真マルチパワーアップ計画 投稿者:UMA

「ご主人様。昨日私、研究所にメンテナンスに行ってきたんですけどぉ」
靴を履きながらマルチが話しかけてきた。
量産型のハードにプロトタイプのソフトを載せるといろいろと無理があるらし
く、だいたい週に1、2回は研究所に行って動作チェックをしてもらってる。
「ああ。そうだったな」
俺も靴を履きながら答える。
「そのときですね、ぱわーあっぷ、ってのしてもらいました」
「パワーアップ?なんの?」
「えっとですねぇ、長瀬主任がいうにはですねぇ『運動能力の向上』だそうで
すよ」
「運動性能ねぇ…」
改めてマルチを眺めたが、外見上はそれといって変化はない。パワーアップっ
て言っても、ソフトのチューニング程度だろうな。
靴を履き終えた俺とマルチは、ドアを開けて外へ出た。

うーん、いい天気だ。ぶらぶらと散歩するにはぴったりだぜ。そういえばマル
チが運動性能がアップしたって言ってたな。一丁調べてみるか。
「マルチ。運動性能がアップしたんなら、俺についてこれるよな?」
マルチと並んで歩いてた俺は、そう言って急に駆け出した。
「え?え?え〜??」
マルチはよく分からない様子で立ちすくんでいる。

たったったっ…。

しばらく走ったが、一向についてくる気配がない。パワーアップしてもマルチ
はマルチか。
と、そのとき、一陣の疾風が俺の横を駆け抜けていった。
「…あの髪は…マルチ?」
そして一瞬遅れて来たものすごい衝撃波で吹き飛ばされそうになりながら、ド
ップラー効果付きの女の子の悲鳴にも似た叫び声を耳にした。
「こ゛し゛ゅ゛し゛ん゛さ゛ま゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛と゛め゛て゛く゛だ゛さ゛
い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛」
やはり今の疾風の正体はマルチのようだ。
だが一寸まてよ?マルチがこんなに足が速いハズがない…。
あ、これが例の「運動能力の向上」って奴か?0○9も真っ青だぜ。衝撃波で
崩壊した道路をマルチを追って走りながら、俺はそんなことを考えていた。

走っていくと、進路上にあるコンクリートの壁に、ギャグアニメのような人型
の穴が開いてるのを見つけた。近づいて穴を覗くと、奥には気絶したマルチが
いた。
「マルチ!!」
「・・・・・」
呼んでも返事がない。俺はマルチを穴から引っぱり出すと気絶したマルチを抱
えて近くの公園に移動した。

「う、うーん…」
「大丈夫か、マルチ?」
公園のベンチで介抱する俺。
「あ…、はい…。でも、まだちょっと頭がぼぉぅっとしますぅ…」
たしかに顔色があまりよくないな…。
「ったく。長瀬のおっさん、何考えてるんだ?トロいマルチにいきなり音速の
壁を越えるような物付けて」
「長瀬主任は、「これは加速装置と言って、とても足が速くなるんだよ」って
言ってくれてたんですけど…。ぐすっ、使いこなせない私がいけないんですね
…」
マルチは泣き出しそうになる。
「だぁぁ、マルチは悪くない!悪いのは長瀬のおっさんだ!!」
そうだ。そうに違いない。そうに決めた。

そして次の日、俺とマルチは来栖川エレクトロニクスの研究所にやってきた。
長瀬のおっさんに文句を言うと、二つ返事で加速装置をはずすのを了承しても
らった。なんかあっさり話が進みすぎて怖い気がするが…。

その後、長瀬主任とマルチは工作室でトンカントンカンやってたが、しばらく
して「改造中」のランプが消灯した。やっと終わったようだ。白衣の長瀬主任
に連れられて、マルチが工作室から出てきた。
「ご主人さま〜、加速装置とってもらいましたぁ」
「おう、そうか」ったく、手間かけさせやがって。
「かわりにぃ…」
「うん?」イヤな予感…。
「右腕にろけっとぱんち付けてもらいましたぁ。護身用だそうですよぉ」
「だあああぁぁぁ!!!おい長瀬のおっさん!!」
俺が長瀬のおっさんをにらみつけると、おっさんは「やれやれ」といった感じ
でくいっと眼鏡を直すと説明を始めた。
「他にも左腕にはサイ○ガン、右足にはバズーカ砲、左足には大型ミサイルポ
ッド。ついでに両手首は十徳ナイフだ。これだけの装備があれば、「いざ」っ
てときに十分戦えるだろう?」
…その「いざ」ってどういう時だ?その疑問を口に出そうとした、ちょうどそ
のとき、構内アナウンスが流れた。
「緊急放送、緊急放送。雨月山方面で鬼、出現。総員第一種戦闘配備」
…え?鬼??戦闘配備???
状況を把握していない俺に向かって長瀬のおっさんは言った。
「「いざ」って時だ」
「なんぢゃそりゃあああぁぁぁぁ!!!」

…そして俺とマルチは偽善女率いる鬼との戦いに巻き込まれることになった。

終劇

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お初に(一部除く)お目にかかります、UMAです。

簡単に作品紹介でも。

作品:真マルチパワーアップ計画
マルチシナリオのその後、ってやつ。マルチが浩之のことを「ご主人様」と呼
称しているのはそういう理由です。
マルチが、長瀬主任から届けられたDVD(儂は此を「真マルチ起動DVD」
と呼称)で目覚めてからだいたい一ヶ月経った頃のお話です。
本当は今日、明日で推敲して、明日アップしようと思っていたが、明日は初音
ちゃんを保護するという最重要課題の為、急遽今日書き上げたという(^^;
だから、後半やたらと展開が早いわ、唐突に「鬼」がでてくるわ…。
嗚呼、文才がほしいわ(T_T)