マリリソに逢いたい  投稿者:takataka


 あの忘れられない夏は、今や過ぎようとしていた。
 親父の死を契機として起こった一連の猟奇殺人と、その背後にかくされた鬼の血統の悲
劇。
 だが――。
 俺は下宿へと帰る最後のなごりに、隆山の街をぶらついていた。
 千鶴さんは鶴来屋の仕事に復帰したし、妹三人もいまは学校が始まっている。
 かくいう俺もまもなく大学へ帰らなければならない身だ。
 だが、この一夏に起きた出来事を忘れないためにも、最後に今一度この街をしっかりと
見ておきたかった。




 行ったことのない方向へとぼんやり歩いているうちに、妙なところへ出た。
 商店街のどん詰まり、駅からはもっとも遠い位置。一本入ったところに急に道が狭くな
っていて、昼だというのに薄暗い路地がある。
 色あせたゲートには、

『歓迎 隆山ブロードウェイ』

 とか言うあやしい文句と、飲食店の名前がずらり。
 どことなくすさんだ空気のなか、野良犬がバケツに頭を突っ込んで残飯を漁っていた。
 これは!
 俺の鬼の直感が告げる。間違いない、コイツは――。
 温泉街には必ずといっていいほどある、歓楽街!
 そうなのだ。
 スマートボール、射的屋など比較的お子さまにも申し訳のたつ遊戯場にはじまって、あ
やしいクラブやのぞき部屋、あげくのはてには秘宝館にヌード劇場なんかがそろってたり
する娯楽の殿堂紳士の社交場。
 光あるところに影がある。日本全国津々浦々、温泉場といえば必ずこの手のあやしい歓
楽街があるのだ。
 隆山にもあったのか。やはり。
 考えるより早く、俺の足はゲートをくぐっていた。

 たしかに、あんな美人に囲まれてて今さら色町通いかオイ、とお思いの向きもあるかも
しれない。
 だが、しかしだ。
 たとえば俺が柏木四姉妹の誰かと結婚するとしてみよう!
 その際はほぼ確実に鶴来屋の経営にたずさわることになる。
 とすると、隆山の隅々まで、まるで掌中の珠のごとく知っていないと何かと不都合が生
じるのではないだろうか? たとえばこういうような歓楽街にしてもだ。
 後から調べようにも、妻のある身でこんなところに出入りしては何かと妙な噂も立ちか
ねない。
 やるとしたら、いま。
 そうだ。これは社会勉強なのだ。
 そうだよな! やっぱり独身のうちに一度はこういうところにも入っておかないと! 
人として男として! ほら、旅の恥はかき捨てって言うし。

 よっしゃ! オトナの社会科見学のため、選ばれし勇者がいま旅立つ!
 ”隆山の乱一世”の二つ名はこのオレがいただきだぜ!





 期待して足を踏み入れたはいいものの、さすがに昼間だけあってほとんどの店が閉店し
ている。
 ち、しかたないなあ……また夜にでも来るか?

 と、突き当たりに一つだけシャッターを上げている店があった。
 おお!
 俺は気おくれするものを感じた。なんか……すげえ! な、なんなんだ?
 造りは普通の名画座みたいな古ぼけた映画館風。
 だが、その正面にかけられた色あせて輪郭のさだかでないカンバンには、しな作って小
指を咬む金髪女の絵が、やたら濃ゆいフェロモン系の絵柄で描かれていた。


	『本格ラスベガス・ショー 雨月劇場』


 おおおう!!
 ラスベガスと来たか! これまた張り込んだなオイ! 
 一皮むけばなんてことないストリップ劇場のくせに!

