ミレニアム特別・冬弥くん  投稿者:UMA


「あれ、あそこにいるのは由綺じゃないか?」

そのとき俺は、一人で町をぶらぶらしていた。
由綺はTVの仕事だって聞いていたからだが、その由綺が向こうに見えた俺は
驚いて走っていった。

「おーい、由綺」
「あ、冬弥くん」
「『あ、冬弥くん』じゃないよ。今日はTVの仕事じゃないのか?」
「うん、そうだよ。でも、もう終わったの」

俺は腕時計を見る。時刻は昼の2時を少し回った頃だ。
ってことは、午前中の仕事だったってことか。

「なぁんだ。じゃあ、もうオフなんだろ?」
「そう…だけど、ちょっと弥生さんと行くところあるの」
「え?どこ?」
「ちょっと…。あ、弥生お姉さま!」
「え゛、お、お姉さまぁ!?」

俺はマジ、ビビった。由綺の視線の先には弥生さんがいて、その弥生さんのこ
とを由綺は『お姉さま』と呼んでいたからだ。

「ちょ、ちょっと弥生さん!」

俺は弥生さんを半ば強引に引っ張って、由綺と少し離れた場所までつれてくる
と、弥生さんに問いただした。

「どういうことですか弥生さん!由綺には手を出さないって自分で言ってたじ
ゃないですか!!」

だが弥生さんは、

「ふっ」

と、唇の端で笑うだけだった。そ、そんあぁぁぁっ!!

俺が落胆したのを見届けると、弥生さんは由綺のいる場所へ戻っていった。
すると、別の方角からマナちゃんが走ってくるのが見えた。

「おや、マナちゃんじゃない…か?」

だが、マナちゃんは俺の事を完璧無視してそのまま由綺達の場所まで走ってい
った。

「弥生お姉さまぁぁぁ」

と叫びながら。いやぁぁぁ!!
そして、一瞬にして二人の女性に振られた俺を残して弥生さんの運転する車は
由綺とマナちゃんを乗せて走り去っていった。

「由綺ぃぃぃ…、マナちゃぁぁぁん…。…ふっ、まあいいさ。由綺やマナちゃ
んだけが女じゃないんだし。マルチエンディングなゲームの主人公を甘く見る
なよ。はーっはっはっ!!」

俺は気を取り直して、一人高笑いをした。すると、視線の先に美咲先輩が見え
た。よし、先輩にアタックだ!

「せんぱぁぁぁ…い!?」

ごすっ!

俺は、腹部に強い衝撃を受けて一瞬目の前が真っ暗になった。そして再び目を
開くとそこは夜の公園で、彰が立っているのが見えた。

「先輩はっ!」

びすっ!左ジャブが右頬に。

「冬弥にはっ!!」

どしっ!右フックがボディに。

「渡さないっ!!!」

ずんっ!左アッパーが顎に。俺は吹っ飛ばされた。

ざしゃぁぁぁ!!俺は思いきり地面にたたきつけられた。ぼやけた視界の端に、
先輩を連れて去っていく彰の姿を見ながら俺は気を失った。

・
・
・

「大丈夫、冬弥?」
「ああ、なんとか」

俺ははるかに助けてもらいなんとか立ち上がる。どうやらここはテニスコート
のようだ。

「あれ、はるか。それは…」

はるかの右手にはテニスラケットが握られていた。

「テニス…」
「そっか、ようやく兄さんのこと吹っ切れたのか…って、何するんだ?」
「サーブ」
「さ、サーブっておい!!」
「兄ぃぃぃさぁぁぁん…!!」

俺のことを相変わらず無視してそう叫ぶと、はるかはトスを上げるように俺を
空高くあげ、『コォォォォォ!!』という、はるかが兄貴と一緒にテニス部で修
行した呼吸法で波紋を練る。
そしてちょうど降ってきた俺に、ラケットごと波紋をたたきつけた。その瞬間
二人の懐かしい記憶が断片的にカットインされ、最後に俺の断末魔の叫びがこ
だまする。

「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!」

・
・
・

「冬弥くん、冬弥くん、大丈夫?」
「う…ん。あれ、理奈ちゃん?」

俺は理奈ちゃんに介抱されて目を覚ます。

「どうしたの?冬弥くん。泣いてるの」
「理奈ちゃぁぁぁん、俺には君しかいないよぉぉぉ!1」

俺は泣きながら彼女に抱きつこうとした。するとその瞬間背後から、

「青年、由綺ちゃんと理奈の二股とはいい度胸だなぁ」

と言いながら殴られる。振り返らなくても声で分かる、英二さんだ。

「ちょっと、兄さん。冬弥くんにひどいことしないでよ!」
「ひどいって、どんな?」
「こんなよ!」

言って理奈ちゃんが俺のお腹にフックをかます。

「違うよ理奈。フックはこう、えぐるようにだな…」

言って俺で『正しいフック』を実演してみせる英二さん。

「えっ、こう?」

再び理奈ちゃんのフック。今度はさっきより威力がある。

「そうだ、よし理奈。このままサンドバック100発だ!」
「はいっ!!」

・
・
・

「…っていうところでベッドからずり落ちて目が覚めたんだ」
「ふ、ふ〜ん…」

ここはとある喫茶店だ。そして目の前には友人である浩之がいる。
他愛ない雑談をしていたのだが、いつしか今年の初夢の話しになって俺は今の
話しをしてやったって訳だ。

「それにしても、壮絶な夢というか、なんというか…。ところで冬弥」
「うん?」

コーヒーを飲みながら返事をする。

「ところで、君の背後から何か感じないかい?」
「俺の?背後?」

なんのことだ、と思いつつ、コーヒーカップをおいて振り向く。

「あ」

俺は硬直した。
そこには由綺やマナちゃん、それに弥生さんに美咲先輩、はるかに理奈ちゃん
までいたからだ。しかも、心なしか『怒気』のようなオーラを発しながら。

「…冬弥くん」

一番始めに口を開いたのは由綺だった。

「冬弥くん。今のお話…」
「きっきっきっ聞いてたの?」

こくり。全員がうなずく。

「ななな、なぁんだ、そぉなんだ。それならそうと、早く言ってくれれば良か
ったのに。え、何?」

くいくい。全員が俺を手招きする。

「ははっ、ははっ。いやぁ、もてる男はつらいなぁ。じゃ、じゃあ浩之。そう
いう事で、俺は行かないといけないから…」
「ああ、そうみたいだな。体には気をつけろよ」

俺は浩之に見送られながら由綺達に連れていかれた。

<おしまい>
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どうも『あけましておはようございます』のUMAです。

今度は『ホワイトアルバム』です。
とはいえ、ネタ的には『雫』と同じ初夢ネタですが(汗)

余談ながら、このSSって実は2年越しのアップだったりします(汗)
ホワイトアルバムって全員分クリアしても、いわゆるおまけシナリオみたいの
が始まったり、と言ったことがないので、『主要キャラが全員出てくる、
『To Heart』のおまけシナリオみたいのを自分で作っちゃえ』ってい
う考えで書き始めたのですが、時期的に発売からまだ一ヶ月も経ってない頃だ
ったのでアップを自粛しているうちにアップする機会をどんどん逃してしまっ
て、今に至ったって訳です。

まあ、そのおかげでただの夢オチが初夢に格上げしたので結果的には良かった
と思いますが(笑)

ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~