映画のあとは… 投稿者: UMA
「どうだ、マルチ。面白かったか」
「はい。面白かったですぅ。たくさんのポケモンさんがかわいかったです〜」
「ふふ、よかったわね。マルチちゃん」
「あかりも楽しんだみたいだな」
「うん、浩之ちゃん」
あかりもマルチも楽しんだようで、良かった良かった。

俺達は今日、あかりの買い物につき合う為に天神まで出てきたのだ。
そして、ついでなんで映画でも観よう、ってことになって、中州で映画を観た
ところだ。
中州は全国的には飲み屋街とか風俗の街としての知名度が高いが、映画館街と
いう昼間の顔も持っているのだ。もっとも、ビデオが普及したせいで映画館離
れが進んだのと、キャナルシティにでかい映画館が出来たせいで昔ほどの賑わ
いはないのは事実だが。
ちなみに、観た映画は『ポケットモンスターミューツーの逆襲』。マルチが観
たそうにしてたからだ。マルチは否定するが、TVのポケモンを毎週楽しそう
にしてるのを俺は知ってるのだ。

さて、映画も見たし、これからあかりの買い物に行くか。と俺が思ったとき、
懐かしい、そして憎らしい顔を目撃する。



「面白かったね。お兄ちゃん」
「ああ、そうだね。ルリルリも相変わらずつるぺただったしな」
「なんでそこに目が行くかなぁ」
「はっはっはっ。お約束、って奴さ。俺の友達が言ってた『中途半端』っての
も、納得のいく形で『中途半端』だったし、俺的には満足だな」
「そういえば、ウテナが劇場映画化するみたいだけど、来年のスレイヤーズは
ウテナと同時上映なのかな?」
「そうかも知れないな」



どうやら会話から察するに、コーイチさん達はナデシコとスレイヤーズを見て
きたらしい。
と、眺めていると、あっちも俺達に気が付いたようだ。

「げぇ。浩之!?」
「やぁロリコン大将コーイチさん。先日はどーも」
俺は憎々しく挨拶する。
この間コーイチさんに『かなちゃんの完全吸血マニュアル for Windows95』っ
てソフトを買ってくるように頼んだのだ。モノが18禁だったからあかりにバ
レないように頼んだのに、あっさりとバレてしまったのだ。
「な、何だよ、浩之」
「『あかりに見つからないように』って念を押したのに…」
「すまん、あれは不幸な事故だ。それに、お前のせいで初音ちゃんに誤解され
たんだぞ。しかも泣いちゃったんだぞ?!」
「ちょっと待て、コーイチさん。俺は死にそうになったんだぜ?!人の命と初音
ちゃんの涙を一緒にするなよ」

あの日、コーイチさんと思って玄関のドアを開けると、全身から怒気を放って
いたあかりが、力一杯握りしめて原型を留めていないCDケースを持って立っ
ていたのだ。
そう、コーイチさんに依頼した『ハズの』ソフトを握りしめて…。
危うく真空波動拳でシバかれるところだったが、買い物につき合うことでなん
とかその場を凌いだのだ。俺はあかりにバレた時点で死を覚悟していたのでま
さに九死に一死を得る、といったところだ。

「やかましい。俺にとっては初音ちゃんの方が大事なんだよ!」
あう。言い切られてしまった…。
コーイチさんは地上最強の鬼なのだが、こと初音ちゃんの事になると盲目的に
なるのだ。
「…浩之ちゃん、耕一さんと何の話してるの?」
「え?い、いや何でもない。何でもないんだよ、あかり。な、コーイチさん」
俺はビビりながらそう答える。
「あ…ああ、そうさ。あかりちゃん。なんでもないんだよ。…あれ、あそこに
いるのは祐介じゃないか?ははっ、LVNキャラ大集合って感じだな」
コーイチさんはうまく話を逸らす。
「そうそう。…って、祐介?マジか?」
俺はコーイチさんの視線の先を追った。



「んー!面白かったね、沙織ちゃん。それにしてもガンダムの映画にしては、
女性客が多かったね」
「だって、Wだもん。当然でしょ祐君」
「確かに。若い男の子が5人もいるし、美形のにーちゃんもいるしね」