	『あのハリウッドスターがご当地隆山で花ひらく!
	 ”マリリソ・モンロー”嬢、連日出演!』

 のぼりがまたイカしてるぜ!。
 マリリソってあんた、エノケソとかじゃないんだから。
 しかしいいなあ、このインチキ臭さがいかにも場末のストリップ劇場的で。

 パチンコの景品交換所みたいな相手の顔が見えない窓口に札を出すと、窓口係は切手み
たいな小さな切符とおつりを返してよこした。
 俺も相手もひとことも言葉を発しない。そういうものだ。
 そして客席へと足を踏み入れる。ふふふ。社会勉強社会勉強。

 すえたような匂いの立ちこめる薄暗い館内。
 低めのステージは真ん中だけ半円形に張りだしていて、縁どるように電球が並んでいる。
 そうそう、このいかにもうらさびれた温泉街の場末のストリップ劇場でございますと言
わんばかりのお約束な舞台仕立てがなんともいい感じだ。
 昼間のせいか、お客は俺一人。
 貸しきりですよ貸し切り。ちょっとしたお大尽。
 と、照明がすっと絞られる。

「ようこそおいでくださいました。当館自慢のセクシーギャル、全米の殿方を骨抜きにし
た合衆国のセックスシンボル、マリリソ・モンロー嬢の濃厚な演技が皆様のリビドーを直
撃! なお、当店では法律にふれる本番行為は一切お断りしております」

 へえ、ナレーションも女の人か? それもオバさんじゃない、かなり若い声だ。
 なんか押し殺して、無理に作ってるような感じの声だった。

 ……ふと思った。俺は自分をごまかそうとしてるんだろうか?
 だってこの声、どこかで聞き覚えのあるような……。

 そんな俺の思考を断ち切るように、どこか間抜けな、それでいて淫蕩な雰囲気の音色が
流れる。弱音器をつけたトランペットのような……。

 ってーか、『ちょっとだけよ』の曲じゃん。
 手え抜くなや。

 舞台の袖がピンスポットで照らされる。おお、いよいよか? 俺はぐっと身を乗り出し
た。
 強い光のもと、まぶしい金髪が……。
 ちらっとでてすっと引っ込んだ。
 なんだ? そーゆー演出か? ちょっとだけよってことなのか?

 しばらく待ってみたが一向にはじまる様子がない。それどころか、舞台裏でなんか揉め
てる。俺は楽屋の方に耳をこらした。
 押しころした声音で何やら言い争うふたつの声。


	「千づ……約束……違……」
	「なっ……黙っ……気付かれ……」
	「だっ……耕い……そんな……」
	「あず……手遅れ……しらばっくれて、押し通……」


 押し問答らしき話し合いは三分ほど続いたろうか。
 一人は落ち着いた感じのしっとりした、大人っぽい声。
 もうひとりは運動部にでも所属していそうな、元気な張りのある声。

 ははは。
 俺は取りあえずそのまま事態を見守ることにした。
 きっとなにかの間違いさ。だって考えてもみてくれ。隆山の街を影で支配する巨大資本
の令嬢姉妹だぜ? まさかこんなところでストリップなんて。
 そうだな、勘違い勘違い。やれやれ、俺もヤキが回ったぜ!

 考えるな俺考えるんじゃない考えたら負けだ……

 と、覚悟を決めたのか、再び袖から金髪が姿を現した。
 真っ赤なルージュに泣きぼくろ、パールホワイトのドレスに身を包み、ハイヒールを高
らかに鳴らして、ちょっと気取ったモンロー・ウォーク。
 でも、顔真っ赤。
 客は俺しかいないのに、絶対にこっちに視線をよこそうとしない。
 がんばってるな、お前……。俺は心の中でエールを送った。





 そして、第一部終了。

 いけないと分かっていても、俺は楽屋からの声に耳をすました。

「梓? 今日のマリリソはどう言うことなの?」
「勘弁してよ、千鶴姉……」
「あんなものじゃダメじゃないの! もっとモンローウォークを強調しないと! それに
『とぅとぅっぴでゅー』とかそれっぽい台詞もまじえて!」
「だって、耕一が」
「梓! たとえ耕一さんであっても、この劇場に足を踏み入れたからには一人のお客よ。
客となれば最善を尽くしてもてなすのが鶴来屋の流儀! 落ち着いていつもどおりにやれ
ばいいの」
「ちくしょう! なんであたしがこんなことしなきゃならないんだよ」
「あなたでなければ勤まらないのよ、分かるでしょ!?」
「何でだよ? ずるいぞ千鶴姉、自分ばっかり楽して」
「まだわからないの梓! どうしてあなたがやらなきゃいけないのか。
 自分の胸に手を当てて、よく考えてみなさい!」

