人と鬼の戦い99 ACT−2 投稿者: UMA
「ねえ、藤井さん。道、こっちであってるの?」
赤い空手着を着たマナがぼそりと言う。
「ああ、この地図によると…、うん。間違いない」
変形学生服を着た冬弥は地図を見ながらうなずく。
「真冬の隆山に引っ張り出して、あたし達に何させようってのかしら。ね、藤
井さん」
「んー。何でも、リーフのキャラクタ同士で節分しようってことらしいよ。お
あつらえ向きに『鬼』がいるしね」
「あの、漢字一文字のタイトルの劇の元ネタの?」
「そうそう」
マナの言う劇とは、冬弥の通う大学の学園祭で演劇部が公演していた劇のこと
だ。
「ところで、由綺は仕事は良かったのか?たまには休まないといけないとは思
うけど」
冬弥は、一緒に並んでるチャイナ服風の女性に聞いた。彼女は現役の売れっ子
アイドルやっている森川由綺だ。
「うん。緒方さんと弥生さんがスケジュールを調整してくれたから、今日はオ
フなんだよ。ね」
「はい」
由綺の問いに、彼女の後ろにいた一人の女性、質素な軍服姿の弥生が簡潔に答
える。
「ふーん。ならいいんだ。けど、こんな馬鹿騒ぎにつきあうくらいなら、家で
ゆっくりしていた方が良かったんじゃないのか」
冬弥は由綺を気遣いそんなことを言う。
「でもね、部屋で一人でいるより、冬弥君と一緒にいた方が楽しいもん」
そういって冬弥の腕に抱きつく。それを見たマナが、
「あーっ、ずっるーい。あたしも!」
冬弥の反対側の腕にマナが抱きつく。
「マナちゃん。冬弥君は私の大事な人なんだよ」
すると、由綺はにこにこしつつ、マナに向かって抗議する。
「でも藤井さんは絶対、横取りするんだからねっ!」
こちらもにこにこしつつ答える。
二人の女性に抱きつかれてた冬弥の顔は、思い切り引きつっていた。
それもそのハズ。同時攻略があり得ない『WHITE ALBUM』のキャラ
がそれぞれエンディング後の設定でパーティを組んだ訳だから。そして、冬弥
自身はそのすべてを知っているのだから…。
「まままま、マナちゃんもゆゆゆゆ、由綺も押さえて押さえて…」
引きつりつつもなんとか二人をなだめようとする。
「冬弥君は私とつきあってるのよね…」
「藤井さん…」
「う…」
二人に見つめられて冬弥は脂汗を滝のように流す。この場でどちらかを選ばな
いといけないような状況ということを理解したからだ。
そのとき、弥生が
「敵です」
と、パームトップコンピュータ上の簡易レーダーマップを見ながら言った。
「なななな、何ぃ!ててて敵かっ!!よし、ここは俺が行って来るぜ!」
言うが早いか、冬弥は二人をふりほどいて走り出した。単に、三角関係の問題
を先送りしただけのようにも見える。

「やい、鬼!出てこい!!」
冬弥は3人から少し離れた場所まで来ると、立ち止まって叫んだ。
するとその声に呼応するように凄まじい殺気とともにダリエリが煙りのように
現れた。
『貴様が獲物か…』
「えぇっ!?幽霊?」
鬼が現れると思っていた冬弥は意表をつかれ、ビビった。
『我はエルクゥのみの存在…。ん?後ろにも獲物が…。そうか、そういうこと
か…。面白い…』
そういうとダリエリはビビっている冬弥に近づき、取り憑いた。
「な、何だっ!?う、うわあぁぁぁ…!?」
冬弥は、ダリエリに取り憑かれ苦しんでいる。ゲーム的に言えば『精神点を基
本に、レジストを試みている』状態だ。
「と、冬弥君!!」
「藤井さん!いやぁぁぁ!!」
冬弥からやや遅れて到着した由綺とマナは、苦しむ冬弥を見て悲痛な叫びを上
る。

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しばらく苦しんでいた冬弥は、やがて静かになった。
『ふむ…。なんとか同化できたようだな』
立ち上がった冬弥の声は冬弥のそれだが、口調はダリエリのそれに変わってい
た。冬弥のレジストは失敗したようだ。
ダリエリに取り憑かれた冬弥(以下、面倒なので冬弥D)は、数百年ぶりの肉体
の感触を試すように中空に向かって突きや蹴りを放つ。
『我の肉体にしては多少貧弱ではあるが…まあよいわ』
一通り動作チェックを行ったダリエリは、近くにいる獲物…由綺とマナに目を
やる。
「冬弥君…嘘でしょ…」
「藤井さん…」
二人にはまだ信じられないようだ。
『どうやらこの肉体はお前らにとって『大切な人』のようだな。ならば我の攻
撃は抵抗できまい!!』
冬弥Dは唇の端をゆがませながら、最初のターゲット、マナへ向かって走り出
した。
そして、マナに殴りかかった!

