年末特番その2・戦い 投稿者:UMA(うま)


「あのぅ…」
HMX−12マルチが私に話しかけてきた。

先日、私の元に一通の招待状が届いた。差出人は「HByH実行委員会」と書
いてあった。
「Heart By Heart」通称HByHは今、最も熱い格闘技で、禁
じ手無し、武器の携帯を許可する、というハードな異種格闘技だ。
そして、今日がその試合の日で、今は控え室で一人でいる。そこへ一回戦の対
戦相手であるマルチがやってきたところだ。
同封の対戦相手の資料通り、彼女はモップを装備している。「グライディング
ラム」は非常に強力そうな技だが「聖なる行水」よりはマシだろう。

「あ、あのぅ」
私が返事をしないので、マルチがもう一度声を掛ける。
「何?対戦相手に何の用?」
「あ、あの、すいません。ただ、資料に書いてあった『殺意の波動』って何な
のか知りたかったもので…」
「はぁ?殺意の波動??」
私はマルチが持っていた資料を奪った。一通り目を通した私は、驚いた。
「…なに、これ?」
資料によると私は「殺意の波動に目覚めた八極拳使い」になってる。しかも必
殺技が「崩拳から鷂子穿林、踏み込んで鉄山靠」になってる。
…鷂子穿林の後、私なんかやったか?私が出来るのは「崩撃雲身双虎掌」のは
ずだけど?
「あのぅ、どうかなさいましたか」
「い、いや何でもないわ。ただ、書いてある内容に目眩がしただけだから」
「目眩…大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。それより、あなたもこれ読んでみて」
そう言って私の持つ、彼女の資料を渡した。
「はい。えっと…。わぁ、私って汎用人型決戦兵器だったんですかぁ。メイド
ロボだとばかり思ってましたぁ」
一通り読み終えたマルチが言う。
「め、メイドロボぉ〜?」
「はい、HMシリーズは来栖川電工のメイドロボですよ」
そういえばそうだ。資料を鵜呑みにした私も悪いが、この脚色200%の資料
を作った大会本部はもっと悪い。
私は時計を見た。まだ試合には時間があるわね…。
「ちょっと私大会本部に文句言いに行くけど、マルチ…ちゃんはどうする?」
「はい、私も同行します」

・
・
・

大会本部事務所へ私とマルチちゃんが着いた頃には他の選手も集まっていた。
事務所では橋本先輩と矢島先輩が選手の応対におわれていた。
「なんでうちが『売れない漫才師の片割れ』やねん!」
「『犬』って何?『○かりハウス』って何?」
「『投げた新聞はその分時給から引く』って洒落になってないんだけど」
「…………」
「ワタシ、すないぱぁ。適切な表現ネ!」
「『パチもん超能力者』って私のこと?」
どうやらみんな散々書かれてるみたいだ。あれ?長岡先輩の姿が見えないけど
どうしたんだろ?
「神岸先輩、長岡先輩はどうしたんですか?」
「志保?そういえば見ないわね。こういうときは真っ先に怒鳴り込んでくると
思うんだけど」
すると、事務所奥の扉から長岡先輩が現れた。どうやら長岡先輩は選手ではな
く、事務員として参加しているらしい。
「おやおや、皆さんお揃いでどうしました?」
「どないもこないもあるか。これ見い」
保科先輩が自分の資料を志保に見せる。
「これ?私が書いた対戦相手のプロフィールじゃん。これがどうかしたの?」
「ここに書いとる内容が嘘八百や、言うとんのや」
保科先輩が詰め寄る。
「嘘なんて失礼ね。この世界に名だたる天才ジャーナリストの長岡志保様が苦
労してみんなの事を分析・編集した資料じゃないの」
「でもみんな、あることないこと書かれて、対戦相手に変な誤解されてんねん
で」
「あることないことって…。私はないことは書いてないわ!」
長岡先輩がきっぱりと断言する。
「あのぅ私、兵器じゃないんですけどぉ」
マルチちゃんが言う。そう、マルチちゃんはメイドロボであって決戦兵器では
ない。まして、使徒なんていう得体の知れない敵と戦ってもいない…と思う。
「そうだったかしら?」
すっとぼける長岡先輩。
「これで証拠もできたな、覚悟しいや。みんな、やっちゃって!」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
全員が無言で長岡さんに近づく。そして、ホワイトアウト…。

どか、ばき、げし、ごつ、ぽか、ぱん、わん、びし、
きゃいん、ぽき、ぐしゃ、ごすっ、ぺし、ぶし、どすぅ!!!
カカーーーーーーッ!!

おおぅ、あけぼのフィニッシュだ!当然、琴音ちゃんが背中を向けてポーズを
取っている。
「あの、滅殺です…」

・
・
・

「…実は、ある人物に脅されてて…」
捕縛された長岡先輩が自供する。
「誰にや?言うてみい?」
取り調べは保科先輩だ。
「そ、それは…」
口ごもる長岡先輩。
「早よ、吐いて楽になりい。国の親御さんも泣いてんで。ほれカツ丼や。これ
でも食って元気だし」
保科先輩は神岸先輩の手作りカツ丼をどこからともなく取り出した。それに箸
を付けようとした途端、長岡先輩が泣き出す。刑事ドラマの定番だ。
「ううっ、刑事さんっ!!私を脅したのは…ぐふっ!」
「長岡さん?」
自供しようとした途端、長岡先輩は何者かの攻撃により倒れた。
…これはねずみ花火の燃えかす?
「!」
周りを見渡すと一人の女性がいた。ぱっと見て筋骨隆々なその女性の身長は、
170cm弱といったところか。
ザシャアアアアアッ!!!という効果音を伴ったその人物は首から上、より正
確には鼻から上がベタで塗られてよくわからない。
これはちょっと前に某少年漫画でよく使われていた手法で『とりあえず新キャ
ラは出したけど詳細は不明』っていう時に使うエフェクトだ。実際、某漫画で
は最初出てきたときと、実際にそのキャラが活躍する時とで、身長はおろか体
型まで変わるという凄まじいこともあったようだ。

「あ、あの娘は…!?」

つづく!!
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どうもUMAです。
今年最後のネタは、Heart By Heartです。
いきなり現れた謎の人物、ゲームをプレイした人にはネタばれでしょうが、ラ
スボスの彼女です。

ってな訳で、今年もいろいろありましたが、今年はこれで打ち止めです。儂の
拙い駄文にお付き合いいただきましてありがとうございました。
また来年お会いしましょう!みなさま、よいお年を。

#儂はこれから新幹線に乗って福岡に帰ります。
#戻ってくるのは5日の予定です。

でわでわ〜(^_^)/~