堕落と昇華 投稿者:Phantom 投稿日:7月13日(木)13時41分



あれから半年。

浩之と川原で勝負してから、浩之は葵といっしょに練習し始めた。

もちろん、私もたまに顔出しては指導していた。

浩之はメキメキと腕をあげていった。

今では葵から3本に1本はとれるようになった。

格闘技暦半年で…

私、嫉妬してるのかな? 浩之の才能に…

あ、ひょっとしたら…

『彼』もこんな気持ちだったのかな?





    〜〜堕落と昇華〜〜





「お〜い、綾香〜」

学校帰りの駅前商店街。誰かが声をかけてきた。

浩之?

こんなところで会うなんて珍しいわね。

「大きな声で名前呼ばないでよ、恥ずかしいじゃない」

「わりーわりー。

 なぁ、今日時間空いてる?」

デート…ってワケじゃなさそう。

だって浩之。ジャージ着てるんだもん。

「ん〜、そうね、4時ごろからなら空いてるけど。

 どうしたの?」

「あぁ、いっちょ稽古つけてもらおうとおもってな。

 葵ちゃん、今日風邪ひいて休みなんだ」

「ふ〜ん。いいわよ。んじゃいこっか」

「へ? どこへ?」

「わ・た・し・ん・ち♪

 地下にジムがあるのよ。私と長瀬さんくらいしか使わないし。

 よかったらIDカードつくったげよっか? 葵も持ってるわよ。

 あんまりこないけど」

「そーだな… ま、言ってから考えるか」

「じゃきまりね。ささ、早くいこっ」



やっぱり、浩之と話してると楽しい。

でも…

なんだか心が痛い…



「はぁ、はぁ、はぁ」

「なによ〜、だらしないわね〜」

「わりぃ、ちっと休ませてくれ…」

「しょーがないわねぇ、じゃ今日はここまでってことで」

「やっぱスゲーわ、お前」

「あら、今ごろ気づいたの?」



次ぎの日。

今日は浩之と葵がジムへ来る。

教室の掃除が長引いて、ちょっと遅れてる。

急いで走っていた時…

ドンッ

誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい、急いでたので…」

「いちち… って… 綾香…か?」

この人…

ニューヨークにいたときの『彼』だった。



「そっか、エクストリームか…」

屋敷までの道、『彼』と話ながら歩く道。

浩之とは違う『楽しさ』…

格闘技の話題になっても、平然としてる。

あの事はもう吹っ切れてるんだ… よかった。

「負けた事なんて無いんだろうな、『天才』さんはよ」

!?

なんで突然こんなことを…?

「おまえ、オレがもう吹っ切れてるとか思ってるのか?

 んなわけねーだろ。高校生の男がよ、小学生の女のコにブチのめされた

 んだぜ?

 いまでもしっかりトラウマだよ。

 おかげで空手も棄てちまった。いまじゃ来栖川の孫受けのしがない営業よ。

 わかるか?敗者の気持ちが、踏み台にされたモノの気持ちがよぉっ!!」

そ…んな…

だって…わたしだって…

バチッ

わき腹になにか… 意識が…





「よぉ、気がついたか?」

夜… 茂みの中…

体が動かない… 縛られてる…?

「いまから教えてやるよ。

 思うままにならない、敗者の気持ちをよっ!」

びりっ

服が破られる…

「や、やめ…」

「きこえねーな、負け犬の遠吠えなんてな」

「どっちが負け犬だよっ」

ドガッ

「ぐ…」

今の声… 浩之?

「葵ちゃん、綾香を頼む」

「はいっ」

葵がジャケットをかけてくれる。

「よぉ綾香。あんまり遅いんでセリオに手伝ってもらって捜したぜ。

 さすがセリオ。頼りになるな」

「―-ありがとうございます」

「ぐ… てめぇ… 綾香の男か?」

「あぁ、そうだよ。わりーか」

!?

私の… 浩之、そんな風に想ってくれてたんだ…

「前に綾香から聞いたよ。

 お前、小学生の綾香に負けちまったんだって?」

「あぁ、この『天才』様にな。

 おかげで落ちぶれちまってなっ!」

いきなり殴りかかるっ

浩之はソレをしっかり、右腕で内側にはじいて即左を2発。

追い討ちに右のミドルを撃ちこんだ。

アレは… 川原で私が教えた…

「なさけねー男だな。

 負けたからなんだってんだ。

 負けたのはオメーが弱かったからだろーが。

 負けたなら、次は勝つツモリで努力しねーかよっ」

「ハッ、小学生の女のコに勝つ為に練習?努力?

 んななさけねーことできるか!」

まだかかっていく。

でも… 浩之の方が圧倒的に上だ。

軽くいなして、返し技を当てていく。

「小学生の女のコに負けた時点で、十分なさけね―んじゃねーのか?

 さらに、それで自分の道を棄てるほうが、よっぽどなさけないぜ!!」

「う… うるせー、テメーにオレの気持ちが…

 気持ちがわかってたまるかよ!!!」

体ごとつっこんでいく。

虚を突いたのか、浩之の反応が一瞬遅れるっ。

「あぶな…」

危ない!

そう言おうとしたとき…

ズドン!

『彼』が吹っ飛んだ。

5mほども…

浩之は…

半歩踏み込んで、右拳を突き出している。

葵の崩拳…?

「あぁ、わからねーよ。『負け犬』の気持ちなんかな。

 オレなら、負けたら次は勝つ。

 そーでなけりゃ、格闘技どころか勝負事なんざできやしねーだろ」

そっか…

そーだよね…

追いつかれて…追いぬかれたら抜き返せばいいんだ…

なんだ、簡単なことじゃない。

「浩之っ」

私は浩之の胸に飛び込んだ。

葵が羨ましそーに見てるけど、今はいいわよね。

「あ、綾香…」

「私の男って…」

「オレはそのツモリだぜ。

 そーいや告白とかしてなかった気もするけどな。

 …メーワクか?」

「そんなことないっ」

私は浩之に飛びついて、思いっきりキスをした。

「あああ〜〜〜」

葵がなにか叫んでるけど… 聞こえないフリしとこっと♪



「―-綾香様… そろそろ長瀬さんのお車が…」

「コラ小僧! 綾香お嬢様から離れんかぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!」



終幕