ライバル 投稿者: UMA
ばしっ、どすっ、ばきっ!!

私こと松原葵は、母校の高校近くの神社で一人で稽古をしている。
藤田先輩はまだ来ていない。大学のゼミかなにかで遅れてるのだろう、と思っ
た私は、サンドバッグ相手に蹴りの練習をしていたところだ。

「はあ、はあ、はあ…。ん?」

一息つこうとしたとき、ふと賽銭箱の方に目をやると賽銭箱の近くに一人の女
性が立っているに気がついた。
「あれは…?」
見たことのない女性だ。自分もかなり童顔な部類だと思うが、その女性はそれ
に輪をかけて幼く見える。
どうやら人を待っているようだが、こんなところで待ち合わせというのも何か
変だ。
「ここを知ってるのって、私と藤田先輩くらいよね…。まさか、藤田先輩を待
ってるの…?…そんなハズないわよね。うん、気にしても仕方ないわ。練習再
開しよっと」
そう言って私は再びサンドバッグに向かった。

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・
・

「…ったく、なんでこんなさびれた神社で待ち合わせなのよ!藤井さんのセン
ス、信じられないわ!」
賽銭箱の前にいる私の名前は観月マナ。
藤井さんに『マナちゃんの高校近くの神社で待っててくれ』って言われて来た
んだけど、当の本人がまだ来ていない。
「…女の子を待たせるなんてサイテー!」
時間より早く来たことを棚に上げ、私はそうつぶやいた。

ばしっ、どすっ、ばきっ!!

そのとき、林の方から凄まじい打撃音が聞こえた。
「何?何の音?」
そう思い、反射的に音のした方角をみる。するとそこには、サンドバッグに手
をかけて肩で息をしている女性が見えた。
見たことのない女性だ。自分もかなり童顔な部類だと思うが、その女性はそれ
に輪をかけて幼く見える。
「今さっきの音…もしかして彼女が…?ってことは、こんなところで一人で格
闘技の練習?あんなんじゃ彼氏もいないわよね。うん、そうに違いないわ」
私は勝手にそう思うことにした。
「…でも、こんなところで『一人で』って訳ないわよね。やっぱ、相手がいる
のかしら。男かな?…まさか、藤井さん?そんなはずないわよねー」
藤井さんは格闘技ってのは出来そうにないから、まず間違いないわ。

そこへ、二人の男が現れた。浩之と冬弥だ。

『藤…』
奇しくも、葵とマナが声をかけたのは同時だった。
『え!?』
そして、驚いたように相手を見る。
二人は直感した。

 『まさか、この人、私の藤井(藤田)さんの…?いや、そんなはずないわ、藤
  井(藤田)さんは私を選んだんだもん。由綺(あかり)さんでなく私を…。
  と、いうことは、まさか、この人は新しいライバル?ならばここで倒さな
  いといけないわね!』

と。かなり短絡的な考え方だが二人が相手に敵意を抱いたのは確かなようだ。

ざっ…。

ファイティングポーズを取って、対峙するふたり。軽いフットワークで距離を
取る。何が起こったのか、よく分からなくても、二人が険悪なムードなのは傍
目にも分かる。
「あ…」
浩之が声をかけようとしたが、葵が片手でそれを制する。
「!」
その一瞬の隙を見逃さず、マナが先に仕掛ける。
助走してそのまま跳び蹴りを放つ。が、葵はこれを右腕でガードする。
「ちぃっ…ならば…!」
跳び蹴り後、着地したマナは即座にローキックを出す。
「つっ…」
ヒットしたようだ。さらにもう一発ローキック、ハイキックへつなぎ、最後に
左足で葵を蹴り上げる。
そして、打ち上げた葵を追いかけるようにジャンプしてパンチ、キックを繰り
出し、最後に炎を纏った旋風脚で地面にたたきつけた。

ざしゃあ…。

「くっ…、強い…この娘…」
流血した葵が立ち上がりながら呟く。いきなりのコンビネーションで葵が受けた
ダメージは凄まじいものがあったに違いない。
だが、彼女の眼は死んでいない。むしろ煌々としていた。強い相手と戦えたこと
に格闘家の血が騒ぐようだ。
「…ならば…私もそれなりの返礼をしないとね…」
葵は相手に背を向ける格好で立ち、気を練る。
そして…、
「はぁっ!」
気合い一閃、葵の目が金色へと変化した…。



