「ただいまー。あれ、初音ちゃんどっか出かけるの?」 「あ、お兄ちゃんお帰り。ちょっとお買い物に行くの」 「それはいいとして、なんでそんな格好なの?」 初音ちゃんの格好は空手の胴着だ。 どう見ても「ちょっとお買い物」には見えない。 「今日は『どようのうしのひ』でしょ?だからだよ」 「は?空手着と丑?うーん…」 俺は腕組みして考える。 丑… うし… ウシ… 牛… 牛殺し… あ! 俺は昔あった格闘ゲームのボーナスステージを思い出した。 「…もしかして初音ちゃん。『空手道』?『さあ、牛だ!』っていう…」 「うん、そうだよ。やっぱ、お兄ちゃんには分かっちゃうわね。じゃあ私、牛 を仕留めてくるから」 そう言って初音ちゃんは空手の型をする。もしかして、今日の晩飯は牛の丸焼 きとか?豪勢だけど、それはちょっと違うと思うぞ。 「…初音ちゃん、それってウシ違いだよ」 「え…?あ…!!」 初音ちゃんは分かったようで、みるみる真っ赤になる。 「ごめんなさい、お兄ちゃん!!ちょっと待っててね」 そう言って初音ちゃんはばたばたと寝室に戻る。何だ? ・ ・ ・ 「お兄ちゃん、これなら大丈夫でしょ?」 「んー、どれどれ…」 俺がリビングで一息ついていると、さっきとは違う格好の初音ちゃんが入って きた。今度は真っ白な着物だ。 じぃ…っと初音ちゃんを見る。着物の下に下着のラインが見えないところをみ ると、下には何も付けていないようだ…って、どこ見てるんだ、俺。 ん?右手に何か持ってるなぁ。何だろ? 人形…?…それもワラで出来た…。 よく見たら、左手には木槌と、五寸釘が見えるじゃねぇか! 「…もしかして、今度は『丑の刻参り』?時間が全然違うけど…」 「えーっ。何で分かっちゃうのー?お兄ちゃん、すごーい」 …って、クイズやっとったんかい…。 初音ちゃんは、意外そうに驚く。丑の刻参りでどんな晩飯になったか、ちょっ と興味があったけど、怖いことになりそうだったので、それ以上考えるのをや める。 「はははっ、モロバレだって。今度は丑は同じだけど、何か違うだろ?土用の 丑って言ったら鰻だろ?」 「あ、そっか。お兄ちゃん、もう一回待っててね」 初音ちゃんは再び寝室へ戻る。今度は何だ? ・ ・ ・ 「おまたせ、お兄ちゃん。これで完璧でしょ」 「ああ、今度は確かに鰻だけど…」 今度の初音ちゃんは、頭から足まで真っ黒な服を着ている。 尻尾と、頭の上に二つの目玉が付いるけど、これって…。 「これって、もしかして…」 「うん、『ウナギイヌ』さんだよ」 天才バカボンでおなじみの、ウナギの母と犬の父をもつハーフ、ウナギイヌの 着ぐるみだ。 この着ぐるみはウナギイヌの頭の部分がフードになっており、初音ちゃんは口 にあたる部分から顔を出しているという、とってもぷりちーな着ぐるみだ。 もっと突っ込んでもいいが、土用の丑から離れても困る。そう判断した俺は、 ソファから立ち上がると初音ちゃんの頭を撫でながら言った。 「そっかー、ウナギイヌかー。じゃあ、初音ちゃん。これから鰻でも食いに行 こっか?」 「ふぇ、私?」 ウナギイヌ状態の初音ちゃんは、自分のことと勘違いしたらしい。 「初音ちゃんは夜ベッドで…じゃなくって、駅前の鰻屋で晩ご飯にしよっか、 ってことだよ。今から買い物ってことは晩ご飯、用意してないんだろ?」 「あ…。そ、そうだね。お兄ちゃん。じゃあ、行こ!」 言葉の意味を理解した初音ちゃんは、かぁぁぁっと真っ赤になりながらそう言 った。 こうして、俺はウナギイヌな格好をした初音ちゃんを連れて、駅前の鰻屋へ向 かったのだった。 <おわり> ---------------------------------------------------------------------- どうも『今日も土用の丑の日』のUMAです。 今回のネタは、土用丑です。 つーか、タイトルにRがある通り、リニューアル版だったりします。 #オリジナル版は1999年07月30日に公開 まだ痕Rはコンプしていないせいもありますが、このSSの初音ちゃん達は旧 作のイメージで書いています…つーかこのSS自体、旧作の時に書いたもんだ けど。 ・ちょっと蘊蓄(つか、インターネットて便利だね情報w) 立秋前18日を土用と呼ぶらしく、その「土用」の間の丑の日なので、年に よっては2回あるそうです(丑は十二支の一つなので)。 ついでに書くと、土用そのものは春夏秋冬全部にあるそうですが、今の日本 では夏の土用だけが一般的だそうです。 で、その夏の土用の丑の日にウナギを食おうと言い出したのはエレキテルで 有名な平賀源内がうなぎ屋の宣伝のために考案したものだそうです。 ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~