しっぽセリオのクリスマス(後編) 投稿者:takataka 投稿日:12月24日(日)03時53分


 綾香さまがこんなところに。
 泣くさおりさんの頭をなでて、何か二言三言話しています。
 ――どうして?
 ご心配をおかけしてしまったのではないでしょうか。
 お怒りではないのでしょうか。

「やっぱセリオだわー……ずいぶん素っ頓狂な格好してるからまさかと思ったんだけど」

 綾香さまが歩いてきます。
 私はただその場に立ち尽くすだけ。

「スピードといい、とっさの判断といい、あんなことセリオじゃなきゃできないもんね。
えらいえらい」

 くしゃ……と、頭をなでられました。
 私はただうつむいて黙りこくっているだけ。申し開きのしようもありません。
 そんな私は、綾香さまは、どうしたの? とでもいいたげに覗き込んで。
 
「ほらー、景気悪い顔しないの。クリスマスなんだからさ」

 すりすり……と、ご自分の服が汚れるのもかまわず、私にほおずりを。
 綾香さまの香りがします。
 洗い髪に香るシャンプーと、ほんのわずかなファンデーションと、その他に分析不可能
な……すてきな香り。

「だぁいすき、だよ。私のセリオ」




 ばいばーい、と元気よく手を振るさおりさんに、綾香さまはひらひらと手を振り返して。
 わたしはただうなだれたままで。

「――申し訳ありません」
「なにが?」
「無断での外出……それも綾香さまのお世話を放置しての……」
「いいわよそんなの。用事あったんでしょ?」
「個人的な用事です……言いつけられたものではありません……」

 本当に、私はどうかしてしまったのでしょうか。
 人間の言うことを聞いていればいいだけのロボットが、個人的な用事なんて。

「それに……申し付けられた衣装を、だいなしにしてしまいました……」
「あは、あああ、それ?」

 ぱたぱた、と手を振る綾香さま。

「いいわよー別に。どうせ受けねらいで、パーティー用に一回限りしか着るつもりなかっ
た奴だし」
「メイドロボ失格です……」

 どうしてでしょうか。
 学習を重ねるたび、年を経るたびに、私はメイドロボとして、だんだん駄目になってい
くようです。
 それでも言いつけられたことは最低限きちんとこなせているつもりでいたのですが……。

「今の子から聞いたわ。今日一日、すごく楽しかったって。お姉ちゃんはあのきつねのお
姉ちゃんロボットのマスターさん? って聞くもんだから、そうよって言ってあげたら、
さおりがわるいんだから、お願いだからきつねのお姉ちゃんを怒らないであげてって、何
度も念を押されちゃった」

 面白くて仕方ないという風に綾香さまはくすくすと笑います。

 ……私は思わずさおりさんの帰っていった方向を見やりました。
 あんなに恐がって、泣いていたのに……。
 ありがとうございます、さおりさん。

 と、ふっと気づきました。
 私の荷物は?
 私の今日の『個人的な用事』。その買い物の中身です。
 あわててあたりを見回すと、植え込みの中に小さな紙袋が引っかかっているのを見つけ
ました。泥と葉っぱにまみれて、なかば破れかかった小さな包み。
 中身は――無事だけど。
 お店でしてもらったラッピングは、泥まみれで……。

「わぁ……」

 綾香さまが後ろから覗き込んでいます。

「すてきじゃない! ペアリング? ふ〜ん、そうなんだ……」

 消え入りたいような思いの私の後ろで、にやにやとチェシャ猫のように笑う綾香さま。
 ですが、綾香さまはチェシャ猫と違うのでこのまま消えたりしてはくれません。

「そっかあ。セリオもそういうの買うようになったんだー。うんうん。で、相手は誰? 
教えなさいよー。あなたと私の仲でしょ」
「その……綾香さまです……」

 一瞬、あっけにとられたようになって。
 ふ、と口元がゆるんで。

「あははははっ。そうか、クリスマスだもんねー。じゃあ、もらっちゃえ!」
「――あ」
「さっすがセリオ、いいセンスしてるわ」

 リングの片方を指でつまんで、あかりにかざしている綾香さま。

「――綾香さま、お手が汚れます」
「こんな素敵なリングはめるためだったら別にいいわよ……うりゃっ」

 止めるまもなく、路傍の植え込みの土に手を突っ込んでしまいました。

「これで問題なし! しかも、おそろい! 完璧ね」

 えいっと、なかば誇らしげに汚れた手を突き出して見せて。
 おろおろしている私の指にもリングをはめさせて。
 泥に汚れた二本の手の指に、おなじリングが光っています。

