進級試験 投稿者:takataka 投稿日:3月20日(月)05時04分
 マルチのボディの更新時期がやってきた、と主任は言っていた。

「ああ、そう……メインの部品の大部分は交換になるよ。
 一般に発売されてるメイドロボだともうすこし持つんだが、試作機のマルチにはいろい
ろと特殊な事情があって、オーバーホールが早いんだ」

 マルチは昨日から定期検査のために研究所に帰っていた。
 突然の電話に一体何事かと思ったのだが、主任はいつもと変わらず、独特の間延びした
声であれこれと説明してきた。
 今回のメンテについては、一般ユーザーとしては実費では負担が多すぎるというのだ。

「でも、やんなきゃならないんでしょう?」
「そうだよ」
「オレだってマルチに必要なら別に出し惜しみなんかしませんよ」
「そうかい? 実は……」

 主任が切り出してきた額は、マルチがもう一台買えかねない位だった。

「なっ……」
「びっくりしただろ?」
「だって、そんなの……新しいマルチ買えるじゃないッスか」
「じゃ、そうするかい?」
「冗談言わないでくださいよ」
「いや、ごめんごめん」

 何しろ試作機だし、使われている部品も量産機とは微妙に違う。コストダウンのために
構造を大幅に変えた量産機とは互換性のない部分もある。そのため、AIをほとんど丸ご
と新しいボディに乗せかえることになるという。

「そのため、事情を考慮して研究所の方で全額負担してもいい、と思ってるんだ。
 ただ、なんにもないのにそれだけの予算を引っ張り出してくるのはちょっと難しくて
ね」

 浩之はその口調になんとなくデジャヴを感じた。
 公園で初めて会ったとき、鳩に餌やりながら『ロボットに心は必要ですか』と尋ねた、
その時の口調に若干似ていた。
 なんか腹んなかに隠しもってるときの癖だな。何か他のことに集中しているように見せ
かけて、その瞬間一番大事なことを何でもないことのようにポロッと言うのだ。
 あいかわらずこの人だけは油断ならねー。
 浩之はひそかに身構えた。

「――そこで、ちょっと協力して欲しいんだ」

 ほらきた。

「なんですか?」
「新しいボディに移る前に、古いボディでやっておきたいことがあるんだ。
 ま、ちょっとした進級試験ってとこ」





 浩之は、予想外の光景にしばし茫然とその場に立ち尽くした。
 広大なテストコースが目の前に広がっている。
 地平線が見える、と思ったのは錯覚で、海に面した工場地帯にテストコースがあるので
そのように見えるだけだった。

 来栖川グループの製造部門でも、電工と並んでトップクラスの規模を誇る大企業、来栖
川自動車の中央研究所。
 国内でも最大の規模を誇るテストコースと、安全性確保のための各種の最新実験施設が
ウリ……などという説明は来る途中の車の中で受けていたが、実際目にすると圧巻だった。

「はー、すごいッスねー……」
「まあ、来栖川グループだからね」
 事もなげに言う主任。

「で、質問なんすけど、自動車屋さんとマルチになんの関係が?」
「それはね……お、用意が整ったようだな」

 エンジン音にふり返ると、小型のライトバンが後ろに来ていた。

「浩之さあーん……」
「おお!? マルチ?」

 よいしょ、とバンの引き戸を開けて出てきたマルチに、浩之はわが目を疑った。
 マルチは購入時に着ていたような薄いデータスーツに身を包んでいたが、よく見るとデ
ザインが微妙に違う。
 体のところどころに、丸いチェッカー模様が入っていた。なんとなくどこかで見たこと
のあるデザインだ。
 しかも、二の腕には刺青のように、皮膚に直接『HMX−12”マルチ”試作機』とプ
リントされている。

「わははは、刺青入ってるじゃんお前。これで銭湯とか入れなくなったな」
「あうー……」

 ぺしぺしと腕を叩くと、マルチは恥ずかしそうに身をよじる。

「こ、こんなとこ見られてしまって、お嫁に行けないですー」
「これ以上どこに嫁に行くつもりだお前」

 てい、とチョップくれるとマルチはてへ、と舌を出した。
 いらんボケ覚えやがって。あきれる浩之。

「じゃ、さっそく乗ってもらおうかな」
「はいっ」

 マルチは元気よくうなづく。がんばるぞ、という感じに胸の前でぎゅっと拳を固めた。





 流麗なデザインの車が待機していた。
 なめらかで生物的なフォルムは、固い金属製というよりもむしろ高速度カメラで撮影し
た流れ落ちる瞬間の液体を思わせた。
 街中で何度か見かけたことがある、来栖川製の最新モデルによく似ていた。

