あかちゃん 投稿者: UMA
「やっほー、初音、耕一。遊びに来たわよ」
「お、梓に千鶴さん。それに楓ちゃんまで。いらっしゃい。さ、あがった、あ
がった」

あたしたちは、耕一と初音の新居に遊びに来た。本当はもっと早く来るつもり
だったけど、いろいろと都合がつかなくって結局今日になったって訳。
でも、そのおかげで初音達にベビーカーをプレゼントするっていう用件が出来
た訳だけど。

「あ、お姉ちゃん達。いらっしゃい」

あたし達がリビングに行くと、マタニティ姿の初音がいた。

「結構おなか大きくなったわね。予定日、近いんだっけ?」
「うん。もうすぐだよ」
「ふーん。あ、触っていい?」
「うん」

あたしが初音のおなかに触ってると、耕一がキッチンからお茶を持ってきた。
ちなみに、腰にはエプロンを巻いてる。

「あれ?耕一が家事をやってんの?」
「まあな。初音ちゃんがこんなんだから最近は俺がだいたいやってるかな」
「そうなの。お兄ちゃんね、近所じゃ『いいお兄さん』で通ってるんだよ」
「ははっ。らしいな」

そういって耕一は照れながら急須にお湯を注ぐ。すると部屋にお茶の香りが広
がる。
ん?今、耕一から何か妙な違和感を感じたが、気のせい…?

「へええ。なんか、耕一がそんなのするのって似合わないなぁ」

あたしはお茶を飲みながら耕一に言った。

「そうか?これでも一人暮らしが長かったから家事は一通りできるぜ。まあ、
料理の腕は梓や初音ちゃんに比べれば足下にも及ばねぇけどさ」

ふーん。そうなんだ。
たしかに私の記憶にあるのは、大学生のころに叔父さんが亡くなった後に隆山
来たときに見たぐーたらな姿だ。さっき感じた違和感は、今の耕一とあたしの
記憶の耕一のギャップだったのかもしれない。

「あ、動いた!?」

そんな風に考えていると、初音のおなかからケリをもらう。

「結構、元気に動いてるみたいだけど、赤ちゃんって男の子?女の子?」
「女の子だよ」
「ふーん。男だったら、耕一みたく鬼の力を制御できるか心配だったけど、女
の子なら安心かな」

あたしは、ははっと笑う。

「まあな。もし、鬼の力を制御できない不甲斐ない男だったら、俺がこの手で
仕留めることになったかも知れないからな…」

耕一が真剣な目で自分の腕を見つめる。

しーん…。

その場が一斉に静まり返る。ここにいる全員が『鬼』の力のせいで両親を失っ
たのだから当然だ。

「あ…。ととと、ところで、赤ちゃんの名前って、決まったの?」

あたしは話しを強引にそらす。

「え?ああ。んー、考えてはいるんだけどなぁ。ねえ、初音ちゃん」
「うん。考えてるよ。でも、なかなかまとまらないの」
「ふーん。やっぱ、赤ちゃんの名前を付けるって苦労するんだぁ。で、どんな
名前が候補にあるの?」
「たとえば…『美優里』ちゃんとか。『美しい』に『優しい』に『里』って字
を…」
「お兄ちゃん、それはダメだって言ったでしょ」

耕一がしゃべっていると初音が困ったような顔で口を挟む。

「ええー」
「だって、美優里って名前つけたら、おっきくなったときに『お前のお父さん
ミユリスト!』って、いじめられるんだよ?」
「べ、別によかろーもん。俺がミユリストなのは本当のことやけん。それに、
そげん言うばってんがさ、初音ちゃんだって」
「なによぅ」
「初音ちゃんだって、『男の子だったらリュウとケンからとって『隆拳(たか
のり)』にしようね』って言うとったやん」
「よ、よかやん。だって、男の子だったらお兄ちゃんみたいな強い人になって
欲しかもん。やけん、あのシリーズの主人公の名前にしたっちゃない」
「そげん言うばってん、小学生位になったら『波動拳打ってみろ』って無茶ば
言われるとぜ?」
「私とお兄ちゃんの子供だったら波動拳くらい打てろうけん、よかっちゃない
と?」
「そ、そりゃそーかも知れんけど。でもさぁ、俺達の子供でもさすがに鬼の力
に目覚めるまでは無理やなかと?」
「えー、でもサイヤ人の悟飯くんは小学生くらいのころから空も飛べたし、ビ
ームみたいな気功ば打てたやん」
「あげな無茶な漫画と比べちゃ駄目だよ」
「ス、ストーップ!!」

あたしはたまらず割って入った。なんか、話がだんだんズレて行ってるような
気がしたからだ。それに、このまま隆山地元の方言で夫婦喧嘩していると、読
者がついてこれないだろうし。

「え、何?どうしたのお姉ちゃん?」
「初音…。たしか今、赤ちゃんの名前決めてるんだよね?」

あたしは努めて優しく言う。

「うん。そうだよ。それがどうかしたの?」
「なんか、その割には論点がズレてるように思ってさ…」
「そんなことないわよぉ。ね、お兄ちゃん」
「おう。俺達は真剣に考えてるんだぞ」

すかさず耕一が初音のフォローに回る。

「ふぅぅぅん…って、ん?ちょっと待ったぁぁぁ!!」
「どどどどど、どうしたの今度は?急に大声だして?」
「相変わらず、騒々しいなぁ梓は。そんなんだから、まだ男いないんだろ」
「うっさい、耕一!!…それより初音。あんた今、耕一のこと、何て呼んだ?」
「え?『お兄ちゃん』だけど?」

