時には娼婦のように 投稿者:takataka
「んー……」

 自宅で鏡を見る琴音。
 彼女のお決まりの日課だ。今日の私も、すてきな女の子でいられてるかな?
 とくに最近は下着のチェックに余念がない。
 いつ本番が来るかわからないし。

「藤田さん、この下着気にいってくれるかな……?」

 キャミソールとガーターベルト。うーん、ちょっとくどいような気が。そうそう、黒の
ストッキングとかはどうかしら。清純派。悪くない。

 ルージュを引いてみる。唇を重ね合わせて、少し笑ってみる。
 うーん、素敵かもしれません。
 これで藤田さん、振り向いてくれますよね。
 私を一人ぼっちの境遇から救ってくれた人、私の大事な人。
 だから、絶対にだれにも渡したくない。そのためには手段は選びません。
 琴音の手に力がこもる。
 そう、時には娼婦のように……





「藤田さん?」

 浩之さんは居心地悪そうにちらちらとこちらを見ては、何度も座り直しています。
 うふふ、私の足が気になっているのはわかっているんですよ?
 ベッドの上に立てひざで座れば、足のつけねが気になる事なんか計算済みなんです。
 男の子って、かんたん。

「琴音ちゃん、やっぱよくねえと思うな……こんな……」

 口ではそう言っても、藤田さんの気持ちは手に取るように分かります。そんなこと言っ
たってムダですよ?
 ふふ……ちょっとからかってみようかな?
 ベッドの上で足を組んで、見えてもいいくらいに。目をそむけながらもちらちらとこち
らをうかがう藤田さん。見たいくせに――。

 その顔がかあっと赤らみます。
 へえ、そんなにおかしいですか? 私がストッキングを破っているのが。

 尖らせておいた小指の爪で、ぴりぴりとじらすように引き裂いて。
 黒一色の中に、眩しいほど光る素肌の、白。



「女の子が、怖いんですか?」



 嗤う。
 三日月を思わせる、口の形。真っ赤なルージュが挑発的にゆがんで。
 口の端をつり上げて、ちょっと軽蔑したような笑み。

「なっ……?」

 顔を上げた浩之さんの瞳をじっと見据えます。その目の色にかすかな嘲笑を浮かべて。
 軽い非難とあざけりをこめた、なぶるような一言。



「――浩之さんの、いくじなし」



 藤田さんはびくっと肩を振るわせると、急に私の両肩を抑え込んで、
「……試してやるよ、怖いかどうか」
 咬みつくような、乱暴なキス。荒々しく押し倒し、肩をはだけます。
 そして……。





「なんてねなんてねなんてねなんてねーーーーーー!!」

 ああ……琴音いけない子!
 だめよ高校生がそんな……でもでもっ。
 イルカの巨大ぬいぐるみに抱きついてころごろ転がる琴音。
 悪女志願の十六歳、末恐ろしいばかりであった。





 そのころ藤田家では。

「あかり……なんでまた来たんだ? お前今日はもう帰るんじゃなかったのかよ?」
「だって、シャワー浴びたかったし、服替えたかったし、ホットドッグプレス読み返して
おきたかったし、なにかと準備万端の体制で臨みたかったし……」
「なっ……準備って……」
「浩之ちゃん、いやなの?」
「いや……イヤっつーか、あかり変だぞ?」

 にい。
 うすく笑う、あかり。

「あかり? ……お前……」
「女が怖いんだ? 浩之ちゃんのいくじなし」

 すでにこのパターン、使われていたり。
 しかも、

「あほ」
 ぽかっ
「あいた」

 レジストされていたり。



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