映画のあとは…その3  投稿者:UMA


「んー…。なかなか面白かったな。ね、初音ちゃん」
「うん、そうだね。お兄ちゃん」

今日、俺と初音ちゃんは映画を観に来た。『劇場版カードキャプターさくら』
である。

「多少、話に強引なとこもあったけど、子供向けと思えば概ね納得できる内容
だったし…って、あれ?あそこにいるのは…でも、なんであいつが…?」

俺は見知った顔を見かけた。
だが、そいつは『ここ』にいるハズがないヤツだ。映画館にいる事自体は別に
おかしくないのだが、『さくら』を見に来てる、というのが不自然なのだ。
しかも、女連れで…。

「え?どうしたの、お兄ちゃん。誰か居るの?」

俺が怪訝そうにある人物を見つめていると、初音ちゃんも俺の視線の先を追っ
た。そして、

「あー、ひろゆきくんだー。あかりちゃんとマルチちゃんもいるー」

と声を出した。

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「な、あかり。面白かっただろ?」
「うん。マルチちゃん、よかったわね」
「はい。とっても面白かったですー」

俺とあかり、それにマルチの3人は映画を観にやってきたところだ。タイトル
は『劇場版カードキャプターさくら』だ。
このタイトルを観ようと、昨日あかりに持ち出したら不意打ぎみに食らった立
ちパンチキャンセル神龍拳で思い切りボコられそうになったが、マルチが間に
入って仲裁してくれたおかげでなんとか助かったのだ。

「それにしても、浩之ちゃんが『劇場版カードキャプターさくら』を観たい、
なんて言うなんて驚いちゃったわよ」
「だーかーらー。昨日も言っただろ?マルチが観たそうにしてたからって。そ
れに、もう一発食らってるんだから、勘弁してくれよ」

かなり薄くなっているが、俺の右目の周りには青い痣が残っている。昨日、映
画のことを切り出した瞬間に食らった、あかりの立ちパンチの痕跡だ。

「本当に?」
「ほ、本当だって。なあ、マルチ?」
「本当ですー。私、とっても観たかったので嬉しいですー」

…と、言った物の、俺が観たかったというのも本当だ。丁度マルチがTVCM
をじーっとみつめていたのを見かけたので、それに便乗したって訳だ。
もし昨日、マルチが『私、観たくないですぅ』なんて言っていたら、今日の俺
はいなかっただろう。

そのとき後ろの方から声をかけられる。

「あー、ひろゆきくんだー。あかりちゃんとマルチちゃんもいるー」

と。



「こんにちわ、初音ちゃん、耕一さん」
「やあ、あかりちゃんに浩之」
「こんにちは、コーイチさん。まさか、さくらの映画を見に来て会うとは思わ
なかったっすよ。コーイチさんってミユリストでしょ?それにさくらには堕ち
てない、って豪語してたし…」
「おいおい、ミユリストはさくらを見ちゃいかんのかい。それに、さくらに堕
ちてないのは事実だぞ。今日は初音ちゃんにつきあって見に来たんだ。先週、
俺につきあってもらって『ポケットモンスター』を見に行ったからな。それで
浩之のほうはどうやったんだ?」
「ああ、それなら大丈夫。『マルチが観たがってた』っていうことにしました
から」
「…『マルチが観たがってた』…?浩之ちゃん、それどういうこと?」
「それは俺が観たいってのをカモフラージュするために…って、はっ!!い、い
や、その、つまり、あの、あかり…さん?」
「うふ、浩之ちゃん、おうちに帰ってゆっくりと話してね」
「は、はぃぃぃ…!!」

どうやら、浩之達の会話から察するに、浩之はマルチを使って自分が観たいと
いうのを隠していたようだ。もう少しでバレずに万事うまくいくところだった
ろうが、何故かばれてしまったようだ。
そして、浩之はあかりちゃんに首根っこを押さえられたまま、引きずられるよ
うにして帰っていった。

「…なんで浩之の嘘がバレたんだろう…。まあいいや。初音ちゃん。とりあえ
ず出ようか」
「うん」

そういって俺達は映画館の階段を上がる。ちなみにここはビルの10階で、出
口は11階にあるのだ。
そして、11階に辿着いたところで、また別の見知った顔を見つけた。

「あー、ゆうすけくんだー。さおりんちゃんもいるー」

・
・
・

「んー、終わった、終わった。あれ?沙織ちゃん、どうしたの?さっきから黙
って…。もしかして、つまんなかった?」

僕は今日、沙織ちゃんと映画を観にやってきたんだ。高校も夏休みということ
で僕たちは平日の昼間っからデートできるのだ。
今、見終わった所だが沙織ちゃんはさっきから俯き気味で黙ったままだ。