「実はこんどの新車に乗せる新型のナビゲーションシステムを来栖川電工の方で担当して
てね。それがメイドロボと協調して運転を行うシステムなんだけど、その試験に協力して
欲しいんだ」
「試験って、その車にマルチが乗るんですか?」
「ああ」
「だってアイツ運転なんか……」
「大丈夫。その辺はうまい仕掛けがあるんですよ」

 がちゃり、とドアが開く。マルチが転がりでてきた。

「はわああああ! ひ、ひろゆきさん! この人怖いですー!」

 運転席に乗り込んでいたマルチが泣き声をあげる。
 見ると、隣に座っていたダミー人形にだらーんと寄りかかられていた。

「ひいぃぃぃ、なんか目がないですよこの人!」
「人形をいちいちこわがってるんじゃない!」
 ぺし。
「はうー……」





「じゃ、まずは平均的なとこから行こうかな……」

 フルラップ30km/hによる衝突試験。

「いいかい、マルチ」
「はい! おっけーです!」

 テストコースの向こうから車が走ってくる。
 ちょうど長瀬たちが待機しているブースの真っ正面に鎮座している巨大なコンクリート
塊。その前面には銀色のアルミハニカムバリアが取り付けられている。
 自動車同士の衝突を想定しているため、ぶつかる相手側の衝撃吸収力も考慮してそのよ
うになっている、と長瀬が簡単に説明した。

 がしゃん。
 思ったより軽い音がした。一昔前と比べて、車の軽量化が進んだ証拠らしい。
 思わず目をつぶってしまう浩之。

「大丈夫かよ、おい……」

 長瀬が計測機器の山のなかからマイクを拾い出した。

『どうだい、マルチ』
『あうう……お顔をぶつけましたー』

 スピーカーからマルチのへろへろ声が聞こえる。浩之はほっと息をついた。

『エアバッグは作動してるだろう?』
『そうですけど、これ結構すごい衝撃ですよー』

 モニターを除いていた研究員が主任を手招きする。マルチの感覚器をそのままモニタリ
ングすることによって、きわめて精密な衝撃データが得られるのだ。

「ふうん……このくらいならまだまだってとこか。車体の状態のモニタも動作してるし…
…フュエルの漏れもないようだね。じゃ、迎えに行こう」

 近くで見ると、浩之は、うわ……と漏らした。フェンダーがそっくりつぶれている。
 車体全体で衝撃を吸収する構造らしく、センターピラーの上あたりの屋根にもしわが寄
っていた。

「はううぅぅ〜」

 がちゃり、と特に異音がすることもなくドアが開く。マルチがふらふらとでてきて、ぺ
たん、と地面にしりもちをついた。

「あんなすごい衝突しても、ドア空くんすね……」
「これがいまの衝突安全性のレベルだよ」

 はた、と気づく。感心してる場合じゃない。とりあえずマルチを引っ張り起こしてやる。

「マルチ……大丈夫か?」
「はうう……なんとかー。わたし頑丈ですから」
「じゃ、次の実験行こうか」





 新しい車はさっきのものと同じタイプだった。
 見ているとマルチは、ダッシュボードを見つめて、はい、はいですーなどとぼそぼそつ
ぶやいている。時おりこくこくふるふると身振りまで入れて。
「何だマルチ、誰かと話してんのか? もしかして独り言?」
「え? はわわっ、ち、ちがいますー! この方ですー」
 ダッシュボードを指差す。何の変哲もないインパネに、2DINサイズの見たことのな
い機器が納まっていた。単なるオーディオとはちがうようだ。

「なんだこれ、カーナビ?」
「ちがいますう! オートクルージングシステムさんですー!」

 えっへん、と胸を張るマルチ。

「わたしたちメイドロボとシンクロして、操縦者の視点から見て最も適した自動操縦を行
う、オートナビゲーションパイロット……えーとその……凄いシステムなんです!」
「別にお前がえらいわけじゃないだろ。なぜにお前が威張る」
「あうう……それはそうなんですが……」

 しゅん、となるマルチ。分かりやすい奴だなー、と浩之は苦笑した。
 それについては聞いたことがあった。車の自動操縦はまだ過渡期で、しかも普通の人間
が操縦する車と同じ道路に混じって走るのはかなり難しいということだった。
 人間の操縦する車は時おり予想もつかない動きをしたりする。そこで、操縦席からの体
感データがぜひとも必要らしい。まあようするに、ふらふら走ってる車を見て「アイツ危
なそうだ……」とかいう微妙な判断を要求するデータとかである。

「私はデータをあげて大体の指図をするだけで、実際の運転の細かい部分を担当するのは
この方なんですよー」
「そっか、ふつつかなロボだけど、頼むぜ運ちゃん」
 ぺしぺしと機器の表面を叩いてやる。意味はないが、とりあえず激励しておきたかった。
「あうぅ……ふつつかじゃないです……」
 マルチ不満げ。
「ま、がんばれよ。これが終わったら新しいボディだぞ」
「はい! が、がんばりますー!」