こっちは08小隊とガンダムWか。わかりやすい奴らだ。おーい祐介。
「あ、浩之。久しぶりだね。耕一さんも」
「おう、お前らも映画の帰りか?」
「はいそうです。皆さんとお会いするのも久しぶりですね」
「去年の隆山での一件以来…か。ということは1年ぶりってことだな」
もっとも、その後も色々な人の様々な創作物により出会ってるハズだが。
「そうだ、こうして久しぶりに会ったんだ。これから話でもしないか?積もる
話もあるしな」
「だったら、カラオケに行かない?これだけの大人数が一度に入れる部屋って
ボックス位でしょ?」
コーイチさんの提案に、初音ちゃんがフォローを入れる。

カラオケか。
今日はあかりの買い物に付き従う下僕の徹するつもりだったが、まあいいか。
あかりには悪いが、買い物はまた今度だ。
「カラオケっすか、いいですねぇ。おう、あかり、カラオケに行くぞ…」
俺があかりにそう言いかけた時、偶然風が吹く。

 びゅぅぅぅ…。

そしてあかりの髪を揺らすのが目に入る。

 『赤い髪に燃え上がる 殺意の心…(UMA)』

その髪を見た瞬間、なぜかヤッターキングの替え歌とおぼしき歌が、俺の脳裏
をよぎる。同時に背中に冷たい物が一筋走るのが分かる。

「どうしたの。浩之ちゃん?急にしゃがみ込んで…?」
心配そうに俺をのぞき込むあかり。
「い、いや何でもない…」
『あけぼのフィニッシュでポーズをとるあかりに恐怖した』なんて、口が裂け
ても言えない。もしかして、あかりが『俺と買い物に行きたい』という意志が
風を呼んだのか…?

「大丈夫だ…。ってあかり、何でゲージ溜めてるんだ?」
「え、ゲージって?」

ハタから見たら、『風が吹いたので髪を押さえてる』ように見える…と思うの
だが、俺の目には『スーパーゲージを溜めてる』ように映る。…被害妄想、っ
て奴だろうか…。

 『スーパーゲージが溜まったら 滅殺OKよ…(Fool)』

今度は救援メカの替え歌が頭をよぎる。背中に流れる冷たい物が滝のように流
れる。

「と、とにかく!やっぱり今日はカラオケは辞めようぜ!そうだ。俺の知り合
いがサ店でバイトしてるんだ。結構センスいいとこだから、そこでお茶にしな
いか?」
俺は滝のような冷や汗を拭きながらサ店へとみんなを誘う。
「うーん…。浩之ちゃんがそういうなら、私はいいわよ。でもお買い物、忘れ
ないからね」
「あ、ああ…」
あかりが俺の案に従うと、他のみんなもそれにならう。良かった、今回は死ぬ
目に会わないですみそうだ。…死ぬのが先送りになっただけかも知れんが…。
よし、では行こうか、って思った時、ふいに後ろから声を掛けられた。

「あれ?浩之。こんなとこで会うなんて奇遇だな」

ん、誰だ?人がせっかく生きてる幸せ感に浸ってるというのに…。俺が声をし
たほうに振り向くと、大学の友人である冬弥とアイドルの由綺ちゃんがいた。
手にしたパンフから、彼らはゴジラを見た帰りらしい。
そして、冬弥は俺があいさつするより早く『禁句』を口にする。

「あれ?今日は葵ちゃんと一緒じゃないんだね。この女ったらし!やるねぇ浩
之!」

その瞬間、あまりの出来事に背中を流れるものが止まる。一瞬心臓も止まった
かも知れない。
そして間髪入れず首根っこを引っ張られた。
…あかりに。

「浩之ちゃん。葵ちゃんって、どういうことなの?」
あかりはにっこりと微笑みながら俺に聞いた。
「い、いや…その…。ほ、ほら、高校ん時の後輩でカツサンドに負けたことも
あるエクストリームな女の子だよ。おおおお、覚えてないかなぁ…」
俺は思い切り動揺しているようだ。自分で喋ってる言葉が支離滅裂だ、っての
が分かる。
「ふぅぅぅん。でも、その葵ちゃんの話がなんでここで出るの?」
ぐい、っとそのまま路地のほうへと俺を引きずりながらあかりは言った。
「わーっ、待て待てあかり!何で路地に連れていくんだぁぁぁぁ!!」
「うふふ。いらっしゃい、浩之ちゃん」
にっこり。
「ひぃぃぃぃ!!」

・
・
・

「あれ?浩之どうしたんだ?俺、何かまずいこと言ったのかなぁ」
「ははっ。とってもまずいことを言ったんだよ、藤井冬弥君」
「え?なんで俺の名前を知ってるんだ!?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は…」

