続 新たなる世界へ 投稿者: vlad

          どうも、vladです。この作品は、拙作
          「新たなる世界へ 前後編」を先に読まれた
          方が良いと思われます。って、なんか5月下
          旬から6月下旬までの約一ヶ月の作品が全部
          飛んでしまって無いですね。
読まないでもリーフのゲームを一通りやって
          いれば大丈夫だとは思いますが。


「よし、これでよし」
 耕一はナップザックのチャックを閉じていった。
 七月末日。夏休みの前半をバイトに費やし軍資金を得た耕一は遂に明日から隆山の柏
木家に遊びに行く。
「夏休み中はずっといて下さいね」
 との、千鶴さんのありがたいお言葉も既に頂いている。
 耕一は千鶴さんと目下遠距離恋愛中である。距離など千鶴さんへの想いの障害にはな
らぬと思いつつも、やはり電話ではなく毎日直に会えるというのは嬉しいものだ。
「明日は早いから寝るかあ」
 あんまり眠くは無いが無理にでも眠ることにして、寝床に転がる。だが、やはり、心
なしかウキウキしてしまって眠れない。
 電話が鳴ったのはその時である。
 千鶴さんかな、と耕一は思った。明日は午後の一時に駅に梓と楓ちゃんと初音ちゃん
が迎えに来てくれることになっている。その確認だろうと耕一は思った。
「はい、柏木ですが」
「……耕一さんですね」
 ぼそり、と若い男らしい声が返ってきた。なんか聞き覚えのある声だ。
「えっと……祐介か?」
「はい、そうです」
 祐介のうっそうとした声が妙に気分を暗くする。
「どうした」
「申し訳ないんですが、この前のファミレスまで来てくれませんか?」
「こないだの……ああ、あそこか」
 そういえば、数ヶ月前にも突然祐介に電話で呼び出されたことがあった。その時に、
待ち合わせの場所にしたのが駅前の某ファミリーレストランであった。
「僕は今、そこから電話してるんです」
「そうなのか、よし、すぐ行く」
「どうも、すいません」
 今度こそ本格的に耕一の「鬼の力」を必要とするような事態に直面してしまっている
のだろうか。祐介の声はどう考えても尋常では無かった。
 最悪の場合、隆山行きを数日延ばしてでも祐介の手助けをしてやらねばなるまい。
 耕一は自転車で待ち合わせのファミリーレストランに向かった。
「おう」
 この前と同じ席に祐介は座っていた。飲み物と、ちょっとしたつまみを既に頼んでい
たらしい。
「生ビール!」
 どうせだから飲もう、と耕一はウエイトレスに注文した。
「どうも、お呼びだてしてすいませんでした」
「それはいい……その怪我が呼び出されたわけと関係あるのか?」
 耕一がいうように、祐介は一目見てそれとわかる怪我をしていた。
 目の上の辺りにばんそうこうが貼られているし、頬には引っ掻き傷が生々しく線を引
き、右腕に包帯が巻いてあって、ほのかに湿布の臭いが漂ってくる。
「ええ、実はですね……」
 祐介の話によると、その怪我は、彼の恋人である新城沙織によってもたらされたもの
であった。
「なんでまた?」
「この前、瑠璃子さんと話していたんですよ」
「ほう」
「それで、ついつい瑠璃子さんっておしとやかで静かで、あの雰囲気がたまらないなあ、
っていったんです。すぐ側に沙織ちゃんがいまして……」
「げっ、それは……やばいだろ」
「はい、殴られ蹴られ引っ掻かれで、体の節々が痛いんですよ」
「ほ、ほう。しかし、それはお前らの問題だろ。おれが介入するのは」
「いやいや、そんな女との仲裁なんてケチなことを耕一さんに頼むとお思いですか」
 柏木耕一は見た。確かにその時、祐介の目はどろりと濁り、粘着性の粘りけを帯びて
いた。
「なんだかどうしようもないんですよねえ」
「な、なにが?」
「おしとやかで静かで、できればその上にぽーっとしてるちょっと天然入った女の子と
仲良くしたいという衝動が僕の中に……くふふふふふ」
 まずい。
 非常にまずい。
 彼が次に何をいうかは想像がついた。
「耕一さん、顔合わせたことはないけど、藤井冬弥って知っているでしょう?」
「ああ『WHITE ALBUM』の主人公だろ」
「耕一さん……森川由綺さんと澤倉美咲さんっていいと思いませんか?」
「あ、ああ、まあ二人とも可愛らしいし、非常に魅力的な女性だというのは認めるが」
「耕一さん、行きませんか?」
「ど、どこに?」
