人と鬼の戦い2002・ACT5 投稿者:UMA 投稿日:3月10日(日)23時53分
<前回までのあらすじ>
 毎年恒例の節分。
 今年は人が鬼を退治するのではなく、鬼が人を襲うというあらすじだ。
 そして、柳川がやられたことを知った耕一と初音は、初音の『悪い予感』を
 気にして柏木家へと向かう。
----------------------------------------------------------------------



「…だから、柳川さんは駄目なんです。聞いてるんですか、柳川さん?」
「はい…はい…」
所変わってここは柏木家地下にある特設地下牢前。
千鶴はボロ雑巾のようになった柳川に無理矢理正座させて、クドクドと説教を
たれていた。一方の柳川のほうは、体のダメージのせいか意識が朦朧として、
うわごとのように頷くだけだ。

ひゅぅぅぅ…、どさ。
「ぐえぇぇぇ…!」
と、そこへ誰かが降ってきた。その『誰か』は、狙い澄ましたように柳川の上
に落ちた。上から何者かに潰された柳川は、ぺしゃんこになった蛙のような鳴
き声をあげる。


「ええっ、梓!?」
それは、マルチのグライディングラムを喰らってダウンした梓だった。彼女が
受けたキズそのものは、すでに治癒が始まっているが、まだかなりのダメージ
が残っている。

「うぅ…、千鶴姉、油断した…」
「ど、どうして梓、あなたが負けるなんて…」
千鶴は動揺する。
梓の鬼の力は、耕一や柳川には劣るもののパワーだけは姉妹で最強だ。そんな
彼女が負けるとは千鶴も考えていなかったようだ。

「ごめん…」

ひゅぅぅぅ…、どさ。
『ぐえぇぇぇ…!』
さらにまた、誰かが降ってきた。その『誰か』は、狙い澄ましたように梓の上
に落ちる。上から何者かに潰された柳川と梓は、ぺしゃんこになった蛙のよう
な鳴き声をそろってあげる。

「今度は楓まで?!」
「…油断したわ…」
今度はマニアックな考えをしていた一瞬の隙をつかれてやられてしまった楓だ
った。

「どうしたのよ、二人とも?」
「ご、ごめん…」
「ごめんなさい…」
「ど、どうでもいいが、俺の上から、どけ…」
『あ、ごめん。完全に忘れてたわ』
梓と楓で潰されていた柳川が呻く。

「まあいいわ。詳しいことは、あとで聞くから…」
言いながら千鶴は身構え、後ろを振り向く。
まだ姿は見えないが、牢へ誰かが忍び込んだようだ。

・
・
・

「お庭にこんな凄い洞窟があるなんて、柏木さんって凄いのねー」
「…普通、庭に洞窟なんてないって」
「あ、ずーっと下の方に明かりが見えますー」
森川由綺、緒方理奈、そしてプロトタイプのマルチの3人は、柏木家地下の特
設地下牢に向かっていた。
ここは、ヒロイックファンタジー物のRPGで見られるような、いわゆる『ダ
ンジョン』といった雰囲気の洞窟だ。ただ違うのは、モンスターのたぐいが出
てこないことくらいだ。
たった3人で鬼どもに勝てるのか甚だ疑問だが、仲間を逃がすことに成功すれ
ば一気に形勢逆転できるから、一種の博打だ。

「…ん?由綺、あの扉がなんか怪しいわね?」
「ええ、そうみたいね」
理奈は自分たちのいる位置からみて、数十メートル下の方にある鉄格子の扉を
指さす。洞窟とはいっても人工の洞窟であるため、篝火が至る所に仕掛けられ
ているので、結構明るく、視界は100メートル程度はあるのだ。

「それじゃ私、ちょっと見に行ってみます」
言うが早いか、マルチは前ダッシュでその扉へ進み、あける。

ぎぃぃぃ…。

「えいっ、当て身!」
「あうっ」
ばたん。
扉の陰に隠れていた千鶴が、鉄山靠をマルチに思い切りかます。完全に不意を
つかれたマルチはそのまま気を失った。

「…あら、ここまで来たのはあなた達3人…2人だけ?」
ゆらりと立ち上がり、まだ扉から遠い由綺達を見る千鶴。

「う、うるさいわね!最初はもっと多かったのよ!いくよ由綺!」
「うん『ダブルライダーキィィィック』!」
どっちが技の一号でどっちが力の二号なのかはおいといて、二人はバッタの怪
人に変身する改造人間達のようなジャンプキックを繰り出す。
高低差がある分、攻撃力はさらにアップするようだ。

「…って、あなたたち、歳いくつよぉぉぉ!」
ダブルライダーキックを喰らった千鶴は、さすがに爆発はしないまでも、勢い
よく吹っ飛ばされる。

「今のうちに!」
「みんなを助けなきゃ!」
ライダーキックをカマした二人は、着地するとそのまま千鶴の脇を通り過ぎて
扉の中に入ろうとする。
が!

