初音ちゃんのおたんじょうび会  投稿者:UMA


『はっぴぃばーすでーつーゆー。
 はっぴぃばーすでーつーゆー。
 はっぴぃばーすでー、でぃあはつねちゃーん。
 はっぴぃばーすでーつーゆー』

ふーっ。
歌が終わると、初音はケーキの蝋燭を吹き消した。

「おめでとー初音ちゃん」
「おめでとー」
「うわぁ、ありがとう、みんな!」

初音は笑顔で答える。
今日は初音の誕生日だ。部屋には小学生くらいの男児や女児や、その母親らし
き女性が見える。
ちなみに初音は老人の膝の上で嬉しそうに座っているところだ。

「ねえ、お母さん」
「なあに?」

お母さん、と呼ばれた女性は、利発そうな男児からの問いかけに、先ほど初音
が吹き消した蝋燭をケーキから抜きながら返事をする。

「あのね、初音ちゃんって、おとし、いくつになったの?」
「え?…っと…」

ちらっと初音の方に視線を向ける。それに気づいた初音を膝に乗せる老人が、

「ふむ。ねえ初音ちゃん、初音ちゃんは今日でおいくつになったのかな?」

と、初音に聞く。

「えっと…」

言いながら初音は小さい指を5本とも伸ばしてみんなに見せる。

「うんとね、初音ね、ひゃく…ごさいになったんだよ」

…聞き間違いではない。柏木初音は今日で105歳になったのだ。

・
・
・

「そっかぁ。初音ちゃん、105歳になったのかぁ。おっきくなったなぁ」

言いながら老人は初音を高い高いする。どう見ても105歳の女性に対する行
為には思えないが、初音相手では似合って見えるから不思議だ。

「や、やめてよぉ、お兄ちゃん。みんな見てるよぉ…」
「はっはっはっ。いいじゃないか。みんな見てても、初音ちゃんは初音ちゃん
だよ」
「もう、お爺ちゃんったら。でも、初音ちゃん、嫌がってるわよ。降ろしてあ
げなさい」
「でもよう…」
「いやぁ、初音降りるの!降りるったら降りるの!!」
「うう、仕方ないなぁ…」

しぶしぶ、初音を膝の上におろす老人だった。

そう。この老人こそ、最強の鬼として柳川との戦いやエルクゥとの戦いなど、
過去に数々の戦いをくぐり抜けてきた猛者、柏木耕一本人だ。ちなみに今年で
110歳。もうすぐ生涯2度目の世紀末を迎える。

また、聞いての通り初音は家族全員から”初音ちゃん”と呼ばれている。
旦那である耕一がそう呼んでいたから、という説が定着しているが、実際は孫
たちが初音のことを”お婆ちゃん”ではなく”初音ちゃん”と呼んだのが自然
と広まったから、と言うのが真相だ。ちなみに耕一の方は、”お爺ちゃん”と
呼ばれている(ただし初音のみ”お兄ちゃん”と呼ぶ)。

「もう…。初音、お婆ちゃんなんだよ、お兄ちゃん」
「でも、初音ちゃんは初音ちゃんだよ」

言いながらふくれる初音の頭を優しく撫でる耕一。
耕一は110歳とは思えないほど若々しく、せいぜい70〜80代くらいにし
か見えない。
しかし初音はさらに若々しく、ぱっと見は小学生くらいに見えるから不思議で
ある。
もっとも、よく見たら顔には細かいシワはあるし、肌の張りも小学生のそれと
は比べ物にならないため、直に会った場合は小学生に間違えられることはあま
り無い。
しかし、電話に出た場合は話しは別だ。十中八九、小学生と思われるのだ。

「あ、そうだ!ねえ、初音ちゃん。初音ちゃんは何が一番好きなの?」
「え、初音のすきなの?うんとね…」

さっき初音の年を聞いた男児が再び聞く。初音は顎に指を立てて考える。
耕一も初音も、この男児には『懐かしい匂い=エルクゥ』を感じており、成長
して鬼の力が発現した時を危惧している。しかも、感覚的に皇族に近い人の生
まれ変わりである可能性が高いことも分かっているのだ。
さすがにそのころまで耕一が存命しているか分からない。が、いざという事態
になっても、そのときは耕一の『指導』を受けて鬼の血を克服した耕一の息子
や孫達が、彼の暴走を止めるだろう。

「うんと、初音が一番好きなのは…、やっぱりお兄ちゃんだよ」

言って背後にいる耕一に抱きつく。
初音と耕一の関係は結婚してからずっとこうだ。子供が産まれようが、孫がで
きようが変わらず、あくまで自分たちの世界を崩していない。
周囲からはこの『年をとっても恋愛を続ける精神』が長寿の秘訣とされ、柏木
家では当たり前のようになっている。

「嬉しいなぁ。初音ちゃん、俺も初音ちゃんが一番大好きだよ」
「お兄ちゃん…」

言いながら抱き返す耕一。
もうそろそろお迎えが来てもおかしくない二人だが、この分ならあと10年で
も20年でも長生きしそうだな、と思う家族だった。



<おしまい>
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どうも『初音ちゃんの誕生日は2月27日ぃぃぃ』のUMAです。

今回のネタは見ての通り『痕』の柏木四姉妹の末っ子、柏木初音ちゃんの誕生
日です。って、初音ちゃんの誕生日まであとひと月あるケド(汗)

#2月末頃って儂、出張でおらんのよ

去年、敬老の日ネタで耕一&初音を老夫婦にした話しを書いたのですが、その
時『これ以上二人の年を上げるのは無理だな。やるとしたらどちらかの葬式か
あの世でのお話にしかならないだろうし』と、思っていたのですが、ふとした
ことで『初音ちゃんの年齢を5歳にしたらどうかね?実年齢はプラス100歳
ということで』という、謎の毒電波を受けて書いたのがコレ(^^;;

さすがにこれ以上続けると葬式ネタか、あの世ネタになりそうなので難しいで
すが、100歳オーバーでも今と変わらない初音ちゃん達という新しい世界が
できたからヨシとしておこう(何が?)。


ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~