同窓会 投稿者:UMA 投稿日:2月27日(火)23時17分
「あ、そうだ」
「なになに?初音ちゃん、どうかしたの?」
「うんとね、今日ね、初音の誕生日なんだよ」
宴会の席で、初音はふと思い出したようにそう話した。

「わー、初音ちゃん。おめでとう!」
「誕生日だって?柏木さん、おめでとう!乾杯!!」
「かんぱーい!」
近くに座っていた久しぶりに会った級友から祝福される。

「で、初音ちゃんは幾つになったのかなー?」
「やだなー。初音、みんなと同じ、44だよ」
「ふー…。ん!?」
初音の言葉を聞いた全員の動きが凍り付いた。

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「じゃあ、お兄ちゃん。行って来るわね」
数時間前のことだ。
柏木家の玄関には、綺麗に着飾った初音とそれを見送る耕一がいた。
ちなみに初音はフリルのついた服と白いハイソックス、それに頭に着けた大き
めのリボンが何ともかわいらしい。

「ああ。車に気をつけるんだよ」
「うん、分かってるって」
「知らないおじさんについていったらダメだよ」
「もう、お兄ちゃんったら。初音、もう子供じゃないんだよ」
初音は子供扱いされたことで、ちょっと拗ねたように抗議する。

「ごめん、ごめん。じゃあ、行ってらっしゃい」
「うん!」
元気に返事をして、玄関のドアを開けようとすると入れ違いに女の子が入って
きた。

「ただいま…。あれ?お母さん、今からでかけるの?」
「うん。初音ね、今日、高校の時の同窓会なの」
「へー、そうなんだ。よかったねー『初音ちゃん』」
「いいでしょー」
答えながら、笑顔を少女に返す初音。
この少女は初音のことを『お母さん』と呼ぶとおり、初音と耕一の娘だ。しか
し、ときおり母親である初音を『初音ちゃん』と呼ぶのは父親の耕一の影響だ
ろうか。

「そうなんだ。だから、今日の晩御飯はお父さんと二人だけなんだよ」
「本当、お父さん?じゃあ、レストラン行こ、レストラン!」
言いながら娘は耕一の腕に抱きつく。
ちなみに、耕一と初音の間にはこの少女の弟にあたる男児がいるのだが、リト
ルリーグの合宿とかで、今は家にいない。だから、今日は耕一と娘の二人っき
りなのだ。

「ずっるーい!初音もお兄ちゃんと一緒にいきたいー」
今度は初音が耕一の腕に抱きつく。娘とは反対側の腕に、だ。

「駄目だよ。初音ちゃんは高校の同窓会に行くんでしょ。だからお父さんは私
とレストランに行こうねー」
「いやっ!初音、同窓会行かない。お兄ちゃんとレストラン行くっ!!」
「ええっ!?」
初音の一言に驚く耕一。

「もう、初音ちゃんったら…。わがまま言わないでよ、お父さん困ってるじゃ
ない」
「ぶー!」
ぷーっと頬を膨らませる初音。それを見ていた耕一は『仕方ないなー』と思い
ながら彼女を抱っこする。

「初音ちゃん。じゃあ、今度のお休みの日に二人でデートしようか」
「え?」
「今日は初音ちゃんの誕生日だろ?そのお祝いだよ」
「えっと…」
「ダメかい?」
「ううん、ダメじゃないよ。それなら初音、同窓会いく!」
「偉いなー、やっぱ初音ちゃんは良い子だね」
耕一は初音の頭を撫でながら優しく言った。

「お兄ちゃん、約束だからね。行ってきまーす」
耕一から降りた初音は元気に手を振りながら玄関からでていった。

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「えっと…。あ、ここね」
初音は、繁華街からちょっと離れたところにある料亭にきた。どうやらここが
同窓会の会場らしい。

「いらっしゃい!」
店の引き戸を開けると、威勢良く迎えられたが、直後に

「…えっと、お嬢ちゃん。お父さんかお母さんと一緒かい?」
と、お子さま相手の対応をされる。

「ち、違うもん。初音、『隆山高校』の同窓会に来たんだもん」
「『隆山高校同窓会』様?ああ、そこにお父さんたちがいるんだね?じゃあ、
そこの階段を上ってすぐのお部屋に行ってごらん」
初音は否定するが店員には子供にしか見えなかったようだ。

「(初音がその同窓生なのに…)」
心の中でそう思いながら階段を上がり、最初の部屋のふすまを開ける。

がらっ。
「こんばんわー」
「おお、来たきた…」
まだ時間が早いのか、部屋には数人しか集まっていなかった。
そのうちの一人、初老の男が初音に声を掛けるが、

「えっと…」
誰だか思い出せないのか、男は声を掛けあぐねている。
だが本当は『たった今見ていた卒業アルバムに載っている卒業当時の柏木初音
とうり二つの女性だったので逆に柏木初音なのか分からない』から声を掛けら
れないのだ。