「え?ううん、そうじゃないの…」
「じゃあ、どうして?」
「…あんなの…」
「『あんなの』?」
「…あんなの…、『おじゃまんが山田くん』じゃないわっ!!」
「お、おじゃまんがって…、またドえらい古いタイトルを…」

僕らが観た映画は『ホーホケキョ となりの山田くん』だ。水彩画風の素朴な
タッチを3DCGで再現したという、見た目以上に金をかけまくった映画だ。

「でもでも!祐くんもそう思うでしょ?!」
「ま、まあ、そうだけど…」

TVアニメだったおじゃまんが山田くんをリアルタイムに観ていた僕たちとし
ては、ギャップを感じるのは当然だろう。

「『おじゃまじゃまじゃま〜、おじゃまんが!』がないおじゃまんがなんて、
おじゃまんがじゃないわっ!!」
「ま、まあ、似て非なる別物ってことで諦めるってことで…」

僕はやれやれ、といった感じでなだめる。
僕としても、音楽が山本正之でない、ってのが違和感があったのだが。

「でもでもでも…!!」

それでも沙織ちゃんは僕に言い寄ってくる。
そこへ、

「あー、ゆうすけくんだー。さおりんちゃんもいるー」

と、階段の方から声をかけられる。



「やあ、祐介に沙織ちゃん。君たちも映画かい?」
「こんにちわ耕一さん。耕一さんたちも映画ですか?あれ、今10階から来た
ってことは、もしかしてさくら?」
「ああ、さくらさ。さっき、浩之達に会ったぞ」
「やっぱり。さっきの強烈な殺意の元はあかりちゃんだったんですね」
「ここまで影響があったのか。さすがだな…。ところで俺達はこれからメシに
しようと思ってるんだけど、祐介たちもどうだい?」
「ええ、いいですよ。沙織ちゃんもいいよね?」
「あんなの…あんなの…?え、何が?」

どうやら沙織ちゃんはあっちの世界に行ってたらしい。

「これから耕一さん達と一緒にご飯を食べようかって言ったんだけど」
「ご飯?うん、いいわよ」

と、言うわけで俺達は揃って駅の方へ移動することにした。ちなみにここは駅
から南に少し下がったところなのだ。
そして、駅をすぎたところで、ほとんど会ったことはないが見知った顔を見か
けた。

「あー、かずきくんだー。あさひちゃんもいるー」

・
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「面白かったなぁ。な、あさひちゃん」
「ええ、そうですね」

俺達は今日、映画を見に来たのだ。
タイトルは『スターウォーズ エピソード1』である。
俺の趣味につきあわせたみたいだったが、あさひちゃんも楽しんでくれたみた
いで良かったよかった。
なお、あさひちゃんは帽子をかぶったりサングラスをかけたりといった、いわ
ゆる『変装』はしておらず、至って普通の格好だ。下手に変装するよりあさひ
ちゃんの場合普通にしてた方が周囲の雰囲気にとけ込みやすいからだ。

「それにしても…」
「え?」
「同じプロダクションの人が言ってたんだけど『CGは凄いんだけどストーリ
ーがお粗末』っての、本当だったわね。でも、後半のクリーチャーの戦闘シー
ンみたいにオブジェクトが多いシーンはコンピュータに負荷がかかりすぎたの
か、カメラアングルが固定にしてごまかしてたから、CGだって期待したほど
じゃなかったわね」
「ほ、ほぉぉぉ…」

あさひちゃんって本当はSF好きなんじゃなかろうか…。
しかも、かなりのマニアか?

「ま、エピソード1ってことで次に期待ってとこかしら。ね、和樹さん?」
「あ、ああ。そうだな…」

と、俺がちょっと脱力していると声をかけられた。

「あー、かずきくんだー。あさひちゃんもいるー」

・
・
・

「やあ。和樹君にあさひちゃん」
「こんにちわ。…って、誰?」
「ああ、俺達は…」

俺達は簡単に自己紹介する。近いうちにリーフオフィシャルのゲーム上で実際
に会うことが有るかもしれないが、今はまだ会ってないハズ。

「なんだ、俺のファンって訳じゃないんだ」

和樹は心底つまらなそうな顔をする。
悪かったな。もっとも、俺はあさひちゃんのファンなんだが。

「ところで和樹達も映画か?」
「ええ。スターウォーズっすよ」
「ふーん、スターウォーズが。そーいや、『ポケモン』か『ウテナは』観ない
のかい?」
「俺は観たいんだけど、どっちもあさひちゃんは試写で観てるから」
「あ、そっか」

