或る破局の形 -のぞみ、そしてくいちがい- 投稿者: XY-MEN


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本文に入る前に
この作品は、六月四日に出した、「或る破局の形」を
書き直したものです。
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「太田さん、もう終わりだ。」
「えっ!? た、拓也さん?!」
「もう会いたくない。顔も見たくない。」
「そ、そんな! 待ってください!拓也さんっ!」
「終わりなんだよ・・・」
月島拓也のその声は、通話の相手である香奈子に
向けられたようには聞こえない、どこか虚ろな声だった。
そして、
ガチャン!
拓也は唐突に電話を切った。
(終わり・・だな・・・。これで静かになる。)
拓也はふうと息を付いた。
彼は安堵していた。
だが、彼自身は気付いていなかったが、その一方で、
その時の彼の中には、空虚な気分があった。
プルルルルルルル・・・
再び電話が鳴る。
「ああ、五月蠅いな・・・。」
拓也は、それを無視した。




太田香奈子は、夜道を急いでいた。
(拓也さんに会わなければならない。)
その表情には決意が表れていた。強く、強く。
(拓也さんに会わなければならない。)
そして、決着を付けなければならない。
(それが拓也さんのためだから!)




「終わりだと言ったはずだろう。君もしつこい人だな。」
拓也は、門の電灯に薄暗く照らされた香奈子を見下ろした。
拓也は狼狽していた。
考えてみれば、彼女ならこうして直接会いに来るだろうことは
予想できたことだったが・・・。
拓也は、そんな彼女が嫌いだった。
「そんな・・・いやです!あれだけじゃ納得できません! 
私は・・・」
(ああ、五月蠅いな・・・。この女はいつもそうだ。)
「せめて、せめてもう少しだけでも、話をさせてください!
お願いです・・・。」
(まあ・・・構わないか?・・・そうだな・・・何が変わるわけでもない・・・。)
「・・・分かったよ。いつもの場所に行くか・・・。」
拓也はぶっきらぼうにそうとだけ言うと、香奈子を
見ずに歩き出した。
(これまでと同じなだけだ・・・。)
拓也は自分を納得させるように繰り返した。
だが、胸の中は何故か、もやもやとして気持ち悪かった。




まるで洒落っ気のない夜だった。
空は雲に覆われて、月は出ていないし、星の瞬きも見えない。
湿り気を含んだ空気がやたらと重い。
香奈子は、拓也の後を歩いていた。
今、拓也との間にあるのは沈黙だけだった。
(どうしてだろう?)
なぜ、こんな沈黙が二人の間になければならないのだろう?
香奈子はその理由を考えた。だが、答えは出なかった。
その答えは、「いつも、話をするのは香奈子の方だから」なのだが。




3,40分ほど後。
香奈子と拓也は「いつもの場所」、学校の生徒会室にいた。
拓也はふと思った。
(この部屋は・・・。)
この部屋は、彼にとって退屈の象徴だった。
頭上の白色蛍光灯が、壁の白を気持ち悪いほど強調しているこの部屋。
くだらない生徒会生徒会が、くだらない議題を話し合う部屋。
退屈を紛らわすように香奈子を抱き続けたこの部屋。
(そう言えば・・・この部屋では、よくコイツと話をしたものだな・・・。
何の意味もない、くだらない話を・・・。)
彼はそれを疎んじていた筈だった。
(何故、それを捨てることができなかったんだろう? 
そして今もまた、捨てることができないでいるんだろう・・・?)
彼は気付かない。彼自身の求めるものに。




香奈子はふと悲しい感慨に浸る。
(この部屋は・・・。)
白い壁に囲まれた、たった二人では広すぎる部屋。
香奈子が拓也に告白したのはこの部屋だった。
初めて抱かれたのもこの部屋だった。
そして、この数日、他の二人の生徒会役員を交えて痴情に耽ったのも、この部屋だった。
(全てに決着を付ける。拓也さんのためにも!)
拓也さんのためにも?




拓也は、不意に香奈子を抱き寄せ、乱暴にキスをした。
別に今日に限ったことではなく、拓也が香奈子を抱くときは、
いつも唐突で、一方的だった。
「!!」
(僕は何をしているんだ?)
香奈子の乳房を服の上からまさぐり、性器を弄んだ。
「いやっ!!」
(いつもと同じ・・・だが、これが僕の求めているものなのか?)
事務を行うように淡々と、それを続けた。
(いや、違う・・・僕はこんな事をしたいんじゃない・・・)
拓也がそう思ったのとちょうど同じ時、香奈子は拓也に抵抗し、
拓也の手から逃れた。




