昼下がりの浩之君 投稿者: UMA
「あ、浩之」
「ん…?ああ、雅史か。日曜日に何やってるんだ?」
俺は、道を歩いてるとジャージ姿の雅史に呼び止められた。

「僕?僕はこれから学校に行って、部活だよ」
「部活?あ、そっか。お前、サッカー部の部長やってるんだっけ」
「違うよ、僕は副部長だよ」
そういって雅史は笑う。

3年生が引退した去年の秋、雅史はうちの高校のサッカー部の副部長になった
のだ。部自体の成績は地区大会止まりだったが、雅史は結構いい活躍をしたら
しくってそのときの功績で副部長に就任したって訳だ。

「で、その副部長が、俺に何の用だ?いまさら、サッカー部に入れってのは無
しだぜ。今年は俺も受験生だしな」
そう。俺はもうすぐ高校3年生。大学受験が待っているのだ。
「サッカー部の勧誘とは違うよ。浩之とは一緒にいたいけど…」
「あん?最後、何言おうとした?」
「ううん、別に」
言って、顔を赤らめる雅史。なぜ顔を赤らめるんだ?
「そうじゃなくって。僕、浩之に渡すものがあるんだ」
「俺に渡すもの?」
思わす、雅史の言葉を繰り返す。
「うん」
ごそごそと、背中に背負ったバッグを降ろし、中から綺麗に包装された小さな
包みを取り出した。
「はい、これ」
「おう、サンキュー。…って、何だ、これ?」
思わす受け取ったが、雅史から何か貰う心当たりがない。
「それは、チョコレートだよ」
「ふーん、チョコか…って、チョコぉ?!」
「うん」
そういって雅史は笑う。
「ちょ、ちょっと待て!何で俺にチョコをくれるんだ?!」
「え…。だって、今日『バレンタインデー』じゃないか」
「ば、バレンタインだからって…。普通は、好きな男に…」
「うん。だから、浩之なんだよ」
俺の台詞を遮って、恐ろしいことを雅史が言い切る。雅史の後ろに薔薇の花が
乱れ咲いているような錯覚がみえた俺は、背筋に冷たいものが流れるのを感じ
た。
「ちょ、ちょっと待て雅史!」
「受け取って…くれないの?」
俺の言葉に雅史は表情を曇らせる。
「ばっ…。受け取るとか受け取らねぇとかじゃねぇよ」
「じゃあ、受け取ってくれるんだ。僕、急いでるから。じゃあね、浩之!」
そういって、強引に俺にチョコを押しつけると雅史は走っていった。
「お、おい雅史!待てよ…って、行っちまいやがったか。しょうがねえなぁ」
俺は雅史が走っていった方角をぼうっと、眺める。手に、雅史から貰ったチョ
コを持ったまま。

ぱさっ…。

ふと、背後で物が落ちる音がする。つられて振り返ると、そこにはあかりがい
た。
「ん?あかりじゃないか。どうしたんだ、今日は日曜だぜ?」
「ひ、浩之ちゃん、それ…」
あかりは俺の手に持ってるものを指さした。
「ああ、これか?今さっき雅史に貰ったチョコさ。ははっ、雅史の奴が俺にだ
って…よ?!」
俺の台詞が終わる前に、あかりは俺のボディに肘で一撃を入れる。
「…浩之ちゃん、ホモだったの…?」
「…げほっ…。ご、誤解だ、あかり!!雅史の奴が一方的に…」
「…ふぅぅん、でも、チョコ受け取ったってことは、浩之ちゃんもまんざらじ
ゃないんでしょ…?」
言いながら、ボディブロー。今度は右だ。
「…がはっ!!…ち、違うって!!返す前に雅史は学校に行っちまったんだ…!!」
「え、そうだったの?」
そういってあかりは、俺の顎を狙っていた左アッパーを寸前で止める。
さすがあかり。最初の肘はしっかり真昇竜拳に変化する距離から入れていたよ
うだ。
「ゴメンね、浩之ちゃん。怪我、ない?」
「あ、ああ…。大丈夫だ…」
『自分で真昇竜拳を途中までかましといて『怪我、ない?』はないだろ?』と
思ったが、言うと本当に命が危ないので俺は黙っていることにする。
「え、浩之ちゃん、何か言った?」
「別に」
「そう?あ。私、浩之ちゃんに渡すものあったんだ」
あかりは、さっき落とした包みを拾い、俺に手渡す。
「はい、チョコレート。ちょっと汚れちゃったけど…」
「いいさ。汚れたって言っても包みだけだろ?中身は大丈夫だろうし」
言いながら俺は、早速包みを開ける。
去年までは、志保やレミィあたりからも義理チョコを貰っていたから結構集ま
ったが、今年は日曜日と重なったせいもあってあかりのチョコ一つだけだ。

…さっきのアレは忘れてくれ。記憶から。

「浩之ちゃん、今年は私のと…雅史ちゃんのだけだね。寂しい?」
「馬鹿いえ、あかりのチョコさえあれば俺は満足だぜ」
そういいながら、チョコを半分に割りあかりに渡す。
「一緒に食おうぜ」
「うん」

言いながら俺達は仲良く肩を抱いて帰った。…俺が、あかりに肩を借りないと
立ってられないせいもあるが。

<おしまい>
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どうも、『チョコレート恐い(をい)』のUMAです。

今回のネタは、見ての通り『バレンタインデー』です。せっかくの時事ネタな
んですから、使わないのは損ってことで。

#次のネタ(にしやすそうな)のっていうと、卒業か雛祭りかな?

本当は今年のバレンタインSSは、もう一本の方(耕一&初音)だけだったんで
すけど、先日ある人から『バレンタインは滅殺あかりさんですか?』と言われ
まして(汗)、急遽こっちの浩之&あかりSSを書いたんすわ。
今回は死なない程度に手加減したんで、珍しくラストで浩之が生きてますね。


じゃ、そういうこって。でわでわ〜(^^)/