初音ちゃんのおるすばん 投稿者:UMA 投稿日:2月27日(水)22時07分
ぴんぽーん。
「はーい」

玄関の呼び鈴が鳴る。
ぱたぱたとかけていき、初音はドアをあけた。

がちゃ。

するとそこには、スーツ姿でアタッシュケースを持って、いかにも『セールス
マン』といった若い男が立っていた。

「お嬢ちゃんこんにちわ。おじさんはお布団のセールスに来たなんだけど、お
うちの人いるかな?」
にこにこと微笑みながら男は初音に問いかける。営業スマイルというヤツだ。

「おうちのひと?」
「うん。お母さんかお父さんのことだよ」
「お母さんなら初音だよ」
「へ?」
初音がにっこりと微笑みながら自分を指さすと、男は素っ頓狂な声をあげて驚
く。どうやらこの男は初音のことを『留守番している子供』と思っているよう
だ。
もっとも、初音は大きめのフリルがついたエプロンをつけているせいか、どう
しても小さな子供がままごとをしているように見えてしまうのだが。

「あー…。あのね、お嬢ちゃん?…初音ちゃんって言ったかな?おじさんが聞
いてるのはね、おままごとのお母さんじゃなくって、初音ちゃんの本当のお母
さんのことだよ?」
「おままごとじゃなくって、初音がホントのお母さんだよ」
「あぁ?」
「ひっ!」
男は反射的にガンをつける。それを見て驚く初音。

『…おっと、いかんいかん。俺はヤクザな商売から足を洗ったんだ。こんな所
で堅気の嬢ちゃん…もとい、一般人の女の子を脅かしちゃ駄目だ。スマイル…
スマイル…』
そう思って男は深呼吸をする。

「…(ふう、落ち着いた)ごめんね、初音ちゃん。驚かしちゃったかな?大丈夫
だよ、おじさんは怖くないから」
言いながら男は両手を広げて軽く振り、おどけてみせる。

「う、うん…」
「じゃあ、初音ちゃん?初音ちゃんの本当のお母さんかお父さんはどこにいる
のかな?」
初音を安心させた男はもう一度問いかける。

「初音のお母さんもお父さんも死んじゃって、もういないよ」
「え、そうだったの?ごめんね。変なこときいちゃって」
「ううん、いいの。初音、寂しくないから」
「偉いねー初音ちゃんはー」
言いながら微笑む男。だがそこで、
『…って待てよ?確か調査したヤツからは家族構成は両親と子供が二人って聞
いていたが?』と男は考える。
『ということは、この子はまだ、おままごとやってるつもりってことか?った
く、しょうがない子供だな。親の顔が見たいぜ』
しばらく考えた上で、そういう結論に至ったようだ。

「…えっと初音ちゃん?もう一回聞くけど、この家のお母さんは?」
「初音だよ?」
「あー…。さっきも言ったけど、おままごとじゃなくってだね…」
「うん、だから、初音が本当の本当にお母さん…」
初音が答え終わる前に男は初音の胸ぐらを掴みかかる。さすがに2度も3度も
言ってわからなかったのでは、我慢の限界を超えてしまったようだ。

「嬢ちゃん?いい加減にしないと、おじさん怒るよ?」
「ふぇ…。だって、初音、本当に、お母さん…」
「まだウソをつくか!?」
「ふぇぇ…」
男が凄むと初音は泣きそうになる。
と、そこへ玄関の門戸をあけてランドセルを背負った女の子がやってきた。

「ただいま初音ちゃん。…誰、このおじさん?」
「ぐすっ…。お、おかえり、お姉ちゃん。このおじさんはね、セールスマンさ
んなの…」
「やあお嬢ちゃん。おじさんはね、妹さんとちょっと遊んでいただけだよ」
はっはっはっと笑いながら初音を掴んでいた手を離す。男の手から離れた初音
は、逃げるようにその女の子にしがみつく。

「うそ!初音ちゃん泣いてるじゃない!おじさん、悪い人だ!」
「あー…。それはね、お嬢ちゃん?妹さんが『私がお母さんだー』って、言っ
ておじさんを困らせるから、ちょっと脅かしただけだよ。妹さん、ままごとと
現実の区別がついてないんじゃないかい?」
「違うもん!初音ちゃんの言ってることが正しいもん!」
「なぬ?」
「だって、初音ちゃんは私のお母さんだもん」
「ぬぅあにぃぃぃ!?…はっはっはっ。お嬢ちゃん、ウソはよくないよ。ウソ
は。あ、もしかしてお嬢ちゃんは妹さんのおままごとにつきあってあげている
のかい?妹思いのお姉さんだねー」
男はかなり動揺しているようだ。

