ゲーマー、耕一のある日常(たまにはこんなのも…編) 投稿者: UMA
「楓ちゃん下さい」
「はい。…ええっ!?」
店員は俺の言わんとしたことは理解したようだが、いきなり驚いている。
「お、お客さん。『美優里ちゃん』じゃないんですか?」
「今日は違うんだ。早くしてくれ」
俺は店員を急かす。
と、そのとき、俺の服を誰かに引っ張られた。

くいくい。

鬱陶しい。誰だ?
俺は相手を見ずに手で払いのける。

くいくい。

払いのけてもさらに引っ張られる。そして、その人物に話しかけられた。
「ねえ、耕一お兄ちゃん。『楓ちゃん』って何?」
「ああ、『かなちゃんの完全吸血マニュアル for Windows95』さ。ほら、CD
ケースの帯ん所には千鶴さんもいるぜ…って、初音ちゃん!?」
俺は声を聞いて思い切り驚く。さっきから服を引っ張っていたのが初音ちゃん
だと気が付いたからだ。
今日、俺がこのゲーム屋に来るのは初音ちゃんには内緒にしてたハズだぞ?
「は、初音ちゃん。何でここが…」
「…お兄ちゃん、私より楓お姉ちゃんや千鶴お姉ちゃんの方がいいの?」
初音ちゃんは俺の問いに答えず、涙を目に浮かべたままそう聞いてきた。
「い、いや。そそそんなことは…」
言いかけて思うが、この状況では言うだけ空しいかも。
「…やっぱり、胸は大きい方がいいの?」
『それは断じてない。俺は小さい方が好きだ。っていうか、千鶴さんも楓ちゃ
んも胸小さいだろ』
と、思ったが、火に油を注ぎそうだったので言うのをやめる。
「お兄ちゃんの…、耕一の馬鹿ぁぁぁぁ!!」
初音ちゃんは気合い一閃、ヤンキーモードを発動させる。例のセイカクハンテ
ンタケの後遺症か、それともエルクゥの血のせいか、それは分からないが、今
では自分の意志でヤンキー初音を発動出来るようになったのだ。
「ひぃぃぃ!!」
思わず後ずさる俺。おかげで初っぱなに繰り出した昇竜爪をスカらせることに
成功した。
「待った!初音ちゃん。俺の話を聞いてくれっ!!」
「しゃあしいったいコラ!」
初音ちゃんはそう叫ぶと俺の言葉を無視して、ジャブ2発からストレートのコ
ンボを入れる。そしてミドルキックへ繋いで俺を蹴り飛ばす。
「ぐはっ!」
幸い、蹴り飛ばされた軸線上に誰もいなかったため俺はそのまま東館近くまで
飛ばされる。
「耕一ぃ。ここなら良かろうが?」
「えっ?」
蹴り飛ばした俺を追いかけてきた初音ちゃんに言われて辺りを見渡す。ここは
東館と西館の間にある広場、センタースクエアだ。とはいえ、決して周りに何
も無いわけじゃない。まして、ここは三宮のド真ん中には違いないのだ。
ここは何とはなだめないと…。

「は、初音ちゃん。俺の話を聞いてくれ!!あのソフトは俺のじゃないんだ」
「ああ〜ん?やかましいったい、耕一!!」
いいながら一歩一歩近づいてくる。そして、初音ちゃんは両手に気を溜めて一
気に撃ち出した。

 どっかーーーん!!

俺はその気弾をかわした。すると、当然のように俺の背後にあった自動販売機
を直撃、大破させた。
「ちぃ、あたしの真空波動拳をかわすとは…。耕一ぃ、許さんけんね!!」
初音ちゃんはダッシュで近づいてくる。

「わーっ!初音ちゃん、マジだって、本当だってば!!あれは浩之に頼まれたも
のなんだよ。『あかりに見つかるとまずいんでコーイチさん頼みます』って言
われて…」
「私が…どうしたんです、耕一さん?」
「ええっ…あかりちゃん?!」

いつの間にか出来た群衆の中に、赤い髪の女性がいるのに気が付いた。
彼女の名は神岸あかり。浩之の彼女だ。
「あかりぃ。久しぶりやのう。きさん、こげな所で何ばしょっとね」
「あら、初音ちゃん。こんばんわ」
「お?お…おう」
あかりちゃんはヤンキー状態の初音ちゃんにビビりもせず、平然と挨拶をかわ
す。

「ところで耕一さん。浩之ちゃんに頼まれた、私に見られるとまずいゲームっ
て何です?」
「あ、あかり…ちゃん。それはだねぇ…」

と、俺が言いかけたとき、さっきのゲーム屋の店員が恐る恐ると言った感じで
群衆を割って件のソフトを持ってきた。

「あのぉ、お客さん。ソフト忘れてますよ…」
ナイスすぎるなバッドタイミングだ、店員。
そして、俺が受け取る前にあかりちゃんがそれを奪い取る。

「ふーん、これが例のソフト…」

袋を破り去り、ソフトを眺めるあかりちゃん、いつしかその手に力がこもり、
CDケースに亀裂が入るのが見える。あかりちゃんはにこにこと笑顔を絶やし
ていないが、凄まじい殺気を辺りに振りまき始めた。おかげで初音ちゃんはヤ
ンキーモードを解除して俺の背中で小さく震えている。