 元気よく返事はしたものの、浩之が行ってしまい、またカウントダウンが始まる段にな
るとマルチは不安げに口に手を当てた。
「どきどきですー。緊張しますー」
 こわごわとハンドルやらウィンドウを見渡す。
「ここに凄い勢いでごっつんこしてしまうんですね……エアバッグがあると言っても、や
っぱり怖いです……」
 ど、どうしたものかー。
 マルチには普段は制限つきの痛覚がある。機器の破損などの情報を得るためだが、過度
に痛みを感じる場合や、自身およびマスターに危険が及んでいる場合は意識的に痛覚情報
をカットできる。
 いまはテスト用に一切の痛覚をAIに流すことなくカットしていた。その代わり、モニ
ターしている長瀬たちの方には情報として送られる仕組みだ。
 しかし、いくら痛くないといっても怖いものはやはり怖い。
 たとえば、麻酔をかけたからといって、針山の上を歩けるかどうか。

「ううむ……どうすれば……。
 あ、そうだ! 怖くないように、このエアバッグがお知り合いの方だと思いこむ、とい
うのはどうでしょう!」
 うーん、とイメージを膨らませる。

「そうだ! 運転席側のがレミィさんので、助手席側のが保科さんのですー!」

 びしいびしいっと二つのエアバッグ収納部を指さしつつ。

「はわわっ、コレ名案です!
 なんだかいいです! むしろ積極的に飛び込みたいような気がします!」
 本人たちが聞いたら怒られそうな空想で、なんとか空元気でも奮い起こそうとするマル
チだった。





 次は、40%オフセット80km/hでの衝突。

 どがしゃん!
 今度は相当重い音がした。

「マルチ、お前大丈夫か……!?」

 駆け寄った浩之は、息を呑んだ。
 割れたダッシュボードからエンジンの一部が突き出している。金属の塊ががっしりとマ
ルチの足をはさみ込んでいた。
「マルチ! おいマルチ!」
「あ……浩之さん」
「しっかりしろ! いま助けてやるからな!」
 金属塊に手をかけて動かそうとするが、びくともしない。
「藤田くん、そこどいてくれ」
 作業用の電気カッターと油圧ジャッキを持ったスタッフが手際よくフェンダーを切り開
き、マルチにのしかかっているエンジンの塊にジャッキをかませる。
 みしみしと金属のきしむ音が響く。
「せえのっ!」
 掛け声とともに引きずり出されたマルチの下半身は、目も当てられないような状態だっ
た。
 人間で言えば骨盤骨折にあたるのだろうか、腰の形が変形しているように見えた。右ひ
ざの関節が外れて、大腿骨が皮膚の破れた膝頭から突き出している。皮膚の表面はかぎ裂
きを作ったようにずたずたに裂けて、保護液が漏れ出していた。

「マルチ! お前……大丈夫なのかよ!?」

 自分の下半身を見下ろして、マルチは言葉を絞り出す。

「……へっちゃらですよー」

 そうは言っても、言葉に震えが出ていた。顔色も悪い。平気なわけないじゃないか。浩
之はなにか必死でものを頼むような表情で長瀬を振り返った。
「ふむ」
 長瀬主任の表情は相変わらず読めない。まるで何か貼り付けたような、能面のような無
表情。
「腰掛けてるだけなんだから、下半身の破損は問題にならないね。それに、簡単な補修で
とりあえず歩くことは歩けるだろうし。じゃ、続けよう」
「主任……ほんとにこれ、大丈夫なんですか」
 真剣に問う、浩之。
「危険防止のために一回一回AIのバックアップをとってる。それに、無線で常時LAN
を組んでるから、たとえマルチの身体のAIコンピュータが完全に破損してもマルチの意
識が消えることはないよ」
「だからって……」
「これはHMのテストでもあるんだよ。事故にあった際の耐久性のね。ボディもそうだが、
むしろAIの耐久性を試してるんだ。突然の事故にパニックを起こすことなく、冷静に対
処して主人の安全を最優先に行動できるか。人間の間で生活するメイドロボには重要なこ
とですよ」

 クリップボードになにやら書き込みながら、長瀬は世間話のように軽く言った。





 次の実験で、浩之は思わずブースから飛び出しかかった。
 衝突して、所員たちがそろそろと近づき始めた瞬間。
 ぼんっと鈍い音。火柱。黒い煙がきのこ雲のように広がりながら立ち上がる。ガソリン
に引火したのだ。
 
「……おい! マルチ!」
「待って藤田くん!」

 腕を掴まれる。振り返ると主任が首を横に振っていた。ブースからは防火服に身を包ん
だスタッフが走り出てきて、火柱を上げる車体に消化剤を撒く。

「おいマルチ! 大丈夫なのか!?」

 ふらふらと歩き出すその姿に、浩之は支えてやろうと踏み出した足を踏みとどまった。
 車体からゆっくりと離れ、炎に包まれながら歩くそれは、いつだったかテレビで見た開
発中のロボットのフレームにそっくりだった。バランスをとるように腕を頼りなく突き出
し、ふらふらと揺れながら歩いている。
 それはどこか不気味で……亡霊のようなありさまだった。

