「初音ちゃん、いる?」 「おう、耕一か!まぁ入れ」 やっぱり、というか、本当にヤンキーなのね…。 俺、耕一は今、初音ちゃんの部屋にいる。おっと、正確には「初音ちゃんのい る病室」に、だ。 何故、初音ちゃんが病院にいるのか。それを俺が知ったのは、ほんの1〜2時 間ほど前のことだ。 ・ ・ ・ 2時間ほど前、俺は柏木家の初音ちゃんの部屋の前にいた。 「初音ちゃん、いる?」 ノックをするが返事がない。不審に思いつつドアを開けると部屋の中は無人だ った。 「あ、耕一。初音なら今日は居ないわよ」 偶然通りかかった梓が言った。 「え?もう、学校から帰ってきてる時間だろ?…ん?「今日は」?どういうこ とだ、梓」 「初音は今、入院してるんだ。…って言ってなかったっけ?」 「…初耳だぞ」 俺はついさっきここ、柏木家についたばかりだ。梓が煎れてくれたお茶を飲ん だ時以外、ほとんど会話もしていない。 「で、何が原因なんだ?」 「昨日喰ったケーキが原因らしい」 「ケーキ?なんだ、食あたりか何かか」 ちょっと安心する俺。 「それが、ただのケーキじゃないんだ…」 「?」 「その…、千鶴姉が作った『もの』らしいんだ」 まさか…。いや、千鶴さんの料理ならありえるかも。 「で、でも、千鶴さんの料理と分かったら食べないんじゃ…」 「たぶん『このケーキは梓が作った』って千鶴姉に言われて、安心して食べた んじゃないかな」 千鶴さん、そうまでして殺人…もとい食べさせたいんかい! 「ってことは、まさか、また…?」 「ああ。今回も性格が変化してる」 「やっぱし…。また、『セイカクハンテンタケ』?」 「いや、今回は『セイカクヤンキータケ』だ。図鑑の128ページに載ってる やつさ。まあ、症状としてはこの間の騒ぎと同じだけどな」 ・ ・ ・ 「…いち!耕一!」 ベッドの上にヤンキー座りした、初音ちゃんに呼ばれる。 「あ、ああ。なんだい、初音ちゃん」 「『なんだい』じゃねーよ。何しに来やがった?俺に会いにか」 「梓に初音ちゃんを看て来いて言われたんだ」 「ああ、乳でか女な。くそー、あのアマ。一人で胸の栄養取りやがって。おか げで妹の俺の胸が育たねぇじゃねえか!」 …この発言、やっぱし『セイカクハンテンタケ』じゃないのか? 「と、とにかく。元気そうでなによりだ…」 「まあな」 「ああっ!!あんなところに美優里ちゃんが…!」 俺は不意に窓の外を指さして叫んだ。 「ああん?どこだ」 そう言って窓の方を向く初音ちゃん。当て身を当てるチャンスだ! 「どりゃ!」 肩口から体当たりをする技、某婆ちゃんファイターの鉄山靠を繰り出す俺。 しかし、初音ちゃんは軸ずらしで回避した。 「バカめ。当て身は偽善女の時にやられたからな。学習済みだ」 ちっ。同じ技は通用しないか…。ならば、キャッチだ! 「あ…」 よっしゃあぁぁぁ!捕まえたぁぁぁぁ!! 「くそっ!離せ、離さねぇか!」 でも俺は離さない。 「離せぇぇぇぇ!!」 「…初音ちゃんは俺のこと、嫌い?」 「ああん?何言ってんだ、耕一?」 「嫌い?」 「そんな訳…ねぇよ」 「じゃあ、好きなんだ」 「あ、ああ…」 そういって顔を赤らめる初音ちゃん。 「俺も好きだぜ」 ぎゅっと初音ちゃんを抱きしめながら俺は言った。 「で、でも。今の俺はこんな性格だぜ?それでもいいのか」 「ああ。初音ちゃんは初音ちゃんだろ?600年前のリネットも、いつものか わいい初音ちゃんも、今の初音ちゃんも、みんな同じ初音ちゃんじゃないか」 「こう…いち…。耕一お兄ちゃぁぁぁん」 俺の胸の中で泣き出す初音ちゃん。どうやら、いつもの初音ちゃんに戻ったみ たいだ。 ・ ・ ・ 「…そう言えばお兄ちゃん、今日、家に来たって言ってたよね。何か用事があ ったの?」 初音ちゃんはベッドに寝たまま話しかけてきた。 「あ、忘れるところだった。バレンタインのお礼をしようと思ってさ。ホワイ トデーだろ」 「お礼なんていいのに…」 初音ちゃんは困ったような嬉しいような顔をする。 「お礼をしなきゃ俺の気が済まないんだ。はい、初音ちゃん」 そういって、鞄から包みを取り出す。 「うわぁ、お兄ちゃんありがとう!ねぇ、開けていい?」 「ああ、いいぜ。開けてみな。」 がさがさと包みを開ける初音ちゃん。 「…ねえ、お兄ちゃん。これは浴衣?」 初音ちゃんは、ひまわり柄の青い浴衣を持ってる。 「ああ『浴衣』だよ。初音ちゃんに似合うと思ってね」 「…耕一。今、何月や?」 「3月だよ。って、初音ちゃんがまたヤンキーになってるぅぅぅ」 よく見れば初音ちゃんの目つきも悪くなってる。そして…。 「ちったぁ季節を考えろぉぉぉぉ!!!」 「ぐはぁぁぁ!」 俺は、初音ちゃんの昇竜爪により倒された。 ・ ・ ・ 「いてててて…」 俺が目を覚ますと、すでに辺りは真っ暗だった。 「ん?」 ふと、俺の鞄に目をやると1枚の紙がおいてある。手に取ってみると、 『お兄ちゃんへ さっきはごめんなさい 柏木初音』 そう書かれていた。 「初音ちゃん…」 俺はベッドで寝ている初音ちゃんにそっとキスをすると病室を後にした。 <おわり> ---------------------------------------------------------------------- どうも「美優里の部屋スーチーアドベンチャー版は堕ちます」のUMAです。 バレンタインをスーチー2のミユリの部屋をネタにしたんで、今回はスーチー アドベンチャーのミユリの部屋をネタにしました(正確には美優里ちゃんとの デートね)。 とは言え、原型はほとんどないけどね。強いて言えば、浴衣をプレゼントする 所くらいか(汗) ぢゃ、そういうこって。