「自分の、胸に……?」

 ぽよん。

「次は私の胸!」

 ぺちゃ。

「分かったでしょう! 分かったでしょおおおお!! 梓あああああ!」

 血を吐くような絶叫。
 どうでもいいが、客席まで丸聞こえだぞお前ら。

「……ごめん……」
「さあ、第二ステージよ!」




 先程とは違って、出囃子も何もなしで、梓……もといマリリソはうつむいたまま舞台中
央に座り込んでいる。
 すうっとピンスポットが当たるとともに、鳴り響く演歌調の前奏。
 おい待て。マリリソ・モンローじゃねえのか?


	『恋のからくり 夢芝居〜♪』


 なにいいいィィィィ?

 梓はゆらりと立ち上がり、先程とはうって変わった艶のある流し目でしなを作る。抜く
手差す手もあざやかに、舞うは正統日本舞踊。
 ……梅沢富美男一座かよ!?
 しかも、見た目マリリソだぜ! 違和感バリバリだ! どうなってんだオイ!

 でも、俺は内心の動揺を押し隠すことはできなかった。俺の頬をつたう、熱い雫。
 これは……涙? 俺、泣いているのか?
 梓の舞いは見事だった。きっと何度も血のにじむような練習を重ねたのだろう。抑制さ
れた動きに秘められた女の情念。手の表情の一つ一つに恋の予感が、捨てられた無念がほ
の見える。


	『男と女〜 あやつりつられ〜♪』


 梓……お前、いま最高に輝いてるぜ……。





「ううう……なんであたし、巨乳に生まれたんだろ……」
「立派だったわよ、梓」

 第二部終了後、泣き声の梓に、千鶴さんは諭すようにやさしい声をかける。

「大体、なんでこんなことしなきゃいけないんだよぉ」
「いいこと梓。そもそもこの鶴来屋はこの劇場が発祥の地なのよ」

 ……え?

「私たちのおじいさま、柏木耕平はもとはと言えばこのちっぽけなストリップ劇場の専属
ダンサーだった……でも、持前の負けん気と努力で、今日の鶴来屋の基礎をつくりあげた
のよ」

 えーと、ストリップから旅館に至る過程がよくわからんのですが。

「創業当時は『マリリソの宿・遊びきれないホテルは鶴来屋』として一気に全国区へとの
しあがったわ……一時期は仲居が全員マリリソ姿だったそうよ」

 そんな旅館イヤだなあ……。

「おじいさまの演じるマリリソは、それは天下一品だったわ……」

 遠い昔を思うように、千鶴さんの声は夢見るようにひびいた。

 それにしても、俺のじいさんってそんな人だったのか。
 柏木耕平。一族に伝わる鬼の力を制御することに成功し、隆山一の旅館鶴来屋を一代で
築き上げた立志伝中の人物。
 まさかそんな裏の顔があったとは……。

「鶴来屋の経営が軌道に乗って、もうこんなところで踊る必要がなくなってからもおじい
さまはこの舞台から降りようとはしなかった。なぜだかわかる、梓?」
「…………」
「それはいつまでも初心を忘れまいとする誠実な心……そして何よりも、マリリソ目当て
に隆山を訪れるお客様を裏切るまいとする、もてなしの心! これが鶴来屋の創業精神な
のよ! そんなおじいさまの思いを受け継ぐためにも、私たちがこの伝統のともしびを消
してしまうわけにはいかないの!」

 やな伝統だなあ。

「生涯現役ストリッパーでありつづけたおじいさま……それでもやはり年に打ち勝つこと
はできなかった。
 そしておじいさま亡き後、足立さんがひとまず代役で出演したけれど、とうてい往年の
人気を取り戻すことはできなかった……」

 …………。
 がんばってるなあ、足立さん……。

「そんなときあらわれたのが、叔父さまだったわ」

 なんですとー!?