「あうぅ……なんとか……」

 マルチの声は後ろから聞こえた。
 驚いて振り返ると、背後の観測機器ブースのスピーカーから鳴っているようだった。
 もう機体の発声機構が動かないのだろう。喉の皮膜がざっくり裂けているところを見る
と、その下の擬似声帯まで破損したのだろうと思われる。
 わざわざ外部スピーカを鳴らしているのはそのためだろう。

「……マルチ」





 次の試験の準備が遅滞なく進められている。所員たちは黙々と準備に取り掛かっている。
黒焦げになった小さな体が、次の車に押し込められている。

「主任、どうしてこんなことさせるんですか?」

 押し殺した声。
 浩之の肩は小刻みに震えていた。

「もういいじゃないですか! あいつ、こんなにがんばってるじゃないですか! もうこ
のへんでやめにしてやりましょうよ」
「駄目だね」

 長瀬の胸倉をつかむ。浩之は完全に逆上していた。

「何でだよ!? あんたマルチの父親だろ? マルチがかわいいんじゃないのかよ? 自
分の娘をこんな目に逢わせて、あんた楽しいのかよ?」
「楽しい訳ないだろ?」

 浩之はびくっと手を放した。
 長瀬は全身汗まみれだった。白衣の下はまるで水でもかぶったかのようにぐしょ濡れで、
顔に流れる汗をぬぐおうともしなかった。その目はテストコース上の車から少しも離され
ることはなかった。

「これは必要なことなんだよ、藤田くん。これから生まれてくるあの子の妹たちと、共に
暮らしていく人間たちのためにね」

 長瀬の台詞は重かった。
 考えに考え抜いた人間の言葉だ。この答えは、決して簡単に出されたものじゃない。
 浩之にはそう思えた。

「たとえばマルチが交通事故にでも遭ったとしよう。従来型のメイドロボならば即座に主
人の安全を第一に考えた回避行動が取れる。ただし、マルチの場合はどうか。これはまっ
たくわからないんだ。情動にタスクの大部分を持っていかれてるマルチは、状況によって
情動部分の動作を停止して、通常のHM互換の動作モードに落ちて冷静に行動することが
出来るようにはしてある。
 ただ、あのとおりマルチはココロのあるロボットでね。心がある以上緊急事態に対して
情動系がオーバーフローする……人間で言えばパニック状態になるのは避けられない。そ
うしたとき互換モードへの受け渡しにほんの数ミリ秒でも遅れが生じたりすると、致命的
な結果を招きかねないんだ。わかるだろ。
 心を持つメイドロボを本気で売り出そうと思うならば、そのあたりをきちんと詰めてお
かなければならない。緊急時の動作に不安の残るメイドロボを世に出すわけには行かない
んだ。ましてや『ココロ』の動作状況については分かっていない部分が多すぎる。最低限
万が一の事態には備えておかなければならない」
「だからって! あいつ怖がってるじゃないですか! 辛そうじゃないですか! あいつ
の気持ちを無視してこんな……」
「これはマルチの意思なんだよ」

 浩之の台詞をさえぎって、長瀬は押し切るように言った。

「そんな……」
「説明を終えたとき、マルチに聞いたんだ。もしいやなら断ってもいいとね。メンテの代
金のことなら何とかするから心配しなくていい、浩之くんに迷惑のかかるようなことには
ならない、そう言った」
「マルチは……なんて……」
「それでも、やると言ったよ」

 長瀬は浩之をまっすぐに見据えた。嘘を言っていない人間の目だ。浩之はそう確信でき
た。

「妹たちが生まれてくるために必要なことなら、喜んでやります、と、マルチはそう言っ
てたんだ。
『それに、お姉さんたちに、ご恩返しをしなきゃいけません』とも。
 どういう意味かわかる?」

 浩之は首を振った。

「あの子が生まれる前にも、あの子の姉たちが……未完成状態のAIを搭載した12型テ
ストモデルが同じような試験を受けた。プレス機で押しつぶされたのもいるし、数トンの
土砂に埋められたのもいる。彼女らはそのために作られてきて、きちんと自分の役目をな
し終えた。それは……辛いことだったろうけどね。
 それでも、それは必要だったんだよ。あの子が生まれてくるために」

『だから、わたしがここで逃げたら、わたしが生まれてくるためにがんばってくれたお姉
さんたちに申し訳ないです。妹たちのためにも、妹たちが心をもって生まれてくることが
出来るためにも、やらせてください』

「――マルチ……」
「分かった?」





 衝突音。
 浩之は胸が押しつぶされるようだった。
 金属の引き裂かれる音が、まるで自分の体が引き裂かれるように感じた。
 だが、実際にはそれはマルチが感じていることだ。
 自分はこんなところにいて、ただ見ていることだけしか出来なくて、あそこでマルチが
辛い目にあっているというのに、それをともに感じることが出来ないのだ。

「……俺も乗りますよ」

 分かっていた。そんなこと到底無理だろう。
 このテスト一回だけでも、浩之には到底生き残れない。
 そんなこと許可されるわけがない。ただ、それじゃあんまりマルチに申し訳ないじゃな
いか!?

