哀愁の『J』「競作シリーズその弐 NTTT VS その他大勢 お題:会話文のみ」 投稿者:takataka 投稿日:5月19日(金)01時25分
「ちょっと、いいカナ?」
「ふ。俺はいつでもかまわないが、ヘレンはどうだい?」
「No! 用があるのはアタシです。だから、アタシの事はいいノ」
「OK,Girl……座りなよ。俺の隣はいつも空けてある。ヘレンのためにな」
「また、言ってくれマスね……。
 ね、部屋の中なのにどうしてコート脱がないノ? それに、帽子も」
「ヘレンにはまだわからないかもしれないな。このトレンチコートとソフト帽……そして、
カットグラスにワイルドターキーのオンザロック。
 こいつは俺のポリシーだ。男のライフスタイルなのさ。言うなれば、体の一部みたいな
ものだ」
「アハハッ、ヘンです」
「ヘン? ……そうかもな。男の美学って奴は、時に滑稽で、哀しいものさ」
「じゃあ、アタシにもそれ、クダサイ」
「おやおや……いけない子だな、ヘレン。
 バーボンは大人の飲み物だ。チョコレートドリンクで我慢しておいた方がいい」
「でも、今日は飲みたい気分なんデス」
「……何かあったのか?」
「…………ウン」
「じゃあ一杯だけ、淑女の気分を味わってみるかい?」
「アリガト」


「君の瞳に、乾杯」
「……アハハッ、気取って見せるところは相変わらずなのネ」
「俺はいつだって変らないさ」
「デモ、昔からそうだったんデスカ? たとえば、昨日はどうだったノ?」
「そんな昔のことは忘れたよ」
「む〜〜〜。じゃあ、明日はどうするつもりなんデスカ?」
「そんな先のことはわからない」
「Oh! 答えになってマセン……」
「で、相談ってなんだい?」
「あのネ……聞いてくれる? クラスの男の子の事なのデース」


「ヒロユキはね、とってもやさしいノ。
 でも、そのやさしさは私にだけ向けられてる訳じゃあなくて……アカリや、トモコや、
他の女の子たちにも……ちょっとジェラシーです」
「強くなければ生きていけない」
「……エ?」
「やさしくなければ、生きていく資格がない。昔の気障な男のセリフさ」
「……Yea……」
「そのヒロユキって奴は、少なくとも悪い奴じゃなさそうだ。だが……ときにやさしさの
安売りは人を傷つける。ことに、それが男と女の関係のときはな」
「でも……アタシがわがままだから。アタシ、ヒロユキをひとりじめしたいって心のどこ
かで思ってる、勝手な女の子デスから……」
「恋する女はいつだってわがままなのさ。そして、男にはそのわがままをかなえる義務が
ある」
「…………」
「だから、男が心に抱く女の面影はひとつだけ。それが限度だ。
 その代わり、恋をした男は、たった一人の女のためにどんなことだってやり遂げられる。
地球を上下逆さにしてみろ、といわれたってやるだろう。カッコいいとはそういうことさ」
「マサカ、そんな……」
「いや、本当だよ。ヘレン」
「……ア」
「もう一度言う。それが真実なのさ、ヘレン……。男と女の、な」
「や、ヤダ、アタシ……なんだか……アナタのこと……。
 アタシ、浮気っぽいのカナ」
「おっと! そいつはまだ早いな。
 ハイスクールにはハイスクールの恋愛があるように、大人には大人の恋愛がある。そい
つはただ甘いだけじゃなく、深くて、ほろ苦い。ヘレンにはまだちょいと早い大人の味だ
な。
 ヘレン、俺に惚れるなよ」
「……モウ!」


「ワンモア……モウひとつだけ、いいデスカ?」
「今度はなんだい?」
「あのネ……。今度は、アナタのことナノ」
「俺の? そいつは興味深い」
「違うの。あんまりいいことじゃないデスから、期待しないで聞いてクダサイ……
 なんだか……ちょっと違うンデス。
 うまく言えないけど、何かが違ってるノ。アタシとアナタ。
 マサシにも相談したんデス。マサシは、アタシよりももっとこういうことに詳しいから
……でも、『レミィ、それって少しへんだよ』って言われちゃいマシタ」
「ふむ、そいつはちょいと深刻だな」
「ネ……聞いてイイ?」
「ああ」
「あのネ、えっと……ソノ……」
「大丈夫だよ、ヘレン。俺は何を聞かれても動じやしない」


「ジョニー! アナタ本当にハムスターなんデスカ?」
「――そんな昔のことは忘れたよ」



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