…やっぱり。
さっきから『違和感のない違和感』を感じていたが、私はその原因がやっと分
かった。

「初音…。あんたと耕一…、結婚…したんだよね…?」
「うん」
「じゃあ…なんでまだ『おにいちゃん』な訳?たしか、新婚旅行から帰ってき
たときは…ううん、正月に実家に来たときも『あなた』って呼んで惚気てたじ
ゃないの?」
「えっと、それはね、お兄ちゃんが…」

…耕一の仕業かい。

「お兄ちゃんがね、私がよく『お兄ちゃん』って言い間違うのを見てね、『初
音ちゃんが言いやすいように今まで通りの呼び方でいいんだよ』って言ってく
れたの。お兄ちゃんも、よく私のことを『初音』って呼ぶとき『初音ちゃん』
って言い間違えてたから、おあいこなんだよ」
「いいじゃねぇか、別に。『ちゃん』付けや『くん』付けで呼び合う夫婦だっ
てアリなんだからよぅ」

…はあ、そうですか…。世の中広いなぁ…。

そういえば、さっき初音が耕一の近所での評判を

                   ・・・・・・
 『そうなの。お兄ちゃんね、近所じゃ『いいお兄さん』で通ってるんだよ』

…って言ってたっけ。ってことはご近所では初音と耕一は夫婦って見られてな
いってこと?恐ろしすぎる…。

「ったく…。千鶴姉からもなんか言ってやってよ」
「いいんじゃない?耕一さんも、初音も仲良くやってるみたいだし」

おいおい、予想外の返答だぞ。いいのか、千鶴姉?

「お、さすが千鶴姉さん。よく分かってるじゃないですか。そうさ、俺達は愛
し合ってるんだし。ねー、初音ちゃん」
「ねー、お兄ちゃん」

はいはい、ごちそうさま。
…って、本当にこれでいいのか?

「ま、まあいいわ(あんまりよくないけど)。で、結局、赤ちゃんの名前は決ま
ってない訳ね?」
「そうなんだ、梓」
「あ、それだったら姉さんも考えていいかしら?」

そういって口を挟んできたのは千鶴姉だ。

「え?いいですよ。千鶴姉さん達の意見も聞きたいし」
「じゃあ…。春らしく『桜』ちゃんってのはどうかしら?音感が柔らかくって
かわいらしいでしょ」
「お、いいねぇ。さくらか…。最近、地上波に御光臨された…」
「却下!」

耕一が言い終わる前に、初音があっさりと却下する。

「えー、なんでだよぉ」
「だってお兄ちゃん、さくらには堕ちないって、自分で言ったわよね?」
「う…。で、でも…」
「ダメなのはダメなの!千鶴お姉ちゃん。そういう訳だから、『さくら』はダ
メなの。ご免ね」
「そうなの?よく分からないけど、分かったわ」
「…私も、いいかしら?」

今度は楓だ。

「ああ、当然さ。楓ちゃんの意見も聞きたいな」
「じゃあ…、『萌(もえ)』ってのはどうかしら?」
「萌?それって、今やってる国営放送の連続テレビ小説の主人公の女の子の名
前?」
「そうそう」

楓もすでに結婚している。家にいるときは連続テレビ小説なんて見てなかった
のだが、今では見るようになったようだ。
話が分かるってことは、初音も見てるってことかしら?

「でも、そこから取ったって訳じゃないけどね。ほら、『萌』って、木々が芽
吹くような、元気さとさわやかさの両方を兼ね備えた感じで、いいでしょ」
「ふーん、そうなんだ。それに『萌』って語感もかわいくっていいわね。ね、
お兄ちゃん」
「そうだね。萌ちゃんかぁ…。『萌ちゃん、萌え萌え』って感じでいいな…」
「うっ…。やっぱ、却下!」

またも初音が却下する。
二人の会話から察するに、どうやらこの家では初音が主導権を持っているのは
間違いなさそう。

「萌ちゃんもダメなの?」
「うんダメなの。ご免ね、お姉ちゃん」
「でも、赤ちゃん生まれるまでもう、あまり時間無いんでしょ。どうするの」
「そうだけど…。でもぉ…」
「ねえ、初音、耕一。足立さんに相談したらどうかしら?足立さんなら喜んで
相談に乗ってくれると思うわよ」
「そうねぇ…。いいんじゃない、初音?」
「うん。じゃあ、今度足立さんに相談してみるね」

結局、私達じゃ考えがまとまりそうになかったので、足立さんに頼ることにし
た。若い私達より、足立さんならいい知恵を貸してくれるだろう、っていうこ
とだ。

・
・
・

それからしばらくして、初音は元気な女の子を出産した。
その娘の名前は…。

<さあ、何でしょうね。おしまい>
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どうも『波動レベルの高い夫婦に祝福を!』のUMAです。

今回のネタは赤ちゃんの命名です。

なお、このSSの舞台は4月頃、って設定してます。5月末だと桜も、萌もち
ょっと時期はずれだしね(汗)

実はこの話自体は去年の夏頃(をい)に書いてたんですけど、アップする機会を
思い切り無くしてしまいまして…(←バカ)。
まあ、遅れたおかげでさくらと萌がネタにできたからいいか(よくねーよ)。

今回、ネタにはしてませんが、『亜美ちゃん』ってのも波動レベルが高い名前
ですね。美少女戦士の水星の人とか、初期の18禁アニメ界にて義兄と関係を
持った人とか…。


ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^_^)/~