「だーかーらー。初音ちゃんは、おままごとじゃなくって、本当の本当に私の
お母さんなんだってばー!」
「またまたー。お母さんが娘のことを『お姉ちゃん』なんて呼ぶ訳が…」
「それはね、私に弟がいるからよ」
「はぁ?」
「だって弟がいたら、私が『お姉ちゃん』でしょ?」
「なんじゃそりゃぁぁぁ!」
『ひぃ!』
大声を出した男に驚いて、初音と娘は抱き合う。

「ふーっふーっ…。おいコラ!おまえら二人して、俺のことををナメとるんか
い」
「べ、別になめてないよ。ホントのことを言って…」
「あぁ!?」
「ひぃ!おにいちゃぁぁぁん!」
ガンをつけられた初音は思わずそう叫ぶ。

そのとき、門戸をくぐって大柄な男が現れた。
男は無言のままセールスマンの頭を『むんず』と掴むとそのまま後ろに投げ飛
ばし、男を壁にたたきつけた。サラリーマンの男は気を失ったようだ。

「…大丈夫かい、初音ちゃん?」
「お、お兄ちゃぁぁぁん!うわぁぁぁん」
突然現れた大柄な男はこの家の主、柏木耕一だった。
初音は耕一に抱きつくと泣き出した。

「ただいま初音ちゃん。ところで誰だ?初音ちゃんを泣かした、あの男は?」
「くすん…。あのね、あのおじちゃんね、お布団のセールスマンさんなの…」
「セールスマン?セールスマンが何で初音ちゃんを泣かすんだ」
「うん。あのおじさんね、初音ちゃんが私のお母さんだって信じてくれなくっ
て、なんかキレちゃったみたいだったの」
「なんでだ?初音ちゃんはどこから見ても立派なお母さんじゃないか。どこを
どう見たらお母さんじゃないって見えるんだ?」
と、耕一はきっぱりと言い切る。だが娘にさえ『それはお父さんの目がどうか
してる』と思われているのだが。

「貴様等、俺をナメやがってぇぇぇ!まとめてぶっ殺してやる!!」
さっき投げ飛ばした男が意識を取り戻したようだ。男は刃物を構えると、耕一
に向かって突進してきた!

「何やとコラ!俺の家族に手ぇ出すげな、貴様こそ死ぬ覚悟はできとるっちゃ
ろうね?おらぁぁぁ!!」
言うが早いか、耕一は思いっきり男を刃物もろとも殴り飛ばした。

「ぎゃあああぁぁぁ………!」

きらーん!

男は大空の彼方へ吹っ飛ばされた。

「ふう。これでもう安心だね。改めてただいま、初音ちゃん」
「お兄ちゃぁん…」
初音はうっとりと耕一に抱きつく。耕一は鞄から小さな包みを取り出し、抱っ
こした初音に手渡した。

「はいこれ」
「?お兄ちゃん、これなぁに?」
「プレゼントさ。今日は初音ちゃんの誕生日だろ?」
「え!お兄ちゃん、覚えていてくれたの?」
「当然だろ」
「うわぁい、お兄ちゃんだぁいすき!」
言いながら初音は思い切り耕一に抱きついた。



<娘の前でもらぶらぶな二人でした・おしまい>
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どうも『タイトルは「はじめての」ではありませんよ』のUMAです。

今回のネタは『初音ちゃんの誕生日』です。

シチュエーションのネタは『2001年末に発売になった一部の好事家の諸兄
に絶大なる支持を受けているという、身長133cmじゃどうひいき目に見て
も見ても小学生にしか見えないのに18歳以上と言い張る双子の女の子と留守
番をするという、某エロゲー』ではありません。
…たぶん。

なお、この話しに出てくる耕一達の娘に名前はありません。娘といえど、オリキ
ャラに名前を付けるのは、個人的にあまり好きじゃないもので。
それで、名前のない娘をどう呼ぼうかと悩んだ結果が『お姉ちゃん』という、
ある意味初音ちゃんらしい呼び方になりました(火暴)

#母親を『ちゃん付け』で呼ぶ娘はどうかと思うが

ぢゃ、そういうこって。