「ねえ、浩之ちゃん」 「なんだ？あかり」 「スキーの『回転』『大回転』『スーパー大回転』ってどう違うの？」 「そりゃ…」 その時の台詞が、血の雨が降らせる事になるとはこのとき知る由もなかった。 ・ ・ ・ ３０分ほどさかのぼる。その時俺は、ＨＮＫのオリンピック番組を見ていると ころだ。もっとも、今映っているのは昼間やってた男子大回転のＶＴＲだが。 「はい、浩之ちゃん。ビールだよ」 そういって、あかりはビールとつまみを持ってきた。つまみはするめだ。 「おう、サンキュ」 あかりは俺の横に座ると、ビールを注いでくれる。 「んぐ、んぐ、んぐ…。ぷはー」 「くすくす。浩之ちゃん、親父くさい」 「いいじゃねぇか。それより、日本のＫ村の出番、もうすぐだぜ」 そう言って、俺はあかりにもビールを注いでやりながらＴＶを指さす。 「あ、私、生放送で見てたわよ、マルチちゃんと一緒に」 おおかた、洗濯物でも畳みながら見てたのだろう。結婚して仕事も辞めたあか りは専業主婦をやってる。昼間からＴＶを見ていても不思議ではないのだ。 ちなみに、家事はあかりとマルチが分担しているので「家事は夫婦で分担」っ てのはうちにはないのだ。 「結果は言うなよ。俺は知らねぇんだから」 「分かってるわよ。…ねえ、浩之ちゃん」 「なんだ？あかり」 「スキーの『回転』『大回転』『スーパー大回転』ってどう違うの？」 「そりゃ、コースの長さと通る旗の数が違うんだろ」 「そうなの？」 「…たぶん」 「くすくす。そうなんだ」 あかりは微笑むと、コップのビールを一口飲んだ。 「笑うなよ、俺は詳しくないんだから。こんなとき、みずぴーがいれば…」 「…浩之ちゃん、『みずぴー』って…誰」 うつむいたままあかりが聞く。げ！もしかして怒ってる！？ 「え？あ、ああ…。み、みずぴーってのは…。ほ、ほら、何年か前に志保や雅 史たちと隆山温泉に行ったことあったろ？そ、その時に会った眼鏡かけた娘だ よ。お、覚えてないかなぁ…」 たまたま、あのときの瑞穂さんを思い出した俺は、さも最初からみずぴーを知 っていたように答えた。…つもりだ。 「ふぅぅん。で、なんでここでその娘の名前が出るの…？」 ぴしっ…っという音とともにあかりの持つコップにひびが入る。あかりはうつ むいたままなので顔がよく見えないが、かなり怒ってるみたいだ。 「そ、それはだな。か、彼女の特殊能力の『分析』で調べられないかな…って 思ってだ…なっ…」 有無を言わさず俺の脇腹にあかりの肘が突き刺さる。そのまま肘を支点に前腕 部を９０度回し、裏拳を顔面にたたきこむ！…が、裏拳がヒットする寸前に、 「あかりさぁん、洗濯機、回しておきましたぁ。あれ、あかりさん達何されて るんですかぁ？」 そう言いながらマルチがリビングに入ってきた。 あかりは、マルチが来ると、ヒット寸前だった拳をそのまま俺の首に回して、 とっても「自然っぽく」俺に抱きついた。 「あ、マルチちゃんありがとう」 と、にっこりと、ぎこちなく答えるあかり。数瞬前の殺気は感じられない。 「相変わらず、仲がよろしいんですね。あ、あと、さっき浩之さんのスーツを 掛けてたら内ポケットからこんなものが入ってましたよ」 マルチは、財布とライターをあかりに手渡す。やべぇ、あのライターは…。 「…え、ライター？浩之ちゃん、たばこ吸ってたっけ？」 あかりは、不審に思いながらライターを見る。そして、そのまま俺をおもいき り抱きしめた。 「…浩之ちゃん。この『スナック雫』って、なぁに…？」 「あ、あかり…。くるじいぃ…」 背骨からみしみしと音が聞こえるじぇ…。そのとき、あかりが持ってた俺の財 布から１枚の写真がはらりと落ちる。 拘束を解いたあかりはそれを拾う。写真には、瑞穂ちゃんと俺が「とても」仲 良さそうに映っていた。 「ひぃろぉゆぅきぃちゃぁん…」 ぎぃぃぃっとスローモーに振り向くあかり。その表情には明らかに「怒気」が 読みとれる。その怒りの矛先は、間違いなく…俺。 「わ、わ、わ、私、洗い物してますね」 あかりの怒気に気が付いたマルチはそそくさと台所に行く。マルチぃぃぃ！俺 をおいていくなぁぁぁ！！！ 「ひぃぃぃろぉぉぉゆぅぅぅきぃぃぃちゃぁぁぁん…」 「ま、まて、あかり！話せば分かる！！話せばぁぁぁ…！！」 ・ ・ ・ その後、虫の息の浩之がリビングに横たわっていたが何があったのかは不明で ある。 ＜終わった…のか＞ ---------------------------------------------------------------------- どうも『筆が進みません…』のＵＭＡです。 このＳＳは1998年02月19日にアップしたシロモノ(の、リメイク版)です。 つまり、今書いてる節分ＳＳが進まないので、穴埋め的にアップしちゃえって 訳ですわ(汗) ＃読み返して思ったけど、４年も前から儂の書くあかりさんってば浩之をボコ ＃ってたのね…(汗) なお、作中に浩之が言ってる『隆山温泉で云々…』というのは、『初音のない しょ！』の中のＲＰＧ、『リーフファイト９７』のことです。 ぢゃ、そういうことで。 次は節分ＳＳで会えることを祈りつつ…(汗)