「うふ。それじゃあ私、これから浩之ちゃんにこのソフト届けないといけない
から帰るわね」
「あ…ああ。ばいばい…」

俺と初音ちゃんは、呆然としたまま殺意を振りまいていたあかりちゃんを見送
った。
『浩之…すまん』
俺は心の中で浩之に詫びた。

・
・
・

「…えっと…。ごめんね、お兄ちゃん…」
「えっ?」
ふいに背後にいる初音ちゃんに声をかけられる。
「ごめんね、私、早とちりしちゃって…」
「いや、俺の方こそ。初音ちゃんに疑われるようなことをしたんだ。俺の方こ
そ謝るよ…」
いいながら初音ちゃんの頭を撫でる。
初音ちゃんに心配かけちゃったんだよなぁ。何かお詫びしないとなぁ…。
お。そういえば、今日はカプコンジェネレーションの発売日だっけ…。

「あ、そうだ。初音ちゃん、せっかくここまで来たんだ。1942買ってあげ
ようか?」
「19…42?」
「そう、1942。…って、初音ちゃん、どうしたの?」
ふと見てみると初音ちゃんは目に涙を浮かばせてる。
「1942いやぁぁぁ!!お兄ちゃん上手いからいやぁぁぁぁ!」

忘れてた。
昔、ファミコン版の1942を俺と初音ちゃんで二人用を遊んだことがあるの
だ。そのとき俺が1P、初音ちゃんが2Pだったのだが、俺が何気なく1コイ
ンノーミスクリアしてしまったのだ。
つまり、初音ちゃんは俺がクリアするまで何も出来なかったのだ。まさか、そ
の事が初音ちゃんのトラウマになっていたとは…。

「あう…。じゃあ1943にしよう。1943なら二人同時プレイ出来…」
「いやぁぁぁ!!大和怖いぃぃぃぃ」
初音ちゃんはその場にしゃがみ込んで泣き出した。

さらに忘れてた。
アーケード版の1943を、50円2クレジットのゲーセンでよく二人でプレ
イしたのだが、いくらプレイしても大和をクリア出来なかったのだ。ゲーマー
な初音ちゃんにとって、クリア直前でクリアできかったってのは凄い屈辱なん
だろう。

「な、ならば1943改だ。これならクリアでき…」
「ぐすん…。ショットガンがサギ臭いからいやだもん…」
泣きながらそう答える初音ちゃん。

ショットガン。これは1943では『敵弾を消せるけど最弱』と言われた武器
だったが、1943改では連射性能が向上したため最強の武器に生まれ変わっ
た恐ろしい武器だ。
おかげで、これさえあれば大和が雑魚に早変わり!…てな感じになるので、ゲ
ームとしてちょっと張り合いが無くなったのだ。

…って考えたら、初音ちゃんにとって19シリーズってあまりいい想い出ない
んだな。
じゃあ、19シリーズは止めよう。今日は他にもアレも出てるハズだし。

「こうなったら往年の名ARPGザナドゥだ!これならOKだろ?」
「お兄ちゃん、ザナドゥは発売延期になったっちゃけど?」
「ぬぅあにぃぃぃ!!」
俺は思いきり驚いた。

今日、初音ちゃんに黙ってゲーム屋に来たには、浩之にソフトを頼まれていた
のもあるが、実はザナドゥを買って帰って驚かせようって思っていたのだ。
それがまさか延期になったなんて…。
しかも初音ちゃんがそれを知っていたとは…。

 ひゅうぅぅぅ…。

夏の、じめっとした風が吹き抜けてゆく。

・
・
・

「お兄…ちゃん?」
心配そうに俺を見上げる。
「え…。ああ、大丈夫だ。一瞬呆然としただけさ」
「そうなの?」
「ああ、そうさ。じゃあ…、もう帰ろうか、初音ちゃん…」
「うん!」
こうして、脱力した俺は初音ちゃんと共に家路についたのだった。

<おしまい>
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どうも、「やっぱ昔のシューティングは面白いわぁ」のUMAです。

このSSは最初、『カプコンジェネレーション』と『ザナドゥ』を買いに行っ
たときの話を書くつもり…だったのですが、ザナドゥの発売が9月延期になた
ので、急遽先週買った『かなちゃんの完全吸血マニュアル』を絡めるべく、話
を全面的に書き換えしてしまいました。

なので、原型はあんまりありません(^^;;

#19シリーズとザナドゥなら、いつも並に濃いお話になったと思うのに…
#ザナドゥの方は、出たら書くつもりだけどね


ぢゃ、そういうこって。でわでわ〜(^^)/