夢の発信地 投稿者: UMA
「ただいまー」
玄関から元気な声が聞こえる。梓が学校から帰ってきたのだ。
「おう、梓。お帰り」
「…耕一、もしかして一日中うちでゴロゴロしてたのか?」
居間に入ってくるなり、梓は呆れたように俺を見下ろす。
俺は寝転がったまま雑誌を読んでいたのだ。間違われても仕方がない。
「んー、そんなことはないぞ」
面倒そうに読んでいた本を横に置き、答える。
「そうは見えないけど…。ん、それって、『ドリキャス』でしょ?クラスの男
連中が騒いでたから知ってるわ」
梓が見る先には、俺が置いた雑誌があった。
そこには新型ゲーム機「ドリームキャスト」の記事が見開きで載っていた。

 …ドリームキャスト
 …『ドリ』ーム『キャス』ト
 …ドリキャス。
 うーん、一般的な略し方だなぁ。ちょっとは捻れよ、梓。

そう思いつつ、俺は別のことも考えていた。
『この位置だともう少しで見えるなぁ…』
と。

俺はもぞもぞと梓の方へ動く。当然寝転がったままで、だ。
「…耕一、何やってんの?」
「いや、もう少しで見えるんだ…」
「え…?」
しまったぁぁぁ!
自分で『スカートを覗きたい』ってのをバラしてどうする、俺!
「こ、こ、こ、耕一の馬鹿やろおーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
梓は左手でスカートを押さえつつ、右手で寝転がったままの俺の顔面に拳を叩
き込んだ。
「ぎゃぁぁぁ!」
梓の凄まじい一撃を食らって俺は気を失った。
「ふん!あたしはこれから夕飯の準備があるから!」
と、梓は去り際に言ったらしいが俺の耳には届かなかった…。





「…ん!」
「…ちゃん!」
ん…。誰だ…?誰かが俺の身体を揺すっている。
「…お兄ちゃん!」
「初音…ちゃん…?」
俺は目を開ける。そこには涙を流している初音ちゃんがいた。
「お兄ちゃぁぁぁん!!」
初音ちゃんは泣きながら俺に抱きついた。
「ど、どうしたんだよ。初音ちゃん?」
「うわぁぁぁん。生きてたんだね、お兄ちゃん!!」
生きてた…?
そうか、俺は梓の一撃を食らって居間でのびてたのか。
周りには鼻血とおぼしき血が飛び散ってる。血の海に沈んだ俺を見れば心配し
て当然か。
「大丈夫だよ、初音ちゃん。ちょっと凶暴な猿に殴られただけだから」
もう一度、大丈夫と言って初音ちゃんの頭を撫でてやる。
「お猿さん…?どうして、家の中にいたの?」
「さあ、なんでだろうね」
俺は初音ちゃんに支えて貰いながら起きあがる。



「あ、『ドルカス』だ」
初音ちゃんは、俺の横にあった雑誌を読んでいる。初音ちゃんが手に取ったと
き、さっき梓に殴られる前に見ていたページ、ドリームキャストの記事が開い
ていた。
「ドルカスぅ?」
俺は鼻にティッシュを詰めながら聞いた。
「うん、ドルカス。メーカー同じなんだし、電脳世界っぽくてかっこいいでし
ょ?」

 …ドリームキャスト
 …ドルームカスト
 …『ドル』ーム『カス』ト
 …ドルカス。
 ゲーマーらしい強引な略し方だなぁ。
 バーチャロイドと同じ名前なのもさすが初音ちゃんだ。

俺達がそんな会話をしてると、楓ちゃんも学校から帰ってきた。
「お帰り、楓ちゃん」
「お帰り、お姉ちゃん」
「…ただいま、耕一さん、初音」
楓ちゃんは廊下から俺達にあいさつをする。
「そうだ、楓ちゃんはこのゲーム機知ってるかい?」
俺は初音ちゃんが手にしてる雑誌に載ってるゲーム機を指さす。
こくん。楓ちゃんは小さくうなずいた。
「じゃあ、なんて呼ぶ?」
「…どきゃ」
楓ちゃんは小さくそう呟くとそのまま自室へと向かった。

 …どきゃ?
 …ドリームキャスト
 …『ド』リーム『キャ』スト
 …どきゃ。
 短いが、そこが楓ちゃんらしいような気がする。





その日の夕飯の時、自然と俺が居間でのびていたことが話題になった。
「…そうなんだ、いきなり暴れ猿に殴り殺されそうになったんだよ」
俺は鼻をさすりながら言った。
「あれはあたしのスカートを覗こうとした耕一が悪いんじゃないか!」
梓が俺を非難する。
「あれ?お兄ちゃんはお猿さんに殴られたって…。もしかして殴ったのって梓
お姉ちゃんなの?」
「そうだよ。耕一はあたしが殴ったんだよ。…って、耕一。『お猿さん』って
誰の事だ…!!」
「お前」
俺は間髪入れず言い返す。
「何だとぉぉぉ!!」
「まあまあ、梓の凶暴さは今に始まったことじゃないですから。いいじゃあり
ませんか」
千鶴さんがフォローを入れる。が、全然フォローになっていない。
梓の顔が引きつるのが分かる。
「そ、そうだ。千鶴お姉ちゃんは『ドリームキャスト』は何って略すの?」
初音ちゃんが険悪なムードを払拭するためにそんな話題を出す。
「え、ドリームキャスト?そうねぇ…」
そういって千鶴さんは静かに箸を置く。だが、『ビシィィーーーッ!!』とい
う凄まじい効果音が聞こえたような気がする。

 ・ ・・・ ・・・・・
「ま、まさか。千鶴さんッ…!!」

聞こえるハズのない効果音を聞いた俺は、脂汗をにじませながら千鶴さんに聞
いた。
だが、千鶴さんはそれには答えず、『バアアアーーーン!!』という効果音
(+何故か室内に旋風の舞う演出付き)と共に立っていた。
そして…。

 ・・・・ ・・・・ ・・・・
「それはッ…それはッ、これよッ!!!」

千鶴さんは一言一言を区切りながらポーズを取る。
そして、テーブルにいた全員が同じ効果音を聞いた。それは…

 ドッギャアアーーーン!!

という懐かしい効果音だった。

 …ドリームキャスト
 …ドリームギャスト
 …ドッギャアアーーーン。
 原型をほとんど留めていないようなところがさすが千鶴さんといった略し方
 だ。しかも、口で言わずとも分かるのが凄い。





そして、全員の時間は永遠にワールドのスタンドに支配された。千鶴さんを除
いて…。

「あれ?みんなどうしたの?」
千鶴さんはみんなが固まったことを不思議がっていた。

<おわり>
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どうも「セガの新型ハードネタ」のUMAです。

ネタ自体はDreamcastが発表したころに思いついたんだけど(その時はラストの
『ドッギャアアーーーン』は○NEの澪ちゃんでした)、気がついたら忘却の
彼方へ行っていた(笑)

#まあ、書きあがったんだからよしとしとこう>儂

そーいや、ファミ通読んでたら吉田戦車先生が男気溢れる『ドリャス』とか、
『バャリース』並に発音しづらい『ドャス!』という略し方を提言されてまし
たっけ。



じゃ、そういうこって。