あかりと弁当 投稿者: UMA
「あかり、屋上行くぞ」
「あ、待って。浩之ちゃん」

俺が声をかけると、あかりは弁当の入った袋をもって俺についてくる。

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俺とあかりは、修学旅行以降一緒に昼飯を食っている。当然、あかりの手作り
弁当だ。

「ねえ、浩之ちゃん。私たち、つきあってるんだよね」

階段を上っていると、ふいにあかりがそんなことを言う。
心配なのだろうか。
実際、俺達が『恋人同士』になったのはつい数週間前までで、それまではただ
の『幼なじみ』でしかなかったから仕方がない。

「当たり前じゃないか。恥ずかしいやつだなー」
「だって…」
「愛してるぜ、あかり」

さらに何か言おうとしたあかりを俺はぐっと抱き寄せる。あかりがバランスを
崩しそうにが、そのまま俺に抱きつく。

「あ…。もう、浩之ちゃん…」
「はっはっはっ」

などと、やってるといつの間にか屋上についた。
前に、フェンスに穴を開ける、っていう怪事件が起きたせいで暫く立入禁止に
なっていたが、俺達が修学旅行から帰ってきたら今まで通り解放されていた。

「さて…と。お、あそこ開いてるな。あかり、そこでいいか?」
「うん」

出入り口からちょっと離れた位置にあるベンチに俺達は陣取り、あかりが袋か
ら弁当を取り出す。

「はい、浩之ちゃん」
「おう」

俺はあかりから弁当箱を受け取り、早速ふたを開ける。

「今日の弁当は何かな…。ん?」

ご飯に、ノリと黒ゴマで何か書いてある…ようだが、読めない。

「あ、浩之ちゃん。それ逆さまだよ」
「そうなのか?よ…っと。え?!」

あかりに促されて弁当をひっくり返し、改めてご飯の文字を見る。それには、

『犬』

と、読める。ちなみに上の点は梅干しだ。

『『犬』?まあ、あかりは犬チックだからなぁ』などと、心の中で笑いながら
ご飯に箸を付ける。

そして、一口目を食べようとしたとき、屋上の出入り口のあたりから俺達をじ
っと見つめてる女生徒がいるのに気がついた。

俺の知ってる女生徒だ。
彼女の名前は、松原葵ちゃん。俺達の一つ後輩だ。

俺が葵ちゃんの方を見てると、向こうも気がついたらしく俺達の方へ近づいて
きた。そして、俺に小さな袋を差し出し、

「先輩、修学旅行のお土産のお礼です。食べて下さい!」
「え…!?」

俺はビビった。葵ちゃんのシナリオとあかりのシナリオはまったくリンクして
ないハズだろ?なんで、あかりのハッピーエンド後に葵ちゃんが出てくるんだ
よ?責任者出てこい!

ぺきっ!!
「えっ!?」

すぐ横で、木が折れる音が聞こえる。見てみるとあかりが箸がへし折ったとこ
ろだ。やべぇ、怒りゲージが上昇してるぞ。

「ああああああかり、ここここれは何かの間違いだ。葵ちゃん、ごめんけど、
俺はあかりと付き合ってるから、これは受け取れないよ」

俺は冷や汗を流しながら、そう言って葵ちゃんに袋を返した。

「え…。そう…なんですか…。わかりました…」

葵ちゃんはしゅんと肩を落として帰っていった。ふう、一安心…。

「浩之ちゃん、今の娘は…?」
「はうぅぅぅ!!」
一安心じゃなかった。

「だだだだ誰だろうなぁぁぁ」

俺は文字通り滝のような汗をかきながら答える。

「でも、浩之ちゃん、あの娘の名前知ってた…」
「う…。たたたたまたまだよ。こないだ、ナントカっていう格闘技のクラブ作
ろうとしてる一年の女生徒いただろ?あれが彼女なんだけど、それで覚えてい
たんだよ」
「じゃあ、なんでその一年の女生徒に浩之ちゃんが修学旅行のお土産をあげる
の?」
「ささささあ?おおお、俺は知らねえぞ。ほほほほら、他人のそら似っていう
か…。それより、弁当だ。ははは早く食おうぜ。な?」

俺は話を強引に弁当に持っていった。『身に覚えがない』とは、言えないあた
り、マルチエンディングの主人公のつらさである。

「…うん…」

ふう、あかりはまだ納得していない様子だが、これで今度こそ一安心…。



気を取り直して、俺は再び弁当に箸を付ける。が、

「うぐっ!?」

急いでかきこんだせいか、俺はメシをのどに詰まらせたらしい。

「ひ、浩之ちゃん、大丈夫?!」
「み、水…」

俺が言うが早いか、あかりはお茶を俺に手渡す。

「んぐ、んぐ…。ふう、助かった。サンキュー、あかり」
「ううん、どういたしまして。あら?あそこにいるの、来栖川先輩じゃないか
しら?」
「え?」

俺はあかりの目線を追う、すると俺達のほうを見てる女生徒がいる。あかりが
言うとおり、来栖川先輩のだ。しばらく、ぼうっと俺達の方を見てた先輩は、
ゆっくりと近づいてくる。よく見たら彼女も手に袋を抱えてる。
まさか…。

「あ、来栖川先輩、こんにちわ。…え?『先日の降霊会のお礼です』って?」
こくり。

そういって、彼女は袋を差し出す。

「『お弁当です。私が初めて料理したので、お口に召さないかも』って?」

ちょっと待てぇぇぇ。来栖川先輩のシナリオもあかりのシナリオとはリンクし
てないだろぉぉぉぉ!!!

