人と鬼の戦い99 ACT−1 投稿者: UMA
「楓ちゃん、レーダーに反応は?」
「ヒトの反応は…。1時の方角、距離、2000。数、4」
レーダーを見ながら楓は耕一に答える。

ここは、柏木家になぜかある司令室だ。デザインはなぜか宇宙戦艦ヤ○トの第
一艦橋のそれに近い。誰の趣味かは分からないが。

「早速おいでなすったか。ところで敵の正体は分かるかい?」
「えっと…。電波タイプ、3。近接攻撃タイプ、1。電波タイプの3人は月島
兄妹と、長瀬さんだと思います」
「なに。月島だと?…よし、こいつらは俺が狩ってやる。去年の借りを返さね
ばな…」
そういったのは耕一の傍らにいた、柳川だ。
彼は、去年月島兄妹と対戦したのだが、月島兄のサイコ投げと妹のオリコン+
ソウルスパーク連射の前に惜敗しているのだ。
「よし、柳川。お前が行って来い」
艦長席に座っていた耕一は、傍らにいる一人の男に向かって命令を下す。
「分かった。くっくっく…。久しぶりの狩りの時間だ。たっぷりと楽しませて
もらうぞ」
そういい残して柳川は司令室から出ていった。
「でも、大丈夫ですか?」
心配そうな表情で千鶴が耕一に聞く。
「奴のことが心配なんですか?大丈夫ですよ。あいつは俺と同等か、それ以上
の攻撃力を持ってますから」

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「ふぁ…ふぁ…ふぁっくしょん。うー…」
月島は思いっきりくしゃみをする。
「お兄ちゃん、風邪?」
「ああ、2、3日くらい前からな」
そういって瑠璃子が取り出したティッシュを受け取り、鼻をかむ。
「電波使いでも、風邪には弱いんすね」
「当たり前だろ。電波が使えるって言っても、僕らは人間なんだからな。ふぇ
っくしょい!!」
祐介の問いに答えつつ、再びくしゃみをする。
「そういえば、長瀬ちゃん。今年は私達と戦ってくれるんだね」
「ん?ああ、そうだ。長瀬君、君は去年、鬼側のアルバイトとか言って僕と瑠
璃子に電波爆弾を食らわせたっけな」
月島は恨みったらしく言う。
「祐くん、そんなことしたの?」
「うん」
沙織ちゃんが問いに、瑠璃子が答える。
「ででででも、今年はちゃんと人側についてるじゃないですか。おかげで電波
使いが3人も揃ったんだし…」
確かにそうだ。電波使いが3人とも揃ったのだ。考えようによっては最強チー
ムかもしれない。
「でも、私は戦っちゃ駄目なんだよ」
そうなのだ。今年のローカルルールで、人チームはパーティのうち、一人は通
信係として非戦闘員にならないといけないのだ。人チームは鬼チームに比べ人
数が多いための処置である。
そして、『雫』パーティでは瑠璃子がその係なのだ。
「あ、そっか…。こんなことなら、月島さんの代わりにみずぴーを入れて僕が
通信係になればよかったなぁ」
みずぴー、さおりん、そしてるりるりの3人でアストラルバスターズと呼ばれ
るチームを組むことが可能なのだ。
「なにぃっ!僕では頼りないというのか?」
「い、いや、そういう訳では…」
「…鬼、反応接近。個体数1。柳川祐也です」
祐介が返事に困っていると突然、瑠璃子がそんなことを言い出した。どうやら
通信係にはレーダー機能も付加されてるらしい。
「ほほほほら、敵ですよ。僕たちの相手は柳川さんみたいですね」
「ふーん。今年も柳川さんが相手か。相手にとって不足はないっ!いくぞ、長
瀬くん!!」
そういって、マントをひるがえす月島だ。言い忘れていたが、今年の彼は髑髏
の付いた軍帽+赤い軍服+マントというスタイルだ。去年は『ゼロのあいつは
好かん』とか言ってマントを捨ててきたのだが、寒さに我慢できなかったのか
今年はマントを装備しているのだ。
「はいっ!!…って、柳川さんの方からこっちに向かってるんですけど」
祐介が答える。こちらは、ポロシャツに帽子という、真冬の隆山では自殺行為
の格好である。ついでにほかの二人も解説しておくと、瑠璃子は真っ黒なボデ
ィスーツ、沙織は体操服+ブルマだ。
「はっはっはっ。まあ、勢いってやつだ。それと、さっきの話は後でゆっくり
と話し合おう。なあ、長瀬君」
「はははっ…」
月島の言う『さっきの話』とは『月島の代わりにみずぴーを…』について、で
ある。
「…来ます!」
瑠璃子の声に、その場に緊張が走る。



