「やっぱり、あたしなんかがそばにいたんじゃ、和樹の邪魔になっちゃうから……」 夕暮れの公園で、身を寄せ合う俺たち。 目を伏せる瑞希。 俺はそんな瑞希の肩を引き寄せる。 「バカなこというなよ。俺は……お前のために描いてるんだぜ」 「ええ?」 「ああ……次のこみパに出す本は、瑞希お前にささげるよ。俺からのラブ・メッセージ、 漫画にこめて、お前だけに……」 「和樹……」 そんなの読まされる無関係な読者はいい迷惑だろうが、愛の前にはオールOK。 「でも、いままで散々あんたの邪魔してきたあたしに、そんなもの受け取る資格はないわ よ……」 「まだわからないのか瑞希! 俺にはお前が必要なんだ!」 「え? ちょっちょっと和樹一体何を」 「うるさい! こうなったら体に直でわからせてやる直で! お前がいけないんだからな、 お前が誘惑するからこういう事になるんだ! なんていやらしい女だ!」 「え? だってこんな公園で?(ちょいうれしそう)人通りだってあるのに?(割とうれ しそう)」 「ああ、だが俺はそんなことにひるみやしない! なぜなら瑞希、お前を愛してるから だ!」 「か、和樹……(よっしゃイタダキ! と後ろ手でがっつぽーず)」 「ああ! 9時の方向にバカ二体捕捉!! ちょおいい感じのムード!」 「よっしゃ! ただちに攻撃に移るでえ!」 ♪芸のためなら 彼女も泣かす それがどうした 文句があるか 雨の有明 ビッグサイト こみパしぐれの 夫婦花 今日も読んでる 今日も読んでる どアホウ同〜〜〜人屋〜〜〜〜〜♪ 俺たちを祝福するかのように、いい感じのBGMが流れる。浪花節とはまた通だぜ。 燃える夕日を背に負って、俺はガツンと大見得切った。 『よっしゃ瑞希、今に見とれや…… わてがこみパのモーツアルトや!(意味不明) コピックやコピックや! コピック買うて来い!』 瑞希はひしとすがりつき、 『あんた萌えなはれ! トレカも買いなはれ! それがあんたの芸の肥やしになるんなら……』 ♪笑う二人に 笑う二人に おたくの春〜〜〜が来る〜〜〜♪ 「なんか俺たちノリが由宇に似てきてないか?」 「それはきっと、愛よ!」 「愛…………」 「そう! 二人の愛のパラメーターがシナリオクリア条件を満たしたって感じ!」 「愛か……」 ずももももももももももも(イメージ映像・某宇宙戦艦と古代と森雪[目隠し付き]) 「そっか愛か! そうだよな!」 「そーよ! 愛よ!」 「オッケ了解! そういうわけで瑞希瑞希みずき〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 「ああんっ和樹和樹かずき〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 レッツカマーンてな勢いでがっばーと上着脱ぎ捨てる瑞希。 きらーん☆ 「なに? いまのメガネのレンズみたいな輝きは……」 ふみゅーん。 「は、この謎効果音は、まさか……!?」 きょろきょろとあたりを見回す俺たちに、忍び寄る二つの影。 「悪い子はいねが〜」 「公園でさかってるちょおちょおちょぉぉおえっちな子はいねが〜」 「このくそ寒いなか、アウトドア感覚のはりきり青姦バカップルはいねが〜」 季節はずれのなまはげ祭り!? 畜生! なんだってんだ一体! この熱い青春のたぎりをどうしてくれる! 「くそっ! 誰だお前ら!」 「見つけたで和樹!」 「な、なにいいいぃ!? お前らは!?」 どこかでみたようなメガネとどこかで見たようなふみゅー。 「「ひあうぃーごー・えぶりばでぃ・かもん・ろっくんろーる♪」」 「猪名川とっ」 「ちゃん様のっ」 「「れっつ・ろっくんろーる♪」」 やめんかそういうネタは。 