ミレニアム特別・ゲーマー、耕一のある正月  投稿者:UMA


「3…2…1…。おめでとぉぉぉ!!!」
『おめでとうございまーす!!』

TVで出演者一同が一斉に歓喜の声を上げると、バックで花火があがる。
ミレニアムな年越しを祝うイベントだ。

「あけましておめでとうございます、お兄ちゃん。今年もよろしくお願いしま
す」
「あけましておめでとう、初音ちゃん。こちらこそ宜しくお願いします。よし
初詣にいくか」

そして、耕一と初音の二人はそれをTVで見ながら新年を迎えたのである。
こたつでミカンを食べながら『行く年来る年』を見る、という日本古来より伝
わる伝統的な年越し風景だ。

「前の千年期はいろいろあったなぁ」

ミレニアムな新年を祝うTV画面を見ながら耕一がつぶやく。『去年は…』で
はないところが鬼の一族である、耕一らしい。

「そういえば…そうだね。船が故障してこの星に不時着したのって、まだ
700年くらいしか経ってないだもんね」
「あのころは俺…次郎衛門がエルクゥ達と戦って…」
「そして、楓お姉…エディフィル姉さんと次郎衛門さんが出会って…」

そういって少し寂しそうな顔をする初音。初音の姉である楓が、エディフィル
の転生した姿というのは姉妹全員と耕一は知っているからだ。
だが、それに気づいた耕一が、

「ああ。エディフィルのおかげで命が助かったのは確かだし、それが無ければ
リネットに出会わなかったと思うよ」
「う、うん…」
「それに、前にも言ったろ?『次郎衛門のことは分からないが、柏木耕一は初
音ちゃんが一番好きだ』って」
「おにい…ちゃん」

言って、耕一は片手で初音を抱き上げる。そして、二人が口づけをしようとし
た瞬間、

ぴぃんぽぉぉぉん!!

と、玄関の呼び鈴がなる。

「だぁ!?誰だ、元旦早々から!!」

驚いて抱き上げていた初音を落としそうになる耕一。だが、バランスを崩しつ
つも耐える。そしてなんとか無事に初音ちゃんをおろすと二人そろって玄関に
向かった。

ぴぃんぽぉ、ぴぃんぽぉぉぉん!!
呼び鈴はさらに鳴らされている。

「はいはい、今あけますよー」

がちゃがちゃ。ばたん。

『二人とも、新年あけましておめでとー!!』
「ち、千鶴さん?」
「梓お姉ちゃんに楓お姉ちゃんまで!?」

初音がドアを開けると、彼女の姉である千鶴・梓・楓の3人がいた。

「いえね、耕一さん達に新年の挨拶を、って思いましてね」
言いながら口に手を当て微笑む千鶴。

だからって真夜中にいきなり来ないでもいいじゃないか、と思う耕一と初音だ
が、努めて平静を装いつつ、

「あ、そうなんですが。俺達はこれから初詣に行こうと思ってるんですけど、
一緒にどうです?」

と3人を初詣に誘う。

「初詣ですか。うーん、いいわね。それよりちょっと私たちにつき合って貰え
ないかしら?実はそのお誘いが本当の目的ですから」
「え、何です?」
「鶴木屋旅館の別館にボーリング場が新設されるの、知ってるかしら?」
「知ってますよ。たしか、来週オープンでしょ?新聞に広告入ってたから知っ
てますよ」
「なら話しが早いわ」
「?」

イマイチ話しが見えてこない耕一と初音は頭の上に『?』が浮遊している。

「つまり、千鶴姉が言いたいのは、オープン前にあたし達だけで楽しんじゃお
って事さ」

梓が説明を加える。

「あ、なーるほど。でも俺達だけじゃボーリング出来ないだろ?」

機械を動かしたりと言った事が出来ないとゲームが出来ないのは当然だ。
耕一は千鶴に聞いた。

「大丈夫。心当たりがいますから、その方に手伝って頂きますから」
「そうなんですか。なら安心だ」

・
・
・

「へー、結構広いなぁ」

耕一達一行は鶴木屋旅館の別館に新設中のボーリング場『T−BOWL』にや
って来た。当然、まだ誰も使ってないので新品、ぴかぴかである。

「そういえば、誰がスタッフやってくれてるんです?」

耕一が千鶴に聞く。すると一人の男性を指さし、

「あの方です」

と言った。そこにはばたばたと走り回る一人の男性がいた。
千鶴さんの知り合いの男性?そうか、千鶴さんにも春が来たのか、と思ったが
よく見れば、

「柳川?」

だった。

「あのー、千鶴さん…」
「何ですか?」
「あ、あれって、柳川?刑事の…」
「ええ。警察の仕事が暇になったそうなのでお声をおかけしたんです」
「でも、公務員ってバイトしちゃ駄目なんじゃ…」
「そうですよ。だから、タダ働きです」