「・・・?」
拓也が、不思議そうに見つめていた。
香奈子は、悲しかった。
(どうしてこの人には判ってもらえないの?)
俯いて、身体をふるわせた。拳をぎゅっと握りしめた。
(これまで、たくさん話だってしてきた筈なのに・・・なのに何故!)
「・・・どうしたんだ?一体・・・」
拓也は、何か呆けたような声で尋ねてきた。
香奈子は唇をぎゅっとかんで震えを止めると、顔を上げ、
しっかり拓也のを見つめながら言った。
「私は・・・こんな事をしに来たんじゃありません!」




こんな事をしに来たんじゃない。
彼女はそう言った。
では、何のため?何のために彼女はここに来たのか?
そして自分は?
「なら、何のためにここに来たんだ?」
自分は何のためにここにいるのだ?彼女を捨てきれずに・・・。
「私は・・・」
香奈子は言った。
「私はただ、あなたと話をしたいって思っただけです!」




香奈子は、拓也をじっと見つめていた。
じっと見つめてはいたが、その表情の微かな変化には
気付いていなかった。
彼女は、次に自分が言わなければならないことで、
頭がいっぱいだったのだ。
香奈子はもう一度言った。
「私は、あなたと話がしたいんです。・・・あなたのことについて・・・。」




「僕のことを・・・話す?」
「はい・・・。私、思ってました。拓也さんは何か・・・何かは
分からないけど、悩んでいるんだって。だったら、私は
拓也さんを救けてあげたい!力になりたいんです!」
「何を・・・言って・・・」
拓也は困惑していた。
「だから、教えてください。何を悩んでるのか、私に教えてください。」
拓也は、彼女が何を言おうとも、それを聞き入れるつもりなどないはずだった。
だが、今、彼は何も言えない。
拒絶の言葉をためらう拓也がそこにはいた。
拓也は、たとえ彼自身が認めなくても、救いを求めていたのだ。
だから、彼女を捨てきることができなかった。
だから今も、彼女の言葉を拒絶できないのだ。
彼女は、拓也にとって、捨て切れぬ救いだった。




香奈子は一生懸命だった。
どうしても、拓也を説得しなければならなかった。
絶対に説得しなければならなかった。
(それが拓也さんのためなんだから!)
拓也さんのためなんだから?




拓也の頭の中で、思考がぐるぐると回っていた。
(僕はこの女を望んでいる?・・・いや、違う!違う!違う!そんな
わけはない! ・・・では何故僕はここにいる?この女と一緒に)
思考は結論を出さないためにループした。
「お願いです!拓也さん!私は拓也さんのことを
知りたいんです!拓也さんのことを・・・」
拓也の耳に、香奈子の叫びが届いた。
拓也は香奈子を見た。
(この女・・・この女に僕は・・・)
初めて、拓也は彼女を見つめていた。何かを求める眼差しで。
しかし、香奈子は叫んでいた。
「私は拓也さんのために・・・・」
拓也に向かって何かを叫んでいるだけだった。
叫びは拓也に押し寄せて、直撃した。
まるで拓也を押しつぶすように響いた。
拓也は酷い嫌悪感に襲われた。
(この女は・・・この女は・・・この女はいつもそうだ・・・
自分の言いたいことばかり言って・・・)
嫌悪感は膨張し続けた。
「拓也さんは・・・」
(いつもそうだ!僕の中に無遠慮に入り込もうとするんだ!いつも!)
そしてそれは、憎悪へと変化した。




「五月蠅いっ!!」
拓也の突然の叫びに、香奈子はびくっと怯んだ。
「た、拓也さん・・・?」
「お前はいつもそうだ・・・。そうやって好き勝手にして・・・そうして、
僕をめちゃくちゃにするんだ!。」
「な、何を・・・?」
香奈子には、拓也が何を言っているのかまったく判らなかった。
「最初からそうだった!鬱陶しくまとわりついて!
好きだの何だのとうるさく喚いて!」
「私は・・・そんな・・・」
香奈子は、何を言えばいいのか判らなかった。
(拓也さんは最初から私を嫌いだった?)
香奈子は、自分が拓也にとって必要だと思っていた。
必要とされているとも思っていた。
そのことは、彼女にとってかけがえのない喜びだった。
だから、いつも拓也の側にいた。
側にいていいんだと思っていた。
「お前なんかキライだ!どっかいけ!どっかいなくなれ!」
香奈子は、叫ぶ拓也を見ていることしかできなかった。
拓也の眼差しには、怒りと憎悪が宿っていた。
(どうして・・・? 私はあなたを愛してるのに・・・)
「お前なんか・・・お前なんか壊れてしまえ!!」
(どうして・・・? 私は、あなたに尽くしてきたはずなのに・・・)
香奈子の目には、蒼く瞬く紫電をその身にまとう、
拓也の姿が映っていた。




