人と鬼の戦い(後編) 投稿者:UMA(うま)

あらすじ。

突如謎の敵「ヒト」に襲われる柏木邸。柳川と長瀬の活躍で迎撃に成功する
ものの、直後に新たな敵が…。

「いえ、あれが最後のヒトとは思えないわ。きっと第2第3のヒトが…」
千鶴がそう言い掛けたそのとき、再び警報が鳴り響いた。
「隆山第壱レーダーに反応。侵入者です」
「言ってるそばから!」

「…パターン『黄土色』。やっぱり『ヒト』です」
レーダーを見る楓が冷静に言う。
「初音、柳川の状態は?」
「駄目です。活動限界を超えています」
「ちいっ…。梓、準備はいい?柳川が使えないから!」
「まった!」
千鶴の命令を耕一が制する。
「なんで、耕一さん!?」
「…千鶴さん、モニタを見な」
耕一にくってかかろうとした千鶴だが、促されてモニタを見る。
「な…」そして絶句する。
「人数が多すぎるんだ。さすがに梓一人だときついぞ」
モニタには4,5人位の人影が映っている。
「さっきの例もあるから、こっちも全員でかからないとヤバいと思うぜ」
「…分かったわ、耕一さん。楓、初音。行くわよ」
「はい、姉さん」
「うん」

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こちらは、ヒトの一団。
先程の月島兄妹が通ったような雪原地帯ではなく、ごく普通の舗装道路だ。確
かに雪は多いがそれは歩道だけで、車道にはほとんど雪が残っていない。
当然、人間は雪の残った歩道を歩くので、
「きゃっ!」
といって転ぶ人もいる。神岸あかりだ。
「おっと。大丈夫か、あかり?」
それを受け止める浩之。
「う、うん。浩之ちゃん。大丈夫だよ」
「ったく、お前は相変わらずトロいなあ」
「…ごめんね、浩之ちゃん、トロくって…」
「あ、そんなつもりで言ったんじゃ…」
「で、あんたらはいつまでそうしとるん?」
抱き合う二人の後ろから保科が声を掛ける。
「ごめん、保科さん」あかりはよろよろと浩之から離れた。
「委員長もコケそうになったら俺が支えてやるぜ」
「もう、藤田くんったら…」
かあああっと顔を赤らめる委員長。
「あれ?ねえ、『柏木家』ってあそこじゃないですか」
思い切り着込んでいる理緒が一軒の豪邸を指さす。
「間違いありません『柏木家』ですぅ。浩之さん、目的地ですよ」
マルチが嬉しそうに言った。
「んー、何も妨害がなかったのが気味が悪いが…。ま、いいか」
そういって、一行は柏木家の重厚な門をくぐった。

「待っていたぜ、人間共!」
「誰だ、どこにいる!?」
門をくぐるなり、どこからともなく声が聞こえた。
「ここだ!とおぅ!!」
そういって声の主は、ジャンプして柏木家の屋根に登る。
すると、その声に呼応するようにいくつかの人影も同じようにジャンプして屋
根に登る。凄いジャンプ力だ。とても人間業とは思えない。
そして屋根に登った謎の一団は、
「かしわぎぃぃぃぃ、れぇぇぇっど!」と、耕一。
「かしわぎぃぃぃぃ、ぶらぁぁぁっく!」と、千鶴。
「かしわぎぃぃぃぃ、ぶるぅぅぅ!」と、梓。
「かしわぎぃぃぃぃ、いぇろぉぉぉ!」と、楓。
「かしわぎぃぃぃぃ、ぴぃぃぃんく!」と、初音。
『五人揃って…』
5人の声が見事にハモりながら、「ばっ」と右手を前に突き出す。
『オニッ!レンジャァァァ!!』どおおおおおおん!!!
5人が思い思いのポーズを取ると、その後ろで爆発が起き、自分と同じ色の煙
が上がる。
「…決まった…」
ポーズを取ったままじーん、と感動する耕一。BGMに「秘密戦隊ゴレンヂャ
ー」が欲しいところだ。
「…浩之ちゃん、あれ、何?」
「俺に訊くな…」
ヒトの一団は何が起きたのか分かっていないようだ。
「…コホン。さて、人間共よ。ここまで来たのは誉めてやる。だが、ここまで
だ!いくぞみんな、一気にケリ付けるぞ!!」
耕一がそう言うと、柏木家の一族は個々の敵に向かって行った。ここからは同
時に戦闘が起こっているが便宜上順番に見ていく。