ひでぇ。
正月から千鶴さんにこき使われる柳川…。心なしか背中が泣いてるようにも思
える。
さっき千鶴さんが言ってた『警察の仕事が暇に…』というのは無理矢理暇にさ
せたように思えて仕方ない耕一だった。

・
・
・

「じゃあ、まず最初は千鶴さんから」

全員がシューズを履き替えレーンの前に揃った。なお、投球順はジャンケンで
決めて、千鶴・耕一・初音・楓・梓の順番だ。

「ええ。でも私、実はボーリングってやったことないんですよ」
「そうなんですか?自分の投げやすいように投げていいと思いますよ」
「分かりました」

言いながらボーリングの玉を一つつかむ。そして、軽々と持ち上げオーバース
ローで放り投げた!

「ええっ!?」
と、千鶴以外全員が信じられないモノでも見るかのように千鶴を見る。いくら
ボーリングを知らないから、といってあのクソ重いボーリングの玉をオーバー
スローで投げるヤツなんざ、そうそう居ないからだ。

ぶんっ!!…がこここぉぉぉっ!!

千鶴の放った玉は見事ピンに直撃し、ピンは10本とも倒れた。

「きゃー、やったわ!ピンが全部倒れたわ!!あれってストライクって言うんで
しょ?!」

正確には『砕け散った』という方が正しい。しかも、奥の機械ごと完全に粉砕
されており、このレーンを使うのは暫く無理だ。

「そ、そうだね。千鶴さん、あ、おめでとう…」
「お、お姉ちゃん、凄い…」

嬉しそうに飛跳ねる千鶴さん。
そして、全員が引きつった笑いを浮かべながら拍手している。

「次は耕一さんの番ですよ」
「…っと。次は俺か」

耕一も惚けていたが、千鶴さんの言葉でこっちの世界に帰ってきた。
ただし、今のレーンは千鶴さんの一投で粉砕されたため、急遽となりのレーン
でゲームを始めたのだが。

「耕一。耕一は千鶴姉みたいなボケはしないだろ?」
「まあな。だが、『曲がる魔球』を見せてやるぜ」
「『曲がる魔球』?」
「ああ」

言いながらスタンスに入る耕一。立ち位置はレーンの左端。耕一の目の前は溝
がある。…というか、ガーター狙いの魅せ技にしか思えない。

「いくぜっ!『曲がる魔球』!!」

そう叫んで投げた耕一の玉は徐々に右へ曲がっていく。そして、1番ピンをか
すめて曲がると、そのまま反対側の溝に落ちる。

「どーだ、思い切り曲がっただろ?」
「ま、曲がったけどピンを倒さないと意味ないだろ!」
「ちっ、注文の多いヤツだ。よし、こうなったら次は『止まる魔球』を見せて
やる!!」
「ええっ、お兄ちゃん。その魔球は…!!」

初音が驚く。どうやら彼女はどういう魔球か知ってるようだ。

「初音、あんたは知ってるの?」
「う、うん…。あの魔球はあまりの凄さに『封印』してるのよ…」
「ふ、封印してる魔球?」

梓達は耕一の投球に注目した。全員の視線が集まるなか、耕一は先ほどと同じ
ようにレーンの左端に立ち、同じように投球モーションに入る。そして、

「いくぜ、『止まる魔球』!!」

と叫び、玉を投げた!すると、玉は、

ころ…ころ…ころ…。

と、今にも止まりそうな凄まじくない勢いで転がっていく。

「…耕一。それが…」
「ああ、『止まる魔球』さ」
「アホかっ!そりゃ、単に力抜いて投げただけだろっ!」

言いながら跳び蹴りをかます梓。しかし耕一は軽くあしらいながら言い返す。

「はっはっはっ。甘いな梓。あれは『普通の投球モーション』から超スローな
玉を投げるという高等技術が…」
「どこが高等な技術だっ!!」
「玉を離す瞬間、『ぐっ』と腕を止めるようにして、腕の振りの速度を玉に乗
せないよう、気を使ってだなぁ…」
「だ・か・らっ!どうしたぁぁぁ!!」

梓はぶちっとキレて、耕一を一気にボコにしていった。そして、数瞬後には血
だるまになった耕一がその場に崩れ落ちた。

「きゃあ、梓お姉ちゃん。耕一お兄ちゃんになんて事するのよ!」
「はぁ、はぁ、はぁ…。こ、耕一が悪いのよ…って、初音!?」
「あぁ〜ん?あたいの耕一が悪いってや?姉ちゃん」

初音はヤンキーモードを発動させた!