「あとできれいに洗えばいいって。ね?」

 ――綾香さま。
 あなたという人は……。

「綾香さまは……」
「ん?」
「――どうして、私にそんなによくしてくださるのですか……?」

 一度聞いてみたかった。聞いてみなければならなかった。
 その疑問を、今日、初めて口にしました。

「――どうしてなのですか。
 どうして私なのですか。綾香様のお心を受ける相手は。
 私でなくてもよかったはずです」

 それは奇跡。
 少なくとも、私にとってはそうです。
 綾香さまのような方に出会えたこと。
 綾香さまのような方に――気に入っていただけたこと。

「マルチさんでもよかったはずです。
 他のメイドロボでもよかったはずです。
 ――他の……HM−13でもよかったはずです……」

 HM−13はすでに量産体制に入って、市場にもかなり出回っています。来栖川の家に
ご奉公に上がるのは、私のような試作機の使いまわしでなくても、新品の量産型でもよか
ったはずです。

「どうして他のどの機体でもなく、この私なのでしょうか」

 綾香さまは難しい顔をされました。

「この期におよんでそういうこと言うかなあ、この子は」

 くるり、と背を向けて、すたすたと歩き出します。私はあわててあとを追って。

「ああ、そうそう。勘違いしてると困るから、この際ちゃんと言っておくんだけど」

 突き放すような冷たい声音。

「私、最初っからセリオのこと好きだったわけじゃないわよ。
 はじめて会ったときは、セリオのこと別に好きじゃなかった」

 ――!?
 どうしてそんなことを、綾香様?

「ただね、面白そうだったから。『メイドロボ』なんて、自分とこの会社で作ってるのは
知ってたけど別に興味もなかったし。たまたま最新型を近くで見る機会があったから、面
白そうだなって。
 いきなり『友達』だなんていってみたのも、どんな顔するか反応が見たかったから。そ
れだけ。
 おぼえとくといいけど、初対面で友達面する奴なんて、大体下心があるのよね。私もそ
うだった。最新型のロボットさんを、すこし困らせてやろうって、ただのいたずら、暇つ
ぶし」

 そんなこと……。
 綾香様との想い出は、いまも私の中に大事にしまってあります。
 あの笑顔は、嘘だったのですか?

「はじめは、ただの好奇心」

 歌うように綾香さまは続けます。

「でもね、それから笑いかけて、話をして、いっしょにいて。
 二人で、一緒の空気を吸った。
 二人で一緒に、いろんなところに行ったね。いろんなことしたね」

 足取りは軽く、羽根でも生えているかのように、綾香さまは夕暮れの町をスキップ。
 私はそのあとをついていくのがせいいっぱい。綾香様のお話を少しでも聞き逃さないよ
うに、聴覚の感度を上げて。

「ふとした瞬間に微笑み会ったり、手を取りあったり、
 おなじ経験、おなじ場所で、おなじ思い出を重ねあって、
 そうやって、すこしづつ……あなたのこと、好きになっていった。あなたのこと、信じ
られるって……そう、思えたんだ。
 それまでは、うわべの付き合いだった、私、ほかの不特定多数の人にするように、いい
顔してただけよ。
 そんな風に思わなかったでしょ? 私、けっこう八方美人なところあるから、ね」
 
 はあっと、深くため息をついて。
 私に背を向けたまま、綾香さまはどこかよそを向いたままで。

「誰とでも、どこにいても……来栖川綾香さんは、アヤカサンでいなくちゃならない。そ
こがまたつらいとこなのよねぇ……。
 私らしくないときがあったって、いいじゃない。
 いつも勝ち誇ってなくたって、いつも輝いてなくたって」

