初音ちゃんとランドセル 投稿者:UMA 投稿日:4月7日(日)23時54分
「ほぉらお兄ちゃん。初音のランドセル姿だよ。似合う?」
ランドセルを背負った初音は、うれしそうに耕一の前でくるりと一回転して見
せる。

「ああ、とってもよく似合ってるよ。おいで、初音ちゃん」
耕一はうんうん、と笑顔で頷くと両手を広げて初音を抱き寄せる。

「えへへ…」
「初音ちゃんはかわいいなぁ」
初音は耕一に頭をなでてもらうと、とても幸せそうだ。
ここは耕一と初音の寝室。二人とも寝間着姿で、初音はその上からランドセル
を背負っているのだ。

「お兄ちゃん、初音のランドセル姿って見たことなかったでしょ?」
「そういえば…そうだね。俺が初音ちゃん家に遊びに行ったのって、たいがい
夏休みだったからなぁ…」
初音を抱きしめたまま、遠い目をする耕一。耕一が初めて初音と会ったのは、
彼女が小学一年生の時の夏休み。当然夏休みにランドセル姿なんざ見られるハ
ズもなく、その後も耕一が隆山の柏木家に行くのは夏休みだったこともあって
今の今まで耕一は『初音のランドセル姿』というのを見たことが無かった、と
いうことだ。

「ん?ってことは初音ちゃん。俺にランドセル姿を見せるためにわざわざ?」
「うん、そうだよ。今日ね、スフィーちゃん家に遊びに行ったの。そしたらね
スフィーちゃんがランドセル持ってるんだよーって見せてくれたの。それ見た
らね、初音もお兄ちゃんに、初音のランドセル姿を見せてあげたいなーって思
ったの」
「ああ、なるほど。五月雨堂に行ってきたんだ。部屋にアクセサリが増えてる
理由がわかったよ」
五月雨堂は健太郎が親とスフィーが経営している骨董屋なのだが、ここ数年は
魔法グッズやガーデニング用品、お菓子などを年単位で変えながら、もっぱら
スフィー主導で副業で商っているのだ。
そして今年の副業で売っているのが『アクセサリ』という訳だ。
ちなみに副業の商いは、スフィーが見ているアニメ番組『お子様は魔女』の影
響だということは、火を見るよりも明らかだったりする。
耕一が納得しているとそこへ、

「おとうさぁん…。あたしのランドセル、なくなったのぉ…。あした、にゅう
がくしきなのに…」
と、泣きながら寝間着姿の一人の少女が耕一達の寝室へ入ってきた。
どうやらこの少女は耕一達の娘で、台詞から察するに今年から小学生にあがる
年齢のようだ。

「え、ランドセル?ランドセルって…」
耕一は初音の背中にあるランドセルを見る。ぴっかぴかの赤いランドセルで、
名前欄には娘の名前がしっかりと書き込まれている。

「初音ちゃん、どういうことだい?」
「あの…ね。お姉ちゃん、もう寝てたから、その…」
どうやら初音は、娘の部屋からランドセルを持ってきたようだ。

「ああっ初音ちゃん!それ、あたしのランドセルぅ!」
初音が歯切れの悪いいいわけをしていると、娘が初音の背にランドセルを見つ
けた。娘はそのまま初音に飛びつき、ランドセルを取り合う。
どうやら初音と娘は『初音ちゃん』『お姉ちゃん』と呼び合っているようだ。
もっとも初音は、年齢よりも遙かに若く見られることもあって、娘と並ぶと親
子ではなく姉妹に見えるので、こう呼び合っても違和感は全然なかったりする
のだが。

「いやぁ、初音、お兄ちゃんにランドセル姿見せるのー!」
「だめだよぉ、それあたしのだもん。初音ちゃん返してよぉ」
「ふぇぇぇん」
「うわぁぁぁん」
初音が娘にランドセルを返さないでいると、どちらからともなく二人は泣き出
した。

「はあ、やれやれ…」
耕一はため息をつくと、初音の背からランドセルをひょいっと奪う。このまま
騒ぐと、同じ部屋に寝ているまだ赤ん坊の長男を起こしかねないというのもあ
るからだ。

「ふわぁ…?」
涙目で耕一を見る初音。

「いいかい初音ちゃん。このランドセルはお姉ちゃんのでしょ。返さなきゃい
けないだろ?」
「でもでもぉ…」
「いいね?」
「う…うん…。はぁい、お姉ちゃん…」
耕一が言い聞かせると、初音は渋々ランドセルを娘に返す。

「うわぁい、初音ちゃんありがとう!」
ランドセルを返してもらった娘は、うれしそうにランドセルをぎゅーっと抱き
しめる。

「……」
まだ初音はランドセルに未練があるのか、じーっと見ている。
それを見た耕一は、

「そうだ、今日は3人一緒に寝ようか。そうすれば、お姉ちゃんも初音ちゃん
もランドセルと一緒に寝られるよ?」
と、二人に提案した。

「うん!」
「うわぁい、お兄ちゃんだぃ好き」
もちろん、その提案に異論があるハズもなく、こうして3人はベッドに川の字
になって眠りについたのだった。



<おしまい>
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どうも『入学式シーズンだねぇ』のUMAです。

今回のネタは『入学式』です。…とか言いながら、入学式そのものは一切ふれ
ていないような気もしますが(汗)

ぢゃ、そういうこって。