうに」
「え……」
 これは聞き捨てならない。しかし、三人はそんな冬弥の呟きなど無視して、ビニール
袋をどこからか取り出してきた。
「今日、ここに呼んだのは他でもない、あんたの歓迎会を開こうと思ってね」
 そういいながら、浩之がビニール袋から缶ジュース、缶ビール、そしてお菓子類など
を取り出してテーブルの上に並べた。
「あ、そうだったんですか」
 思ったよりも友好的な対応に冬弥は胸を撫で下ろす。いつのまにやら年齢的には下の
はずの浩之に敬語で話しかけているが、自分では不自然さには気付かない。
「ほらよ、まずは新人さんは一気飲みだ」
 と、浩之が冬弥の前に缶ジュースを置いた。
「え……あの……」
「なんだい」
 と、既に缶ビールに口をつけている耕一がいう。
「どうしました」
 と、ミネラルウォーターを飲んでいる祐介がいった。
「どうしたんスか」
 と、コーラを持った浩之がいった。
「あの、これは」
「ああ、冬弥さんの分ですけど」
 祐介が平然という。
「あの、おれ、これあんまり好きじゃ……」
 と、冬弥は目の前に置いてある「メッ〇ール」を指さした。
「なんだとぉ、てめえ」
 浩之が途端に凶暴な顔付きでいった。今にも殴りかかってきそうだ。
「おれらの用意したもんが飲めねえってのか、おう」
 耕一が目を細めいった。今にも爪が伸びそうだ。
「おやおや、これは、大した新人さんですねえ」
 祐介が澄ました顔でいった。今にも「壊れちゃえ」とかいいだしそうだ。
「あ、いや……でも、みなさんは飲まれないんですか、◯ッコール」
「そんなまずいものが飲めるか」
 三人の声が綺麗に重なった。
「……」
 冬弥は沈黙するしかなかった。
「トウヤさんよお、ぐぐーっと行けや、ぐぐーっと」
 浩之が大きなジェスチャーで煽る。
「で、でも」
「あんたなあ、前よりはましになってんだぞ、それ」
「えっ」
「そうですよねえ、浩之の時までは「青汁」でしたからねえ」
「おう、そうだそうだ。それをおれらが話し合ってだな、いくらなんでもやばいから、
メッコー◯にしようということになったんだ。てめえ、ティリアの姉御がいたら張り倒
されてんぞ」
 浩之が冬弥に詰め寄る。
「青汁を美味いといった奴は見たことねえが、メ◯コールを美味いという奴は時々いる。
さあ、飲みやがれ!」
「で、でも」
「ああ、もう、煮え切らねえ奴だな、祐介!」
「仕方ないね」
 祐介が微笑むと、冬弥の頭に先程の不愉快な感覚が再来した。すると、冬弥の右手が
勝手に動いて目の前の缶をつかみ、同じく左手が冬弥の意思を離れて蓋を開けた。
 そして、缶を持った手が上がっていく。
 冬弥は自分の意思によらずしてそれを飲み干した。
 ……やっぱり、これは好きになれない。
「さあて、その調子で二本目行こうか」
 浩之が、すぐさま空になった缶を取って、新たな缶を冬弥の手に握らせる。
「ちょ、ちょっと待って下さい、一体何本あるんですか」
「1ダース」
 耕一がワンカップ大関を飲みながらいった。
「そ、そんなに飲めませんよ」
「なにいってやがる。だったら誰が飲むんだよ!」
 そうこうしている内に二本目が冬弥の口に接触していた。