「くくく……うちら二人でこみパ追放になってからこっち、二人でユニット組んでたわけ や。和樹! ワレ一人で抜け駆けしょうゆーたってそうは問屋がおろさへんで!」 「そーよ! この超帝詠美ちゃん様としてはべえっつに一人でも十分大阪のイベントでク イーンの座にのし上がるだけの動員できたんだけど、そこのちょおちょお情けない子パン ダがどうしても一緒にやってくれって泣いて頼むもんだから、ついつい情けをかけてしま ったってワケ! やだもうっ詠美ちゃん様ってばちょおやさしい! ちょおはぐれ刑事人 情派!」 意味不明なコトほざきやがって。 「大バカはかまわず、自分ら! よーもまあ公衆の面前で細胞分裂しよるな!」 「な、なによそれ! あたしと和樹の間はそんなんじゃ」 「じゃらっしゃ! うちらに断りもなくなに子孫増やしとんねん。自分らみたいなんがこ れ以上増えたらな、マンガ界の将来が暗黒の闇なんじゃー!」 「そーよ! ちょおさいっってえ! ちょおちょおなんてゆーのか……その……。 えっと、バカ!」 きらーん☆ 「いま何か、光……」 たしかに何かが。そう、由宇のメガネとはまた違う、独特の光線が。 「ごまかすんやないで和樹。さあ! 往生しなっせーーーーーー!」 「だから人の話を」 「あらあら、こんなところで会うなんて……」 沈む夕日を背に受けて、ボクらの希望があらわれた。 「なっっ!? その声は!?」 「ちょおちょお聞きなれたその声はああ!??」 「久しぶりね、由宇ちゃん。それに詠美ちゃん」 「牧やん!!」 こみパスタッフ牧村南! インカム属ずれメガネ科に分類される場内整理生物! こみパに集まる若い衆の若いエキスを吸って千年は生きるといわれる長野県人会の闇総裁っ! そのみっつのしもべのうちのひとつは、あの九品仏大志である! しかも、風邪で休んだってのは嘘で来栖川電工七研にメンテに行ってたとか、敗北が知 りたいがために訪れた五人の死刑囚のうちの一人だとか、正体はニャルラトテップだとか、 裏でいろいろいーかげんなことを言われている陰のこみパ主催者! 「あらあら、駄目ですよ若い二人の邪魔をしては」 「ちゃ、ちゃうでぜんぜんちゃうねんで? うちらたまたま通りがかっただけでっさかい、 なー詠美?」 「そーよもちろんそー! この超詠美ちゃん様がポチのご乱行をたしなめにわざわざ関西 から東下りなんてするわけないじゃない」 「そういうことなんですか」 「ダメな方に納得しとるし!」 「何よ、私のせいだっての!? ちょおMMR! じゃなかったMK5!」 「仕方ありませんね。本当は私もこんなことはしたくないのだけれど……」 くいっ 「ま、牧やんがメガネずれを直しよったあああああーーーーーーー!?」 「い、いやあああああ!! まさか、あれは、伝説の……?」 「カタログにある諸注意が守れない人はぁー……」 にっこり。 「お姉さんを怒らせちゃダメですよ♪(はぁと)」 現場に残されたものは、ひびの入った丸メガネ。 ダウンジャケットからはみ出した羽毛が雪のように舞う。 二つのぼろ切れのかたまりらしいものの上に、静かにふりそそぐ。 「………………」 「………………ふみゅ……」 あ、いま少し動いた。 「じゃあ和樹さん、高瀬さん、あの子達がいたづらしないように私がちゃーんと見張って ますから、お二人ともどうぞごゆっくり……」 わくわく。 そんなかんじで、じーっとしゃがんで俺たちを見つめる南さん。 片手にはカメラ装備だ。おまけに腕には『こみっくパーティー記録班』の腕章が。 「これもこみパの一風景……若いっていいわね。あら、和樹さんに高瀬さん、どこ行く の?」http://plaza15.mbn.or.jp/JTPD/