 軽く、肩をすくめる。
 くるり、といきおいよく振り返って。

「あなたの前では、そのままの私でいられる。――それが『だいすき』の理由じゃ、だめ
かな?」
「綾香さま」

 きゅっと手を握りしめて、私はただうつむいたまま。

「――今は、どうですか?」
「今は? 今は……そうねえ」

 ふわり……と、私を抱きしめて。
 そうっと触れる、お耳の先っぽ。
 ふるふるとかすかに震える耳を、綾香さまはいつくしむようになでてくれます。

「好きだよ。セリオの夕焼けみたいにきれいな髪。セリオの白い、細い手。深い目の色も、
ぴんと突っ立った耳カバーも。セリオのことは、みんな好き、みいんな、みんな……。
 ロボットでも人間でも、心があってもなくても、そこにいるセリオが私は好き。
 ……セリオに心があるとかないとか、私には正直わかんない。
 まあね、はじめは私もいろいろ考えたわよ。セリオにも心があるはずだ、なんてさ。い
ろいろ無茶させたわよね」

 そうそう、考えてみたらこのしっぽと耳もその名残なのよね、と苦笑して。

「でもね、もういまはそんなことどうでもいい……どうでもいいって言うか、大事なこと
じゃないって思うんだ。
 耳のこともしっぽのことも、ね。
 今となっては――私、何しようとしてたのかなっ、て。
 私としては、セリオにもっといろんな感情表現の手段があってもいいなって、そう思っ
ただけなんだけど。
 でも、それは一番大切なことじゃない、そう、最近思うようになったんだ。
 セリオに私はなにを求めてたんだろう。ころころ変わる豊かな表情? 繊細な感性とそ
れを表現する表現力? 大げさな身振りや、笑いや、涙や……。
 でもさ、それって結局、表面に過ぎないんじゃないのかなって、最近では思う。よく笑
うからって、表情豊かだからって心が豊かだとは限らない。嘘泣きやら作り笑いやら、人
間ってほんとに複雑に出来てるからね。
 なんの表情もない、しゃべりもしない、泣きも笑いもしないような人の中にどれだけの
心の深さや、揺れ動く気持ちや、あったかさが隠されているのか……。
 馬鹿よね私。そんなこと、姉さんを見ていればとっくのむかしにわかってていいはずだ
った。姉さんは特別だからって、決め付けてた。
 だからー、私はもうそんなことに一喜一憂するのは止めにするの」

 すっかり日は落ちて、群青色の空に星がまたたき始めました。
 街のあかりはいよいよ輝きをまして、それはいくつものろうそくのともし火のように、
そこここにちりばめられ、あたりを満たしています。
 今日は――クリスマスイヴ。

「あのさ、心って、どうしてもなきゃいけないのかな? 二人の関係が自然であれば、相
手に心があるかどうかなんて、そんなに大事なのかな。
 私が『セリオには心がある』って言っても、それは私の勝手な思い込みかもしれない。
 でも、そうして『セリオには心があるのかな?』って思う私の心は、そこにセリオがい
てくれたから、私のこと気にかけてくれたからそういう風に出来上がってきたんだよね。
 だから、勝手な思い込みでもかまわない。
 ほんとのところはどうあれ、私の心の一部分はセリオで出来てるんだもの。
 セリオと一緒の思い出が、今の私の心を作ってるんだもの。
 私にとってはそれで十分。
 でもね。もしセリオにも私と同じような心があるとして、そのセリオの心の中にも、私
の思い出がお邪魔させてもらってたら、ちょっとうれしい……かな?
 とにかく、ね」

 こほん、と咳払い。
 すこし改まって、私を正面から見つめる、まっすぐな瞳。

「今までの思い出全部ひっくるめて総決算して、いま目の前にいるセリオをこうして正面
から見ていて、心があるかどうかなんてわからない――それでもやっぱり私はセリオが好
きなんだって、何の引け目もなく言い切れる。私にはそれがとってもうれしいことなのよ」