「オレも乗せてください。オレはマルチといっしょに生きていくって決めたんです。どん
な辛いことも、マルチといっしょに受け止めていくって約束したんです! だから……!」
「無茶いいなさんな。これはロボットだから出来ることなんだよ。生身の人間相手にこん
なことできるわけないでしょ」
「……ロボットだったらいいんですか」
「うん。いいの」

 浩之の押し殺した口調、明らかに怒りが――長瀬に対してでもあり、自分に対してでも
ある、マルチのために何もしてやることの出来ないふがいなさに対して――それがこめら
れた口調に、長瀬は軽くいなすように返した。

「人間には到底出来ないこと、人間にやらせるわけにはいかないことをやってもらう。そ
れもロボットの大事な存在理由のひとつなんだよ。なにも人間でも出来ることを代わりに
やらせるばっかりが芸じゃない。だったらロボットなんか要らないでしょ。
 マルチはロボットだからこんなことが出来るんだよ。君は人間だから出来ないし、やら
せるわけにはいかない」

 研究員たちが手際よくマルチを次の車のなかへ押し込んでいる。破損した感覚器の代わ
りとして外部カメラやセンサを接続すると、それはまるで人工呼吸器や点滴のチューブを
つけられた重病患者のようにも見えた。

「言うまでもないことだが、マルチはロボットだ。人間じゃない」

 浩之はうつむいたまま、肩をふるわせていた。
 長瀬が声をかける。

「これはマルチの闘いなんだ。あの子にしか出来ない、たった一人の、辛い闘いだ。
 強制はしない。だが、できるなら見届けてやって欲しい。君はマルチのマスターで……
ココロのあるロボットと生きていくことを選択した、最初の人間だから」





 120キロフルラップ。
 ここまで来ると最新の衝突安全性の基準をクリアしたボディでも乗員の安全を保つこと
は出来ない。
 車体は紙くずのようにくしゃくしゃになり、車室の前半分は完全につぶれていて、もう
そこにいるはずのマルチの姿も見えない。
 手際よくスタッフが車体側面を切り開き、エンジンにジャッキをかませる。そして、シ
ートの上から何かを引きずり出した。

「見てごらん、藤田くん」

 長瀬主任がうながすが、しかし――。

 それを正視することは難しかった。
 それは――マルチはひどい状態だった。すでにあのかわいらしい顔も、皮膜が剥がれ、
その下の人工筋もダッシュボードやハンドルとの絶え間ない衝突で形が崩れ、かつて目鼻
のあった部分を判別するのも難しかった。
 片耳に外れかかりながらもなんとか付いている耳カバーで、それがマルチの頭部である
ことがようやくわかった。

「見るんだ」

 いままで聞いたこともないような強い口調で、長瀬は言った。

「これはただのロボットだよ。ご覧の通りだ。
 ころころ変わるかわいらしい表情もない。声もでない。あのつぶらな瞳もない。胸部と
胴の構造部はこのとおり半分つぶれて原形をとどめていないし、足は両方とも切断されて
いる。
 AIの認識レベルもそうとう落ちている。動作レベルはセーブモード以下だろうし、思
考力は普段の百分の一もない。
 いま話しかけても、おそらくなんの反応もしないだろう。
 でも、強制停止コードは発信していない。まだやれる、まだ戦えるって言ってるんだ。
 こんな姿になってでも、人間のために、君のために、一生懸命に自分の身をささげてい
る。
 その姿がこれなんだ。
 たしかに、美しくはない。
 どうだろう、これを愛せるだろうか?」

 浩之はぐっと息を詰まらせ、目を閉じ、深く息を吐いた。
 もう、迷いはなかった。

「どんなになったって、マルチはマルチですよ」

 頭と思われる部分に、手を載せる。
 髪の毛は車両火災で焼き切れて一本ものこっていない。たぶん、頭部の感覚器官も生き
てはいないだろう。
 それでも、浩之はマルチが満足するだろうと思われるまで、その頭部をなで続けた。