「うぎゃあぁぁぁぁぁぁああああああっぎゃあああぁぁぁぁ!!」
「うあっ!うああっ!うおあああぁぁぁぁっ!!」
二人は叫び続けた。
だが、互いの叫びは互いの耳には届かない。
なぜなら、彼ら自身の叫びが邪魔しているからだ。
・・・・・・二人は、確かに互いを求めていた。
だがしかし、二人は今、破局に辿り着いた。




部屋には静寂が戻っていた。
拓也は、ふとぼんやり呼吸だけをしている自分に気が付いた。
頭を上げると、そこに香奈子がいた。
拓也は一瞬びくりとしてから、思い出す。
「僕が・・・壊した・・・。」
香奈子は、ひざを突き、うなだれるように俯いていた。
拓也は、息を殺し、おそるおそる香奈子に近寄った。
そして、四つん這いになって、香奈子の顔を下から覗き込んだ。

香奈子の目には、もう、生気はなかった。
その瞳は、拓也を見てはいなかった。
拓也と同じ、「壊れた者」の目だった。
・・・不意に笑いがこみ上げてきた。
「ふ・・・く・・・くくくくくく・・・はっはははははははは! 壊れてる!
壊れてやがるっ!!くはっ!くはっ!くはははは・・・ふく・・・
ふくくくくく・・・ひひひひ・・・・ひひ・・・」
拓也は笑った。床に身を投げ出して、腹を抱えて笑い続けた。
おかしくておかしくてたまらなかった。
腹が痛くなって、喉も痛くなって、涙があふれて、体中が
熱くなっても拓也は笑い続けた。
「はは・・・はは・・・ふ・・・ふく・く・く・くく・・・」




拓也は笑い疲れた。
笑うのも嫌になった。
拓也はしばらく息を整えてから、香奈子の方へ這いずり寄る。
香奈子はさっきと同じ姿勢のまま、そこにいた。
拓也は香奈子と向かい合わせに座り、彼女の顔を両手で
持ち上げ、自分の顔を近づけて言った。
「オマエは僕の人形だ。全部、僕の思い通りなんだ。
僕を・・・満足させるんだ。」




拓也は香奈子を犯した。
香奈子は、何の反応もしなかった。
何も言いはしないし、身じろぎ一つもしなかった。
つまらなかった。
(何か違うなあ? 僕の欲しかったものと・・・)
だが、それでも何も無いよりはましか、と思い直した。
気付いてみれば、雨が降っていた。しとしとと、降っていた。
雨音が、辺りを包んでいた。
拓也は呟いた。
「ああ・・・五月蠅いな・・・。」

<終>

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ども、XY-MENです。
最初に書いたとおり、今回のは前回の作品を書き直したものです。
で、ここで懺悔しなければなりません。
実は、前回出したときには、それが失敗作だと分かってて出しましたっ!
そして、感想をいただいて、それを参考にして書き直そうと、阿漕なことを考えてましたっ!
そんなわけで、前回「或る破局の形」を読んでくださった方、特に、感想をくださった久久野様やAE様、UMA様申し訳ありません。
でも、どうしても納得行く形にしたかったんです。この作品。
久々野様にいただいた厳しい感想のおかげで、何が悪かったか、と言うことがはっきりしました。ありがとうございます。
・・・たぶん、これで、この話が二人のお話であること、それと、何が言いたかったか、というのは分かるようになったと思いますけど・・・どうでしょう?
これからも、厳しい感想をいただけたら幸いです。(でも、優しいのも欲しいな(笑))
・・・さて、ダークものでつかれたし、次はギャグものでもやろうかな?

<感想>
今回はギャグもの三つに感想です。

<新たなる世界へ(前編)> vlad様
目の付け所がうまいです。んー、確かに祐介達ならあこがれるだろうなあ(笑)。後編でどう落としてもらえるのか楽しみです。
ところで、冒頭での耕一のバイトって、何かしら意味が有るのかしら?

<柏木家の暴走’「美人姉妹湯けむり愛の動物王国 鑑定士軍団は見た!> へーのき=つかさ様
とりあえず、やたらと長いサブタイトルが笑えます。
こーゆー暴走ものって結構好きです、僕。
ぶっ飛び加減がいい感じですねえ。
時折入る千鶴さんパートが、なんか妙におかしかったです。

<ライバル> UMA様
葵ちゃんはともかく、マナならいきなり攻撃しかねんですね(笑)
それにしても、モードチェンジって・・・そんな便利なものが・・・(笑)。

では、今回はこれにて!