あさひちゃんの職業は声優で、先に挙げた二つの作品に出演しているのだ。
そのため仕事ですでに観たってことらしい。

「おや、あっちから来る二人は…」
「あー、とうやくんだー。ゆきちゃんもいるー」

俺が阪急西口の方を見ていると、初音ちゃんも気が付いたらしく指をさす。

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「どうだった、由綺。アニメって嫌いだったっけ?」
「ううん、冬弥くんが好きなら私も好きだよ」

俺達は今日、映画を見に来たのだ。
タイトルは『ポケットモンスター ルギア爆誕』だ。これは黄色い電気ネズミ
が大人気のTVアニメの劇場版である。

「面白かったけど、世界全体に影響がある大事件だった割にはあっけないラス
トで、ちょっと拍子抜けだったわ」
「たしかに、それはあったな。でもまあ、子供向けってことで分かり易さが優
先なんじゃないかな」
「でも、凍結した海を歩いて渡ってきたポケモン達って、ラストで海の氷が溶
けた後で全滅するんじゃない?泳げないハズでしょ。子供向けにしては残酷す
ぎないかなぁ」
「うーん、そういう考えもあるか…」

と、俺が腕組みをしながら歩いていると声をかけられた。

「あー、とうやくんだー。ゆきちゃんもいるー」



「よう、冬弥に由綺ちゃ…」
「しーっ、しーっ!!」

俺が挨拶しようとした途端、いきなりダッシュしてきた冬弥により口を押さえ
られる。

「もがもが…。いきなりなんだよ、冬弥!」
「由綺がこんなとこにいるのがバレるとヤバいでしょうが!」

冬弥が小声で怒る。

「あ、そうか。悪い…」
「ご、ごめんなさい…」

俺と初音ちゃんは二人で頭を下げる。
いくら由綺ちゃんが目立たないとはいえ、名指しで騒げば話は別だ。
さっきの俺の声に気が付いた周囲の人が辺りをキョロキョロと見渡すが、暫く
してまた、何事もなかったかのようになる。

「ふう、もう大丈夫だろう。ところで、こんなとこに二人でいるってことは映
画でも観たってことか?」
「はい、今日は由綺のオフだったからね。そこで『ポケモン』を観てきたとこ
っすよ」
「ああ、トゲピーが主役のアニメか」
「と、トゲピーって主役ですかぁ?」
「違うのか?俺にはそう見えたんだけどなぁ」

俺が腕組みをして考えるようなポーズをしてると、

「ああ…あの、ととと、トゲピーはレギュラーキャラだけど、主役って訳じゃ
ないんですけど…」

と、あさひちゃんが口を出す。

「え?あさひちゃん?…って、あの?」

どうやら冬弥は桜井あさひが声優の桜井あさひだと、今の今まで気が付かなか
ったらしい。

「え、ええ。たぶん、その『あさひ』です」
「あさひちゃん?うわぁ、私、ファンなんですよ」

今度は由綺ちゃんだ。
由綺ちゃんもアイドルやってる…んだけど、なんか、普通のファンの女の子っ
ぽい反応で、どうにも信じられない。

「え?あの…私も由綺ちゃんのファンなんですよ」
「そうなんだ。なんか、お互いがファン同士っておかしいね」
「くすっ。そうですね」

作品は違えど、どちらも『最強のアイドル』だ。
その二人がこんなところにいるというのは、やっぱ目立つかもしれない。俺は
周囲の人間が気が付く前に移動することを提案した。

「なあ、こんなところで立ち話ってのも何だし、どっか座れるとこ行こうぜ」
「そうですね。じゃあ、ECHO’S行きますか」
「え、ECHO’Sって?」
「業界筋で有名な喫茶店よ。私もよく行ってるし。それに芸能レポーターとか
も来ないから安心よ」
「ふーん、そんなお店があったんですか。私、ちっとも知りませんでした」
「有名って言っても結構穴場ですから。じゃ、行きましょうか」

そして、俺達はECHO’Sに行くことになったのだ。

<おしまい>
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どうも『映画はやっぱ映画館で見たいっす』のUMAです。

今回のネタは見ての通り映画ネタです。

8月中にアップする予定だったのですが、いろいろと都合が付かず今日になっ
てしまいました。もう、すでに上映してない映画もありますね(汗)


ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~