「もういいかい?」
「もうすこし、いいですか――?
 コイツ甘えん坊だから、このくらいはなでてやらないと満足しないんですよ。なあ、そ
うだろ? マルチ」

 焼けこげたフレームはぴくりとも動かず、返事らしき反応はなにもなかった。





 そして、最後の試験。
 コース途中に水を張った路面が用意されている。車はそこでスピンし、コントロールを
失う。それを何とか立て直して、マスターにとってもっとも安全と思われる状況へと導く
のが課題だ。
 マルチは――すでにメインフレームの大半は損傷し、四肢は外され、席にはテープとベ
ルトで固定されていた。
 衝撃と火災で完全に破損した顔面の感覚器の代わりに外部接続された対物センサとカメ
ラで、流れて行く景色と、次第に迫ってくる衝突目標をじっと見守っていた。

 ためらうことなく加速する。

 車のAIと直接ケーブル接続されているので、アクセルを踏む足がなくても、ハンドル
を握る腕がなくても操縦することはできた。
 最高速度で、ぶつかってみる。

 怖い。
 どうなるかわからない。
 ここに来る前、主任が言っていた。

「私たちはできるだけの万全の措置をとる。たとえ君の体がバラバラになっても、その瞬
間までの記憶を取り出して新しい体にインストールすることもできる。
 ただ、何事もそうだが、万が一、ということは必ずある」

 主任はゆっくり、こわれ物に触れるみたいにしてマルチの肩に手をおいた。

「覚悟だけはしておいてくれ」

 はい、主任。
 ありったけの笑顔でうなづいた。
 主任が悲しむ顔は見たくなかったから。

 でも、こうして矢のように空気を切りさいて決定的なその瞬間へと走り続けるいま、た
まらなく怖かった。

 どうなるかわからない。
 いままでそんなことを経験したロボットもAIもないのだから。
 何もかもがはじめてなのだ。はじめての危機、はじめての、恐怖。
 マルチはときどき考えていた。
 自分が試作機であるということ。
 初めてだから、何もかもが初めてだから……一番辛い目に会う。一番苦労をしいられる。
 はじめての、心のあるロボット。




 いつだったか、なにかのTV番組で、雪を掻き分けて進むペンギンを見た。一番先頭に
立つペンギンが、その体で雪を押し分けて、後から来るもののために道をつくってやって
いる。

「大変そうですー」
「なにが?」
「いちばん前のペンギンさん。あんなに苦労してて……雪もつめたいし、押し分けるのも
大変なのに、イヤにならないんでしょうか?」

 浩之は少し考えて、ふっと息を突くと、マルチの頭にぽん、と手をおいた。

「アイツは、進んであの役目を引き受けてるんだと思うぜ?
 後についてすすんでる連中はさ、アイツの家族なわけだ。アイツは、自分の家族を守る
ために一生懸命なんだ。何でだと思う?」
「それは……」

 家族を守ること。
 それは自分の子孫を継続させ、自分の遺伝情報を有効に後世に伝えうることだ。あらか
じめ与えられた自分の知識の中から、そういう答えが導き出されてくる。
 遺伝子は自らのコピーをより確実に残すため、その乗り物である生物に命じて……。

 でも、それだけなのかな?

「すきだから」
「ん?」
「あのペンギンさんは、たぶん後ろのみんなのことが好きなんです。好きだから、そのた
めになにかしてあげたいんじゃあ、ないでしょうか……」

 それはマルチ自身がそれまでの生活から得た知識だった。
 すきなひとのために、なにかしてあげたい。
 義務でなく、規則でもなく、原則でもない。

 だいすきなひとのために、お掃除を。
 だいすきなひとのために、他の人よりも優先して。
 だいすきなあのひとのために、命令に背いて、一晩だけ、あのひとのために……。

 浩之さん。
 じっと見つめる。
 真剣なまなざしが、ふっと柔らかくなった。

「おっけ、いい答えだ」
「あっ……」

 浩之の暖かい手がくしゃくしゃと髪の毛をかき、なでる。

「お前らしいぜ、マルチ」

 妹たちのために。
 人間のみなさんのために。

 そして……浩之さんのため、誰よりも大好きな人のために。





 マルチはさらにスピードを上げる。
 と、突然視覚がブラックアウトした。視覚系統がダウンしたらしい。ただちに車に搭載
されたAIの支援を受け、対物レーダーで衝突目標の位置を把握する。大丈夫、スピード
は一定。コースから外れてはいない。

 怖いのは変わらない。でも、マルチはたしかな安心感を得ていた。
 これは浩之さんのためだから、だから、大丈夫。

 暗闇の中、視覚だけではなく、あらゆる感覚が閉ざされている。
 速度と対物レーダーからの入力は数値情報として伝達されているので、感覚の代わりに
はならなかった。

 ――ねえ。

 声?
 だれかが、声をかける。
 誰だろう? わたしの耳、もう聞こえていないはずなのに。


 ――ねえ、きみ。

 ?

 ――僕の声が分かるかい?

 はい。

 ――怖くないの?

 …………。

 ――逃げ出したくはないの?

