初日の出 投稿者:UMA 投稿日:1月14日(月)20時38分
「ふー、もうすぐ着くよ。初音ちゃん、眠たくない?」
「ううん、平気だよ。お兄ちゃんこそ、初音をおんぶして、大丈夫!」
「俺なら大丈夫さ。この坂を上ったら着くからね。しっかり俺にしがみついて
るんだよ」
「うん!」
耕一は背中に負ぶさってる初音に笑いかけると、再び歩き出した。

今日は一月一日。日本全国的に元旦で、耕一と初音の二人は初日の出を拝みに
いこうと、こうして朝早くから海が見える岬を目指しているのだ。
今年は天気に恵まれてるようで、空は雲一つない快晴そのもの。初日の出を拝
むには絶好の天気だ。

耕一が目指している場所は、誰も知らない穴場で誰もいない。…ハズだった。
最後の急坂を登り切ると、そこには数人の人間がいた。

「よう、コーイチさん。あけましておめでとう」
「ひ、浩之?きさん、なんでここに居っとや?」
耕一は驚きのあまり、隆山の方言丸出しで『そいつ』の声に答える。声をかけ
てきたのは浩之。そして、彼の横にいるのはあかりとマルチだった。

「『なんで』…って、忘れたんですか?この間、初日の出を見るのにベストな
場所がある、って、ここを教えたのってコーイチさんじゃないっすか」
「…そうだっけ…」
「…ったく、三十路を超えたからってボケるには早すぎっすよ」
「るせーよ。それに、俺はまだティーンエイジだよ」
「ティーンエイジぃ?気持ちが?」
「うんにゃ、16進数で」
「をいぃぃぃ!」
「…まあいいや。何はともあれ、あけましておめでとう」
「ちっ。あけましておめでとう」
新年の挨拶をするタイミングを思いっきりはずした感があるが、ぎこちなく挨
拶を交わす。一年の間でもっとも白々しい挨拶をする瞬間だ。

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「…初日の出まであと…10分くらいか…」
耕一は懐から懐中時計を取り出す。インターネットの気象庁だか、海上保安庁
だかのHPに記載してあった時刻からの逆算だ。
ちなみに『日の出』とは天文学的には、太陽の上縁が東の地平線に接する時を
言うそうだ。

「もうすぐかぁ…」
言いながら天を仰ぐ初音。日の出前とはいえもう、空は白々としていて、あと
は太陽が昇るのを待つだけだ。

「あと10分か…。そーいえばコーイチさん?」
間を持たせるためか、浩之は唐突に耕一に話しかけた。

「んー?」
「ゲームキューブは買ったんすか?」
「いや、買ってないが?」
「え?確かコーイチさんってPS2すら持ってないから、代わりにこっちを買
ったかなーって思ったんすけど」
「んー、PS2もゲームキューブも俺的には『これは!』ってゲームがないん
だよなー。ほしいソフトは1、2本あるけど、本体買うてまでやりたい、って
のはないんだよ。…って、そういう浩之は買うたのかよ、キューブ?」
「買いましたよ。『ピクミン』が、すっげー和んで良いっすよー」
「ぬぅあにぃぃぃ!」
思い切り驚く耕一。
ここ最近、耕一は手持ちのゲーム機、DCもあまり起動していない。そのせい
で家庭用ゲームからやや離れていたせいもあって『GC』とは縁がないと思っ
ていたようだ。
それで身近なところにユーザがいることを知って驚いたのだ。

「マジ、マジ。ついでに『大乱闘スマッシュブラザーズDX』も買っちゃいま
したよ」
「ほう『スマブラ』とな?たしかそれって、N天堂キャラが真剣勝負のどつき
合いをして、血で血を洗う凄惨なバトルができる格闘ゲームだっけ」
「んな訳あるかい!そんなコトしたらお子さまが泣き出すわい!」
「そうなのか?ちっ」
「『ちっ』じゃなくって…。でも、あの黄色い電気鼠の弱攻撃連打ん時のモー
ションが、俺にはどう見ても自家発…で…!」
浩之の言葉が終わるより早く、あかりのスマッシュ攻撃がクリーンヒット。浩
之は岬の端まで吹っ飛ばされた!
本当はあかりの攻撃の軸線上に初音とマルチがいたのだが、スマッシュ攻撃の
直前に耕一が何か虫の知らせのようなのを感じ取って、初音達を抱き寄せたの
で事なきを得たのだ。

