赤いアルバム 投稿者: UMA
…今日から、この新しい部屋で新しい生活が始まる。
引っ越しの荷物の片づけも、もう少しで終わるし。
親の気まぐれとはいえ、どうして大学一年の秋に引っ越しなんかしなきゃなん
ないのか、まったく理不尽な話だ…。
まあ、早いところ済ませちゃおう。

ピンポーーーン。

誰か来た。
部屋、散らかりまくってるんだけどな。

「ちょっと待って下さい」
俺は人一人が入れるくらいの空間を急いで作ってから玄関に向かった。
誰だろう…?

がちゃ…。

「おはよう、浩之ちゃん…」
「あ、あかり」
来訪者はあかりだった。
「ちょっと…お話があるんだけど…いい?」
「え?あ、それじゃ、中に入って。…散らかってるけどさ」
「うん」

俺に優しく笑いかけてくる彼女は、神岸あかり。
…俺の恋人だ。
高校の時から…いや、小学校入学前からのつきあいがある。

なんとなくつきあってて、『恋人』って雰囲気になってた。
なんていうか…一緒にいて居心地が良かった…っていうか…。元々幼なじみだ
った事も影響してるのかも知れないが。
そして、同じ大学に進んで、今でもこんな風に続いてる。
その頃からあかりはなんかの養成校に通ってるみたいで、高校の授業が終わる
と、すぐに帰ってしまう生活を送ってた。
…学校の中でも美人な方だったけど、その『つきあいの悪さ』みたいのが、校
内の男子のオファーを遠ざけてた理由だった。

「ふふふっ。どうしたの? 急に静かになっちゃって?」
「え? ああ、いや…」

こんなあかりを俺は、犬…もとい、妹みたいだなって思う。
恋人として不足だっていうんじゃなくて、なんかつい守ってあげたくなるって
いうか…。
見た目に可愛い系だってのは、もちろんあるけど、でも、それ以上にあかりっ
てどこか頼りない感じがする。
なんだか、一緒にいてあげないと心配っていうか…。
まあ、俺の勝手な思いこみなんだろうけど…。

「あ、それよりさ、話ってなんだ? …こんな急に?」
そうだ。
大学が始まってからだって会えるのに。
「うん…。あのね…。あの、私ね、デビューすることになったの…」
「えっ…?」
「柏木耕一さんって知ってるでしょ?柏木ジムの。柏木千鶴さんをデビューさ
せた」
「う、うん…」思わず答えたが『柏木』って人を俺は知らない。
「そこから、柏木さんのセコンドでデビューすることに決まったんの…」
「ほんとに…?」
「うん…」
「すごい…! すごいじゃないか、あかり!!」
…でも、あかり、なんだか俺ほどにはしゃいでない…。
「でもね…、…だから、なんか、これからあんまり一緒にいられる時間とか…
なくなっちゃうかもね…」

「あ…」
そうか…。
『俺だけのあかり』が、無くなっちゃう…?

「…ちょっと、寂しいな…」
せっかく一緒の大学まで進めたのに、どうにか自分たちの時間が確保できるよ
うになったのに…。
…あかりの夢が叶ったんだから、ほんとは素直に喜ぶべきなのに、なんだか急
に、大学に来てからの楽しい半年が思い出されて。
これまでの想い出と、これからのあかりの輝かしい未来(柏木ジムてよく知ら
ないが、間違いないことだろう)を比べるのも、ちょっと価値の違いすぎる比
較だとは思うけど。
「うん…」
あかりは少しうなだれる。
俺だってせっかく叶った夢をふいにしたくないって気持ちは持ってる。
あかりのがんばってる姿を見てきた分、多分、あかりに負けないくらい。
…だけど、こんな複雑な気持ちだ…。
でも、せめて、あかりのデビューを、俺なりに祝ってあげよう…。
「だけど、おめでとう。あかり。…ちょっと寂しいけど、でも、やったな」
俺はあかりの髪を軽く撫でる。
「うん…」
そういって俺の手を取って反対側の壁に投げ飛ばす。

ぶん…げしっ!

「…大丈夫?浩之ちゃん…」
壁にたたきつけられて、逆さまになった俺を心配そうに見るあかり。
「…ああ、大丈夫だ。…ところであかり、デビューってのは…」
「うん。『エクストリーム』だよ。言わなかったっけ?」
「…聞いてないぞ」
「だまっててごめんね、浩之ちゃん。お詫びに私の必殺技見せてあげるね」
「い、いいってあかり…。って人の話を聞けぇぇぇ」
あかりは俺の台詞を無視して『気』を両拳に溜め、その気弾を一気に俺に向け
て照射した。

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そして、2月の格闘祭では「金色の瞳・柏木千鶴」が優勝、「赤毛の殺人鬼・
神岸あかり」が準優勝を飾ったという。
ちなみに人間代表の松原葵は善戦むなしく初戦敗退した、と加えておく。

<おわり>
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どうも「ネタばれじゃないよね(汗)」のUMAです。

今回のネタはリーフさんのホワイトアルバムです。

ゲームの冒頭部分がLVNっぽかったんで、なにげなく「由綺をLVNキャラ
に置き換えたら…」と考えた訳です。安直やね、儂(^^;;

#冬弥と由綺の会話は浩之とあかりの会話っぽくなるように台詞に手を入れて
#ます


ぢゃ、そういうことで。でわでわ〜(^_^)/~