神戸三宮という所 投稿者:UMA
「ここが三宮ってとこかぁ」
「どうや?小綺麗な町やろ」

俺と由宇は神戸の三宮にやってきた。今日は由宇が毎月買ってるコミック誌の
発売日なのだ。

「それにしても、なんでわざわざ三宮まで出てくるんだ?月刊誌だったら近所
の本屋かコンビニでもあるだろ?それに俺まで連れ出しやがって…」
「ええやん。和樹かて、三宮行きたい言いよったやん」
「そりゃそうだけど…」

ずどんっ!!由宇の右ボディブローがきれいに決まる。

「なら、文句ないんちゃうん?」
「そ…そう…だな」

俺は腹を押さえながら答えた。
相変わらず由宇はクチより先に手が出る。時として、手でなく足だったり肘や
膝だったり頭突きだったり鈍器だったり投げナイフだったり投げや締め技だっ
たりするのだが、俺がやられるのは日常茶飯事と言っていい。

「ゆ…由宇。も、もうちょっと恋人をいたわろうって気はないのか」
「?」
「だから、ボコスカ殴るなって…」
「もう、和樹ったら。これがウチらのコミニュケーションやな〜い」

ばしばしっ!!今度は平手ではたかれる。

「こ、コミニュケーションって。由宇の場合、殺意が混じっているように思え
るのだが…」
「気のせいや、気のせい。和樹ってホンマ被害妄想やなー。変な滅殺赤髪少女
なSSに感化されとるんちゃう?あ、そこや」
「ったく…って着いたのか?」

由宇が指さす先には全国チェーンのアニメグッズ専門店があった。
店の入り口脇にTVシリーズアニメのビデオ化を告知する立て看板があったり
するので、それ系の店だってよくわかる。

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「…由宇。たしか、今日は雑誌を買いに来た…んだよな?」
「そうや」
「じゃあ、そのでっかい袋はなんだ?どう見ても雑誌1冊分には見えんぞ」
「これか?これはついでに買うた資料や。同人作家たるもの、資料集めは欠か
したらあかんから」
「だからって本命よりおまけの方が量が多いじゃねーか」
「…和樹」
「なん?…ぐふっ!?」

どすっ!!由宇は俺を抱えるようにして、そのまま膝蹴りをかます。そしてその
ままの体勢で俺の耳元で、

「…またウチに『同人とはなんたるか』を教えてほしいんか?今なら安ぅしと
くで」

と言った。かなり低い声で。

「い…いや、いいです。由宇さんが雑誌1冊買うのに、近所の本屋じゃなくわ
ざわざここまで来た理由がわかった気がしますから…」

俺は痛む腹を押さえながら丁重に断る。由宇の『安くしとく』はたいがいが信
じられないくらい高くつくか、撲殺寸前に追いやられるかで、どっちに転んで
も俺には不利だからだ。
後から聞いたのだが、由宇が今日買ったのは少女雑誌1冊、設定資料集1冊、
画集2冊、トレカ2箱だったそうだ。

「ほな、行こか」
「い、行くってどこに?」

びしっ!!
由宇の肘が俺の顔面にモロに入る。

「がはっ!!」
「ゲーセンや、ゲーセン。キャッチャーに欲しいぬいぐるみがあんねん。和樹
は黙ってついてくればええんや」
「はあ、そう…ですか…」

・
・
・

「なんやの、このへたったアームはっ!!」
「まあまあ、智子。こんな台に当たったのは運が悪かったと思って…」
「こっちは客やねんで!?客が下手に出てどうするんやっ!!」

げしげしっ!!女は止めようとする男のすねを蹴った。

「い、痛えっ!だからって俺を蹴るな!!」
「藤田君が筐体の前に立つからや。蹴られとうなかったら、そこ退き!」
「そう言われても…」

俺たちが由宇行きつけのゲーセンの前にくると、キャッチャーの前で暴れる眼
鏡っ娘とそれをなだめる彼氏、という実に微笑ましいカップルがいた。

「早してんか。後ろつかえてんねんで」
「おい、由宇!」

由宇はそのカップルにわざと聞こえるように言った。眼鏡っ娘は『きっ』とこ
っちをにらんだが、ばつが悪そうにそいつらは場所を空けた。

「…ったく、こんなところでもめ事起こすなよ」
「わーってる、わーってる。ほな取ろうか」
「(本当にわかってるのだろーか…)え?『取ろうか』って、由宇もこのマシン
のアームの弱さ、見てたろ?100円ムダにするだけだぜ」
「なんや、心配してるんか?大丈夫、ウチにまかしとき」

由宇はドンと胸をたたくと、筐体にコインを投入する。
すると軽快なPSGサウンドとともにアームが動き始めた。

「ほいっ…ほいっ…と」

由宇はアームを操作し、あっさりとぬいぐるみをゲットする。キャッチャーに
関しては素人の俺が見ても見事な腕前だ。

「ほれ。簡単に取れるで。まあ、アームが弱いんは認めるけど、ウチに取れん
ほどやないな」
「…ちょっと。それって私に対する嫌みか?」

さっき筐体を蹴っていた女がこっちをにらんでる。その横で彼氏がなだめてい
るようだが、片手で振り払ってこっちに来る。

「なんやの?腕がないんを機械のせいにした負け犬さん」
「わざとや…」
「?」
「わざと失敗して、藤田君に取らせようと思うとったんに…」

どうやら彼女は、自分が失敗したのを彼氏に取らせて、彼氏からプレゼントし
てもらう…という魂胆だったらしい。
だが、運悪く俺と由宇が通りかかったことで失敗に終わったのだ。

「ホンマならこんなアーム、私だって全然楽勝や!!」
「ほー、言うたな。じゃあ、ウチと勝負する?」
「望むところや」

おいおい。
ストリートファイトよりは数倍マシだが、いきなり見ず知らずのヤツと勝負す
るか、ふつー?
…いや、由宇に『世の中の常識』を問うだけムダか。でも、止めないとヤバい
だろう。

「お、おい由宇、やめとけ…」
「智子…さん?」
『うっさい!!』

すぱぱぱあぁぁぁん!!
すぱぱぱあぁぁぁん!!

『ほげぇぇぇぇぇぇ』

俺とその女の彼氏は、止めようとした瞬間に互いの彼女が隠し持っていたハリ
センで一閃される。

「和樹!女同士の戦いに手ぇ出したらやけどするで。黙ってみときや!!」
「は、はい…」
「藤田君もおとなしくしとき」
「わかっ…た…」

こうして由宇と見知らぬ女は俺たちのことを毛ほども気にとめず、キャッチャ
ーで勝負を開始したのだった。

<おしまい>
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どうも『UFOキャッチャーは苦手』のUMAです。

今回は由宇と和樹をメインに書いてたのですが、神戸弁を使うってことで東鳩
より委員長こと保科さん達にも出演していただきました。

どっかのHPに書いてましたが、由宇みたいなしゃべり方する女、今時いませ
ん。正確には『ここまでベタな喋りはしねーよ』ってとこでしょうか。
やはり『メイド in 東京』な関西弁ってことでしょうかね。
とはいえ、儂の書くSSの神戸弁はもっと適当ですが(をい)。
だって、神戸に住んでかなりになるんですけど、相変わらず博多弁(モドキ)が
口からでますから、儂(^^;;

一応、神戸オフ記念SSなんすけど…あんましオフと関係ないっすね(汗)

ぢゃ、そういうこって。