「くっくっく…。この狩猟者に狩られる哀れな最初の獲物はどいつだ…?貴様
か…?」
柳川は祐介達の前に来ると獲物を品定めしつつ不適な笑いを浮かべる。
そして、鬼の力を一気に解放する!ごうっと柳川を炎が包みこむ。その炎の中
から現れたのは鬼の力を出した柳川だった。

「あーっ!キカイダーだっ!!」
柳川を見た沙織がそう叫んだ。そう、鬼の力を出した柳川の体は右半身と左半
身を赤と青で塗り分けられていたのだ。
「違うよ。頭がズレてないだろ?ゼロワンの方だよ」
冷静に祐介がつっこむ。
「あ、そっか。さすが祐くん、よく見てるわね」
「馬鹿野郎!!これはギルだっ!!」
自分でコスプレ(をい)のネタをばらす柳川。
「ギルっていうと…、ああ、ジローの良心回路を狂わせる笛を吹くギル?」
「キカイダーネタならそうだな。でも瑠璃子、ドルアーガの塔のギルってのも
あるぞ」
「あ、FFの世界の通貨もギルじゃなかったっけ?」
「そうそう、ほかには…」
祐介達はさらにボケた。
「違うわっ!ストIIIのボスのギルだっ!!知らんのか!?」
「知ってるよ。当然じゃないか」
柳川のマジ切れに対して祐介達は素で切り返した。
どうやら彼らは最初から『柳川の姿=ストIIIのギル』と知ってて、わざとボ
ケていたようだ。でも、祐介たちがキカイダーを知っていたのかは謎である。
「ふっ、ふふっ…。この俺をコケにするとはいい度胸だ…」
柳川はかなり怒ってるようだ。顔が引きつってるのでよく分かる。
「貴様等はその度胸に免じて苦しまないように一撃で殺してやるっ!!いくぞ」
そう叫ぶと柳川は片腕を振上げると猛然とダッシュしてきた。サイバーラリア
ットだ!
この技は攻撃判定が後方にあるため、正面から技を出されてもめくり気味にヒ
ットするという、サギ臭い必殺技だ。
だが、そのとき。

「はーみっとうぇぶ!!」

祐介の右手から、電波を具象化したようなツタが伸び、柳川をからめ取る。
さらに、

「ぬぅぅぅん、サイコォォォ、クラッシャァァァ!!」

残像を残しつつ月島が後退したかと思うと、電波を辺りにまき散らしつつ電波
パワー全開で体を開転させつつ体当たりしてきた。ツタにからめ取られて身動
きのとれない柳川を標的に。

ゴォォォォォォォォォ!!

凄まじい電波の粒が辺りを埋め尽くす。普通の人なら精神が持たないハズだ。
ちなみに、沙織は瑠璃子の肩に触れ、アースしているため大丈夫らしい。
「ぐはぁぁぁっ…」
さすがの柳川でも、電波を立て続けに食らえば堪えるらしい。気絶してないと
はいえ、起きあがることができないようだ。
「ふむ…。さすがに去年よりパワーアップしてるらしいな。でも、これでとど
めだ!」
月島がとどめを刺そうと、サイコショットの構えに入ったが、それを祐介が止
める。
「まった。月島さん、ここは僕に任せて下さい」
「ん?そうか。あとは任せたぞ、長瀬君」
「はい」
返事をした祐介は、柳川の前に立った。そして、柳川をビシッと指さすと、こ
ういった。
「貴様の次の台詞は、『貴様等ごときにこの俺様が負けるはずがないッ!!』だ
っ!!」
と。
「貴様等ごときにこの俺様が負けるはずがないッ!!…はぁっ!!」
「くらえっ、群青色の波紋…」
自分の台詞を先読みされたことに驚愕している柳川へ祐介が止めの一撃を入れ
ようとした、まさにそのときだった。