まずはマルチ対初音だ。今回はどちらもノーマル状態だ。
「すみません、初音さん。これも浩之さんのためですので…」
そう言ってどこからともなく使い慣れたモップを取り出し、それをビームモッ
プへと変化させる。
「私も…耕一お兄ちゃんのためだもん」
初音もどこからともなくおたまとフライパンを取り出す。よく見たら「きんの
おたま」と「きんのフライパン」だ。資料によると攻撃値はそれぞれ300と
400だ。
マルチは「わくわく殺戮セットDX」改め「うきうき殺戮セットMMX」のバ
ーニア全開で初音に接近し、そのまま斬りかかった。
がっしぃぃぃん!
フライパンでビームモップを防ぐ初音。そのままガードを右ウェポン・おたま
でキャンセルして殴りかかる。
が、おたまはマルチには当たらず、空を切った。マルチはジャンプキャンセル
で斬りをキャンセルしていたのだ。
「あ…」初音はキャンセルを失敗し、フォロースルーに入った。
マルチはジャンプをキャンセルして着地すると、隙だらけの初音に対して一気
に後ろにまで回り込み、左上段から一気にビームモップを振り下ろした。
「きゃああああっ!」
初音はその場に倒れ込んだ。

2番目に理緒対楓。
楓は最初から全開で鬼の爪で殴りかかるが、その全てを交わされる。理緒の素
早さは鬼のそれよりも上らしい。さすが、アルバイターというべきか。
だが、楓にもチャンスが来た。理緒が庭の石に躓いて転んだのだ。
「…行きます」
その数少ないチャンスに気がゆるんだのか、楓は不用心に近づいていった。そ
して一気に殴りつけようとした、そのとき、
「つーかまえた!」
「うっ…!」
楓は逆に理緒に胸ぐらを捕まれてしまった。そして、理緒はにっこりと微笑む
と、
「ありがとう!ござい!!ました〜!!!」
楓に向かって3回おじぎをした。
「きゃああああっ!」
楓は「それは『おじぎ』じゃなくて『頭突き』よぉ」と思いながらその場に倒
れ込んだ。

次は保科対千鶴。
マルチ達が戦っている間にすでに拳を数度交えているようだ。
「『しょーもないことすんなやっ』『なんやねんワレッ』『死にたいんかいコ
ラッ』」
保科の炎のつっこみ3連発だ。激しい炎が千鶴に襲いかかるが、千鶴は自分の
周りの気温を絶対零度にまで低下させることで対抗する。
「なんやそれ、そんなんアリ?」
「ええ。これくらい当然の対処です。今度はこちらから行きます」
そう言って千鶴は怪しい薬瓶をかなりの数ばらまいた。
「当ったれぇぇぇぇ!!」
「きゃっ!」
炎に包まれる保科。炎は一瞬で消えたが、数が多すぎる。次々と薬瓶が飛んで
くるのだ。
だが、薬瓶も無限にあるわけではない。
「あ…、なくなっちゃった…」千鶴がそう言うとそれを待っていた保科は、
「ちゃぁぁぁんす!」そういって千鶴に近づいた。
そして、
「かんぜんねんしょぉぉぉ、あったぁぁぁぁっく!!」
残像を残しながら炎を纏った手足で千鶴を乱打する。
「きゃああああっ!」
千鶴はその場に倒れ込んだ。

つづいて、あかり対梓だ。さっきから二人ともにらみ合ったまま動かない。梓
は相手の出方を見ているのだが、あかりは戦いなれしていないので単に攻撃で
きないだけだ。
「くそっ、もう我慢できない!いくぞ!!」
均衡は梓の突進という形で破られた。
「喰らえっ!」
梓は鬼の拳で殴りかかった。
しかし、あかりは半身になってよけた。
「ぐふっ…」
あかりは「よけた」のではない。肘うちをするために半身になったのだ。梓は
カウンターダメージを受けた。
「愛と…」
あかりはそう言うと、肘うちをキャンセルして、左アッパーと左膝蹴りをたた
き込んで梓を空高く浮かせた。
「友情の…」
そこを上空で待機していたマルチがグライディングラムで一閃し、地面にたた
きつける。そしてマルチとあかりは気を高め始めた。