耕一は、見ず知らずの男に声を掛けられて困惑してる冬弥に声を掛ける。そし
て、自分たちが隆山の事件で出会ったことのある、リーフのゲームの先輩であ
ることを告げた。

「こちらこそ初めまして。あなたが美咲先輩の劇のモデルの鬼ですか。えっと
俺が藤井冬弥で、こっちが…」
冬弥が由綺を紹介しようとした時、耕一初音をかばうよう抱き、それと同時に
祐介達は地面に伏せる。
「え…?」と冬弥が疑問に思う間もなく、

 『ずどん…!』

と、いう凄まじい衝撃波が全員を…、いや、辺り一帯を襲った。周囲のビルの
窓ガラスがビリビリと震え、通行人が何が起きたのか?ときょろきょろと見渡
す。偶然、由綺は耕一さんの影にいたのでダメージがなかったが、冬弥はその
衝撃波をモロに受けて数メートル吹き飛ばされる。

「わぁっ!!…な、なんすか!今のは!?」
冬弥は、全く動じていない耕一に聞いた。
「うーん、真昇竜拳にしては衝撃波が小さいなぁ…」
「多分、滅昇竜拳だよ。お兄ちゃん」
技が分からず考える耕一に、初音が彼に抱かれたままフォローを入れる。
「なーるほど。町中だから、ちょっと手加減したんだな」
ぽん、と手を打ち納得する耕一。
「し、真昇竜拳?滅昇竜拳?なんすかその物騒な技はっ!?」
「あかりちゃんの必殺技さ。威力は文字通り『必殺』なんだぜ」
とっても物騒なことをあっさりという耕一。
「そ、それで、浩之は大丈夫なんすか?」
「ああ。あいつなら大丈夫さ。ほら」
耕一は路地から這い出してくる浩之を指さした。

・
・
・

「あー。死ぬかと思った。ったく、シャレにならねぇことを言うなよ、冬弥」
俺は路地から這い出してきた。
「いやー、悪い、悪い」
くそっ。マジで悪いと思ってるのか、こいつは?俺は仕返しにこう言い返して
やった。
「そーいや、そっちこそマナちゃんはどうしたんだ、冬弥?」
と。
「え゛?なななな、何のことかな、浩之!」
よし、動揺したようだ。
「…とうや…くん。マナちゃんとはなんともないんじゃなかったの…?」
由綺ちゃんが冬弥に詰め寄る。
「そそそそ、そうだよ。マナちゃんとはななななんもないんだよ」
「そうなの?」
「う…うん」
「本当に?」
「うん、本当に」
「良かった。もう、びっくりしたじゃないの〜」
そういってぽかぽかと冬弥の胸を叩く由綺。
「ははっ。痛いなぁ由綺」
由綺ちゃんは冬弥がそう笑いかけるのを無視してさらにぽかぽかと叩く。

ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)

「おいおい、痛いってば…」

ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)
ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)ぽかぽか(空振り)



「ねえ、お兄ちゃん。あれってもしかして…」
初音ちゃんはパンチハメをしてる由綺ちゃんを指さしながらコーイチさんに聞
く。
「ああ。コーディのファイナルデストラクションだ。間違いない」
コーイチさん達が技の解説をしてるうちに、由綺ちゃんはアッパーでとどめを
刺す。

「ぐはぁぁぁっ…」

アッパーで吹き飛ばされた冬弥が空を舞う。そして、

 『どんがらがっしゃーん!!』

凄まじい轟音と共に冬弥は俺に激突した。

「ああっ、浩之ちゃん!」
あかりが路地から出るなり冬弥の下敷きになった俺の所へ駆けてくる。
「大丈夫?大丈夫?浩之ちゃん」
ゆっさ、ゆっさと揺するあかり。さっきのあかりの一撃のほうがダメージが大
きかったのだが、そんなことは口が裂けても言えない。しかも、思い切り揺す
るから、俺の意識が飛んでしまう。
「きゅう…!」
「浩之ちゃん?ねぇ、浩之ちゃん?」

