「映画、面白かったかい」 「うん、とっても」 ピンクのワンピースを着た初音ちゃんが俺に笑いかける。 「だろ?俺も面白かったぜ」 言いながら、ハンバーガーをかじる俺。 俺と初音ちゃんは、ハーバーランドにある映画館で映画を見た後、すぐ近くに あるファーストフード店で、軽い食事をとっているところだ。 ちなみに、初音ちゃんが今着ている服は昨日俺がプレゼントした奴だ。そう、 昨日は初音ちゃんの誕生日だったのだ。ちょっと子供っぽいデザインかな、と 思ったが当の初音ちゃんは気に入ってくれたようで、なによりである。 「どうしたの、お兄ちゃん?」 「ん?」 初音ちゃんに言われて気が付いたが、俺は初音ちゃんをじっと見つめていたよ うだ。 「いや、なんでもないよ。ただ、初音ちゃんが可愛いから見とれてたんだよ」 「え…。もう、お兄ちゃんったら…」 「ははっ」 初音ちゃんは顔を真っ赤にして、うつむきながらコーラに手を伸ばす。 今日は、新しい服を着た初音ちゃんとお出かけって訳だ。行き先は昨日のうち に決まったのだが、最初水族館に行こうかと話していたのだが、近場で済ませ ようってことで、ハーバーランドで映画ってことに決まったのだ。 「それにしても、あのチケット売場の人、許せねぇな」 「え、どうして?」 「だって、俺がチケットを大人二人分、って言ったら、初音ちゃんを見ながら 『こちらのお嬢さんは小学生じゃないんですか?』なんて言ったんだぜ」 「ええっ私、小学生じゃないよぉ…」 「だろ?ま、あの後ちょっぴり鬼の力を見せて失神させてやったけど」 「だ、だめだよ、お兄ちゃん。鬼の力を使っちゃ…。それに私、こういうの慣 れっこだから…」 だんだんと語尾が小さくなる初音ちゃん。だが、しっかりと俺を見つめる。 「分かったよ。初音ちゃんがそういうんだったら、俺も鬼の力を使わないよ」 「うん、約束だよ」 そういって初音ちゃんは俺の小指に小指を絡めてくる。 ・ ・ ・ 『指切りげんまん』をした俺達は、食事を続けた。そして、二人とも食べ終わ ったので店を出ることにした。 「さてと。腹ごなしも済んだし、そこ、寄ってくかい?」 俺はトレイを戻しながら初音ちゃんに聞く。 「うん」 初音ちゃんは元気よく頷く。ちなみに、俺達の言う『そこ』とは映画館と併設 してあるメーカー直営のアミューズセンター、いわゆるゲーセンである。 ここは、映画館の横という立地条件のおかげで家族連れやカップルが多く、そ れに合わせてプリクラや、クレーンゲームなどが多い店である。また、メーカ ー直営ってことで、最近流行の同社の『音楽ゲーム』もかなりの台数が入荷し ており、DJ、ダンス、ギター全部合わせて10台以上あるのだ。 「えっと…、今日は何かロケってるかな…?」 俺は店内に入ると、ぐるっと見渡す。新作の音楽ゲームが設置してある一角は 凄い人だかりで、人気の高さが伺える。 そして、もう一つの出口近くに目をやった時、一つのガンシューティングに 目が止まる。 見たことのない筐体だ。どうやらあれが今ロケってるゲームのようだ。 「初音ちゃん、おいで。あそこで新作、ロケってるよ」 「うわぁ、本当だ」 俺達はその筐体の前に来た。こいつは狙撃手(スナイパー)になって敵を狙撃す るというゲーム内容だ。ぱっと見、ゲーム画面の『敵』はわずか数ドットしか なく、これでは狙撃なんか不可能に思える。 だが、筐体の銃に付いてるスコープを覗いたとき疑問は氷解した。スコープ部 分に小型モニタが仕込まれており、敵の姿が拡大されて表示されるのだ。 「へえ、スコープをこういう風に再現するとは思わなかったな。これは面白い アイデアだ」 俺はゲームを終え、呟くように言った。すると、初音ちゃんが、面白い応用法 を思いついたようだ。 「ねえ、お兄ちゃん。このアイデアってさ『日本野鳥○会』ゲームに応用でき ないかな?」 「あははは。じゃあ、最終面は『大晦日の紅○歌合戦』で決まりだね」 ・ ・ ・ 一通り、店内を回った俺達はゲーセンを後にする。そして、なにげなく商店街 を歩いていた時だ。俺達が男に呼び止められたのは。 「ちょっと、いいですか?」 「え、俺達ですか?」 「ええ。あ、わたくし、こういうものでして…」 言いながら男は名刺を取り出し、俺に手渡す。 「『リーフ劇団』?へえ、あのリーフ劇団か。で、その劇団の人が俺達に何の ようだ。勧誘か何かか?」 「ええ。そちらのお嬢さんに…」 「初音ちゃん?」 「私?」 俺と初音ちゃんはお互い顔を合わせる。まあ、初音ちゃんのかわいさなら、不 思議ではない。今までもこういうこともあったし。 「ええ、そちらのお嬢さんを我々児童劇団に…」 「ほぉ…って、ちょっと待ったぁぁぁ!!」 「え?」 「あなた、今『児童劇団』って言いました?」 「はい。我がリーフ劇団は小学生のうちからしっかりと…」 「ふぇ、私、小学生じゃないよぉ…」 男の台詞を涙声の初音ちゃんが遮る。 「ふざけんな!初音ちゃんは小学生なんかじゃないんだぞ!!」 「そ、そうでしたか。これは失礼しました。でも、うちは中学生でもOKです し…」 ・ ・ ・ 「し、失礼しましたぁぁぁ!!」 男は初音ちゃんの年齢を知った途端脱兎のごとく走り去った。 ったく、初音ちゃんがいくつに見えたって言うんだ。そんなに幼く見えるのか って言うんだ。 思わず俺は鬼の力でざっくりと殴っちゃろうか、と思ったが、さっきの初音ち ゃんとの約束を思い出し、思いとどまったのだ。 「ぐすっ、ぐすっ…。おにいちゃぁん…」 泣きながらぎゅっと腕にしがみついてくる初音ちゃん。 「大丈夫だよ、悪いおじさんは俺が追い払ったから」 優しく言いながらぎゅっと初音ちゃんを抱きしめる。初音ちゃんはこうしてや ると落ち着くのだ。 「おにいちゃぁぁん…」 「大丈夫、大丈夫。じゃあ、そろそろ帰ろうか」 「うん」 そして、俺達は仲良く手を繋いで家に帰るのだった。 <おわり> ---------------------------------------------------------------------- どうも『ちょっぴり遅れたけど初音ちゃん誕生日おめでとー』のUMAです。 今回のネタは『初音の誕生日』です。 初音ちゃんに新しいお洋服を買ってあげて、その次の日にデートに出かけるゲ ーマーなカップルの日常を描いてみました。 #あかりの誕生日SSに続き、ゲームネタが少ないぞ(汗) #どうした、儂(大汗) ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~