黒猫のティーゲル プロローグ 投稿者:pd 投稿日:5月12日(日)22時05分
「対戦車戦闘!弾種、徹甲!」

 油圧機構によって自動装填装置が滑らかな動作音と共に振動、あらかじめ装填ラックに
装填されていた88ミリ徹甲弾を薬室に装填した。
 水冷ガソリンエンジン、アレキサンドリアNo5改1100馬力エンジンが咆哮し、C
ユニットによって完全な走行バランスを得たティーガーTは熱砂の戦場を疾走する。
  操縦室に装備された多目的ディスプレイに輝く光点は15個。それらは全て明確な人間
に対する悪意に満ち溢れた狂った戦略AIに率いられた人でなしの無人戦闘兵器である。
  対して味方はティーガー含め4両に過ぎない。
  数的な戦力の不利は免れない。
  だがそれでも、己の牙の絶対性をティーガーの主は確信して突進する。
 Cユニット搭載により走行中の射撃を可能にしたティーガー重戦車は咆哮した。
 両脇を固める中戦車や8輪装輪車の57ミリや37ミリ砲とは次元の違う発射衝撃波は
57トンに達する鋼鉄の巨獣を歓喜に震わせた。
 秒速800メートルを超えるAPBC弾の凶速の一撃は一切合切の全てを決する。
 直撃を受けた無人戦車、トレーダー殺しと仇名つけられた無人戦車はその最も厚い筈の
前面装甲をボール紙のように貫通され、88ミリAPBC弾はその遅動信管から生ずる内
なる衝動に身を任せその体内に内包したTNT爆薬を爆裂させた。
 砲弾が誘爆して衝撃波で戦車が宙を舞う。
 人間が乗っているのならば即死である。
 だが、地に叩きつけられた仲間の残骸を気にもせず踏み潰し、新しい無人戦車の群れが
現れる。無人戦車の戦闘AIには恐怖はない。圧倒的な鋼鉄の巨獣の凶威を気にもせず、
ただ戦闘AIの命ずるままに突進する。
 新しい敵意に反応してティーガーは再び牙を構えた。
 ティーガーの凶暴すぎる咆哮は戦場交響曲を崩壊させる。
 Cユニットの人間の数百倍に達する計算能力の助けを借りて奇跡のような完璧な弾道を
描いて突進する88ミリAPBC弾は再び無人戦車を爆砕した。
 戦車を操るのが人間ならばその無骨なシルウェットの持つ絶対的火力の脅威に身がすく
み、震え上がるだろう。だが感情を持たない無人戦車はこれだけの凶威にあてられても突
進を止めようとしない。
 まるで増えすぎたが故に種の保存の為に海へ飛び込み自死するネズミのように、生き残
った85ミリ自走砲の群れは突進を止めない。
 大破壊以前にオリオン砂漠のどこかに建設された地下無人軍需工場から吐き出される無
人戦車は性能の劣勢を物量で補う戦術を取ることが多かった。
 特に生産が容易なように構造が簡略化された85ミリ自走砲はその外見とは裏腹に下級
の無人戦車として扱われていた。
 それゆえ、さらにもう3両の85ミリ自走砲が簡単に撃破されると、流石の無人戦車も
突進を諦めてティーガーを包囲するような機動を始めた。
 いくらティーゲルの防御装甲が分厚く用意されていても側面、背面はそれほどでもない。
 ティーガーを操るハンターは舌打ちしてCユニットに有利な攻撃位置を占めるように命
令した。有利なハルダウンを捨ててティーガーは砂を踏みしめ戦術機動をする。
 85ミリ自走砲は生産性を上げるために旋回砲塔を装備せず、主砲は前方に固定されて
いる。よって前方にしか撃てないという弱点があった。
 ティーガーはその弱点を利用すべく包囲しようとする85ミリ自走砲群の側面に回り込
もうと機動する。
 85ミリ自走砲群も攻撃不可能な側面にまわりこまれまいと、必死にティーガーの側面
に回りこもうと機動する。
 ティーガーも相手の側面に回りこむために機動する。
 よって85ミリ自走砲の努力は全く報われなくなってしまった。
 こうなると旋回砲塔を持たない85ミリ自走砲は全く不利である。
 ティーゲルは砲塔をまるで旋回砲塔を持たない85ミリ自走砲に見せつけるように旋回
させCユニットの力を借りつつ走行射撃で次々に無人戦車を撃破していく。
 最早勝負はついたも同然だった。
 仲間が次々に殺られるのを見て痺れを切らしたのか、生き残った3両の85ミリ自走砲
は停車してティーガーに砲を向けた。
 大量生産の為に旋回砲塔も走行射撃能力も持たない85ミリ自走砲は戦術判断能力もま
た大したことがなかった。