 はあっ、と深くため息。
 白い息がさあっと広がって、消える。

「以上、来栖川綾香のらしくない告白っ、でした!」

 ぱん、と両手で膝を払うように。

「私はここにいるセリオ、私の友達として思い出を一緒に作ってきたセリオが一番大切。
 どんな理屈よりも、どんなデータよりも、ね」

 私の両手を取る綾香さま。

「……いまのがクリスマスプレゼントとか言ったら、怒るかな?」

 こちらの心の中までつらぬきとおすように、そっと覗き込む。

「あはー、困ってる」

 どう答えていいか、わかりません。

「――綾香さま」

 私は顔を伏せる。
 表情は見られたくない。
 私の顔は、多分私の思うとおりの表情はしていないから。

「いじわるです……」
「耳、ひくひくしてるよ」
「します、そのくらい」
「しっぽしっぽ」
「……わかってます……いじわるです、綾香さま……」
「ちがうわよー。意地悪じゃない証拠に、ほら」

 目の前に差し出されたのは、化粧箱に入ったペアのブレスレット。
 私の差し上げたものと、どこか似た雰囲気のデザイン。
 違うのは、私の差し上げたリングがプラチナだったのに比べて、これは金。

「本物のクリスマスプレゼントでーす。後で渡すつもりだったんだけど、ちょうどいいタ
イミングだしね」
「――ですが、私は……」
「おっと、ロボットだとかなんとかは言わせないわよ。第一、あなただって私にプレゼン
トくれたじゃない。その逆をやっちゃいけないって法がある?」
「――…………」
「サンタさんはね――いい子にしてる子供にプレゼントを持ってきてくれるの。
 それと……たぶん、人間のために、みんなの幸せのためにがんばるロボットにもね。
 ま、とっときなさい」

 聖夜の奇跡。
 ひとつのともし火が、もうひとつのろうそくに火をともす。
 やがてともし火は一杯に広がっていって――もう、ひとつひとつの判別もつかない。ひ
とつのあかるい、あたたかい光になって――。

「あやかさまはいじわるです、とても」

 ――どんな顔をしたらいいのかわからない。
 泣くのも変です。悲しいわけじゃない。
 笑うのも違うと思います。面白いわけでもない。
 怒ってもいないし、悲しいわけでもない。
 どうしようもない、表現のしようもないけれど、だからといって何もないわけじゃない。
私の中にあふれかえる、この名付けようもない、おおきなもの。あたたかいもの。
 これを私はいったいどうしたら――。

 綾香さま。
 私はこの方から、どれほど多くのものを受け取ったでしょうか。
 綾香さまから受け取った多くのものは、私の中でちいさな灯火となって、思い出を、こ
の瞬間を、その未来を照らしつづけています。
 いまも私の心の中で、ちろちろとかすかに、けれどもたしかに、燃えつづけています。


 ――私はこの人に何を渡せるだろうか?
 この世界の人たちに、私は何を残せるだろうか――


 だから。
 綾香さまに抱きつきました。
 メイドロボの身分で、失礼にあたるけれど。
 できるだけ体が、肌が、密着するように。
 言葉でも、表情でも、何によっても伝えることの出来ないものは、ほかにどうして伝え
たらいいんでしょう――?
 これで、感じてください。
 私の中にあるものを、このどうしようもないほどおおきく、あたたかいものを、綾香さ
ま、どうか感じてください……。


 とたん、ぽんっという衝撃が背中に。
 思わずびくん、と耳を突っ立てて。

「さ、行くわよセリオ。急がなくちゃ!」
「――なんでしょうか?」
「何でしょうじゃないでしょー。夜からクリスマスパーティーだってば」

 もちろんあなたも行くのよっ。びしっと指を突きつけられました。

「――ですが……」
「あー聞きたくない聞きたくない。黙って私についてきなさい! 大車輪でお風呂入って
ドレスに着替えて支度しなくちゃ!」

 夜の町を二人、駆けだします。
 さすがにしっぽはしまっています。走って帰るにはちょっと邪魔。



 ――せりおちゃん、せりおちゃん。

 ――お星さま、すみませんが今取り込み中です。

 ――わかってるわかってる。よかったね、せりおちゃん。

 ――見ていたのですか。
 
 ――じゃまだったかな?
 