「ふぅ危なかった。二人とも大丈夫かい…」
「わ、わたしは大丈夫です」
「初音も平気だよ、お兄ちゃん。って、あかりちゃんは…?」
「へ?」
耕一は初音達を抱きしめたままあたりを見渡すがあかりの姿はなかった。

・
・
・

「い…い…い…。いきなり何するんだよ、あか…り?」
あかりに吹っ飛ばされた浩之は、運がよかったのか崖の端にしがみつくことが
できたようだ。
必死になって崖からはい上がり、抗議しようとした浩之だが、あかりの姿が見
あたらないのに気づく。

その刹那!
ずどごぉぉぉん!!
超高々度まで飛び上がったあかりは、その高さから手刀を振り下ろした。振り下
ろした手刀は浩之の脳天を直撃、そのまま地面にたたきつけたのだ。

「か…はっ…」
浩之は崩れるように倒れ込む。
しかし、浩之が倒れ込む事は許されなかった。着地したあかりが、着地と同時
に瞬獄殺にキャンセルでつないで、倒れる寸前の浩之を捕らえたからだ。
そして、あたりが闇に包まれた…。

どかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか
かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか
かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか
かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか
かか…!

闇に響き渡る打撃音。直後、闇がはれた。夜が明けたのだ。

かかーっ!!



                                 ネ申
                                  犬



初日の出をバックにポーズを決めるあかりの背中に『神を越えた犬』を意味す
る文字が浮かび上がった。

「すごーい!初日の出にあわせて、あけぼのフィニッシュ決めるなんて!タイ
ミング、ばっちしー!」
「ああ。あれは相当修行したハズだぞ。『禊』から『瞬獄殺』につなげられる
んだもんな…。しかも瞬獄殺は今までよりヒット数が2倍以上にパワーアップ
してるし…」
きゃいきゃいとはしゃぐ初音と、その横でビビったまま冷静に分析する耕一。

「げふっ…。しょ、正月早々から死ぬかと思ったぞ、あかりっ…!!」
普通なら2回は死ぬでもおかしくないほどの大ダメージを食らってもなお、浩
之は起きあがってきた。ゴキブリ並の生命力である。

「だって浩之ちゃんが変なことを言おうとしたから…」
「お、俺が何を…いえ、何でも…ないです…」
浩之は抗議しようとしたようだが、あかりにちょっぴり恐怖したらしく、それ
以上何も言わなかった。

「うん。おりこうさん。マルチちゃん、初日の出も見たしそろそろ帰るわよ」
「は、はい!」
あかりはマルチを呼ぶと、二人で浩之を支えるようにして立ち上がらせる。さ
すがに、浩之には立って歩けるほどの体力は残っていないようだ。
そして、三人が岬の先から帰ってきたところで耕一が、死にそうになってる浩
之に声をかけた、

「おい浩之。正月から『至れり尽くせり』だな」
「『踏んだり蹴ったり』じゃぁぁぁ…!」
浩之はそう叫ぶと、そのまま気を失った。



<おしまい>
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どうも『あけました』のUMAです。

今回のネタは見ての通り『初日の出』です。

私は年末年始は田舎に帰省するため、アップが遅くなりました。

なお、あかりがこの話で使った『禊』『瞬獄殺』はともにレベル3超必殺技な
ので、本当はつながりません(ゲージ無限でも『禊』から『瞬獄殺』はつなが
りませんけどね)。

#ラストのオチ、わかった人いるかな?


ぢゃ、そういうこって。