「お母さん、初音ね、お願いがあるの」 あ、これ、ちっちゃい頃の私だ…。 「なあに、初音ちゃん」 にっこりと微笑んでるのはお母さん。 「あのね。お兄ちゃんが欲しいの!初音、お兄ちゃんが欲しいの!」 「え…。もう、初音ちゃん。無理言わないの。お姉ちゃんがいるでしょ」 「そうよ、初音。お母さんを困らせちゃダメよ」 千鶴お姉ちゃんがお母さんの側について、私をたしなめる。 「いやっ!お姉ちゃんなんか嫌い!初音、お兄ちゃんが欲しいの!」 あのころの私は、女だけの姉妹で、しかも末っ子だったせいもあって、『お兄 ちゃん』ってのが欲しかった。幼稚園の頃の七夕の短冊にも『おにいちゃんが ほしい』って願いを掛けたこともあった。 そして、小学校に入った年の夏休み。私の目の前に念願の『おにいちゃん』が 現れた。 ・ ・ ・ 「…耕一、お嬢ちゃん達に自己紹介しな」 「分かったよ、親父。えっと、耕一です、よろし…え?」 「わぁ、おにいちゃんだ!」 私は、五つくらい年上の『お兄ちゃん』にいきなり抱きついた。 それほど、あのころの私はお兄ちゃんが欲しかったんだね。 「ね、お兄ちゃん、初音と遊ぼ!ね、ね、いいでしょ?」 「え?えっと…」 あのときの、お兄ちゃんの困ったような驚いたような顔が可笑しかったなぁ。 「もう、初音。耕ちゃん、困ってるでしょ」 「こ、耕…ちゃん?」 お兄ちゃんが当時中学生の千鶴お姉ちゃんに聞き返す。 「うん。『耕一くん』だから、『耕ちゃん』だよ。ほら、初音。いいかげん離 れなさい」 そういって、千鶴お姉ちゃんは私をお兄ちゃんから引き剥がしたっけ。 でも、その後ずっっっっっとお兄ちゃんに遊んで貰ったのを覚えてる。 梓お姉ちゃんが耕一お兄ちゃんを誘って、近くの水門まで釣りをしにいく、っ て時も、私は一緒についていった。 そして、溺れかかったお兄ちゃんが水面から出てくるなり私達に襲いかかろう としたこともよく覚えてる。その時の私は何が起きたのかよく分からなかった けど、今なら『鬼の覚醒』だったと理解できるわ。 ・ ・ ・ 「いつまでも続くといいな…」 線香花火をしていると、お兄ちゃんが言った。 「…うん」 私はうっとりとした目のままで、コクンと頷いた。 あれ、これは高校生の頃の私…? このころになると、耕一お兄ちゃんを『お兄ちゃん』としてじゃなく、異性と して意識しだしてたんだよね。 「線香花火のことじゃないよ」 お兄ちゃんは、そう言って数日後には一人暮らしの生活に戻る寂しさを私に訴 えた。あのとき、お兄ちゃんは亡くなった叔父ちゃんの四十九日までの間、隆 山のうちに来てたっけ。 その後エルクゥの箱船…ヨークに入って、私はリネットの記憶を、耕一お兄ち ゃんは次郎右衛門の記憶を取り戻した。そして、お兄ちゃんと結ばれたのもあ の晩のこと…。 ・ ・ ・ ん…?まぶしい…。朝? 「…やぁ、おはよう。初音ちゃん」 目をうっすらと開けると、耕一お兄ちゃんが横で私をみて微笑んでいる。 「あ…お兄ちゃん…。おはよう…」 私は目をこすって周りを見る。どうやら、ここは現代の寝室みたい。 「?どうしたの、お兄ちゃん。私の顔になにかついてるの?」 お兄ちゃんは、じっと私の顔を見ている。 「いや。ただ、初音ちゃんの寝顔が可愛くてね。笑ったりして、どんな夢みて るのかな…って」 「え…」 言われて、私は耳までかぁぁぁっと赤くなる。 「もう、お兄ちゃん…」 私は照れながらお兄ちゃんの胸を叩いた。 「はっはっはっ。それより初音ちゃん」 「うん?」 「もう、俺のことは『お兄ちゃん』じゃないだろ」 「あ…」 そうだった。今日からは『お兄ちゃん』じゃないんだ。 「そうだったね、『あなた』…」 そう言って私は愛しい旦那様に口づけをした。 <おわり> ---------------------------------------------------------------------- どうも「初音ちゃんらぶらぶぅ」のUMAです。 今回のネタは、ちょっと遅くなったけど七夕です。 痕やった人なら知ってると思うけど、初音ちゃんが耕一を慕うのって七夕から なんすね。 とはいえ、先日別のネタのウラを取るために(笑)痕を再プレイするまで忘れて ましたが>儂(汗) 初音ちゃんの歳を書くと、最初のだだっ子(笑)なのが3〜4歳頃。耕一に会っ た頃が7歳(小学1年生)、花火してるのが15歳。そして、結婚したのが23 歳くらい(初音が大学を卒業するのを待って結婚)と想定してます。 本編に添ったストーリーなら、ヨークでの一件の後に真なるレザムの迎え(エ ルクゥ)との闘いがあるはずですが、その辺は割愛っす。 ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~