 中途半端な位置で停車して放った85ミリ砲弾はティーガーの分厚い装甲の前にあえな
く弾かれる。
 確かに85ミリAPCB弾はティーガーの正面に比べ薄い側面装甲を叩いた。が、それ
は正撃ではなかった。
  入射角が浅く、砲弾は装甲に食い込むことなく水切りの石のように弾かれてしまったの
である。
静かにティーガーの砲塔が旋回して動かぬ的になった無人戦車を指向する。
 ティーガーの持つ54口径88ミリAPBC弾は85ミリ自走砲を前面装甲からでも軽
く貫通する能力があった。
 砲声は3回、爆砕される無人戦車は3両。
 戦闘開始から終了まで、虎の咆哮は獲物の数に等しかった。
 一撃必殺、百発百中。
 神業の射撃を以って無人戦車群を一蹴したティーガーはゆっくりと炎上する無人戦車の
後に戦場を進む。
 耳を澄ませば、いたるところから砲声が聞こえ。
 目を凝らせば、燃える戦車の躯はそこかしこにあった。
 広大な砂の海に見取る者もなく葬られようとする戦車の躯達が抗議するかのように黒煙
と炎を吹き上げていた。
 ハンター協会が主導となって計画された街道の近くに建設された無人戦車用の補給基地
攻撃作戦はすでに山場を越えて残敵掃討に入っていた。
 勝利の凱歌は圧倒的大兵力によって先制攻撃をかけたハンター側に上がり、補給物資を
渡さないために基地は自爆。ハンター達は小遣い稼ぎに基地から逃げ延びた無人兵器を好
き勝手に狩っていた。
 神業の射撃を以って無人戦車を狩った魔弾の射手は壊乱して逃げ回る残党狩りに興味は
なかった。襲い掛かってこなければ今撃破した無人戦車も見逃してやってよかったのだ。
 魔弾の射手はがつがつ稼ぐことを良しとしなかった。
 ガソリンの燃える黒煙のかからない風上まで移動してティーガーは停車した。
 センサー類が周囲の安全を確認し、魔弾の射手は砲塔のハッチから顔を覗かせた。
 その様子はひょこっと、子猫が草むらから顔を覗かせたようで可愛らしい。
 そう、可愛らしい。可愛らしかった。魔弾の射手は極普通の少女だった。
 …いや、訂正しよう。
 その少女はある意味普通ではなかった。
 少女の頭には普通ではありえないものがひょこひょこ動いていた。
 ピン、と三角に張った艶のある黒毛の猫の耳が艶やかな光沢のあるおかっぱに近いショ
ート・ボブの中から飛び出ている。
 しばらくひょこひょこと黒髪の中で周囲を探っていたねこ耳は周りが安全だと分かった
のか不意に止まった。
 少女はハッチに腰掛けて伸びをした。その姿はねこ、そのものである。
 猫耳の少女。その正体は亜人とよばれる人間と猫のハイブリットである。
 亜人種。人間の数倍はある各種身体能力を持ち、大破壊以後の汚染された世界でも平気
で生きてゆける強靭な生命力を誇る人類の変種だった。
 猫科、犬科、鳥科、etc、それぞれ特徴的な能力を持つ亜人は広く社会に浸透してい
る。特に猫科亜人種は射撃の素養を持つ者が多く、天性のハンターとして重宝されていた。
 よって猫科亜人がティーガーを操り無人戦車と戦うのは何も不思議ではなかった。
 …それがまだ幼さ残る少女でなければ。
少女は黒煙をあおる砂漠の風に黒髪をもてあそばれるまま、じっと世界を見つめている。

 見渡す限りの砂漠。
 何一つ拘束されることない大空。
 紫外線の強すぎる太陽。
 汚染物質を含んだ砂と燃え上がる無人戦車。
 大破壊と呼ばれるカスタトロフの果てに人が手に入れた世界とはそのような場所だった。



 これは勇者の物語ではない。これは黄昏の時代を生きたあるハンターの物語である。
  少女は自らを狩猟者と呼び、狩りをすることを生業とするハンターだった。
  少女の名はエディフェル、ティーガーを操る魔弾の射手である。

  あとがき
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  はじめて投稿します。pdと申します。以後お見知り置きを〜
  えーとですね。メタルマックはファミコン、スーファミでデータ・イースト
という会社から出た戦車を武器に戦うRPGです。
  はきりいって、何で今ごろ?というくらいに古いゲームですが今でも楽しめる名作です。
  それでは黄昏の世界で狩猟者としてタイガー重戦車を駆る猫かえでの活躍をご期待ください。