 ――…………あまりいい趣味ではないです。
 
 ――まあまあ、いいじゃない。お詫びに私からもプレゼント、あげるね。
 
 ――お星さまがですか?
 
 ――そう。楽しみにしててね。



「綾香さま、綾香さま」
「なに?」
「――ご覧になれますでしょうか。オリオン座の中央の三連星のすこし左下に、よく目を
こらせば見える程度の小さな星があります」
「あ? あー、あれね」
「――あれが、SERIO−SAT3、日本上空をカバーしているサテライトサービス用
衛星です。私の……お星さまです」
「ふーん? 星が見下ろすイヴの夜、てとこね。ロマンティック!」




「………………」
 おそいです。

「ごめんごめん! みんなはじめちゃってる?」
「――申し訳ありません」
「悪いけどお先させてもらっとるわ」
「ごめんね綾香さん。綾香さんのお誘いなのに……」
「あーもーいいっていいってあかりぃ。今日は無礼講ってことで! そうでしょ?」
「志保、それは主催者側が言うことだと思うよ」
「お待ちしてました綾香さん! さあ、駆けつけ一杯れすよ!」
「あの……ごめんなさい。松原さんに、ジュースとお酒間違って渡しちゃって……」
「わわ、セリオさんすっごくきれいですぅ」
「――ありがとうございます」
「Wao! 雛山サン、タッパー出すのはまだ早いデース」
「これとこれとこれと……良太にも食べさせてあげなきゃぁ……」

「しっかしおせーぞお前ら。何してたんだ?」
「ふふー、あったりまえじゃないのよ」

 三白眼の浩之さんに、遅刻だっていうのに綾香さまは堂々と胸を張って。

「真の主役ってのは、いつだって最後に現われるのよ!」




「ところで……」
「なによ」
「お前フツーのドレスじゃねーか。セクシーサンタで悩殺よん、とか言ってなかったか?」
「いいの。あれはなかったことにしといて!」
「期待してたんだが……」
「うっさい。今度言ったら承知しないからね!」




 後日――。
 
 お星さまはたしかに約束を守ってくれました。
 私の元に送られてきた、一枚の衛星画像。
 最大倍率に拡大された、粒子の粗い俯瞰の映像に映っているのは、夜の街の中で二人抱
き合う私と綾香さま。
 誰も見ていなかったと思っていたのですが――お星さまがじっと見つめていた、思い出
の一枚です。
 あの日の夜の、忘れられない思い出。
 お星さま、何よりのプレゼント、ありがとうございます――。
 
 でも、あえて苦言をさせてもらえば。

 私と綾香さまの関係者全員のアドレスにその写真を送りつけたというのは、ちょっと……。



「ちょっと……何よ浩之! なんで『わかるわかる』と言わんばかりに肩に手を置くの
よ!」
「いや! いいんだ、何も言うな。そうだよな、ロボットでも人間でも、セリオはセリオ
だもんな」
「なによそれはあんたどういう意味!」
「そうかそうか、それで遅れたんだな……。
 いいんだ綾香、オレには分かる。こんなときメカフェチ呼ばわりされる辛さはオレが一
番よく知ってる」
「誰がメカフェチかー!」



「綾香さまー、見ましたよ写真。いやー、ウチの大事な娘ですが、綾香さまなら、まあ幸
せにしてもらえますねえ」
「勘違いしてるわ! あんたたち絶対勘違いしてる!」
「あ、例の映像ですけどHM7研のHPのトップに貼っときましたんで」
「剥がせ! 今すぐ剥がせーーーーーーーーー」



 衛星軌道をゆくお星さま。
 地上の人間の心の機微には、どうやらすこし疎いようです――。







http://plaza15.mbn.or.jp/~JTPD/