「いやぁぁぁ!!」
しかし、マナは泣きながらも冬弥Dの突進を立ちローキックで止めた。
さらに、ミドル、ハイ、ハイ、ミドルキック、そして膝蹴りと連続でかまし、
膝蹴りで浮いた冬弥Dに連続で旋風脚をたたき込んだ。蹴り技のみで構成され
たスーパーコンボ『疾風迅雷脚』というやつだ。

ひゅるるる…、げしぃ!!

錐もみ状に吹っ飛んだ冬弥Dは、頭から地面にたたきつけられた。落ちた場所
は、由綺の足下だ。
『ぐはっ…。ん…?』
「冬弥君…。ゴメンね☆」
そういうと、由綺は裏拳で冬弥Dを思い切りシバいた。某ストリートファイタ
ーに出てくる中国娘の挑発と同じモーションだが、威力は段違いである。

『ほげぇぇぇ!!』

ダリエリはもんどりうって吹っ飛んでいった。
『ちょ、ちょっと待て!お前ら、この男はお前らにとって『大切な人』じゃい
のか?』
起きあがりながら叫ぶ冬弥D。
「うん。だから、『ゴメンね☆』って断ったでしょ?」
由綺はすまなそうに言う。だが、謝るのと同時に攻撃しては意味がないと思う
ぞ。
「それに、藤井さんはあの程度でくたばると思えないし」
「うん。冬弥君、見た目以上に丈夫だから。ねー」
最後の「ねー」は二人の声が綺麗にハモる。
『『ねー』って、あんたら…。そ、そういう問題なのか…!?』
冬弥Dが狼狽する。そこへ、通信係の弥生が口を挟む。
「さて、これ以上やっても貴殿に勝つことはできないでしょう。素直に負けを
認めますか?パシリさん」
その言葉にむっとする冬弥D。意味は分からくても何かムカついたらしい。
『…何だ、そのパシリとは?』
「『使いっパシリ』のことですわ、下僕さん?」
『おい!さっきと呼び方が変わってるぞ!?』
弥生ににらんで抗議する冬弥D。
「あら、言い方が悪かったですか。申し訳ございませんでした『エルクゥの下
っ端』さん」
『だーっ!!我が名はダリエリ!!エルクゥの長だっ!!断じて下っ端ではない!!』
マジで怒る冬弥D。だが、先ほどのダメージがまだ抜け切れてないようで、ま
だふらふらだ。
「そうですか?でも、千鶴さんの命令に忠実に従って、わざわざ現世に呼び出
されたのですよね、エルクゥ四等兵さん」
弥生さんが冬弥Dを見つめながら問う。
『い…いや、そういう訳では…』
「違うのですか?」
再び問う。
『ち…ちがわないが…、う、うわーっ!!』
そう叫んで冬弥Dは、頭を抱えてうずくまると動かなくなった。それと同時に
辺りに立ちこめていた殺気のようなものが消えた。ダリエリは消滅したようで
ある。…逃げた、とも言うが。
「もう、大丈夫です。彼は…元の藤井さんに戻ってますよ」
「え?冬弥君!?」
「藤井さん!!」
弥生の言葉を聞いた二人が冬弥の元へ走る。
「あいたたたた…。あれ?由綺、マナちゃん?敵はどこ行ったんだ?」
二人に支えて貰いながら起きあがる冬弥は、いつの間にか敵がいなくなったこ
と、自分が思いきり負傷していることに不思議がった。
「敵でしたら、由綺さんとマナさんが倒しましたよ」
疑問だらけの顔をした冬弥を見た弥生がそう言った。
「え、そうなのか?俺が気を失ってる間に倒してしまうとは思わなかったな」
冬弥は、ははっと笑った。
だが、冬弥は知らない。冬弥を瀕死の重傷に追い込んだのも彼女たちだという
ことを。そして、この後に待っている惨劇を…。

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「あーあ、ダリエリまで負けちゃったよ…」
モニタを見ていた耕一が呟く。
そこへ、壁をすり抜けてダリエリが帰ってきた。素早いやつだ。
『うわーん、ジローえもーん!!』
「お前は○び太くんかっ!!」
カウンターぎみにダリエリに右パンチをたたき込む耕一。
『ぐはっ!!いい、右だったぜ、次郎右衛門』
鼻血(鼻ってどこだ?)を出しながらも、去勢をはるダリエリ。
「フン。エルクゥの長ともあろう方がその程度か。狩猟者失格だな」
いつの間にか帰ってきた柳川が、ダリエリに向かってそんなことを言う。
『やかましい!お前だってボロクソに負けたではないか』
「俺は技を一つだしたぞ」
柳川はちっちっちっと人差指を振る。
『いばるな!ヒットする前につぶされては意味無いではないか!』
「前ダッシュの連携をつぶされた奴には言われたくないな」
「まあまあ、二人とも…。そういうのを『五十歩百歩』っていうんだよ」
困った顔した初音ちゃんが仲裁にはいる。すると今度は、
「俺が五十歩だ!!」
『貴様が百歩だ!!』
「なんだとっ!!」
と、今度はことわざのことで言い争い始めた。
「柳川さんもダリエリも、負け犬同士で罵り合ってどうするんですか」
千鶴が呆れたように言う。
「俺が負け犬だと?」
「そうです、負け犬の柳川さん。負けたのは事実ですよね?しかも、あっさり
と」
「い…、いや、俺は…」
「はいはい分かりました。それでも負けたのは事実ですから、さっさと公僕の
仕事に戻って私達国民のために汗水垂らして馬車馬のように働いて下さい」
千鶴は柳川の反論に耳を貸さず、一気に言い切る。
「お、俺は…俺はぁぁぁ…!!」
柳川は泣きながら司令室から出ていった。
「ダリエリもダリエリです。私達エルクゥの長って割にはあっさりやられると
はどういうことですか。せっかくお呼びしたんですから、せめて一勝くらいし
てもらわないと」
『あう…』
「でも、もう出番がないからもう帰っていいわよ。用無しですから」
そういって、しっしっと追い払うように手を振る。
『お、俺は…俺はぁぁぁ…!!』
ダリエリは泣きながら霧散していった。成仏したのだろうか。
「勝った…」
千鶴は言う。だが、梓がどこからともなく取り出したハリセンでつっこむ。

