四月二十七日の夜に。 投稿者: Syara
 私は、浩之ちゃんが好きだ。

 ずっとずっと昔、物心つく前から、私は浩之ちゃんと一緒だった。
 浩之ちゃんの事は誰よりも知っているという自信があるし、好きだっていう気持ちも、誰にも負ける
つもりなんかない。
 髪型を変えたのも、料理を一生懸命覚えたのも、全部、浩之ちゃんが私を見ていてほしいから。

 ……ただ、私になかったのは、最後の、ひとかけらの、勇気。
 私は、ずっと、言えなかった。今まで、ずっと。

 浩之ちゃんが、好きだって。


「おっす、あかり。相変わらずタレ目だな」
「……(もう)」
 からかい半分の、でも、すごく優しい目。
 いつも浩之ちゃんは、そんな目で私を見てくれる。その暖かさを、優しさを、私は失いたくはなか
った。……たとえそれが妹を見るような、恋愛感情のない優しさだったとしても。
 この眼差しが他の人のものになると考えると、それだけで胸が張り裂けそうになる。幼馴染という
ひどく不安定で曖昧な立場だけど、でも私は誰にも渡したくなかった。
 ……この、「浩之ちゃんの隣」を。

「…お前、いま、好きなヤツはいるか?」
「えっ!?」
「好きなヤツはいるかって訊いてんだ」
「えっ!? えっ!? えっ!?」
「いるのか、いないのか、それだけでいいんだ」
「……」
「…いるよ」
「……」
「……」
「そうか…」
 ……。
 浩之ちゃんは、私の事、どう思っているのだろう……。


 浩之ちゃんの全てが欲しい。私だけを見ていて。私だけに教えて。私だけに微笑んでいて。
他の人なんか見ないで。ずっと私と一緒にいて。私を、……求めて。
 狂おしいまでの想いは、でも決して浩之ちゃんには届かない。言えるはずがない、こんなこと。
 どんなに心が炙られても、ただいつものように微笑むだけ。それしか、できない。
 
 ……そう、こんな身勝手な感情を、浩之ちゃんにぶつけるわけにはいかないから。
 好き、とも言っていないのに、嫉妬してるなんて言えるはずがない。


 私は、浩之ちゃんの恋人じゃ、ないのだから。


 ただ一緒にいるだけで、幸せだった。それはウソじゃない。ずっとこのままでいたい、と
心の何処かで思っていたのも、事実。

 でも。それだけじゃ、ない。

 浩之ちゃんの優しいところが大好きだけど、そんな浩之ちゃんを誇りにさえ思うけど、でも
その優しさは時として私の焦燥を煽り、私を苦しめる。
 浩之ちゃんが他の娘を助けるたびに、優しい言葉を掛けるたびに、私の心は千路に乱れた。

 浩之ちゃんに、近づかないで。

 こんな事、考えたくなんてなかった。身勝手な嫉妬、独占欲。けれども頭を振って振り払おうとする
たびに、他の女の子と歩き、笑いあう浩之ちゃんの姿が脳裡に蘇る。
 ずきん、と胸の奥が痛む。喉の奥が、カアッ、と熱くなる。

 ……誰にも渡したくない!!!

 何度、心の中でそう叫んだだろう。……でも、結局何も言えなかった。
 10年以上掛けて築いてきた雰囲気は圧倒的で、切り出そうとするきっかけやタイミングを
容易く流してしまう。

 ……私では、駄目なの?
 鏡に映った自分の姿を見つめる。まだ乾ききっていない髪が力なく光り、変に頼りなく瞳に映った。
 浩之ちゃんが「好きだ」って言ってくれたら、……私、本当に、他に何もいらないのに……。

「…っくしゅん!」
 不意に襲ってきたくしゃみと同時に、私は我に帰った。
 時計をみると、お風呂から上がったままの格好なのに、随分と経ってしまっている。
「いっけない……」
 急に身体に寒気が走って、私は急いでベッドに入った。少し、頭がぼーっとする。
「風邪、ひいちゃうかも……」

 翌日。案の定、私は熱を出してしまい、学校を休んだ。
「……まったく。大人しく寝ているのよ」
「はぁーい……」
 言われた通りに布団に入り、ぼーっと天井を見上げる。
 ……学校を休むなんて、久しぶりだな。小学校の時以来、かな……。
 あの時は、浩之ちゃんが来てくれた。お見舞いに来てくれたくせに、いつもよりぶっきらぼうに、
私の頭をぐりぐりと乱暴に撫でてくれたっけ。
 急にそんな事を思い出して、私は一人、くすり、と笑った。

 しんしん、と耳が鳴る。自分の部屋なのに変に広々としてしまった感じがして、私は無理に
目を閉じた。
 少しずつ、熱っぽいまどろみに包まれていく。


 ……浩之ちゃん、来てくれるかな……


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 始めまして。今回このコーナーに初投稿させて頂きました、Syaraと申し者です。
 何分文章を書き始めて日が浅い為、拙い文章となってしまいましたが、楽しんで頂ければ幸いです。
 これからもこのコーナーに顔を出したいと思っています。
 忌憚なき感想など、お聞かせ願えれば幸いです。
 それでは。