「叔父さまのマリリソ……それはまさにおじいさまの再来、いいえ、それ以上だったわ。
叔父さまのステージには華があった。お客様へのもてなしの心があった。そして何よりも
……愛があったわ。私たち姉妹はそれを見て育ったようなものよ。覚えてるでしょう?」

 親父……そのために俺と母さんを捨てて、隆山へ?

「わかってるよ。あたしも舞台の叔父さんを見て、子供心に綺麗だな……って思った。楓
は顔にこそ表さなかったけど、やっぱり叔父さんに見惚れてたよね」
「初音も連れてこようかと何度思ったことか……でもそのたび叔父さまはマリリソのまま
の笑顔で言ったわ。

	『なあ千鶴。初音にだけは、俺たち一族のこんな面を見せたくないんだ。あの子
	だけは、汚れを知らぬまま育ってほしい』

	『叔父さま、それはつまり、私たちはどうでもいいということですか?』

 私がそう尋ねると、叔父さまはいつも困ったように笑って……私は、そんな叔父さまが
大好きだった……」
「はは……そうだね。叔父さんのお気に入りは初音だったっけ。でも、それは私たちだっ
て同じだよ。だからこそこうやって……」
「いいえ、梓。今のままではいけません。お客は減るばかり。このままでは演目を変更し
なければならないわ」

 千鶴さんの声は異様に冷たく、かたかった。

「どういうことだよ、千鶴姉?」
「おじいさまの遺言です。記されたとおり、そのまま言うわ」

 千鶴さんは一拍置いて、静かな声で、

「もしマリリソ途絶えし時は、柏木家嫡子のなかで一番年若い女子をして

	『マニアックロリコンショー 下の茂みも生えぬ間に』

 を演ぜしむるべし」

 がーん。
 盗み聞きの俺にとってもショックだった。
 そんなのってあるかよ! 初音ちゃんはまだ子供なんだぞ、そんな楽しそうな……ゲフ
ンゲフフンッ、そんなつらい仕事させられるわけないだろ? 俺だって楽しみに……ゴホ
ゲホッ、お、俺だってそんなの、ダメだー、と思うぞー!
 ちょっと弱々しい主張だった。

 梓もショックだったのか、かみつくように激しく言いつのる。

「そんな……そんなのってないよ! 千鶴姉、初音が可哀想じゃないのかよ! 叔父さん
が死んで、あたしたちがこの劇場を継いだとき、白い満月に誓ったじゃないか! あの子
だけは巻き込まないって!」
「それが私たち一族の血の呪いなのよ……」

 重々しく響く、千鶴さんの声。それはまさしくこの一族への永遠の刑の宣告だった。

「だから梓、私たちががんばらなきゃいけないの。あの子のためにも、鶴来屋の未来のた
めにも」





「さあお待たせしました、いよいよお待ちかねの本日のメインイベント、かの名画『七年
目の浮気』において演じられましたるあの名シーン、摩天楼そびえる大紐育、地下鉄の排
気口よりの風のいたずらのくだりを再現いたします!」

 ふっきれたのか、千鶴さんの司会も名調子といっていい感じになってきた。

 と、客席後ろの扉から黒衣に身をつつんだ人影があらわれる。
 その手には扇風機。延長コードをずるずるのばしながら歩いてきて、舞台の張り出し部
分のわきにしゃがみこんだ。
 そのきゃしゃな体つきにはたしかに覚えがある。
 楓ちゃん!? 楓ちゃんなのか?
 紗におおわれた顔。その奥から光る二つの瞳が悲しげな色をたたえて俺をつらぬき通す。
 ――言わないでください、耕一さん。
 黒子の衣裳に身を包んでいるせいか、いつにもましてはかなげな楓ちゃん。
 まるでそこに存在していないかのような――言ってはなんだが、黒子にぴったり。
 慣れた手つきで扇風機を上に向け、最強度にスイッチオン。ぶわ〜っと風が巻き起こり、
舞台上でスタンバっていた梓に吹きつける。