「『WHITE ALBUM』ですよ! たぶん耕一さんのお眼鏡にもかなう人がいま
すって、緒方理奈さんなんてどうですか、超人気アイドルですよ」
「あ、あのな、祐介」
「まあ、ちょっとばかしストーリーにきつい部分もあるらしいんですけどね、僕らだっ
たらそんなもん慣れっこですからねえ、くふふふふ」
「実はな、おれは明日から……」
「由綺さんと美咲さん、どっちもいいですよねえ。どっちを先にしよっかなあ。ああ、
なんで一本しか付いてないんでしょうね、二本付いていれば二人一緒にできるのに」
 おいおいおいおいおいおい、本格的にやべえぞ、こいつ。
「祐介、おれは遠慮させてもらうぞ、明日から千鶴さんのとこに行くんだ」
「えっ?」
 祐介は耕一が当然、自分の誘いを受けると思っていたらしく、きょとんとした表情で
いった。
「な、地上最強の男ともあろう人が何を弱気な、大丈夫ですって、今度はバレるような
へまはしませんし、藤井冬弥なんてのはリーフゲーム史上最弱の主人公ですからね、何
発かかましてやれば主人公の座を明け渡しますよ」
「いや、そういう問題ではなくてだな」
「耕一さん、一緒に行きましょうよお、くふふふふ」
「悪い、おれは行かない」
 耕一は生ビールをぐーっと一気飲みして席を立った。
 ちり……。
「うっ」
 頭に不快な感覚が生まれる。
「耕一さん、申し訳ないのですが、そうなると沙織ちゃんにこのことをバラさないよう、
しばらく眠っててもらうことになりますが」
 ちりちり……。
 こいつ本気だ。
 だとしたら行くしかない。
 勝負は一瞬で終わる。いや、終わらせねばならない。
 一撃で仕留められねばこちらの敗北は必至だ。
「おおおおっ!」
 耕一は渾身の力をもって踏み込んだ。
「……」
 ちりちりちり。
 頭がガンガンする。少しでも気を抜けば「支配」される。
 だが、
「おらあ!」
 間に合った。
 ばこんっ!
 耕一が振り下ろした腕は凄まじい音を立てて祐介の頭部に炸裂し、祐介はそのまま気
を失った。
 さーっと不快感が頭から消えていく。
「あ、危なかった」
 後一秒遅ければこちらが負けていた。いくら鬼の力があるといっても、できることな
ら毒電波使いとは戦いたくないものだ。と、耕一はしみじみ思った。
「お客さま……」
 駆け寄ってきた店員に、耕一は「鬼の目」を向け沈黙させる。
「こっちの問題だ。口出すな」
 しばし思案し、店の入り口にある公衆電話にテレホンカードを突っ込む。
「あ、どうも、おれです。……はい、明日一時に駅ですね、わかってます。ええと……
千鶴さん、新城沙織ちゃんに電話番号教えてもらってないですか? ああ、もらってる
んならちょっと教えて欲しいんですよ、ええ、ちょっと祐介がね、寝てしまったんで、
引き取りに来てもらおうと……え、おれが沙織ちゃんを……何いってるんですか、そん
なわけないじゃないですか。え……いうんですか。明日、直接会った時じゃ駄目ですか?
……はいはい、わかりましたよ」
 耕一は受話器を顔から話し、周りを見回した。さすがに注目されまくっているが、恐
れて近くまで寄ってくる人間はいないので、小さい声でいえば他人に聞き取られること
はないであろう。
「……おれが愛しているのは千鶴さんだけですよ」
 耕一は再度見回し、
「ええ、では明日」
 と、いって受話器を置いてため息をついた。
 そして、また別のところに電話する。
「あ、もしもし、新城さんのお宅ですか? ああ、沙織ちゃん、おれ柏木耕一、うん、
こないだ隆山で会った耕一だよ。……うん、えっ、祐介? いや、祐介なら今ここにい
るんだけど……ちょっと引き取りに来てくれないかなあ、ちょっとその、気を失ってて
ね……えっ、なんで一緒にいるかって?」
 ここは思案のしどころである。
 果たして、全てを話していいものかどうか。
 耕一は先程の祐介の濁った瞳を思い出した。
 この男には少々罰が必要に思える。
「いや、実はね……」

 その後、長瀬祐介の身に降りかかった災厄を事細かに記すほどには私の神経は太くな
いのでここで筆を置くことにする。


どうも、vladです。
          見ての通りの小ネタです。

          ARM(1475)さん、6月21日のリー
          フ伝言板において初投稿作品「耕一の過去」
          紹介していただきありがとうございました。

 最近よく進む。
 と、いうわけで、近い内にまた……。