すぱぁぁぁん!!

「な、なによ、梓」
「『なによ』じゃないわよ!!せっかくの強力な戦闘員を追い返してどうするの
よ!?しかも、二人とも!!」
「あ」
「それに、『勝った』ってのは何よ?私達の敵は柳川達じゃなく、人間チーム
でしょ?」
「えっと…。あははは、ゴメン、梓」
千鶴は忘れていたのだろうか。今回は人対鬼だと言うことを。
「ごめんじゃないわよ。どうするのよ、次が来たら!!」
「ゴメンって〜。ね、ほら『ちーちゃん、めっ!』」
そういうと、千鶴は自分で自分の頭をたたいた。

ぴきぃぃぃん!!

すると、千鶴のあまりにも寒いアクションに辺りの時間は停止した。ワールド
のスタンドも真っ青、である。
「あれ?どうしたの、梓?…楓?初音、耕一さぁぁぁん!!」
千鶴さんは一人、静止した世界で途方に暮れていた。

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「先輩、今年は勝ちましょうね!!」
今年、『To Heart』パーティに加わることになった葵は元気に浩之に
声をかける。
「ああ…」
「あれ?先輩、元気ないですけど、どうしたんです?」
「いや…、俺は元気だぜ…」
浩之はそういって、力無く笑ってみせる。
『To Heart』パーティのメンバー構成は、浩之・あかり・葵と、通信
兵のマルチである。このうち、あかりと葵は瞬獄殺が使えることから、ダブル
瞬獄殺なんていう、鬼でも一撃で粉砕できそうな荒技もできるだろう。
だが、ダブル瞬獄殺をかける相手が敵である『鬼』ではなく、自分である可能
性もあるのだ。そう考えると憂鬱にもなろうと言うものである。
「あ、浩之ちゃん。柏木さんの家だよ」
「ん?あ、本当だ。今年は柏木家での本土決戦のようだな。よし、乗り込むぞ
みんな!!」
『おー!!』
「藤田さまぁぁぁ!!!」
そこへ、セバスチャンこと長瀬源四郎がやってきた。
「どうしたんだ、じじい?俺達はこれからコーイチさんの家に乗り込むとこな
んだ。手短に頼むぜ」
「その、柏木様のことです。先ほど千鶴様より『突然、メンバーが全員戦闘不
能の事態におちいったので今年は私達、鬼側の負けを認める』と連絡がありま
したので」
「ってことは、もう俺達は戦わなくていいのか?」
「左様でございます」
そういって長瀬は恭しく頭を下げる。
「よかった…、本当に良かった…」
浩之は泣いていた。戦わなければ、間違って滅殺されることもないからだ。

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「…と、言うわけで『第2回チキチキ本物の鬼で節分しよう』は人チームの勝
ちです。おめでとうございます」
長瀬(主任)が原稿を読み上げる。
「では、賞状とトロフィーと、副賞として来栖川電工からレトロ感覚いっぱい
の486マシンとメモリ2MBのセット、それと喫茶店エコーズの1年間有効
のコーヒーのタダ券の目録です。どうぞお受け取りください」
長瀬(店長)が、浩之に渡す。ちなみに、冬弥はあの後由綺とマナの手に掛かり
虫の息状態のため、欠席している。
「次に、戦術評論家にして最強のストリートファイターの執事、長瀬源四郎さ
んに寸評をお願いします」
「えー、…」

そんなこんなで、大節分バトルは幕を閉じたのだった。

<おわり>
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どうも『あっさり完結しました』のUMAです。

ACT0〜2まで合わせて約1000ライン。儂にしては長い部類にはいる今
回のSS、いかがでしたでしょうか。

せっかくの時事ネタなんですから利用しない手はないですからね。それに、去
年も同じネタで書いているので、1年越しの続編なんていう豪快なことになっ
たし(笑)



ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~