 ふわり、とまくれあがるスカート。梓の手が裾を直そうと押さえるが、どうにか前だけ
隠れているだけで後ろから横からあおられまくっている。


「いや〜〜〜ん、まいっちんぐ〜」


 いや……本物のマリリン・モンローはまいっちんぐとか言わないと思うぞ……。

 なおもめくられつづけるスカート。まだまだ続いている。
 スカートをめくりながらも、俺の方をじっと見つめる楓ちゃん。
 頭巾の紗幕の向こうから射るような、祈るような、懇願するような視線が俺に注がれて
いる。

 ――耕一さん。こういうときには、何かするべきことがあるのではないですか……?

 うっ。俺の負けだ。
 おとなしくおひねりを投げる。ささっと拾って懐にしまう、楓。

 そんな楓の行動にも気付かず、なおも演じつづける梓。
 ほとんど鬼である。マリリソの鬼。
 その鬼がいま、吼える。
 慟哭にも似た絶叫が、隆山ブロードウェイにとどろき渡った。


「おーーーー!! モーレツーーーーー!!」


 小川ローザかよ……。





「耕一さん」

 背中を丸めて隆山ブロードウェイをあとにする俺に、はかなげな声が追いすがる。
 楓ちゃん。
 梓にもおひねり、わけてやるんだぜ……

「今日だけは梓姉さんに優しくしてあげて下さい」

 わかってる、と言う代わりに、片手を軽く振る。今は声をかけづらかった。

「あと、初音にだけはどうか内密に。あの子にだけは汚れを知らないままで、そのままの
初音でいてほしい。それが私たち姉妹の願いです」

 大きくうなづく。ふり返りはせずに。だって、好きな女の子に涙は見せちゃいけねえも
んだろう?
 苦労してるんだな、みんな……。





 帰ってきてから、俺は一人部屋で思う。
 梓を、千鶴さんを、楓ちゃんを、そして……初音ちゃんを、この呪われた血の宿命から
救いたい。
 鏡を見る。俺の顔は親父似だって、よく母さんが笑ってたっけ。
 大嫌いだった親父。母さんを裏切ったとばかり思ってた親父。でもいまはそんな親父が、
誰よりもやさしい人だったという千鶴さんの言葉が自然に心にしみた。
 最後まで四姉妹を支えつづけた、大きな心を持っていた俺の親父。
 その親父亡きいま、やはり、俺が――。

 鏡に向かって、ニヤリと笑いかける。

「父さん……あんたの気持ちが、いま、分かった気がするよ……」

 覚悟は決まった。
 金髪のヅラをかぶる。口元には真っ赤なルージュ。
 そして、手探りで付けぼくろを目の下に付ける。
 その間目は閉じたままだった。いまはただ、メイクに専念したい。
 やがて完了した。

 ゆっくりと目をあける。
 そこには――。

 ぱあああああ

「うわあ……」

 紛れもなくマリリソ・モンロー。これは……予想以上の出来だ!

「……これが……私……?」

 思わず両の頬に手当ててみたりなんかして。


 がらっ


「お兄ちゃーん、お風呂……わい、て……」

 …………。

 目が合った。
 あう……。
 初――。


「そ」

 小さな握り拳が胸元でぷるぷる震える。頭のくせっ毛もシンクロしてぷるぷる。

「そういうことは、二丁目とか新大久保でやったほうがいいと思うよおぉーーーー!!」

 ぱたぱたぱた……。
 小さな足音が廊下を遠ざかっていく。

 違うんだ!
 違うんだ初音ちゃああーーーーーーーーーん!!





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