THE NAKED MAGIC  投稿者:takataka


「じゃあみんな、会議をはじめるよ」

 議長席にかまえる、真剣な面持ちの神岸あかり。
 返事はなかった。無言の同意。
 居並ぶ面々は――

 長岡志保。
 保科智子。
 宮内レミィ。
 松原葵。
 姫川琴音。
 雛山理緒。
 そして――HMX−12、マルチ。

「私はべっつにどうでもいいけどねえ。あかり、あんたにつきあってるだけだからね」
「ふふぅ。いいよ同志志保、無理しなくっても。志保の気持ち、私知ってるよ」
「な……」
「そうやで。いっつも藤田くんにつきまとって、みえみえや」
「なによお! あんただって授業中ヒロの奴に答え見せてあげてんでしょ」
「なっ、なんで別のクラスのあんたが知ってんねん!」
「エスケープ歴16年をなめないでよね!」
「Oh! 同志シホ、エスケープのプロフェッショナルデスか? Great!」
「同志レミィ、あんたはどうやねん。藤田くんのこと」
「もちろんLOVEです! 愛がすべてデス! 幼なじみ歴ではアカリにも負けマセー
ン!」
「わ、私だって先輩のこと……す、す、す……」
「くす、好きだって言いたいんだよね、同志松原さん」
「え……同志姫川さん! わたし、そんな、その……」
「うーん、やっぱり藤田くんって人気あるんだぁ」
「そうですよー同志雛山さん! わ、私だってひろゆきさんのこと……好きですぅ」
「さて、ここに集まったみんなの気持ちは一つだよね」
『おう!』
「目指すは、浩之ちゃんゲットおおおおおお!」
『おーーーーーー!』
「そのためには、邪魔者を倒さなければだめだよ! この『来栖川芹香』を!」

 くすくすくす……。

「な、何者?」

 ザシャアアアアアア!
 かかげられた芹香の写真が切り裂かれたそのあとに、黒い人影一つ。

「……………………」
 頭隠して尻隠さず……。

「そ、その三角帽子、そして聞こえない声は! まさか!」

「………………」
 黒いマントがなおけっこう……

 ふあさっとひるがえる、黒い衝撃。
 その向こうにあらわれたのは――。

「あ……」
「そんな……」
「まさか……」
「ば、ばかな……」
「や、奴は……」

 目にもまぶしい、肌色一色。
 裸の大将放浪記、いまここにゴールイン……とでも言ったおもむきであった。

「全裸!?」

 こくん。

 そうであった。
 全裸であった。生まれたままの姿であった。裸の王様であった。
 その部品の一つ一つがオーダーメイドのような美しい肢体を、芹香は余すところなく衆
目にさらしていた。

「…………………………」
 全裸魔女、来栖川芹香見参です……。
 浩之さんゲットをたくらむ悪党ども、成敗します……。
「……マジです」
 最後の一言だけがみんなの耳に届いた。