 1ダースの連続飲みは少々効いた。
 冬弥はぐったりとした様子で寝そべり、時々げっぷを吐いていた。
「よし、第一関門突破、やればできるじゃないか!」
 耕一がいったその一言に冬弥の体は硬直する。
「だ、第一関門ってことは!」
「当然、第二があるわな」
 絶望する暇も与えられず、冬弥は祐介に操られ、隣の部屋にと移動した。
「う、うわあっ!」
 冬弥はその部屋にあった「それ」を見てひきつった声を上げた。
 檻がある。
 そして、その檻の中には、冬弥が見たこともないような生き物が入っていた。明らか
にこの世界の生き物ではないように思えた。
「あ、あれは」
「ああ、あいつはラルヴァっていう生き物だ」
 浩之が別になんともないというふうにいった。
「あの……第二関門って……」
「うん、あいつと戦ってもらう」
「ええええっ!」
「弱音を吐くな、あいつを倒せないようじゃリーフの主人公とは認められん」
 耕一が、どん、と冬弥の背中を押した。
「あ、みなさん来たようですよ」
 と、祐介がいった。確かに誰か来たようだ。隣の部屋から人の声がする。
「やあ、丁度始めるところだね」
「あっ、月島さん、すいません、わざわざ」
「いやいや、まあ、おつとめだからね」
 と、月島は微笑んでいった。
「でも、できるだけ早く終わらせて欲しいな、今日は僕が夕食当番なんだ。僕が遅くな
ると夕食ができないから僕の瑠璃子がおなかを空かせて、僕の瑠璃子が悲しんでしまう
んだ」
「はいはい、すぐに終わりますよ」
「来てやったぞ」
「おう、すまんな柳川」
「おい、あれが今度の新入りか」
 と、柳川は鋭い眼光で冬弥を射抜いた。
「まったく、今度の奴は弱そうだな、まあいい、さっさと終わらせろよ、おれが弁当を
買って行かないと貴之の腹が減るじゃないか、そうしたら貴之はギターを弾けなくなっ
てしまうじゃないか」
「はいはい、すぐに終わるよ」
「やあ、浩之」
「よう、藤田」
「ど、どーも」
「よっ、雅史に矢島に橋本先輩、わざわざ御苦労さま」
 浩之は三人の男にいった。
 五人の男たちが相対する冬弥と、ラルヴァという生き物の周りを取り囲むように並ん
でいく、その中に祐介と耕一と浩之も入った。
「あ、あのう……」
「よし、初めろ!」
 耕一がいって横からラルヴァが入った檻の鉄格子を蹴飛ばした。鉄格子は溶けかけの
アメみたいに曲がった。
 広がった隙間からラルヴァが這い出してくる。
「ちょ、ちょっと」
 冬弥が逃げた先には、雅史と浩之がいた。
 途端に、二人によって押し戻される。
 これは、まさか、噂に聞く、ランバージャックデスマッチというやつではなかろうか、
戦う最中に逃げようとすると、周りを取り囲んだ人間によって押し戻されてしまうとい
うあれだ。
「そ、そんな……」
 冬弥は誰か話がわかりそうな人間を探して四方を見回した。
「くくっ、おれの方に来い、お前の命の輝きをおれに見せてみろ」
 柳川と目が合った。
 冬弥は、腹に痛みが生じたのを感じた。ラルヴァの腕で叩かれたのだ。
「ぐふうっ!」
 呻いてよろめく、すぐ後ろで柳川が笑みを浮かべている。
 どっちに行っても死ぬ。ならばいっそ……。
 冬弥は全身でラルヴァに体当たりをかました。だが、ラルヴァは痛みなど感じておら
ぬかのように、ひょいっ、と冬弥を持ち上げた。
「え、うわーっ!」
 床と天井が回転した。
 冬弥は背中をしたたかに床に打ち付け、呻いた。
「コロス……」
 異常に冷たい声が上から聞こえた。
 殺される。
 だが、死ねない。今日は由綺が久しぶりのオフで遊びに来る予定なのだ。
「う……わあーっ!」
 その叫びに、部屋の中の人間は目を見張った。
 そして……皆が気が付いた時には絶命したラルヴァが壁に背中を付けて倒れていた。
「ううむ、今のは……」
 耕一が不思議そうに首を捻る。明らかに今、理解不能な力が働いたはずだ。
「へえ、やるじゃんか」
 浩之が感心する。
「愛する人への想いがなんらかの力を発生させたようですね、さしずめ技の名前は「由
綺への愛」でしょうか?」
 祐介が冷静にいう。
「ううむ……第二関門突破だ!」
 ラルヴァの死を確認した耕一が叫んだ。

「う、うーん」
 冬弥が目を覚ました時、部屋からはラルヴァも破壊された檻も、そして途中からやっ
てきた五人の男たちも消えていた。
「あ、あれ、おれは……」
「しばらく気を失っていたんだ」
「おめでとうございます。第二関門突破です」
「へへっ、見直したぜ、あんた」
「お、おれがあの化け物を倒したのか……」
 全く記憶は無かった。ただ記憶にあるのは、絶望と、由綺の笑顔。
「ふう」
 由綺に……助けられたな……。
「さて、いよいよ最後の第三関門だ」
 冬弥と距離を取って、耕一がいった。
「これで最後です。頑張って下さい」
 同じく冬弥から離れて、祐介がいう。
「手加減はしねえぜ」
 これまた冬弥から離れた浩之がいう。
「えっ、最後の関門って」
「おれたちと戦ってもらう」
「ええ! そんな!」
「グダグダ抜かすな、由綺への愛で耐え抜いてみろ」
「それじゃ、僕がまず電波で動きを止めますから」
「そしたらおれが「主役の意地」で削るぜ」
「最後におれがぶん殴る」
 三人は頷き合った。
「ちょ、ちょっと」

 藤井冬弥は全治三ヶ月の重傷を負って入院した。

                                  終


          どうも、vladです。前回に引き続いて小
          ネタです。ちょっと今回、冬弥がかわいそう
          だったかもしれませんね。
                   なんか調子がよくて、すぐ下の「続 新たな
          る世界へ」を書き込んだ直後に即興で書き始
          めたら書き上がってしまったので書き込んで
          おきます。

 それではまた……。