 大丈夫です。

 ――きみはこんなことをするために生まれてきたんじゃないはずだよ。

 大丈夫です。わたし、やります。

 ――きみは、どうしてそんなに一生懸命なの?

 大切な人がいるんです。

 ――大切な、ひと?

 はい。大切な人を、お守りしたいんです。私の命に代えても。

 ――…………。
 
 これはそのために必要なんです。だから……。





	 ――きみは、しあわせなんだね。

	 はい。




 ――これが最後だよ。がんばろう。

 はいっ。





 それから目を背けることなく、浩之は見ていた。
 約束だから。
 危険を顧みることなく、自分のために、人間のみんなのために、一生懸命がんばってい
るマルチの姿を、絶対に忘れるわけにはいかなかった。
 忘れられるはずがあるだろうか?

 テストコースの最長部分で、車は通常の試験以上の速度で走ってきていた。
 時速200km/hを超える勢い。
 予定通りの位置でスリップを開始し、車体が大きくふらつく。一回スピンしてほとんど
制御を失いながらも、何とか立て直そうと操作されているのがはた目にも分かった。

 衝突の瞬間も、まばたきひとつすることなく、凝視していた。
 衝突音というより爆発音に近い。腹の底に響く音響。
 それはまさに衝突ではなく、爆発だった。コンクリート塊に衝突した車体は一瞬にして
半分ほどの全長にまでつぶれ、はじき飛ばされるように舞い上がった。コンクリート塊を
飛び越えて、丸めた紙くずのようになって、部品をまきちらしながら転がって行く。
 浩之にはその音が直接打撃となって感じられた。
 あのなかにマルチがいるのだ。
 あの泣き虫で、頼りなくて、人間のことが大好きだったちいさなロボットが。
 何もかも投げ棄てて、走りよるべきだったのかもしれない。
 丸めた紙屑のようになった車体から、せめて頭部のAIユニットだけでも助け出してや
るべきだったのかもしれない。
 だが、動けなかった。近づけなかった、足が進まなかった。
 怖かったのだ。





「立派なもんだ……」

 長瀬は白衣のポケットに手を突っ込んで、歩きはじめた。

「何してるんだい、藤田くん?」

 まったく無感情に、ぽつりと言った。
 眼鏡のレンズの反射でその表情はうかがい知れない。

「実験は終わったよ。あと片づけだ。部品を、拾ってやらなきゃ……」

 時速200キロでの衝突で、飛び散った部品はテストコースの広い区域に散らばってい
た。
 すでに日は傾きかけていた。
 一つ一つ、拾っていく。
 長瀬にはロボットの部品と車の部品ははっきり区別がついた。自分で作ったものだ、区
別できないはずがない。
 だが、差を付けることなく、両方とも拾っていった。こんなにがんばったんだから、二
人とも。

 ――お疲れさま。
 ――辛かったね。

 口には出さなかったが、そんな思いをこめて、一つ一つ、ねじの一本ものがさないよう
に拾っていく。
 浩之もあとに続いた。
 どんな小さな部品も逃さないように、目を皿のようにして拾う。マルチの気持ちに少し
でも報いることになれば、と思いながら。

「藤田くん」

 長瀬がぽつりと言った。
 浩之はその言葉が聞こえないかのように、黙々と部品をひろう。

「気づいただろう? 車は助手席側から衝突してる。マスターの座っている運転席側は、
なんとか潰さないように。
 ちゃんとやり遂げたよ、あの子は」

 わかってる。
 そんなこと分かってる。ひとつも見逃さなかった。すべてこの目に焼き付けておいた。
絶対にそうしなければならなかったから。
 口の中でつぶやく。
 その目が見開かれた。
 視線の向こう――テストコースの先に、白い、ころころとした、見慣れたものが。
 最後まで外れずに残っていた方の耳カバーが、転がっていた。
 拾い上げると、ひと筋大きな傷が走っていた。

「マルチ……まるちぃ……」

 ひざまづいて、両手でそっと拾い上げる。

 浩之は泣いた。足を引きずるようにして、日が落ちるまで歩き回り、散らばった部品を
拾い集めながら。
 別にマルチが死んだわけではない。
 無線LANによるAIのサルベージは完璧だった。移植が終われば、マルチはまた新し
い体で元気な姿を見せてくれるだろう。
 それでも涙を止めることはできなかった。
 そういうことではなかった。

 ――なんて奴だ。

 浩之はうろつき回りながら、ただひとつ事だけをつぶやいていた。
 これは一体なんて奴なんだ。オレなんかのために、人のために、どうしてここまでのこ
とができるんだ?
 こんなに……ばらばらになってまで……。

(ロボットだから、痛かったりするわけじゃないですから、心配しないでください)

 それにしてもマルチ、怖かっただろ? 辛かったんだろ?
 これは安全を100%保障されたお遊びじゃない、実験だ。失敗する可能性だってある。
一歩間違えればどうなるか分からなかったのに。断ってもよかったのに。