「い、いや、その、初音。おおお、落ち着きなさい」
「しゃあしぃったい、コラ。いたらん事ば、ほざいたとはこの口か?」

言いながらおびえる梓の顔面にパンチをたたき込む。正確には『口』に、だ。

「ほげぇぇぇ!」

画面端までふっとぶ梓。そしてそのままダウン。

「ちぃっ、ザコがっ!」

言いながら震脚を踏む。勝ちポーズのようだ。
その瞬間、背後から何者かに殴られる。

「痛ったぁ!?誰っ?」

振り向くと楓ともう一人、今しがた初音を殴った女、エディフィルがいた。
そして、彼女(楓&エディフィル)の目は、

「…おとなしくしなさい、我が妹。さもなくば狩る、わよ…」

そう告げていた。さすが、四姉妹でもっとも鬼の力が強い楓だ。言ってる事は
無茶苦茶だが、エディフィルの召喚をマスターしたのは凄いことだ。

「あぁ〜ん?あたいと戦うとや?面白い、かかって…!」
ざびゅっ!
げしげしげしっ…!!

初音がファイティングポーズをとろうとしたところを、楓が有無を言わさず爪
で一閃。
さらに間髪入れずに背後からエディフィルがパンチを連打。
その後は楓・エディフィル、二人ともに無表情なまま、実の妹に爪と拳をたた
き込んでいく!
前後から攻撃されてるのでガード方向が分からなくなるという、コンビネーシ
ョンだ。もっとも、全部コンボになってるので最初の1ヒット目を食らった時
点でアウトなのだが。

ざびゅっ!ずぎゅっ!!
ごすっ!げしっ!!

暫くして肉を殴る音と、肉を引き裂く音が静かになると、楓とエディフィルの
間から99ヒットたたき込まれてダウンしてる初音が見えた。

「…あんまり、公共の場で騒がない方がいいわよ…」

と、地面に伏してる妹に声をかける楓。だが、彼女も

ざしゅっ!!

という爪の一撃で血の海に沈んだ。長女千鶴の攻撃、である。

「楓ちゃんも、あんまりお痛しちゃ、駄目よぉ」

千鶴さんはほほえみながら妹を血祭りに上げる。
さすがに長女だけあって、千鶴の爪の一撃は楓とエディフィルの二人を葬れる
高威力の攻撃だ。

『さすが鬼の姉妹。姉妹喧嘩も人間離れしているぜ…』梓の攻撃で薄れゆく意識
の中、耕一はそう思った。

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ちなみにそのころ柳川はというと、さっき耕一の放った『止まる魔球』がよう
やくピンのとこに届いたものの、バーに引っかかっていたのでそれをとってい
るところだ。

「俺…狩人…だよな…。鬼…なんだよな…」

玉をレーン奥に投げ込みながら柳川は自分に問うていた。
ミレニアムな新年の、ごくごく普通の元旦の風景である。

<おしまい>
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どうも『あけましておはようございます』のUMAです。

今度は『痕』です。
最初は、前半の千年期の話し(次郎衛門とエディフィル・リネット。予定では
ダリエリも出たかも)だけだったのですが、正月に帰省した時に知り合い連中
とボーリングをしまして、そのとき何気なく『痕のキャラがボーリングに行く
話』をしたらウケて(笑)、それをベースに再構成したのがこのお話です。

なお、耕一の『止まる魔球』がなぜ封印されているかと言うと、玉の速度があ
まりに遅すぎてバーが降りてしまい、絶対にピンまで到達しない(笑)という直
的な理由もあるのですが、実はそれだけじゃなくって、そういう状況になった
ら従業員を召喚しないとゲームが続けられないため、一時ゲームが中断すると
いう恐ろしい副作用があるのが、本当の理由です。

#つまり、某3年奇面組の物☆大のようなことは起きない訳です
#…って、何人くらい分かるのかしら、この例え(汗)

ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^^)/