由宇の涙  投稿者:UMA


「和樹ぃ」
「どどど、どうしたんだ由宇?泣きそうな顔して」
「うう…うう…うわ〜〜〜ん」

由宇は俺に抱きつくとそのまま泣き出した。

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「優しいんやな…」
「あん?おだてても何もでねーよ」
「くすっ…」

由宇は手の甲で涙を拭うと俺にさらに抱きついてきた。由宇がここまで大泣き
して、俺に泣きついてくるなんてよっぽどのことがあったにちがいない。
ちょっと興味があるけど、由宇は話したくないようだから今は聞くのはよして
おこう。

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・
・

「あんな…」
「ん?」

ややあって、由宇の方から口を開いてきた。

「あんな…、ウチ今日な…」
「今日?ああ、今日は即売会だったっけ。悪かったな、急に仕事が入っていけ
なくなって…」
「ええんや。本業をおろそかにしたら絶対アカンし。それより今日な、和樹の
本をボロクソに言うアホたれがおったんや」
「そりゃ、いるだろ。俺の本は万人向けじゃないから」

由宇曰く、俺の作る本はマニアックでピンポイント的にウケてる反面、その他
大勢には見向きもされない…ってシロモノらしい。

「そうやねんけど、そいつ読んだことない言うてんねんで!?読んでからつまら
ん言うんはわかるけど、読まんでつまらん言うんは、そいつの知ったかぶり根
性が許されへんのや!それでウチ、頭きて思わず…」
「…手を出した、と」
「うん…」

かわいいじゃないか。カッとなって思わず手を出したことを後悔して泣くなん
て。ちょっと前の由宇からは考えられないぞ。
即売会の会場での暴力行為自体は許される行為ではないが、俺をかばうためな
んだし今回ばかりは目をつむってやろう。

「ありがとな、由宇」
「え?」

俺は強く抱きしめ、髪をさする。

「由宇は俺の本をかばってくれたんだろ?」
「うん…」
「だから、『ありがとう』さ」
「え…あ、うん…」

由宇も強く抱きしめてくる。

「それに、思わず手を出したのを悔やんで泣くなんて、由宇も丸くなったもん
だな」
「…違うんや」
「え?違うって、泣いた理由がか?」
「ウチが泣いたんはそんなんとちゃうんや」
「今の話しだとそう思えるけど?」
「続きがあんねん」
「続き?」
「そや。そいつに手ぇ出したんはさっき言うたやろ?でもな、そいつウチのパ
ンチを笑ってよけんねん!」

由宇は中空に向かって鋭いパンチを放つ。
ぶおん、という風きり音がスゴい。直撃すればコンクリートでもブチ抜きそう
な感じだ。

「『こいつはプロや』ってウチの本能が叫びよるから、こっちも気合い入れて
伝家の宝刀、デンプシーロールを出したんや!…でもな」

そこで急にがっくりと項垂れ、

「でもな、デンプシーロールってカウンターに弱いねんな…」
「は?」
「ウチ、そいつからカウンター食らってKOされたみたいなんや…。で、気が
ついたら医務室に寝とって…」
「そ、そうだったのか…」

やっぱり由宇は由宇だった。
そういえば、どっかのボクシング漫画に『デンプシーロールは左右からパンチ
を連打する豪快な技だが、反動をつける分タイミングを読みやすくカウンター
の餌食になりやすい』…みたいなこと書いてあったっけ。
ただし、言うは易く行うは難しという言葉どおり、誰でもカウンターを合わせ
られる訳ではなく、カウンターを出せるだけの実力と敵に向かっていく度胸が
必要なのだ。

「…そういう訳で、和樹ぃ」

急に由宇は猫なで声で俺を呼ぶ。
が、俺には悪魔の囁きにしか聞こえない。

「ウチ、デンプシーロールを上回る必殺技を身につけて、もうちょい強くなり
たいねんけど…特訓、つきあえへん?」
「俺は…」

普通なら『はい』か『いいえ』の選択肢があるのだが、由宇の場合『はい』か
『イエス』という選択しようのない選択肢である。つまり、俺には選択の余地
はないのだ。

「…分かった、分かった。つきあうよ」
「ホンマか?よかったぁ。もし『いや』って言われたらどないしようかって心
配しとったんや。和樹、大好きやで」
「ははっ、しょうがないなぁ由宇は」

俺は顔で笑って心で泣いた。

・
・
・

「まずは、『オラオラオラオラオラオラ〜!!』」
「ぐはっ、げはっ…!!」
「うーん、これはいまいちやね。次は『おおおお〜!!あたたたたたたたたっ!
おあたぁっ!!』」
「へぶしっ!!」
「あ、ええ感じや。じゃあ『フラッシュ・ピストン・マッハ・パンチ!!』」
「ごふっ!!」
「調子出てきたで〜。今度は…」

こうして、由宇と和樹は旅館の地下にある秘密の特訓場で日夜新しい技の開発
をする事になったのだ。

「はあ、俺は生きて再び朝日を拝むことができるのかなぁ…」
「なんか言うたか和樹?」
「いいいいえ、別に。さぁ、どんどん来い!!」

<おしまい>
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どうも『即売会の会場で暴れては行けませんよ。マジで』のUMAです。

元ネタはプレステにもゲーム化されてる(んだっけ?)週間少年マガジン連載の
『はじめの一歩』です。

一応『猪名川でいこう!!』発売記念なんですが、これ書いたのは去年の夏か秋
頃だったりします(笑)

#時期的には、一歩と島袋がタイトル戦やってたころね

で、そこでデンプシーロールがカウンターに弱いってのを知ったので、同じデ
ンプシーロール使い(笑)の由宇はどう解決するのかな?と思って書いたのが、
コレ(^^;;

そのまま出す機会を逃していて今に至った(笑)のですが『猪名川で行こう!』
が出たのを記念してアップしちゃろう、と思った次第(^^;;

ただし、これをアップする時点でまだ儂はゲットしてません。
リーフHPの通販を利用したのですが、その後リーフ広報から戴いたメールに
は『29日に届く予定です』ってあったのに…(T_T)

31日から出張なのでそれまでに『猪名川』がゲット出きるのならノープロブ
レムですが、どうなるか分かりません。

まあ、それはそれとして。
ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~