血その3 投稿者:UMA

「セッ○ス」
開口一番、楓お姉ちゃんはそう言った。
「楓、それって新しいギャグ?」
梓お姉ちゃんが言った。どっと会場がわく。

今、私たちはガディム討伐を祝っての宴会を鶴木屋旅館で催している。
誰が始めたか覚えてないけど、隠し芸大会が始まって、みんな代わる代わる芸
をしている。マルチちゃんの水芸が終わって、今は楓お姉ちゃんが舞台に上が
ったところだった。

楓お姉ちゃんは、放送禁止用語を連呼し始めた。
「あれは毒電波で『心を壊された』んだ!」
祐介さんが言った。が、沙織さんが口を挟む。
「え〜、でも月島さんたちは…」
そう、月島兄妹はさっきの芸『電波でチャット』を始めたまま二人の世界に入
ったままだった。これはハタからは何をやってるか分からないという素晴らし
い芸だ。
「それともぉ、祐くんが壊したの〜?」
「ち、違うよ。でも今の楓ちゃんって例の事件の時の太田さんの症状に似てる
んだ」
「ふ〜ん」
「『ふ〜ん』って、あれ?沙織ちゃん、君顔真っ赤だよ?」
「だあってぇ、祐くんと一緒だも〜ん」
そう言って沙織さんは祐介さんに抱きついた。ちなみに沙織さんはここまでに
ビール大ジョッキで3杯、日本酒が大徳利で5本はあけてる。単に祐介さんが
いるからではないのは周りに散乱している空のジョッキ類を見れば一目瞭然だ
った。

「毒電波で無いとしたら…まさか奴らに操られて…!?」
耕一お兄ちゃんが言った。全員に緊張が走る。奴らはもうこの世界にはいない
はずだ。そんなはずは…。
「楓お姉ちゃんは、あれを食べたんだよ」
そう言って私は舞台の袖にあったあるものを指さした。
「あれは…鍋!?」
そこには、さっき千鶴お姉ちゃんが演ろうとした『おねえちゃんの料理教室』
で使う予定だった鍋がぐつぐつと湯気を立てていた。さすがにそれはまずいっ
てことで、耕一お兄ちゃんが千鶴お姉ちゃんを説得した、幻の芸だ。
柏木家にゆかりのあるものなら一発で「毒」と分かる料理で、普通なら食べな
いハズ。
「まさか、楓ちゃんはあれを…?」
「うん。千鶴お姉ちゃんが強制的にね」
強制的に。力づくではないが、千鶴お姉ちゃんが「食べて」って言うのは「鬼
の力で殴られるのと、私の手料理食べるのと、どっちがいい」って言ってるの
と同じなのでシャレになってない。

楓お姉ちゃんの暴走は続く。ひとしきり放送禁止用語を連呼した後、今度は破
壊活動を始めた。楓お姉ちゃんの目が据わってるのが怖い。
手始めに、近くにいたかおりお姉ちゃんを『むんず』とつかむと、そのまま梓
お姉ちゃん目がけて放り投げた。
「あずさせぇんぱぁぁぁい」
「げぇっ!楓、あんたわざとやってない!?」
その問いに楓お姉ちゃんは答えず、ただ『けけけ』とだけ笑った。怖い…。
どさっ!かおりお姉ちゃんはそのまま梓お姉ちゃんに抱きついた。
「あずさせぇんぱぁい、かおり、もう駄目ですぅ」
「だーっ、めちゃめちゃ元気そうに言うなー!!」

「そ、そうだ、瑞穂ちゃん、瑞穂ちゃん」
僕(祐介)は沙織ちゃんに抱きつかれたまま、反対側に座っていた瑞穂ちゃん
に声をかけた。
「楓さんを止める方法、ちょっと調べてみて」
「うん…」
瑞穂ちゃんは、僕と目を合わせないようにうつむいたまま答えた。
「…分析完了。現在、柏木楓さんは柏木千鶴さんの料理を食用したことにより
暴走しています。有効な対処方法は、特にありません。食材についてはセリオ
さん経由で来栖川のデータベースへ検索しています」
瑞穂ちゃんは赤外線通信用のPCカードを持って、セリオさんに向けてる。妖
しい赤外線でデータを送受信…どっかのネットのオフ会のLAN交パーティみ
たいだな、と僕は思った。
「対処方法が無いってことはあのまま体力が無くなって倒れるのを待つしかな
いってこと?」
「はい。でも楓さんの場合体力がハンパじゃないですから…」
「たしかに…」
耕一さんをはじめ、柏木家の四姉妹は鬼の血を引いてるそうで、肉体的には一
般人の数倍、いや数十倍は頑丈に出来ている。
「じゃあ、俺の電波で止めるってのは?」
「ダメです。今の楓さんに電波を照射すると、鬼の力と千鶴料理に干渉してし
まい、この温泉街に高出力の電波が拡散してしまいます」
あー、毒電波ENDみたいになるってことね。それはまづい。
「あ、食材の検索が終了しました。…あの鍋に入ってる食材は水と調味料以外
は全てデータにありませんでした」
「え、そんな馬鹿な?じゃあ、あれは人参にみえるけど、違うの?」
僕は鍋から覗く赤い野菜を指さした。
「DNAレベルで分析すると人参というより豚に近いんですけど。こんな食べ
物はデータベースには存在しません」
恐るべし、千鶴さん。既存の食材を使っても絶対にまともな料理にならないと
は。耕一さんも大変だなぁ。