「あ、あれは『愛と友情のツープラトン』か?!ヤバい、梓逃げろ!!」
浩之と戦ってる耕一は、あかりたちの気の高まりに気づいた。
「違うぜ、コーイチさん!」
「何ぃ!」

『ヴァリアブルクロス!!』あかりとマルチの声が見事にハモる。
まずマルチが空中からレーザー波動拳と両肩のミサイを梓に打ち込む。続いて
マルチの攻撃でのけぞってる梓に向かって、あかりは昇竜裂破で追い打ちを掛
けた。
さらに昇竜裂破で浮いた梓を空中でマルチが掴むと、マルチは「妹っ!」と叫
んで量産型マルチを召喚すると、両側から挟み込むようにして乱打をたたき込
んだ。
「きゃああああっ!」
梓は地面に落ちるとその場に倒れ込んだ。

「…これで5対1。まだ続ける?コーイチさん」
余裕綽々で浩之が言った。
「て、てめえら…まだ出てないゲームの技はきたねえぞ!」
まさか、「鬼」の千鶴達があっさりと負けるとは思わなかった耕一が苦し紛れ
に言う。
「甘いぜ、コーイチさん。ロケテは始まってるんだ」
「くっ…。そうかい、分かった。なら俺達も」
「『達』ぃ?」
浩之が聞き返すがそれを無視して、耕一は千鶴・梓・楓・初音を召喚する。そ
して、全員の鬼の力で刃渡り数十メートルの光の剣を作り出した。
「かしわぎソーーーーーーーーードッ!!」
そのまま一気に光の剣を振り下ろす。当然軸線上の人は一溜まりもない。
『きゃあああああ!!!』
今の一撃で浩之を除く全員がやられたようだ。
「…これで1対1だな」
今度は耕一が余裕綽々で言った。
「くそっ。だが、俺には『???』があるんだぜ。まだ勝負はついてねえ!」
そう言って浩之は耕一に攻撃を仕掛けようとした、そのとき。

「そこまでです!!」
「じじい?!」
二人の間にセバスチャンが割って入ってきた。
「どけ、じじい!まだ勝負はついてねえんだ!!」
「おやめください、藤田様。もう、時間切れです」
「何!」
セバスチャンは懐から懐中時計を取り出し、浩之に見せた。時刻は丁度12時
を回った直後だ。
「あ…。くそ!俺達の負けだ!」
「残念です、藤田様」

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「…と、言うわけで『第1回チキチキ本物の鬼で節分しよう』は鬼チームの勝
ちです。おめでとうございます」
長瀬(主任)が原稿を読み上げる。
「では、賞状とトロフィーと、あと副賞として来栖川電工よりHM−19レイ
ラの目録です。どうぞお受け取りください」
長瀬(教諭)が、耕一に渡す。
「次に、戦術評論家の長瀬源四郎さんに寸評を…って父さん、こんな肩書きも
ってたっけ?」
「先程、綾香お嬢様より頂戴した肩書きだ」
セバスチャンは、そう言って、息子からマイクをもらう。軽く咳払いをして、
「えー…」
「…長くなりそうなので、次。MVPは…」
「ヲイ」
セバスチャンは息子をにらんだ。

そんなこんなで、大節分バトルは幕を閉じたのだった。

おしまい
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どうも、UMAです。

昨日アップした、人と鬼の戦いの後編です。なんとか24時間以内に完結でき
たっす。本当は「2/3中に完結」の予定だったけど、それはさすがに難しか
ったです。

で、昨日書いた
 > なぜ、彼らが戦うのか?
は、「節分だから」です。
え?豆を蒔いてないって??…まあ、そんなこともあったっけね…(遠い目を
する儂)。

前編で「なぜ長瀬祐介は『鬼』の側についたのか」というと、単に頭数をあわ
せる為です(笑)
やっぱり同じ人数同士の方がいいかな、と思ったもので。でも人間爆弾(モド
キ)にしたのはちとかわいそうかなとは思うけど。

なお、今回のネタにしたゲームは、私立ジャスティス学園と、マーベルVSカプ
コンです。後者は再来週頃には出回ってると思いますよ。

これから未読を読むんで。ぢゃ、そういうことで。