「あ…あれは…。『モードチェンジ』?いつのまにあんな大技を…。しかもあ
れは…」
浩之が驚いたように呟く。
「ん?浩之、どうした」
冬弥が聞き返す。
「あ、ああ…。俺の予想が正しければ、あれは『柏木千鶴』にモードチェンジ
したんだ…」
「で?」
「つまり、地上最強の一族に変化したってことさ!相手の娘は…たぶん…死ぬ
ぞ…!」
「な、なんだと!?マナちゃん、逃げろっ!!」
冬弥が叫ぶ。
だが、相手に集中していたマナちゃんの耳には届かなかったようだ。



『あなたを…殺します…』
千鶴モードの葵はそう呟くと飛翔した。そして葵は右手の爪を振りかざして降
ってきた。

ずどーーーん!!

ガードで防げないと判断したマナはバックステップでかわしたようだが、地面
を割るほどの凄まじい威力だ。衝撃波をモロに受けてバランスを崩す。
その隙を見逃さず、葵は間合いを摘め、掴む。
「あ…」
マナが声を出した刹那、あたりがホワイトアウトする…。

どかどかどか…。
十数発の打撃音が瞬時に響きわたる。そして、あけぼのフィニッシュと共に勝
者の背に現れる「天」の文字。瞬獄殺だ。

・
・
・

「あなた…強いわね」
地面に伏したままマナは言った。
「あなたもね」
そう言ってとどめを刺そうと拳を構える葵。そして、一気に振り下ろす…。

だが、
「やめろ、葵ちゃん!もう勝負は着いてるじゃないか!どうしたんだよ、いつ
もの葵ちゃんじゃないぜ!?」
そういって葵を後ろから羽交い締めにする浩之。すると葵の瞳から戦闘色が消
えて、元の葵に戻る。
「大丈夫かい、マナちゃん?一体どうしてこんなことになったんだよ…?」
マナをかばうように葵の前に立ちながら冬弥は言った。
「藤田先輩…」と、葵。
「藤井さん…」と、マナ。
『え?!』と、葵とマナ。
再び驚いたように相手を見る。
「あのー、つかぬ事をお伺いしますが…、貴女が待ち合わせしてたのって…」
驚いたような顔をしながら葵がマナに聞いた。
「藤井さんよ。そっちこそ、練習の相手ってのは…」
「藤田先輩です」
「…」
「…」
しばし、沈黙が辺りをつつんだ。ざぁっと、風が木々を揺らす音が聞こえる。
『ぷっ』
そして二人は同時に吹き出した。
「あはは、そうなの?」
「うん、そうなの。うふふ…」
「えっ?どうしたんだ?葵ちゃん?」
急に笑い出した葵に浩之が声をかける。
「あ、ごめんなさい、藤田先輩。あはは…」

「何がどうなったんだよ、マナちゃん」
地面にうずくまりながら笑ってるマナを起こしながら冬弥は聞いた。
「うふふ、もう終わったから大丈夫よ、藤井さん」
「なにがなんだか…」

・
・
・

「あ、夕焼け…」
マナが呟いた。
「本当。綺麗ね…」
葵が真っ赤な夕日を見つめながら呟く。

それは夕焼けが綺麗な、夕暮れの出来事だった。

<おわり>
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どうも「せーしょんだなぁ(笑)」のUMAです。

マナちゃんの主人公のすねを執拗に狙うローキックを見て「葵ちゃんのハイキ
ックと対決したらどうだろう」ってのがこの話を考えたきっかけ。

そして、To Heartの浩之と、WHITE ALBUMの冬弥の名字が
どちらも「藤」で始まるってことに気がついたんで「よっしゃぁぁぁ!」って
感じで強引に結びつけました。

#丁度二人とも主人公を名字で呼んでいたのもラッキーだった

で、ローキックからの連続技といえば、「私立ジャスティス学園」っきゃない
よな(そうか?)、って考えから、マナちゃんはひなた。
葵ちゃんの方は、リュウ、ケン、ゴウキになれる「マーベル VS カプコン」の
リュウです。
ちなみに、モードチェンジは、強Pが千鶴モード、中Pがあかりモード、弱P
が葵モードとなってます。このモードチェンジの設定は本当は別のSSの設定
だったんですけどね(^^;;

なお、某T社の○NEの主人公(耕平)と痕の主人公(耕一)が同じ「耕」で始ま
るんで、同じようなシチュエーションのSSを書こうか、と考えたけど鬼の一
団相手だと勝負にならないんでボツりました(笑)

#書き終わって、葵ちゃんにハイキック出してないことに気づいた…

ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~