「一週間だ」

 滂沱と涙を流し続ける浩之に、長瀬はつぶやいた。

「一週間でマルチのAIを新しいボディに移し変える。マルチに会わせてあげられる。だ
から、少し待っててくれ」





「しかし、テストだとか進級試験だとか……まるで学校の先生みたいですね」
「マルチの進級試験でもあるが、藤田くんの進級試験でもある。人とロボットの関係にお
いて、避けられないものを真っ正面から見つめることができるか、というね」
「どうでした?」
「どうやら合格。まあ、心配は要らなかったね」
「そうですか……」
 次はわれわれの問題だね、という言葉を、長瀬は口のなかだけでつぶやいた。





「うわあああああ! 主任!」

 翌日。
 HM7課に突如として悲鳴がとどろいた。
 
「だ、誰か! 主任が!」
「どうしたんです……って、あーー!」

 そこにいたのは、僧侶だった。
 というか、平たく言って坊主だった。顔の長い坊主。

「なんですか大げさな……そんなに変?」

 驚愕して腰を抜かす所員たちを前に、長瀬はその綺麗に剃りあげた頭を光らせていた。

「な、なんでまた」
「一応けじめというかね」
 長瀬はつるり、と頭を撫でた。なれないせいか、頭のてっぺんがひやひやしてかなわな
い。
「大事な娘をさんざんな目に逢わせておいておとがめナシじゃ、さすがに納得しないだ
ろ?」
「藤田くんがですか?」
「私自身がだよ」

 ま、気持ちの問題。そう言ってもういちど、つるり。

「……また、大変なことするもんですね……」
「しかしさ、大変なのはこれからだよ」
「なにがですか?」
「だって、時期がきたら同じことをセリオにもやらなきゃならんのだから」

 一同の血の気がさっと引いた。
 なんとなれば、セリオのマスターは――。

「まあ君たち、骨の二、三本は覚悟しなきゃならんね」

 からからと笑う長瀬を、みんなは青ざめた目で見送った。





「あのう、主任。お願いがあるんです――」

 目を覚ましたマルチは、いの一番にこう言った。
 申し訳なさそうに、それでもしっかりとした意志をもって。

 その年の来栖川自動車の、工場の公開日。
 正門を入ってすぐのスペースに、『安全のために』と題されたモニュメントが据えられ
ていた。
 この前の実験で衝突テストに用いた車体が並んでいる。ほんの少しボンネットのつぶれ
たもの、側面のドアがひしゃげたもの、車両火災で黒焦げになったもの。紙くずのように
完全にくしゃくしゃになったもの。
 そして、一番はじに、小さなメイドロボの胴体と頭部があった。

 公開日の最初の客は、大学生くらいの青年と、緑の髪の小さなメイドロボ。
 入り口すぐのモニュメントを、ひとつづつゆっくりと、感慨深げにいつまでも見つめて
いて――。
 ちいさな焼け焦げたロボットのフレームを、そっと、いとおしげに撫でていた。





 その年の3月19日。

「プレゼントですか?」

 エプロンを解きながら、マルチは目を丸くした。
 びっくり。いままでは浩之がなにかプレゼントするときはひた隠しに隠して、いきなり
取り出して驚かせてみせる、というのが常套手段だったのに。

「いやな、事情が事情なもんで。ま、外に出よう」
「外ですかぁ?」

 まさか浩之さん、お外であーんなことやこーんなこと……。
 はわわっ。

「なに赤くなってんだお前」
 ぺしっ。
「あっ」

 そして、家の外には。

「わあー……」

 新車だった。
 来栖川自動車の最新モデル。そのスタイルには見覚えがあった。若干変更されてはいる
が、間違いない、いっしょに走った、いっしょに戦ったあの車だ。

「いやその、まあなんつうか、ははは」

 深々と頭を垂れ、ぱんっと頭の上で手を合わせる。

「すまん! また借金増えた!」
「浩之さん、これってあの……」

 うなづく。

「マルチが一生懸命頑張った成果だもんな。手元においときたいんだ。これからもよろし
く頼む……っておい、マルチ?」

 浩之の言葉もそこそこにマルチはドアに飛びついて、キーレスエントリーのコードを送
り、ドアロックを解除した。飛び込んだのはもちろんナビシート。
 シートにかけるのも待ちきれずにイグニッションキーを回して、電装系を起動させる。
 耳カバーに新しく取りつけられたIRインターフェイスを通じて、オートクルージング
システムに呼びかけた。
 ウェルカムメッセージのあと、メイドロボ用に用意された専用チャンネルに誘導される。
 メインAIに接続。
『――CONNECT』の文字がモニタに表示される。
 マルチの耳カバーの先端で、LEDがぱっと点滅して――。

 マルチはぱあっと目を輝かせた。



「また会えましたね!」





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