ゆっさゆっさ。返事がない。

「浩之ちゃんをこんな目に会わせるなんて、ゆるさないんだからぁ!!」
ごとっ、と俺を地面にたたきつけると、あかりは泣きながら由綺ちゃんにビン
タを放つ。
「えーん、ごめんなさーい。わざとじゃないですからー」
由綺ちゃんはそう言ってあかりのビンタを左手で防いで、そのまま腕を捻るよ
うにして空中へ投げ飛ばす。
「わざとじゃなくても、浩之ちゃんは重傷なのよ」
空中へと吹き飛ばされたあかりは、空中で姿勢を直すとそのまま泣きながら波
動拳を発射する。
「すいませーん、不可抗力ですから許して下さいぃぃぃ」
が、由綺ちゃんは冷静に波動拳で打ち返す。斜めに気弾が飛ぶところからさく
らのそれと思われる。
しかし、あかりの波動拳は2発だ。一発はうち消したが、もう一発が由綺ちゃ
んにヒットする。
「謝っても許さないんだから!」
着地したあかりは、そういって額に気を溜めると、片足で由綺ちゃんへ、つつ
ーっと近づく。

『やべっ!あれは瞬獄殺?』
俺はあかりの瞬獄殺を何度も喰らってるので一目で看破する。これであかりの
勝ちか?と思われた瞬間、由綺ちゃんのけぞりから回復すると瞬獄殺を発動す
る。
『嘘だろ…』

つつーっ…と音もなく近づくあかりと由綺ちゃん。そしてホワイトアウト…。

どかかかかかかかかかかかかかかっ!!!!

ホワイトアウトしたまま響きわたる打撃音。あかりか由綺ちゃんのどちらかの
瞬獄殺が炸裂したようだ。

 かかーっ!!

あけぼのフィニッシュだ。
浮かんでいる文字は…

 『犬』

あかりの瞬獄殺の勝ちだ。

・
・
・

「由綺、大丈夫か!」
「うん…。冬弥君も大丈夫?」
冬弥が由綺ちゃんに声をかける。どうやら由綺ちゃんは大丈夫なようだ。俺は
あけぼのフィニッシュでポーズを取ってるあかりに声をかける。
「おーい、あかりぃ」
「あ、浩之ちゃん。身体は大丈夫?」
振り向くと、あかりの身体から殺意は消えていた。
「俺がこれ位でくたばる訳ないだろ」
「良かったぁ。それにしても、由綺ちゃんって強いね」
「そうだな。あかりの瞬獄殺をまともに喰らっても大丈夫な人って初めて見た
ぞ」
かく言う俺も、瞬獄殺を喰らえば暫くはまともに動けないからだ。
「ええ…。これでも『プロ』ですから」
由綺ちゃんは冬弥に支えて貰いながらそう言った。
「ぷ、プロって…。おい、冬弥。由綺ちゃんってアイドルだよな?」
俺は由綺ちゃんの傍らにいる冬弥に聞く。
「うん。緒方さんに鍛えられてるみたいだよ」
緒方さん?ああ、あの緒方プロの、緒方英二か。
あそこって芸能プロダクションじゃなかったのか?やっぱ、芸能界って怖いと
ころだったんだなぁ。

「そういえば浩之。お前達どっか行くところだったんじゃないのか?」
「ん?ああ、冬弥がバイトしてるサ店に行こうと思ってな」
「ああ、エコーズな」
「エコーズ?もしかして、そこの店長ってフランク長瀬って人じゃない?」
祐介が驚いたように言う。
「そうですけど…。祐介さん、店長をご存じで?」
冬弥も驚いてる。
「ええ。フランク叔父さんは僕の遠い親戚に当たる人ですよ」
「ふーん。ってことは彰も親戚ってことか。世間って狭いんだなぁ」
冬弥は感心したように祐介の顔を見る。
「そうですね。それじゃ、行きましょうか、エコーズへ」
なぜか祐介が先頭切って、俺達はエコーズへ向かう事になった。

<おわり>
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どうも「映画って本当にいいですねぇ」のUMAです。

本当はこれ、お盆の頃から書き始めてたんですけど、HPの準備とかやってい
たら、気が付いたら9月になってました(汗)

で、ついでなので儂の過去のSS幾つかの後日談的なお話にしてみました。

#浩之&あかりと耕一&初音の設定は『ゲーマー、耕一のある日常(たまにはこんなのも…編)』(09月01日)
#浩之が葵と、冬弥とマナがつき合っていた話は『ライバル』(06月16日)

また、途中の替え歌は儂の『かえうた』と、Foolさんの『滅殺あかりさん
の唄』から借用っす。
サンクスね、Foolさん(^^)/