ゲーマー、耕一のある正月(Y2K編)  投稿者:UMA


「ああ、ひどい目にあった」
「大丈夫?お兄ちゃん?」
「ん?ああ、大丈夫だよ初音ちゃん。俺は丈夫だから」

言いながら耕一はガッツポーズをする。
耕一と初音は元旦早々から行われた千鶴ら主催のボーリング大会から、今よう
やく帰ってきたところだ。その場で耕一は二つの『魔球』を披露したのだが、
それを見た梓に撲殺されそうになったため、かなりのダメージがあるハズだが
強がって見せているところは耕一らしい。
耕一に肩を貸しながらリビングに入った初音は、電話機の留守電ランプが点滅
しているのに気づく。

「あれ、留守電に何か入ってるよ。えい」

『ピーッ。…あれ柏木留守か?それならしかたない、また電話かけ直すわ。が
ちゃっ。ピーッ、午前、零時、10、分、です』

「あれ、お兄ちゃん、この声は会社の先輩さんでしょ?」
「うん。たしか、今日はY2K対策で会社に泊まり込みって聞いてたけど、こ
んな真夜中になんの電話だったんだろう…?」

と、耕一が考えようとしたそのとき、電話機が鳴り出す。

じりりりりぃぃぃん…。

「わ、びっくりした!…はい、柏木です。え?うん、お兄ちゃんですね。ちょ
っとお待ちください。お兄ちゃーん、会社から電話だよー」
「わかった。…もしもし?」
『あけましておめでとう』
「あ、あけましておめでとうございます」

言いながら受話器を持ったままお辞儀をする耕一。電話の相手はさっき留守電
にメッセージを残した耕一の上司である。

『それにしても、本当だったんだな』
「え?何がです?」
『柏木が、嫁さんに『お兄ちゃん』って呼ばせてるって噂がだよ』
「んー、これくらい普通だと思うんですけどねぇ。ところで何のようです?さ
っきも電話したみたいですが。まさか会社で暇だからって事は無いですよね」
「おいおい、全然普通じゃないだろ…。っとそうだった。まずクイズからな。
柏木、12月30日の次は何日だと思う?」
「は?」

耕一は考えた。
『クイズ?正月の真夜中から何考えてるんだ?30日の次は31日の大晦日。
で、次が1月1日だろ?ったく、マジで暇なのかよ。まあいい、ならこっちも
冗談で返してみるか』と。

『何日だと思う?』
「んー、26日ですかね」
『…なんで分かった?』
「は?」
『つまりだな、30日を越したら26日になるっていう楽しい現象が出てるん
だよ。俺がついさっきモニタを見て初めて気づいたんだが、端末のシステム日
付が12月29日になってるんだ。それに、ログを追いかけたら12月30日
の次に26日の日付のログが出てくるんだ。どうだ、楽しいだろう?』
「ぬぅあにぃぃぃぃ!?」

このお話の耕一の職業は、コンピュータ関連のいわゆるシステムエンジニアと
いうやつだ。

「そそそ、それって例のY2K…?」
『かも知れん。詳しくは会社始まってから話すけど、頭の端にでも覚えておい
てくれ。じゃあ、いい正月を。がちゃっ』

つー、つー、つー…。
上司からの電話は用件を一方的に伝えるとさっさと切られた。そして後には受
話器を持ったまま硬直している耕一だけが残った。

「どうしたの、お兄ちゃん。大きなお声をだして…?」

初音が心配そうに耕一を見上げる。

「わ、Y2Kが…」
「Y2K?よく聞く言葉だけど、よく分からないの。お兄ちゃんのお仕事に関
係するってことしか…」
「え、そうなの?Y2Kってのはね、『Yen2Kilo』の略で日本語だと『二
千円問題』のことだよ」

日本語に訳しても全然違和感ないけど、全然違うぞ耕一。
正しくは『Year2Kilo』の略で、日本語だと『二千年問題』のことである。
西暦2000年を一部のコンピュータが1900年と勘違いして、異常動作を
するのではないか?と危惧された世界レベルの問題のことだ。
当然、SEやってる耕一がそれを知らないハズはないのだが、初音を不安がら
せないための方便だろう。

「え、そうなの?初音、てっきり『二千年問題』のことと思ってたのに」
「なんだ、言葉だけは知ってたのか。うん、その『二千年問題』だよ。それで
問題が発生した、って俺んことにも電話が来たのさ」
「ええっ!?じゃあ、お兄ちゃん、これから会社に行くの?」
「いや、仕事始まってからでいいみたいだからそれはないよ」

そう答える耕一だったが、まさに寝耳に水状態なので信じられない様子だ。そ
して、何気なくリビングのTVをオンにする。
すると、丁度首相が今回のY2Kについての会見をしていたところだった。

『…という訳で、現在のところY2Kが問題と思われる重大な問題は発生して
いないようです。安心してください』

「てめー、○渕!!なーにが問題なしだっ!!俺にとっては大事件が起きたじゃね
ぇかぁぁぁっ!!ぼてくりこかさるーぞ、コラァァァ!!」
「やめてお兄ちゃん、TVに当たるのはっ!」

首相の言葉にブチ切れそうになった耕一を必死になだめる初音だった。

<おわり>
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どうも『Y2Kなんか、大嫌いだぁぁぁ(涙)』のUMAです。

今回のネタはミレニアムのトレンド『Y2K』です。
一応、『ミレニアム特別・ゲーマー、耕一のある正月』の続きのお話です。

『世界規模での問題は起きないだろうけど、小さな問題は出るだろうな』程度
にしかY2Kに対して思ってなかったのですが、まさか儂のやった案件で起き
るとは思わなかったです。
で、このおかげで年明け早々から出張に行くハメになったりして本来抱えてる
仕事と相まって忙しさに拍車がかかりまくってます。

なお、この『日付が過去に戻る』という現象は、今のところ原因が不明です。
OS(アメリカの某社製のUNIX系OS)のせいか、アプリケーション(儂が
作ったプログラムも一部アリ)のせいか…。
そもそも、Y2Kが原因かすら分かってませんケド(汗)

#これから問題の解析をするので何か分かると思うけど

ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~