「甘いわ!ここは通さないわよ!」
吹っ飛ばされた千鶴は、たたき付けられそうになった壁を足場にして、跳び蹴
りを仕返す。

「そんなっ!あれで倒せないなんて…。由綺、どうする?」
「えっと…。『バリア』!」
「ちょ…!ゆ、由綺何を…!」
跳び蹴りで倒しきれなかった千鶴を見て驚愕している理奈を、由綺は自分の前
にかざす。いわゆる『楯』である。

どげしぃ!
千鶴の跳び蹴りは、由綺に押さえつけられ、逃げることのできない理奈を直撃
した。
理奈を蹴り飛ばした千鶴は、着地するとさらに別の壁へ向かってジャンプ。そ
こから2発目の跳び蹴りを放つ。どうやら千鶴は、ただの跳び蹴りでなく、ス
ーパーコンボの狂牙のようだ。
由綺の楯…もとい、理奈は1発目ですでに使い物にならない。由綺はあわてて
ガードする。が、千鶴の蹴りのダメージはガードの上からでもガードゲージを
削るほどの威力だ。
当然のようにガードクラッシュを起こし、ノーガード状態になった所へ、千鶴
の3発目の蹴りが直撃した。

・
・
・

「お姉ちゃーん!」
「え、初音?なんでここに来たの?」
侵入者達を撃退して、一息ついたところへ妹の初音が駆け寄ってきた。彼女は
耕一と一緒に外で人を捕まえているハズだ。

「うんとね、初音ね、悪い予感がしてね、帰ってきたの」
「悪い予感?」
「ああ、初音ちゃんの悪い予感がするって言うんだ。だから気になって帰って
きたんだ」
やや遅れてやって来た、耕一が答える。

「ふーん。でも、大丈夫よ。侵入者は全滅させたから」
「あ、そうなんだ?ってことは、全員捕まえたってことで、俺たちの勝ちって
ことか?」
「いえ、まだでございますぞ」
と、そこへ審判員の一人、長瀬源四郎ことセバスチャンが現れた。

「まだって?まだ、誰かいるのか?」
「はい。三井寺月代様とか…」
「誰、それ?」
セバスチャンはまだ捕まっていない人物の名前を挙げるが、耕一は素で返す。

「は?だ、誰って、ご存じないのですか?彼女は『誰彼』の…」
「…いかん。マジで忘れてた」
引きつった笑いを浮かべながら冷や汗を垂らす耕一。
別に、筆者が未だに『誰彼』インストールすらしてないという事実とは関係な
い(と思う)。

「ててて、てことは…」
「あと…数分で時間切れですので、鬼側の勝利は難しいでしょうな」
腕時計を見ながら答えるセバスチャン。

「初音、耕一さん!私も出ますから、急いで残りの人間を捕まえてきて!」
「言われなくても!初音ちゃん、行くよ!」
「ま、待ってお兄ちゃん!」
ドタバタと地上へ向かう耕一達だったが、地上に着くと同時に、

「…3…2…1…ゼロ。時間切れですよ、柏木耕一君。今年の『チキチキ本物
の鬼で節分しよう』は、人チームの勝ちということだね」
長瀬刑事が無情にもタイムアップを告げた。

『がぁぁぁん!』
夕日をバックに落胆する3人だった。
どうやら初音が感じた『悪い予感』は、完全に忘れ去ったキャラがいるのでは
ないか?という疑念だったようで、牢とは関係なかったようだ。



<おしまい>
----------------------------------------------------------------------
どうも『やっと終わったような気がします』のUMAです

今回のネタは見ての通り『節分』です。

毎年のことなので、なんとかマンネリにならないようにない知恵を絞って続け
ているシリーズです。
で、悩んだあげく今年は『鬼ごっこ』で落ち着きました。

なんとか終わることができましたが、実はかなり紆余曲折があったりします。
最初は鬼ごっこと言うことで、昔の遊びや80年代のゲームといった『古い』
遊びを中心に書こうとしたのですが、思うようにネタが集まらず、かなり難航
しました。結局、ネタは集まらないけど時間だけはどんどんすぎていくので、
それまでにかき集められたネタを料理してできあがったのが今回の節分SS、
という訳です。

#オチだけは変わっていませんが>誰彼のメンバーを探し忘れて鬼の負け

まあ、何はともあれ終わったので良かった良かった。



ぢゃ、そういうこって。