「し、信じらんなーい! 恥ずかしくないの?」
 真っ赤に赤面して襲いかかる長岡志保に、芹香はカウンターでほうきの一撃。
 崩れ落ちる志保。バスタオルを持ってるところをみると、襲ってきたわけじゃなくて隠
そうとしてくれたようだが、正義はそんなこと気にしない。
「ああ! 同志長岡先輩が!」
「待ちいな! いっくら先輩だからってゆるさへんでええ!」
 保科智子の攻撃! 下段ヤクザキックが空をきってうなる! つぎつぎ放たれる攻撃を
芹香はほうきの柄で受け流し、当たりやすそうだった額に一撃。
「あいた」
 ひろいおでこが裏目に出ましたね……。
「No! トモコ! ……仇は取りマス! そういうわけで、覚悟はいいわね獲物ちゃん。
 shooooooot!」
 雨あられと飛ぶレミイの矢を、芹香はほうきを回転させて叩き落とす。
 づどむっ!
 一気に間合いをつめて、ほうきの柄で水月を一突き。うめき声ひとつ上げずレミィは崩
れ落ちる。
「ああっ先輩がた! もう許しません!」
 続いて飛び出す青色マルチもどき。中腰で、すっ……と構えをとると、
「やあっ! はっ! やっ! たあっ!」
 中国拳法の組み手を繰り出す葵。芹香は正確にきびきびと受け流す。
 両手でこめかみを狙った葵の手を受け止め、芹香も動きを止める。
 葵の目の前に指を一本。
 右左につーい、つーいと動かす。つられて右に左にとゆれる葵の視線。
 その隙をついて、ゆる〜〜〜、ぺちん、と顔面に掌底一閃!
 ばったりと倒れる葵。
「あの……そんなことしてる場合ですか……?」
 気付くと、足元で琴音がバッチリカニバサミを極めていた。
「くすくすっ……藤田さんをキメたこの技、とくと味わって下さい……」
 …………。
 取りあえず、ほうきの柄で顔面思いっきり突いてみた。
「あうっ」
 琴音ダウン。
「てえええい! りおタイツさん発進!」
 ちゅどーん。
 自慢の二本のとげが壁につきささった。
「ああっ、抜けないよおぉ」
「理緒さんまで! そ、それでは行きます! とぉりゃあああああ」
 モップの柄を構えてマルチ突進。
 芹香も負けずにほうきをくるくるとまわし、ぴたりと後ろ手で止める。
 バランスをとるように逆の手を突きだし、ぴたりと決め。
 かんかんかんっと双方の棒術の目にも留まらぬやりとりが展開される。
 かつん! と止まった瞬間、芹香がぐるりと力の向きをかえ、マルチはぐらりとよろけた。
「ううう……こうなったら、変形合体ですー!」
 会議室の机の下にもぐりこむマルチ。
 そのまま立ち上がり、ちょうど長テーブルをおんぶしているような格好になる。
「究極合体! み、みれにあむマルチ号ですー!」
 すたたたーとマルチ再突進。体当たりすると読んだ芹香はぎりぎりサイドステップでか
わして机の一撃をやり過ごした。
 気をつけれ、マルチは急に止まれない。
「た、たすけてぇ〜。こわいこわいこわいこわいですぅぅ」
 そのまま壁に、どかーん。
 さらば宇宙戦艦ミレニアム号。永遠に……。
 情勢を見守っていたあかりの目がきゅぴーんとばかりに輝いた。
「コロス……」
 芹香は間髪入れずレーザー、ミサイル。
 セバスチャンボム5連発。
「ふごおおおおおおーーーーーーー!!」
 あかり爆散四砕。
 あまりにも、あまりにもあっけない最後だった。
 おかしいです……。浩之さんを狙う悪が、たったこれだけのはずが……。
「ふふん、やるわね、姉さん」
 誰もいないと思っていた椅子から響く声。
 きい、と部厚い革張りの椅子が回転して――。
「でも、このエクストリームチャンプ、来栖川綾香に勝てるかしら?」
 ぎゅっとオープングローブの手首を締める。
 ぱんっ。
 打ち合わせる拳から、乾いた音がひびいた。
「……………………」
 ついにあらわれましたね、真のラスボス。