「あ、柏木です、先生。お久しぶりです」
初老の男は初音の恩師だ。その先生が初音のことを思い出せないと思ったのか
初音は自分から名乗る。

「ああ、やっぱり柏木か。…って、柏木本人なのか!?」
「うんそうだよ。柏木初音だよ」
先生の動きが凍り付く。
あまりにも卒業当時のまま…いやもっと若く見える…からだ。

「ん、どうしたの?先生?」
十数年ぶりに会った恩師の顔を下から見上げる初音。上目遣いに見る仕草まで
十数年前と一緒だ。

「いや…その、本当に柏木なのか?」
先生と呼ばれた老人は、正気を取り戻したようだ。

「そうですよ?くすくす。変な先生」
高校を卒業して、早十数年。
すでに初音の年齢は40代の中盤にさしかかっている。だが初音の容姿は10
代の若々しさそのままに見えるから驚かないハズがない。

「はっはっはっ。なんというか、柏木の印象が学生の頃と印象が変わっていな
いから、先生驚いたわい」
「えーっ、そうかなー」
初音はちょっと照れるように笑った。

「(変わっていないっつーか、あの頃より幼くなってるぞ…)本当じゃて。たし
か、柏木には娘がいるんじゃろ?並んで歩いていたら姉妹って間違われるんじ
ゃないかね」
と、先生は笑いながら話す。

「えへへ…。実はよく間違われますよ。それもね、私の方が妹って思われるん
ですよ」
「え゛?」
一瞬、先生の笑いが凍り付く。
冗談で言っただけだが、まさか本当とは…。
しかも母親の方が妹に見られるなんて…。

「ははっ…。そ、それはよかったね…」
「うん!」
と、初音が恩師と久しぶりの再会を楽しんでいると、ふすまが開いて級友が入
ってきた。

がらっ。
「こんばんわー」
「おう、こんばんわ」
「先生。お久しぶりです。…って、まだこれだけしか集まってないのかよ…」
入ってきたのは、男女数人のグループだ。そのうちの一人がぐるっと室内を見
渡し、初音を見つける。

「わっ!は、初音ちゃん!?」
「柏木さんだって?どこどこ…。い!?」
「んー、どれどれ…。えっ?」
一人が声を上げると連鎖的に初音を見て、同じように声を上げる。

「?どうしたの、みんな」
「いいい、いや、なんでも…。ただ、柏木さんが…昔と全然変わってないから
驚いたんだよ」
「そ、そうよ。初音ちゃんって、すっごい若くみえるから…」
かなり引きつった笑顔を浮かべながら答える。

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「…でね、クラスの人達がお部屋に入ってきて初音を見るたびにね、お化けを
見るみたいに驚くの」
同窓会から帰ってきた初音は、今日あった出来事を耕一と話している。
初音は子供扱いされるのは慣れてるみたいだが、一日に立て続けに子供扱いさ
れ続けると、さすがにショックなようだ。

「それは災難だったね」
「それにね、初音が今日お誕生日だって言ったらね、みんな本気で驚いていた
の。みんなと同じ歳なのにね」
「うーん、それはやっぱ、初音ちゃんに対して嫉妬してるんじゃないかな?」
「?」
「だって考えてみなよ。クラスの女の子だって、今じゃ立派な『おばさん』だ
ったろ?」
「そういえば…そうだったわね」
考える仕草をして、今日の会った級友の姿と記憶の中の姿を思い出す。

「だからだよ。みんな、初音ちゃんの可愛さや若さがうらやましいだけなんだ
よ」
言ってコップのビールを飲み干す。

「そうなの?」
聞き返しながら耕一のビールをつぎ足す。

「そうだよ。俺だっていつまでも若い初音ちゃんは自慢の女房なんだぜ」
「きゃっ!?」
言いながら耕一は初音を片腕で抱きよせ、そのまま膝の上にだっこする。ビー
ルをつぐのに気を取られていた初音は耕一の腕に気が付かなかったらしい。

「だから初音ちゃんは気にしなくっていいんだよ。もし、初音ちゃんのことを
悪く言うヤツがいたら、お兄ちゃんが懲らしめてやるから。ね」
初音を膝の上にだっこしたまま髪を優しく撫でてあげる。

「もうお兄ちゃんったらぁ…」
むっとして抗議するが初音だったが、やがてうっとりと目を閉じてそのまま耕
一に体を預けるようにしてすやすやと眠っていた。



<おやすみなさい>
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どうも『初音ちゃんのお誕生日』のUMAです。

今年は、初音ちゃんが同窓会に行ったら…って話しにしてみました。

最初は小学校の同窓会にしようかな、って思ったのですが、さすがに小学生の
頃と一緒というのはマズいかなと思って高校の同窓会って事にしてみました。

#小学校の同窓会でも大差ないじゃん、ってのは気のせいです。…多分

まあ、なにはともあれ。
初音ちゃん。誕生日おめでとー。

ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~