由綺の一日園長体験談 投稿者:UMA
カラン、カラーン。

ここは喫茶「ECHO’S」。業界筋に有名な喫茶店だ。
喫茶店入り口の鐘が鳴り、一人の女性が入ってくる。そして、その女はキョロ
キョロと店内を見渡し人を捜す。すると、鐘の音で扉の方を見ていた奥のテー
ブルの男が声をかける。

「由綺、こっちだ」
「あ、冬弥君」

由綺と呼ばれたその女は早足に奥のテーブルに急ぐ。

「待った?」
「いや、俺もさっき来たところだから」
「そうなの?あ、この間は御免ね。急にお仕事が入っちゃって…」
「いいって。いつも言ってるだろ?仕事なら仕方ないさ」

言いながら、アイスコーヒーを飲む。今日はその急な仕事の振り替えでオフに
してもらったため、由綺は冬弥とここでデートの待ち合わせていたのだ。

・
・
・

『七夕の日にデートって織姫と彦星みたいでロマンチックね』

そう言ってきたのは一月前。冬弥と由綺が電話していたとき、由綺がぽつりと
言った言葉だ。

夏休みは全国コンサートツアーがあるから、一ヶ月以上会えなくなる。その前
に一度デートしたい。…そのときの電話の内容はそういった感じだった。
そこで冬弥が7日はどうだ、と提案したのだ。冬弥は由綺からスケジュールを
聞いていて、次のオフは確認済みだ。
そこで由綺がぽつりと答えたのが先ほどの言葉だ。

だが、由綺の急な仕事でデートはお流れになった。奇しくも、今年の七夕は晴
れたため久しぶりに織姫と彦星が会えたのに、だ。

・
・
・

「…そういえば、何の仕事だったんだい?」

冬弥は聞く。由綺から仕事の内容までは聞いていなかったことに、今頃気が付
いた。

「あれ、言ってなかったっけ?幼稚園の一日園長さんだよ」
「へえ…」

七夕の日に、アイドルを園長にするとは。緒方さんも何考えてるんだか…。
そこの幼稚園の園児にちょっと嫉妬する冬弥だった。

「そうそう。そこの幼稚園である人に会ったわよ」
「ある人?誰だい、それ?」
「うんとね。初音ちゃん」
「初音ちゃん?どっかで聞いたことあるなぁ…。あ、柏木さんとこの初音ちゃ
んか」
「うん。柏木って名字だったよ」
「でも俺達の知ってる初音ちゃんじゃないんだろ?同姓同名の初音ちゃんって
ことか?」
「同姓同名じゃないわよ。私が会ったのは柏木初音ちゃん本人よ。彼女ね、他
の園児と一緒にお砂場で遊んでたわよ」

ぶふぅぅぅ…!!
げほっげほっ。

いきなり冬弥はコーヒーを吹き、せき込む。コーヒーが気管に入ったようだ。
俺の知ってる柏木初音は俺より幾らか若いが、いくら何でも幼稚園児ではない
ハズだ。

「だ、大丈夫?」
「いや…。あんまり…。ほほほ、本人って…?初音ちゃんが?歳だってどう見
ても…いや、もとい。どう考えても幼稚園児には思えないだろ?」
「うーん。私も最初、同姓同名の女の子って思ったんだけどね、その初音ちゃ
んが『由綺ちゃん、こんにちわ』って話しかけてきたの」
「でも、由綺は芸能人なんだから、小さい子からちゃん付けで呼ばれてもおか
しくないだろ」
「そうなんだけどね、私が挨拶したら『冬弥君は元気ですか』って返してきた
から、間違いないわよ」
「ああ、そいつは間違いない…」

俺達がつきあってる事実は緒方さんがマスコミに箝口令を敷いてるのか、一般
には知られていない。知ってるのは緒方さんや理奈ちゃん、弥生さん、それに
彰や美咲さんといった知り合い連中を除けば、謎なつながりを持った『リーフな人達』
くらいで、初音ちゃんはその『リーフな人達』の一人だからだ。

「でも、なんで幼稚園に?」
「他の先生達に聞いたら、初音ちゃんの娘さんを送り迎えしてるみたいなんだ
けど、たまに娘さんと一緒に園児に混じって遊ぶんですって」
「ほ、ほぉぉぉ…」

引きつった笑いを浮かべながら冬弥は想像した。違和感無く園児と一緒に遊ん
でるスモック姿の初音ちゃんを。

<おしまい>
----------------------------------------------------------------------
どうも『七夕っていつでしたっけ(をい)』のUMAです。

今回のネタは一応、七夕です。

…めっちゃ遅いけど(汗)
でも、七夕に会えなかった二人を書いたからいいよね(あんまし、よくないと
思うぞ(笑))。

ほいでは、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~