	 ぱら〜ら〜らら、ぱら〜ら〜ぱらららら♪

	 タイトル『THE NAKED MAGIC』

	   邦題『裸の魔法を持つ女 1 1/2』



 ふふふふふふふ……

「姉さん! ちょっと姉さんてば!」
 浩之さんは誰にもわたしません、綾香、あなたといえど……。
「もう、なに寝言言ってんのよ! 起きてよ」
 むっくり。
 ぱちぱち目をしばたたかせて。
 あ……綾香?
「なんなのよその格好は?」
 格好ですか。
 きょろきょろと見回す。別になにもおかしなものは身につけていませんが……。
「身につけてないのが問題なんでしょーが! なんにも!」
 じゃあ、なにが問題なんですか?
「なんか服着なさいよ!」
 どうして? ここは部屋の中ですよ。表ならともかく。
「部屋んなかだからって全裸でいていいって法はないでしょ! もう、目のやり場に困る
じゃない!」
 女の子同士でなぜ照れるのですか。
 あ。
 綾香、あなたやっぱり本当は男……。
「なによそれ! 実の姉の裸なんか見てて楽しい訳ないでしょうが!」
 綾香。全裸はお気に召しませんか?
「当たり前でしょうが!」
 まったく、常識のない子を妹にもつとこれだから……。
「その台詞そのままそっくりお返しするわ」
 え? すると実はあなたが私の姉さん?
「返すところが違う!」
 そんなことはどうでもいいことです。綾香も、さあ。
「バカ言ってんじゃないわよ! いいから早く服着てよ!」
 えー。
 がっかり。
 普段当たらないところに風が当たって爽快ですよ?
「へんな快感おぼえてるんじゃない!」
 仕方ありません。こうなったら全裸ロボ発進です……。
「――お呼びですか、芹香さま」
「わわっちょっとセリオ! あんたなんて格好してるのよ!」
「――はい。全裸です」
「ハイじゃないでしょうが! な、なんか着なさいよ!」
「――ですが、芹香さまがどうしてもと……」
「姉さん! 私のセリオにバカなことさせないでよ!」
 ふるふるっ。
 バカなこと? 綾香、全裸のどこがバカなことだというのです。
「キリッとした顔して大馬鹿ぬかすなあああああ!」
「――ですが綾香さま。衣服がなければ、衣服代がかからず合理的なのではないでしょう
か?」
「ああ! あんたにも全裸ってのがどんな気持ちか教えなきゃね。うりゃ!」
「――あっ」

 耳カバー片方奪われて、耳を押さえてしゃがみこむセリオ。
 その端整な顔はもう真っ赤。いやいやするようにふるふると頭を振って。

「――どうしてなのでしょう。見てはいけないものを見られたときの、このたまらない気
持ち……」
「それが”恥”なのよセリオ! よく覚えときなさい! 姉さんも分かったでしょう」
 まあ、セリオはロボットですから。でも人間は違うのです。
 いいですか綾香。全裸とは人間本来の自然な姿で……。

(ここから魔法学・錬金術・神智学等を駆使した全裸擁護説、一時間ばかり続行)

 ……という訳で、全裸こそ真の人間のあり方なのです。
「ぐー」
 ……寝てるし。
 綾香。姉さんが真剣にお話ししてるときに寝るとは何事です。
 ゆさゆさ。
「ん……姉さん……ってわああああ! 全裸?」
 何を今さら。
「あれからずっと全裸? もう、いい加減にしてよ!」
 こうなったら綾香に全裸のよさを教えなければなりません。
 綾香綾香。ちょっと注目ー。
「なっ……何してんのよ!」
 ほらほら、全裸で垂直飛び。ぴょんぴょん。
 とくに胸に注目。たぷたぷ……
 うれしいですか、綾香? あ、赤くなってる。効果抜群です。
 なんだか肩が震えてるようですよ? 大丈夫ですか、綾香?
「バッ……バカなことするんじゃないわよ私より胸小さいくせに!」
 あ。
 言ってはいけないことを。
 そんなこと言う子には、得意の全裸魔法をお見舞いですよ? ヌーディスト精神があな
たのハートに忍び込みますよ?
「いちいち全裸全裸言うなああ!」
 ですが……あ? ああ……。
「あれ? ちょっとやだ姉さん、どうしたの?」
 お腹が……うう……。



 冷やしすぎで腹を壊した芹香は丸一日寝込んだという。



「まあ災難だったけど、これで姉さんももう全裸だなんて言いださなくなるでしょう。
 おーい、姉さん?」

 ひょこ。

「うっわああああああ! なによなんなのよその格好」
 見てわかりませんか。
 芹香キメポーズ。
 前を隠して尻隠さず、ふりふりエプロンなおけっこう。
 はだかエプロン魔女、来栖川芹香見参です……。
「アホかああああああああ!!」
 ……どうして。
 全裸に限りなく近くありながら、それでいてお腹をしっかりガード。清濁あわせ呑む理
想の魔女っ子スタイルですよ?
「やめんか露出狂があああああああ!!」





http://plaza15.mbn.or.jp/~JTPD/