春の陽がてらすものは 投稿者: XY-MEN
ある昼下がり。よく晴れた、いい陽気の昼下がりだ。
俺は、柏木邸の中をうろついていた。
何をするわけでもない。ただ、ぼうっとなにげなく庭を見やりながら、気怠い気持ちで縁側をとろとろと歩いていた。
曲がり角を曲がると、そこに彼女がいた。
楓ちゃんだ。
楓ちゃんは縁側に座布団を敷き、正座をして、柔らかい春の日差しを浴びている。ひなたぼっこをしているのだろう。
楓ちゃんらしいな・・・。俺は小さく笑みを浮かべると、
静かに近寄る。
俺はそこでふと気が付いた。楓ちゃん・・・瞼を閉じている。
この日差しの優しさに、眠りを誘われたようだ。
俺は音を立てないように側に寄り、腰を下ろし、楓ちゃんの横顔を見つめた。
やや俯くような姿勢のまま、日溜まりの中、楓ちゃんは眠り続けている。
かすかに、ささやかに、寝息をたてる楓ちゃん。そしてその度に、その小さな肩が、小さく上下する。
そよかぜが、慈しむように楓ちゃんを撫でている。
黒髪が、ふわり・・・ふわり・・・と揺れて、その艶がスロゥリーに踊る。
俺は綺麗だな、とだけ思った。それ以上の言葉は、今は要らない。
俺の心はただただ充足しているから。
長いような、短いような時間が過ぎる。
ある時、楓ちゃんの頭ががくりと揺れた。
「ん・・・・」
そして楓ちゃんが目を覚ます。
閉じられていた瞼が、ゆるりとあいていく。
「起きたね・・・。」
俺は言葉をかけた。
楓ちゃんがゆっくりこちらを向く。
「・・・・?耕一さん・・・。」
確認するかのように瞳をぱちぱちと瞬かせて、頬を赤らめて視線を漂わせてから、
「わたし・・・つい・・・。」
とだけ言った。
「気持ちのいい日だからね。」
そう言って俺は笑いかける。
「はい・・・。」
楓ちゃんも赤い頬のまま、微笑みかえす。
春の日差しは、俺達を包み続ける。そよかぜが相変わらず心地よい。
「楓ちゃん・・・まだ眠い?」
俺が訊く。
「はい・・・まだ少し・・・。」
楓ちゃんが答える。
「それなら・・・」
俺はにこりと笑ってから、腕を伸ばす。
「もう少し、眠ればいい。」
楓ちゃんの肩を、抱くように引き寄せる。
「俺が・・・膝枕をしてあげる。」
そして、身体を横にするように促す。
「耕一さん・・・。」
楓ちゃんは、俺の腕に抱かれたまま、困った顔をして俺の目をのぞき込む。
だけど、ふうと息をつくと、軽く微笑んで、
「はい・・・。」
と言うと俺の腿に頭を預けた。
温かい午後の時間は続く。
楓ちゃんは静かに眠り続けている。俺の手に頭を撫でられながら。
俺は楓ちゃんを撫で続ける。その確かな息吹を感じながら。
お互いがお互いを愛している。
お互いがお互いを満たしている。
ささやかだけど、間違いない幸せ。
無惨なまでに長くて、けして止まることのない時の中の一片。
だからこそ今は・・・ただ今は・・・。

------------------------------------------------------どうもはじめまして。XY-MENと言います。
皆さまに触発されて、SSなるものを書いてみましたが・・・いかがでしょうか? 何せ慣れていませんので、文章が拙くて申し訳ないですけど、だからこそ感想や批評なんかも聞いてみたいです。
短い挨拶ですけれど、そんなわけでよろしくお願いしますー。