「あかり、おまえ電刃波動拳くらい撃てたよな」
俺(浩之)は唐突に言った。
「え?浩之ちゃん、何言ってるの?」
びっくりして聞き返すあかり。
「電刃波動拳を最高に溜めて撃てば、楓ちゃんもピヨるハズだ。いけ、あかり」
「ちょ、ちょっと、浩之ちゃん!?」
あかりの背中を押す浩之。
「私、電刃波動拳なんて撃てないわよぉ!!」
「そうだっけか?」
「そうよぉ…」
あかりは泣き出しそうだ。ちょっと罪悪感…。
「悪い。冗談のつもりだったんだ…うん?あかり?」
「…ひろゆきちゃんの…」
そういって構えるあかり。両拳の間に気が集まる。
「ばかああああああああ!!!」
一気に放出される気弾。一直線に浩之を襲う。
「ぐはあああっ」
薄れゆく意識の中、あけぼのフィニッシュを見ながら俺は思った。あかりが撃
てるのは真空波動拳だったんだ、と。

「なにやら、宴会場が騒がしゅうございますな」
と、長瀬。
「そうね。何かあったのかしら」
と、私(綾香)。
「…………」
と、芹香姉さん。え、柏木楓さんが暴走した?何のことかしら。
「…それはそうと姉さん、本当にそれで芸やるの?」
…こく。
姉は真っ黒なローブに真っ黒な三角帽子、手には奇怪な杖と怪しい魔導書を持
っており、どっからみても『魔法使い』な格好だ。まあ普段からオカルトな姉
だからコスプレなのか普段着なのか区別しづらいところはあるけど。
「まあ、いいわ。そろそろいかないと終わっちゃうものね」
「左様でございます」
「…………」
そして、3人が宴会場に入るとそこはパニックになっていた。

「うらあああぁ!!」
楓ちゃんは来栖川さん達を見つけると、俺(耕一)の制止を振り切って走りだ
した。
「ぼてくりこかすぞ、コラ!!」
楓ちゃんがそう叫ぶと手のひら型の炎が巻きあがった。
あれは…保科さんの『炎のツッコミ』?たしかに炎が出ているがどう聞いても
博多弁だぞ?
轟音をあげながら手のひら型の炎が芹香さんを襲う。が、
「ぬんっ!」
来栖川家の執事、長瀬さんが…
「セバスチャンでございます、柏木様!」
…セバスチャンが体を張って防いだ。
「お嬢様は私が守…」
さすがのセバスチャンでも炎属性の攻撃ではひとたまりもない。
楓ちゃんの攻撃は続く。
だが、もうセバスチャンはいない!!
「…………」
芹香さんは逃げずに、地面に杖で何かを描いてる。
「先輩っ!逃げて下さい!」
いつのまにか回復した浩之が叫ぶ。だが、芹香さんはちらっと浩之を見ると再
び何事もなかったかのように何かを描き続けた。
「…まさか、魔法陣?」
どうやら浩之の考えた通りのようだ。一通り魔法陣を描き終えた芹香さんは何
かつぶやいた。
…え、トカゲ○尻尾?それは別の意味でまづいんじゃ…。

ごうっ!

浩之の心配をよそに呼び出される火蜥蜴。だが、あらぬ方向に飛んでいった。

「きゃああああああああ」

隅っこでタッパに料理を詰めていた理緒ちゃんに直撃した。まあ、属性を考え
るとこれ位の攻撃じゃくたばらないとは思うが。
そのときだった。物陰から誰かが楓ちゃんに飛びかかったは。
「えい、当て身」
千鶴さんだ。

・
・
・

「…こんなこともあろうかと、隠れててよかったわ」
気を失った楓お姉ちゃんを抱えたまま、千鶴お姉ちゃんが言った。
「ほう、『こんなこと』とは『自分で作った料理を食べた妹が暴走して放禁用
語を連呼したり破壊活動に従事すること』を言うのか。さすが偽善者と称され
るだけはあるな」
あ、その言葉は…。柳川刑事さんが禁句を口にした。千鶴お姉ちゃんの周囲の
気温が一気に絶対零度まで下がったのが分かる。
「柳川さん…誰が『偽善者』ですって…?」
殺気を全開にして千鶴さんが柳川さんに聞く。
「それは…」
『お前だ』と言いたかったようだが、千鶴お姉ちゃんに睨み付けられて言葉に
ならなかった。
「だ・れ・が・ぎ・ぜ・ん・しゃ・で・す・っ・て」
さらに詰め寄る。
「だ、だから…。か、柏木耕一ぃ!何とかしてくれ!!」
柳川刑事さんはひどく狼狽していて、いつものクールな『狩猟者』と同一人物
とは思えない。
「そうは言っても…なあ」
「うんうん。柳川、アンタが全面的に悪い」
耕一お兄ちゃんと梓お姉ちゃんが口をそろえる。
「ひぃぃぃぃ…!」
さすがの『狩猟者』も、千鶴お姉ちゃんの眼力(というかガンそのもの)には
弱いようだった。

終劇
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どうも、UMAです。

血その3、完結編です。こないだまでの真面目路線が一変していつものノリに
戻っていますです。まあ宴会ネタだからいいか(よくないかも…)。

小説コーナーが、トップページからダイレクトにアクセス出来るようになって
る!リーフ様、感謝致します!!