「必殺、一人インフィニティスパイクっ!!」

今まで出番がほとんどなかった沙織が、どこからともなく取り出したバレーボ
ールを柳川にたたき込んだのだ。

げしっ!!

「ぎゃぁぁぁ…!!」

勝負はついた。祐介達の勝ちである。
「どう?祐くん。威力は落ちるけど、一応一人でもインフィニティスパイク打
てるようになったんだよ」
とどめを刺した沙織がうれしそうに言った。彼女の言うとおり、アストラルバ
スターズが揃った時のインフィニティスパイクに比べると若干威力が落ちるよ
うだが、それでも必殺には違いない。
「うん、凄いや、沙織ちゃん。それに、月島さんも僕のハーミットウェブにコ
ンボできましたね」
「まあな。でも、君のハーミットウェブが無くてもたぶん回避は不可能だった
と思うがね」

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「あーあ。やられちゃったよ。ったく、柳川も口先だけじゃねえか」
スクリーンに映る完全にのびた柳川を見ながら耕一が言った。
「ねえ、次のチームが来たら誰が戦うの?」
初音ちゃんが心配そうに言う。
「安心しな。次は俺が奴らを蹴散らすから」
そういって初音ちゃんの頭を優しくなでる。
「う、うん!」
うれしそうに初音は返事する。
「…あのぉ、耕一さん。レーダーに反応です」
遠慮がちに楓が報告する。
「え?ああ、次はどこからだ?」
「はい。3時の方角。距離1500。数、4」
「今度も四人か。よし、今度は俺が出るぜ!」
「いえ、耕一さんが出る必要ありませんよ」
そういったのは千鶴だった。
「え?千鶴さん、どういうことです?現代の鬼って俺達以外には柳川しかいな
いじゃないんですか?」
もっともな疑問だ。すくなくとも、『痕』中ではほかの鬼がいるような記述は
見あたらない。
「ええ。ですから、ダリエリを…」
『久しいな、次郎右衛門』
声とともに、幽霊が現れた。ダリエリだ。
「だ、ダリエリぃ!?マジかよ」
ダリエリとは、リーダー格のエルクゥだ。もっとも、数百年前に死んでいるの
で今では霊体だけの存在だが。
「こんなこともあろうかと、ダリエリを呼んでおいて正解だったわ」
うんうん、とうなずく千鶴。
「ところで千鶴姉。こんなこともあろうかとの『こんなこと』って『柳川さん
が負けること』のこと?」
「うーん、ちょっと違うわ、梓。正確には『自称狩猟者の柳川が手も足も出ず
にあっさりと負けてしまって、しかたなく耕一さんが戦わないといけないよう
な事態』のことよ」
最初から柳川のことを信頼していなかったかのような、千鶴さんの『こんなこ
と』である。
「ふ、ふーん。そうなの…」
梓は引きつりながら答える。
「じゃ、ダリエリ。がんばって人間を倒してきてね」
千鶴さんが優しくダリエリにお願いする。
『なぜ俺が…』
「行くわよね?」
千鶴さんが優しくダリエリにお願いする。ただし、ちょっぴり眼光が鋭い。
『りょ、了解だ、リズエル。ワタクシ、ダリエリは狩りに行って来ます!!』
そういうと、ダリエリは壁に吸い込まれるように消えた。
「がんばってね〜!」
千鶴さんはダリエリの消えた壁に向かってエールを投げる。
どうやら前世での力関係もリズエルの方がダリエリより強かったようだ。そう
思う一同だった。

<つづく>
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どうも『本編が始まりました』のUMAです。

予定では次で終わりです。早いですねぇ(汗)

ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~