ちらっとあかりのほうを見る。あかりは、水筒を持ったまま震えてる。
これは、やばいかも…。

「え?『今度は媚薬は入れてませんから』…。だとぉぉぉぉ!!」

先輩はそんな恐ろしいことを言った。すると、それを聞いていたあかりは、

ぐきゃっ…。

と、手に持っていた水筒を握りつぶした。ぽたぽたと、水筒のお茶が漏れて屋
上の床に落ちる。はうぅぅぅ。怒りゲージが、怒りゲージがぁぁぁぁ!!!

「…浩之ちゃん。媚薬ってどういうことなの?」

あかりは弁当箱とひしゃげた水筒を床に置いて、ゆらりと立ち上がる。
ちょっと…いや、かなり恐いかも知れない。

「いいいいや、おおおおお俺は知らんぞ。ねえ、先輩。…先輩?」

気がつくと、先輩の姿がない。ああっ、出入り口まで逃げてるぅぅぅ。

「『お弁当箱はあとでセバスチャンに回収に行かせますから』ぢゃなくってぇ
ぇぇ、せんぱぁぁぁい!!」
「ひぃろぉゆぅきぃちゃぁぁぁん…」

そういいながら、あかりは額のあたりに気をため、片足をあげる。どうやら、
瞬獄殺のようだ。

『はっ!!』

そのとき俺は直感した。まさか、弁当に書いてあった『犬』の文字は瞬獄殺を
意味していたのか!?

「まままま、待ってくれ、あかり!!、おおお俺達、高校生だろ?!めめめ、滅殺
はまずいと思うぞ!!」

俺は腰が抜けていたが、できる限りの抵抗を試みる。

「うん…そうね。私達、高校生だもんね」

そういって、あかりはポーズを解除する。ほっ、助かった。

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「…田中ぁ」
『はい』
「西ぃ」
『はい』

教室では、午後の授業が始まっていた。教壇では教師が出欠をとっている。

「藤田ぁ」
『…』
「…藤田?藤田浩之は欠席か?午前中までは出てるのに…サボりか?」

教師はそういいながら出欠簿に『欠』の印を付ける。そこへ

「あの、先生」

と、あかりが手を挙げる。

「ん?どうした、神岸」
「あの、浩之ちゃ…。いえ、藤田くんは、おなかが痛いって言って、保健室で
寝てます」
「ん、そうなのか?分かった」

教師は、欠席理由を出欠簿に書き込む。

「もしかして、神岸さんが作ったお弁当に当たったのかなぁ?」
「毒、盛ってたりとか…」

クラスの女子からそんな声があがる。藤田は恐いと評判だが、結構隠れファン
がいたようで、あかりとつきあい始めたことに不満があるらしい。

「な…。私、浩之ちゃんにそんなことしません!!」

あかりは怒ったようにそう言い切った。その声に驚いたのか、教室がしん、と
静まり返る。

「まあまあ、神岸も押さえて押さえて。えと、出欠続けるぞ。次は…堀ぃ」

妙な緊張感が走った教室で、教師は出欠を取り始めた。
だが、この教師は知らない。なぜ、浩之が腹痛になったかを。

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再び昼休みの屋上。

「まままま、待ってくれ、あかり!!、おおお俺達、高校生だろ?!めめめ、滅殺
はまずいと思うぞ!!」

俺は腰が抜けていたが、できる限りの抵抗を試みる。

「うん…そうね。私達、高校生だもんね」

そういって、あかりはポーズを解除する。ほっ、助かった。

「じゃあ、高校生らしく…」
「こ、高校生らしく…?」

俺は思わずあかりの言葉を繰り返す。
すると、あかりは呆気にとられてる俺の腕を上げ、そして無防備になった脇腹
に、発勁をたたき込んだ。

ずどんっ!!
空気を震わせる強烈な発勁だ。

「がはっ!!!」

『こ、これは『雷打』…?!いや、『鎧通し』か!!高校生らしいってこういうこ
とかぁぁぁ!?』
俺は吹き飛ばされながらそう思った。
その後、どこかにぶつかったのだろうか。俺は気を失ったらしい。

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そして、今。
俺は保健室のベッドに寝ている。

「いてぇよぉぉぉ、腹がいてぇよぉぉぉ…」

と呻きながら。

<おわり>
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どうも『プレステ版発売まであと0日』のUMAです。

今回のネタは見ての通りTo Heartです。

まだPS版はプレイしてないので、PC版がネタです。…ネタバレ、してない
よね(汗)?

一応の設定としたは、あかりシナリオの直後(5月中旬頃)です。

実はこのSS、書いたのは去年だったりする(汗)
PS版To Heartの発売が遅れたので、それに合わせてこのSSの発表
も遅れたってオチ(笑)

なので、マジでPS版とネタに相違がある可能性やモロバレな箇所がある可能
性が多いにあります(汗)

#まあ、媚薬なんてヤバ目のアイテムは出ないと思うけど>PS版


ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^^)/